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バットチッカの観察
「美女たちの恋ばなカフェタイム」
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「キャヴァ姫っ。い、いつからそこにっ?」あまりの気配のなさに、バットチッカは飛び上がった。
「うふふ。ずっとよ? バットチッカったらブツブツ独り言ばかりで全然気づいてくれないんですもの」
キャヴァは透明感のある、はかなげな少女だ。
本当にそこに居るのかと思わず目をこすってしまうほど全体的に色素が薄く、装いもパールホワイトのワンピースドレスで目立たない。それゆえ王女でありながら存在感がほとんどなく、彼女自身もそれが悩みの種だった。
独り言の内容を聞かれてはいないかと、バットチッカは肝を冷やした。なぜなら、キャヴァはラス一の遺種を握る張本人、ギリザンジェロの許嫁だからだ。
しかも、クセ者ぞろいの城中で、キャヴァは影も形も薄いながらトップ5に堂々ランクインする程のクセ者ではないかと、バットチッカはにらんでいるのだ。
「バットチッカ。私、なんだか眠れないの。お買い物の相談にのってくださる?」
「買い物? なにを買うんだべか?」
「だからそれが決まらなくて困っているの。第一兄上さまへのバースデープレゼントよ」
「そ、そげなもん、おそれ多くてよっ。バッカなんかがうかつに意見できねえだよっ」
「あら、ご謙遜。バットチッカは兄上さまの大事なペットちゃんなんでしょう? そうでなければ、あなたがお城を自由に飛び回ること、兄上さまが容認なさるワケないもの」
キャバは優しく穏やかに、バットチッカにほほ笑みかけた。しかし、彼女の目の奥は、バットチッカの狙いを見抜こうとでもするように怪しくきらめいている。
バットチッカの気のせいかもしれないが……
「バットチッカ。兄上さまがなにを欲しがっているのか調べてくれない? 毎年決めかねて困っちゃうのよね」
「今、プレゼント候補ってやつはあるだか?」
「たくさんあるわよ、もちろん。だけどどれもありきたりで……」
「たとえば?」
「兄上さまの魔馬ギンギンの蹄鉄とか、兄上さまの母君のブローチとか、兄上さまのイケメンシェードの靴とか、あと、兄上さまの婚約者の髪飾りとか…… あら、いけない。それは私のことだったわ! しかも髪飾りなら、兄上さまから贈られた“これ”があったんだわ!」
キャヴァは自らの髪に付けてある飾りに手をやった。限りなく透明に近いピンク色の髪に似合う、青紫の幽光が床しい、タンザナイトの髪飾りだ。
(やっぱ相当なクセ者だべ? さっきの候補全部、王子へのプレゼントなんかじゃねえだっっ)バットチッカは身震いした。
「でもね、一番の候補はこれよ?」キャヴァは胸元から、小さな宝石みたいな物を取り出した。
それは、ブラッドストーンが付いたピアスだった。
「兄上さまの種のイメージが装飾された鼻ピアスよ。喜んでくださるかしら」
「…… 相談もなにも、もう買っちまってるじゃねえだか」
あきれつつも、ちゃんとギリザンジェロ本人へのプレゼントである事にバットチッカはホッとした。
(だども、ギリザ王子が鼻ピアスしてんの見たことねえぞ……?)
