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第3章・残念なドラゴンニュートの女の子

083:小さな事をコツコツと

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 俺たちはエデン人の集落に訪れて、ここから王都に向かう為の方法を村長から聞きに向かう。
 なんとか村民からの奇怪な目を我慢しながら、俺たちは村長の家に到着する。


「あの!! 聞きたい事があるんですが!!」

「ん? なんじゃ、お主ら見ない顔だな……こんなところで何をしている?」

「トラップに引っかかって、この森に飛ばされたんです。どうにか王都に行く方法を教えてもらえないですか?」


 ドンドンッとノックをすると、90くらいの老人が出てきて村長だって直ぐに理解できる。
 そんな村長は見ない顔の俺たちを見て、村の外の人間だと怪訝な視線を送る。


「トラップに引っかかったって? そうか。それは大変だっただろうな………まぁ中に入りなさい。詳しい話は、家の中で話してやろう」

「それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」


 全ての状況を知った村長は、大変だっただろうと家の中に招き入れてくれた。
 とても良い香りのコーヒーに、自家製のクッキーを出してくれて詳しい話を始める。


「それで何があったのかな?」

「ツァリーヌ王国からフロマージュ王国に入国した瞬間に、この森の中に飛ばされてしまったんです」

「そんなトラップが国境付近に仕掛けられていたとは………この国も変わってしまったものじゃな」


 俺の話を聞いた村長は、ガクッと落胆する様に国が変わってしまった事を残念に思っている。
 そしてメガネをかけると立ち上がり、棚の中から地図を引っ張り出してきたのである。
 テーブルの上にパッと広げると、まずは村の位置を指差して説明を始めた。


「現在地は、この森の中の ここじゃ」

「ほぉ。割と森の中の奥にあるんですねぇ………」

「まぁな。ここから馬に乗って移動しても………5日はかかるだろうな。砂漠の移動っていうのは簡単なもんじゃないぞ」

「そっか。砂漠の移動があるのか………そう考えれば、確かに移動は辛いな」


 俺とした事が砂漠の国である事を忘れていた。
 普通の国でも移動は大変だというのに、このフロマージュ王国の国土8割は砂漠というのを忘れていた。
 そう考えれば森の中に居たいくらいだが、カエデちゃんたちと早く合流したいから向かわなければいけない。


「王都との中間地点の村を経由していくのが、無難な王都への向かい方じゃろうな」

「そういうわけか。それしかないよなぁ………教えていただきありがとうございます」

「困ったらお互い様っていうからのぉ」


 指差しで詳しく教えてくれたのだが、中々に遠い事に少し絶望している俺である。
 それでも無駄な時間は過ごしていられないと、村長に感謝をしてから家を後にする。


「馬車が欲しいところだけど、ここで拾うのは難しいだろうな」

「そうですね。どこかの村に行ってから買うというのが、良いんじゃないですかね?」

「そうだよ。ここで馬を買っても森の中の移動では、馬が逆に邪魔になる可能性が無い?」

「それも確かにそうだね………なら砂漠に出てから、近くの村で馬を買って乗るか」


 馬車移動をしたいが、この村で馬を買っても森の移動では邪魔になってしまう。
 それならば砂漠に出てから、砂漠の村で馬を買ってから行こうと3人で話し合って決めた。



* * *



 クロスロード連盟軍の本部から出発した、ナミカゼ少尉たちはフロマージュ王国に向けて出発して1週間経っていた。
 船の中での生活にも慣れ始めているが、ダフネ少尉の方は船上生活に飽きていた。


「どうして1週間も船上で過ごさなきゃダメなんだよぉ~」

「そんなの犯罪者を捕まえに行くからに決まってるじゃ無いか。ダフネさんは、良く軍人になれたね………」

「何もしないで死ぬよりもさ。人を守ったんだって、死んでいった方が良いと思わない?」

「まぁ確かに………ならダフネさん。辛いなんて言っていたら、もしもの時に動けないですよ? 人を守るって事は自分の命や人生を賭けるって事………つまりは辛抱って事だ」


 ダフネ少尉が女性として船上の上で、むさ苦しい男たちといるのは辛いだろう。
 しかしナミカゼ少尉は、自分の信念があるのならば辛抱するしか無いのだと言って鼓舞する。


「そんなにいうのなら、ナミカゼは辛くないの? 辛いとは思わないの?」

「辛いに決まってるじゃないか。辛くない事なんて、この世には存在しないんだ………しかし周りの人間たちの甘い言葉に、乗って辞めるなんて馬鹿らしいだろ?」

「訓練生の時から周りの友達から誘いがあったなぁ………断ってるうちに省かれる様になっちゃったけどね」

「良いじゃない? そんな理由でハブってくる人間なんて、最初から利益しか見ていないカスだ………そんな奴らよりも上に行くって考えて生きていけば良いさ」


 周りの甘い言葉に引っかかっていたらと考える。
 確かに世界中の過半数は、そっち側の人間で自分たちの事を誘ってきている。
 そっち側にいれば過半数で自分たちの事を、自由自在に叩きゴミの様に蔑んでくるだろう。
 それすらも乗り越えた人間のみが、己の夢や希望を掴み取れるだろうとナミカゼ少尉は話す。


「簡単にいえば、死ぬ瞬間に本当の幸福を手に入れていたいだろうって話だよ………」

「そうだね。命の限り任務に勤しもうか………」


 2人はキリッと表情を切り替えた。
 その瞬間にトラスト中将が現れて、2人は綺麗な敬礼を行なって今日の任務が始まるのである。


「お前たち。あと少しでフロマージュ王国の港に着く………気は引き締まっているだろうな?」

「はいっ!! 問題ありません!!」

「私もやる気満々ですっ!!」

「そうか……それなら問題は無さそうだな」


 2人の引き締まった顔と綺麗な敬礼を見て、相当な気合が入っているとトラスト中将は確認する。
 敬礼を降ろせと言われて2人は、バッと手を下げるとトラスト中将の方を見ていた体を船に水平に立つ。


「そうだ。お前たちに伝えておかなければいけなかったな」

「伝えておかなければいけない事ですか?」

「お前たちは、俺の隊の中では上の方の人間だ………これからの作戦については教えておかなきゃな」


 トラスト中将は自分の中将室に戻ろうとしていた。
 だが何かを思い出したかの様にピタッと止まって、ナミカゼ少尉たちの方をみて伝えなければいけないと言った。


「今回のカホアール教団の教祖《オリヴァー》の拿捕作戦が終了したら、次は直ぐに《ホリン家》の護衛作戦がある」

「まさか《聖18一族》のホリン家ですか!?」

「そうだ。あちらから名出しで呼ばれたもんでな………断れると思うか?」

「い いいえ……」


 何やら今回の拿捕作戦が終了したら、また新しい作戦を直ぐに行わなければいけないらしい。
 その発表を聞いた瞬間に面倒だなという、さっきまでの話は何なのかと思ってしまう顔をしたダフネ少尉がいた。


「動きやすいと思って中将に留まっているが、逆に馬車馬の様に働かされるとはな………」

「聖人様の護衛というと、どうして我々が指名されたんでしょうか? 聖人様には専用の騎士たちがいるのでは?」

「行動するのに近衛騎士だけでは少ないんだろう。だからこそ俺たちが呼ばれたんだ」


 中々にハードなスケジュールがナミカゼ少尉たちの所属するイーターズに課せられていた。
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