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第3章・残念なドラゴンニュートの女の子

091:寝苦しい夜

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 俺たちがオンボロな宿屋に泊まって深夜を迎える。
 俺は喉が渇いて目を覚ましたので、キッチンに行って飲み物をもらおうとベットから起き上がる。
 ふとエッタさんとイローナちゃんを見てみると、エッタさんはスゥーッと可愛い寝息をたてているが、イローナちゃんの姿がベットの中に無かった。


「外の空気でも吸いに行っているのかなぁ………」


 外の空気を吸いに行っているだろうと思って、俺は水を貰うべくフロントに向かった。
 するとフロントにはイローナちゃんの姿があり、何をやっているのかと回り込んで見てみると、フロントに置いてあった本を開いて読んでいたのである。


「ここに居たんだね。こんな暗い中で本を読むなんて………中々に勤勉だね」

「目が冴えちゃって、そしたら本を見つけたの………この本は、とても興味深いんだよ」

「興味深い? どんな内容なの?」


 どうやらイローナちゃんが手に取った本が、とても興味深いらしく読み漁っていたという。
 そんなに読み漁るくらい面白いのかと思って、俺は どんな内容なのかと聞くのである。


「古代について書かれてるけど、あまりにも馬鹿らしいからって世界から多く回収されて償却された歴史書………」

「世界連盟が回収して回ったの? 馬鹿らしいからって回収するんだなぁ………それで、どんな歴史なの?」

「まだ解読されていない字とかあるから、断片的にしか分からないけど………この本には、3つの大陸は3人の一族によって守られていたって書かれてる」


 どれだけ馬鹿げていても世界連盟が、わざわざ本を回収して償却するものなのだろうか。
 もしかしたら何かを隠したい為に、本を集めて見れないようにしたのでは無いかと考える。
 まぁそんな事を考えたって、俺には何の関係もない事だから何だって良いんだけどさ。


「その3つの一族は《ファリスタ家》《ペンダース家》《ホワイト家》みたい………それに古代人の事を《プロミス人》って呼ぶって書いてある」

「古代人は、プロミス人って言われてたのか………何かゴーストタイムに関係する内容みたいだね」


 この本を解読できた時には、きっとゴーストタイムの謎を解く事ができるのだろうと軽い気持ちで思った。


「お前たちは、そんな事を知る必要はねぇんだよ………」

「ん? 誰だ………」


 俺たちが話していると入り口から声が聞こえてきて、誰なのかと思うと暗く顔や性別は分からずシルエットしか分からない。
 声質からして男である事は間違いなさそうだが、シルエットではだらしなく猫背なのが見てとれる。


「もしかして、この宿屋の関係し………うっ!?」

「ミナトっ!!」

「だから、いらねぇ詮索をするんじゃねぇよ」


 誰なんだと聞こうとした瞬間に、俺は謎の男に首を絞められているのである。
 何が起きたのか理解が追いつかないが、これだけはハッキリしている。
 この男はマジでヤバい……。


「やめろっての!! ゲホゲホッ………分かったぞ。お前は共和傭兵団のマスターにして、カホアール教団の教祖《オリヴァー=スタドール》だな」

「ほぉ意外に察しが良いみたいだな」


 月明かりで顔と体が見えたが、痩せ細って体からは強さなんて微塵も分からない。
 そんな未知数なところから導き出した答えは、この男こそがオリヴァーなんだろうと問いた。
 すると俺の思っていた通りで、この男は俺が前から戦っている共和傭兵団のマスターで、カホアール教団の教祖である。


「俺も、お前の事は知ってるぞ。俺の仲間を多く殺してくれてるみたいだな………ふぅ。こちとら色々と忙しいのに、余計な手間を増やしやがってよぉ」

「だから、アンタは俺を消しにきたんだな………この国の王様が、わざわざ出向いてくるとはな」


 本当に分かりやすい。
 オリヴァーからしたら俺なんてのは、ただの邪魔なガキ以外、何者でも無いのだろうな。
 だから部下に任せる事なく、自分の手で確実に殺して消してやろうと俺の前に現れた。
 目を見れば見る程、オリヴァーの目の奥は真っ暗な闇を抱えている様で、見続けていたら闇に飲まれそうな気分になる。


「どうした? 俺の目なんか見つめて………もしかして俺に惚れたんじゃねぇだろうな? 俺はノーマルだ」

「ふんっ。自分に自信があるのは良いけど、そんな不健康そうな見た目で言われてもな………格好がつかないぞ?」


 必要のない会話を挟みながら、俺はチラッとイローナちゃんの方を見てから視線を正面に戻す。
 すると目の前に、一瞬にしてオリヴァーが距離を詰めてきており、マズイと俺は距離を取ろうとする。


「ダメだろ。敵を目の前にして視線を逸らしたら………鉄の拳を喰らえ!!」

「ゔぉっ!!」

「ミナトっ!! これは怪物……」


 俺は防ごうとしたが、オリヴァーのマーシャルアーツによって殴り飛ばされてしまった。
 イローナちゃんは、いつものポーカーフェイスが焦りの顔に変わって、殴り飛ばされるのと同時に目で追う。
 首の骨の指の骨を鳴らして大仕事をしたかの様に、オリヴァーは俺の吹き飛んだ方をジーッと見ている。


「どうだ? 俺の鉄拳は、フランターヤなんて比にならないくらいに痛いだろ?」

「ゲホゲホッ!! アイツらが、マーシャルアーツを使えるんだ、コイツが使えてもおかしくないか………全内蔵に鈍痛が響くっ!!」

「そりゃあそうだ。フランターヤは、頭では買っていたが戦闘においては下の下だ」


 俺の体を襲う鈍痛に、咳が止まらずに咳き込んでしまう。
 フランターヤたちがマーシャルアーツを使いこなしているのならば、この男が使える事に驚きはない。
 しかしフランターヤやノールとは比べ物にならないくらい、体の奥の奥まで痛みが染み込んでくる。


「少し面倒だが、お前には ここで死んでもらう………お前の様な好奇心旺盛な冒険者ってのは、俺たちからしたら邪魔な存在以外の何でも無いからな」

「そう簡単に俺を殺せると思ってんのか? 自慢じゃないが、それなりに実力があると思うが?」

「お前は、それなりだろ? こっちは世界各国の傭兵団で実績を残して、世界に名前を知れ渡らせてるんだぞ」


 確かに少し謙遜して言ったかもしれないが、オリヴァーが自分の評価が高いというのならば、俺だって言いたい事はある。
 俺だって冒険者としては駆け出しだが、冒険者ランクとしてはSランクと中々上位に位置している。
 それならオリヴァーにだって、負けない実績と言えるのではないかと俺は思っている。


「教団の邪魔になる、お前を消してやる………歯を食いしばっておけ!!」

「そう簡単に殴り飛ばされてたまるか!!」


 向かってくるオリヴァーに対して、俺は右足を後ろに引いて力を溜める体勢になる。
 距離が縮まってもオリヴァーの勢いが減速する事なく、俺に向かってくるので避けるかと頭の中に浮かんだ。
 しかし避けてしまったら、オリヴァーになんて言われるか分からない事を思いついたのである。


「真っ向から相手になってやる!!」

・炎魔法Level1《ファイヤーハンド》
・闇魔法Level2《ドレインハンド》
――――炎魔の拳イフリート・ナックル――――

「こっちは鉄拳の威力を見せてやる!!」


 俺の拳とオリヴァーの拳。
 どちらが上なのかという、男と男のプライドがぶつかる様にして戦いが始まった。
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