「この鼻ピアスはね、単なるピアスじゃないの。とてもステキな仕掛けがほどこされているのよ? じゃあ、これに決めたわ。ありがとう、バットチッカ。ようやく眠れそうだわ」
プレゼントが決まり安堵したのか、キャヴァは軽やかに自室へ戻って行った。
その歩調は、まるで氷上を滑って行くようななめらかさだ。足音ひとつしない。
なんの相談だったのか、なぜ礼を言われたのか、バットチッカにはさっぱり訳が分からなかったが、鼻ピアスにほどこされた仕掛けとやらがよろしくないものであろう事は、直感ですぐに悟った。
「爆弾じゃねえだべな…… さすがにそりゃねえか。王子が死んじまったら次期王妃になれねえもんな。しかしよ、見た目と違っておっかねえお姫さんだでな……」バットチッカはますます身を震わせた。
マーデリンといいキャヴァといい、王家の女はひと癖もふた癖もありそうだ。だが、例外もある。
例外のほっこり癒しを求めて、バットチッカはドリンケルツ城から少し離れた森へと飛んだ。
限られた者しか立ち入る事を許されていない森の中、木々の合間を抜けて行くとメルヘンティックなお城が見えてくる。
こぢんまりとしたたたずまいながら華美を極めており、蜜の甘さがあふれんばかりに香り立つ、クーヘンメル城だ。王ブルヴァオンレが第二王妃シフォンネのために、全て彼女の要望通りに建てさせた城である。
バットチッカは木の枝で逆さづりになり、明るくなるのを待った。
「ねえ、シフォンネちゃん。もう一度お兄さまにお願いしてみたらどうかしらのコクよ?」
「パーティーのこと? それなら昨日もお願いしてみましたわ。だけどやっぱりダメでしたのよ」
「あたくしも説得してみますわのコクよ。どうせ今夜もいらっしゃるのコクでしょう?」
庭園に咲く多彩な花たちもかすんでしまう程に美しい、華奢な女性が二人、ガーデンチェアに腰をかけ上品にコーヒーを飲みながら、小鳥がさえずるような声で話している。
すっかり夜が明け、庭園全体が見渡せる木陰から、バットチッカは二人のやりとりを聞いていた。
「もうよくてよ、コラルンジェラちゃん。わたくし、あきらめますわ。参加したかったけれど……」
「ちゃんと言ったのコク? パーティーに男の方は一人も来られないってこと!」
「もちろんですわ。それでもダメなんですもの……」
「ほんっとにおバカなお兄さまねっ。どれだけ心配性のコク? まったくもうっっのコクよ! あたくしが説きふせてみせるのコクですわ!」
一人は、淡いイエローの目に潤沢なエンジェルブルーの長い髪、玉のような白い肌をもつ絶世の美女シフォンネ。
シフォンネは、ブルヴァオンレの寵愛を一身に受ける彼の二番目の妻である。実は彼女、魔族ではなく天使族なのだが、魔族と恋に堕ちた事で天界から永久追放されてしまったらしい。
絶世の美女である事に加え、そのような事情もあり、ブルヴァオンレはことのほかシフォンネを可愛がり、大事に守っていた。
もう一人は、コーラルレッドの目にピンクがかったオレンジ色のミディアムヘア、毛先のカールが愛らしい魔界一の美女コラルンジェラだ。四束に分けた前髪に珊瑚をつるし、それがトレードマークになっている。
コラルンジェラもまた、王家に深く関係している。彼女の母親エネラグドは、先代王モガダリマ=ガフェルズの実の妹、つまり、ブルヴァオンレの叔母にあたり、コラルンジェラが言っていた「おバカなお兄さま」とは、従兄であるブルヴァオンレの事なのだ。
「ところでコラルンジェラちゃん。女性限定のパーティーって、なんですの?」
「あら、あたくしったら。まだお話してなかったのコクね? このパーティーはね、良きパートナーを見つけるため独身女性が集まって情報交換するのが目的なのですわ。もちろん、貴族のご令嬢ばかりのコクよ」
「主催なさっているのは、どなたですのぉ?」
「うふふ。誰だと思いますのコク?」コラルンジェラは両肩を上げ、片手で軽く口を押さえニコニコしている。
