日本大戦〜日本が大変な事になりました〜

湯崎noa

文字の大きさ
86 / 110
第4章・郡山市の戦い 編

082:恐るべき武

しおりを挟む
082:恐るべき武
 越は向かってくる柳本軍に対して「蛇を使うぞ」と部下たちに指示を出すのである。
 その瞬間、日中中央軍の陣列が変わる。
 中央軍の陣列は後曲が横にずれ、突入点の真後ろに厚みを作るというものに変わった。
 そして前曲は大きく折り曲がり、柳本軍の背後まで覆い被さった。
 これはもはや守備の陣列では無い。
 日中軍は柳本軍を討つつもりだ。

 この光景を本陣から見ている元帥は「ありゃあ、一気に行くかと思ったが、越の方が上手だったか」という。
 有寿中将も「見事な陣列の変形です」と褒めた。
 これは完全な囲い込みだ。
 このままでは昨日の左翼軍の二の舞になってしまう。

 この状況には、もちろん柳本中将も気がついている。
 周りを確認してから「全軍に告ぐ!」と叫ぶ。
 歩兵も騎馬隊も全員が、柳本中将の方を見て何をいうのかと思っていると「殺せぇ!」と叫んだ。
 それだけかと思うところではあるが、この殺せぇという言葉を聞いた瞬間に全員が「うぉおおお!」と雄叫びを上げて盛り返し始めた。


「殿、これは……」

「はっはっはっ! 面白くなってきたじゃねぇか」


 元帥すらも面白いと思う戦いぶりをする。
 しかし先頭を切って戦っている以上、敵兵たちは「討ち取れ!」と叫ぶのである。
 だが柳本中将の勢いを普通の兵士では止められない。
 化け物かと思うほどの勢いで、柳本中将たちは進軍をし続けるのである。
 この進撃に越の側近たちが怯える。


「あの男……どうしますか、越さま?」

「かまわん、続けよ……個の力など、たかが知れている」


 越は1人だけ凄くても、たかが知れているという。
 このまま作戦は続行となる。
 それにしても柳本中将の戦いぶりは凄すぎる。

 そんな光景を俺たち月虎隊も目撃している。
 俺たちは本陣下で待機中である。
 こんな光景を見せられてしまったら、柳本中将の実力を信じざるを得ない。
 しかし新人である俺でも、ある問題を理解している。
 こんな戦いぶりが戦場の真ん中で続くわけがない。

 淳士たちは包囲を受けている中で、この戦い方はあまりにも無理があるという。
 そういう話をしている中で淳士は、戦場を見つめながら軍師学校の先生である照内司令部長を思い出す。


「腕力で敵わぬ相手を討つ為に武器を使う。強き武将を討つ為に人数を集める。大人数の戦いを有利にする為に策を練る。万を超す規模の今の戦場では策が全て………だが、そうあるが故に全く逆のものを見てみたいと願うこともある」


 この事を照内司令部長は淳士に言っていた。
 そしてこの続きに「この事を実現できるのは、お前の父親である………宗茂だけだ」と話した。
 すると柳本軍を包囲していた日中軍が消えかかる。
 淳士は目の当たりにするかも知れない。
 力が策を凌駕するところを。
 
 この光景を前に越は「化け物が……いったん退くぞ」と本陣だけを後方に退かせるのである。
 まだ柳本軍は包囲を脱出していない。
 このままでは敵将・越に逃げられてしまう。


「(柳本よ……貴様の矛は俺には届かないぞ。この首は倉智ほど安くないぞ!)」


 そう思いながら越は退却していくのだが、柳本中将の狙いは全くもって別だった。


「(ふっ! 越よ、何を勘違いしている………貴様如きの首に全く興味は無いわ!)」


 そう心の中で叫ぶと歩兵と騎馬隊に向かって「全軍に告ぐ! 蹂躙せよ!」と指示を出した。
 そのまま柳本軍は越軍の残兵を攻撃し始めた。
 この行為は何を意味しているのかと、俺たちは考えているが元帥は意味を理解している。