「分かりませんわっ。どなたですのぉ?」
「うふっ。あたくしですわのコクよ!」
「まあ、コラルンジェラちゃんが!?」シフォンネは肩をすくめ、ギュッとにぎった両手を顎に当てて驚いている。
この二人、何不自由のない裕福な育ちや世代も同じだが、見せる仕草も思考回路も同じで、何より共通しているのはトップクラスの天然ボケだという事だ。
バットチッカは時々クーヘンメル城を訪れ、癒されている。
「貴族に生まれた女性はね、たいてい親が決めた相手と結婚させられるのが不満のコクなの。でも自分で相手を見つける機会もなくて、結局は意にそわない方と結婚するしかなかったり、未婚のまま崖っぷちに立たされることが多いのコクよ。だからあたくし、このままではいけないと決起したのコクですわ!」
「す、すごいっ。コラルンジェラちゃん! コラルンジェラちゃんもこのままいくと、崖っぷちですものねっ」
「まあっ。シフォンネちゃんたらひどいのコクよぉ!!」二つのげんこつをつくり、コラルンジェラはぷりぷりしている。
「ごめんなさいっ。わたくしったら……! でもぉ、ひとつだけきいていいかしら?」シフォンネはパチパチと音をたててまばたきをした。
「なあにのコクよ?」
「わたくしをパーティーに誘ってくれたのはありがたいけれど、ただ……」
そう、シフォンネは独身ではない。既婚者であり、第三王子として立派に成長した息子までいるのだ。それなのになぜ、独身女性のパーティーに自分を招待するのか、その理由を問うのだろうとバットチッカは予測した。
ところが……
「コラルンジェラちゃんっ。あの方を説きふせるなんてホントのホントにできますのっっ?」
(そ、そこだかっっ?)バットチッカの予測は、大きく外れていた。
どうやらシフォンネは、自分が結婚している事実は気にしていないようだ。パーティーの詳細を知ってもなんら疑問は抱かず参加する気満々らしい。
さすが、誘う側も誘われる側も超天然ボケだ。
「ん~、とにかくがんばりますわのコクよっ。今回のパーティーが安全だってこと、お兄さまにきちんと伝えるのコクですわ」
「本当に? わたくし、パーティーなんて久しぶりだからワクワクしますわっ。がんばってね、コラルンジェラちゃん! ただ、コラルンジェラちゃんはいいんですの……?」
シフォンネは意味深長な目つきで、もう一度パチパチまばたきしながらコラルンジェラを見た。
「なあに? なんだか意味ありげのコクね」
「だって…… コラルンジェラちゃんには、ずっと想いを寄せてきた方がいらっしゃるでしょう?」
「そ、そうだけれど……」両手の指をすり合わせ、コラルンジェラは恥じらいながらうつむいた。
「思いきって告白なさいよ。コラルンジェラちゃん!」
「あたくしは王家の娘ですもの。そんなはしたないこと、出来ませんわのコクよ。それに、あの方はお兄さまのシェードですもの。あたくしが気持ちを打ち明けたりしたら、きっとお困りになるのコクよ……」
美女二人の間に、朝のひんやりとした風が吹き抜けた。
コラルンジェラの柑子色のストラップレスドレスが、風にそよいでいる。
(そうだべ。サファだけじゃねえ、コラルンジェラさまもゼスタフェに惚れてんだべ)バットチッカは目を細めた。
コラルンジェラは、幼い頃よりゼスタフェを想い続けてきたらしく、彼への想いを断ち切れず、両親が何度となく持ってくる縁談に見向きもしなかったそうなのだが――
「シフォンネちゃんの言う通り、あたくしもこのままだと、いつか崖っぷちに立たされてしまいますわのコクよ。だからこの辺でいい加減あきらめて、真剣に結婚を考えているのコクですわ」
「コラルンジェラちゃん……」
「だけどやっぱり、お父さまやお母さまがお決めになったお相手はイヤのコクよ。せめて自分で出会いたいのコクですわ」
「後悔しませんこと? 第一王子の美少女シェードに、ゼスタフェさんをとられてしまいますわよ?」