「残兵とは言えど2万はいる。それを葬ってくれるのならば絶大な戦果だと言えるだろう」

「相手は武将が離脱してしまった。今の柳本軍ならば一方的でしょうな」


 2人の言う通り指揮官を失った残兵たちは、柳本軍に蹂躙され始めたのである。
 こんな光景を見ている元帥は若干引く。


「あの斜列からの囲い込みを力のみで打ち破るとはな。これじゃあ兵法なんて馬鹿みたいなものだな」

「はい! 全くもって反則的です!」

「これは策で戦う人間には衝撃的だな。しかし困った事に、奴らは成長過程にある………」


 このまま今日1万を喰らう事ができれば柳本軍は、さらに強大な力を持つ事になる。
 柳本中将は大和全土に名は広がっているが、その評価については未だに定まってはいない。
 駒井外務卿が手元に置いておきたいという為、前線に出る回数が少ない事が、その原因である。
 1人よがりに暴走する武将という噂が広まっているのだが実像は全く異なる。
 柳本中将の軍に関する理解は非常に深い。
 あの照内司令部長と共に成長してきた影響だ。


「ここにきて主攻をはれる軍が現れたのは、とても喜ばしい事ですね」

「まぁそう言い切るのは時期尚早だが………今回が偶然という事もありえる。柳本の評価をするのは、ここからさらに1・2戦してからでも遅くない」


 中央の越軍が崩壊した事で背後を突かれる恐れがあるとして、日中左翼軍は早々に引き上げた。
 これで2日目の戦いは幕を下ろした。
 俺たちの出番は2日目には無かった。

 淳士と実里は2日目の総括を夜に行なう。
 実里は淳士の実の父親である柳本中将の戦いぶりに感動すら覚えているのである。
 それには淳士も同意している。


「あぁ力で、ねじ伏せてしまった。話には聞いていたけど、あそこまで剛腕だったとは思わなかった………軍師を目指す立場の僕としては正直、認め難い事実だ」

「父が力技の武将で、その子供が軍師か………親子なのに真逆だね、仲悪い?」

「あの人にとって親子なんて関係は大した事じゃない。大和最強に至る道こそ、あの人の人生の意義なんだ」

「大和最強かぁ……あの人らしいよねぇ」


 淳士は昔から感じていたのだ。
 柳本中将は家族とか、そういう枠組みに興味はなく、興味があるのは自分が大和最強になる事だけだ。
 それこそが、あの人の人生の意義である。


「全く馬鹿げた話だよ。この時代に武力だけで大和最強になるなんて………宗茂の戦い方は明らかに時代と逆行している。大和最強なんて漠然としているが、もしそれに当てはまるような武将がいるとすれば………それは高度な知略を起こし実行できる武将のはずだ」

「でも、それを覆そうとしているのが淳士の父親なんだろ? 逆に凄い事じゃないの?」


 どうやら軍師として淳士も複雑な気持ちがあるみたいだが、やはり腐っても父親なので応援している。
 これだけ掻き乱しているのだから、まだまだ柳本中将を中心に戦争が進みそうだと淳士は考える。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

現代社会とダンジョンの共生~華の無いダンジョン生活

シン
ファンタジー
 世界中に色々な歪みを引き起こした第二次世界大戦。  大日本帝国は敗戦国となり、国際的な制約を受けながらも復興に勤しんだ。  GHQの占領統治が終了した直後、高度経済成長に呼応するかのように全国にダンジョンが誕生した。  ダンジョンにはモンスターと呼ばれる魔物が生息しており危険な場所だが、貴重な鉱物やモンスター由来の素材や食材が入手出来る、夢の様な場所でもあった。  そのダンジョンからモンスターと戦い、資源を持ち帰る者を探索者と呼ばれ、当時は一攫千金を目論む卑しい職業と呼ばれていたが、現代では国と国民のお腹とサイフを支える立派な職業に昇華した。  探索者は極稀にダンジョン内で発見されるスキルオーブから特殊な能力を得る者が居たが、基本的には身一つの状態でダンジョン探索をするのが普通だ。  そんなダンジョンの探索や、たまにご飯、たまに揉め事などの、華の無いダンジョン探索者のお話しです。  たまに有り得ない方向に話が飛びます。    一話短めです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~

榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。 彼はその日から探索者――シーカーを目指した。 そして遂に訪れた覚醒の日。 「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」 スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。 「幸運の強化って……」 幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。 そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。 そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。 だが彼は知らない。 ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。 しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。 これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。

処理中です...