「やだわっ、シフォンネちゃん。彼女はまだほんの子供のコクよ?」
「でも、洞窟内で共に暮らしているのでしょう?」
「シェードの住処のことね? シフォンネちゃん知らなかったのコク? ゼスタフェさん、現在はウッズガッフェの邸宅で暮らされているのコクよ。だから…… あっ!!」
コラルンジェラが突然、小さく声を上げ立ち上がった。立ち上がるなり、小走りで門まで半分ほどの距離を駆けて行く。
庭園のアーチ型の門に、二人分の影が現れたからだ。
「なんだ、コラルンジェラ。お前も来ていたのか」ぶっきら棒な口調で、人影がどんどん近づいて来る。
「お、お兄さまこそ……」
近づいて来たのは、ブルヴァオンレだった。
だが、コラルンジェラの視線は、門にとどまりこちらの様子をうかがっている、もう一人の方に惹きつけられていた。
それがゼスタフェだったからだ。
コラルンジェラは頬を赤らめ、もじもじと身体をくねらせている。
ブルヴァオンレは怪訝そうにコラルンジェラの横を素通りしシフォンネの前に立つと、とたんにしかめっ面を柔和な表情に変えた。
「待たせたな、シフォンネ」
「あら。別にお待ちしておりませんでしたわよ」
「遅くなってすまない」
「あら。まだ朝ですわよ。先ほどお帰りになったばかりですわよ?」
ローズピンクが麗しいオフショルダーのドレスから肩をあらわにし、しなやかな手を花びらのような唇にそえ、笑みをこぼすシフォンネ。
何にも勝るであろう第二王妃の愛くるしい美しさに、ブルヴァオンレはもうメロメロになっている。
「お前はまこと、天使のようだ」
「あら。わたくし天使族ですわよ」
「コラルンジェラとなにを語り合っていたのだ?」
「そのことですけれど……」
シフォンネはコラルンジェラにそっと目配せするが、肝心のコラルンジェラはゼスタフェを意識するあまり、海底に巣食うタコの腕みたいにユラユラ揺れているだけで説得どころではなくなっている。
シフォンネは仕方なく、自分から切り出した。
「昨日、お話しましたでしょ? パーティーの件…… 参加されるのは貴族のお嬢様方ばかりですのよ。ですから、わたくし……」
「またその話か。参加は許さぬと言ったはずだ」
ブルヴァオンレは厳しい面持ちで、予想されるシフォンネの次の言葉をピシャリと切り捨てた。いかに愛しいシフォンネの頼みといえど、いや、愛しいからこそ、こればかりは譲れないのだろう。
「女ばかりの集まりだとしても、会場には参加者だけが居るのではないはずだ。男がおらぬなど、あり得ぬであろう。そもそも、パーティーの趣旨はいったいなんなのだ」
「お独り身の方々が一致団結なさってステキな男性をゲットするためのパーティーなんですって!!」
両手を合わせ嬉しさ満開で告げた直後、みるみる鬼の形相に変化する夫を前にしてシフォンネは叫んだ。
「きゃっっ。わたくし、独り身ではなかったのですわっっ!!」
「ス、ステキな男性をゲットだと……!? やはり女だけのパーティーではなかったのか!!」
ブルヴァオンレは憤慨し、タコの腕と化している従妹をかえりみた。
「そうか、そうであったのか。その一見意味のない動きには恐るべき理由があったのか! コラルンジェラめ。タコのごとく強力な吸盤で男どもをとらえるつもりか……! しかも、シフォンネまで巻き添えにするつもりとは、けしからん!!」
「コラルンジェラさま、後ろを……」
赤くなりくねくね揺らめくコラルンジェラに、ゼスタフェが歩み寄り声をかけた。
「え? なんのコクですの!? きゃあっっ!!」
コラルンジェラが振り返ると、忿怒したブルヴァオンレが般若のごとき面相で再び近づいて来ていた。
「男をつかまえるパーティーとはどういうことなのか説明しろ! コラルンジェラァ~!!」声はガラガラにしゃがれ切っている。
バットチッカも震え上がるほどの怒気電波を受信し、ほっこり癒しのムードは崩壊していた。
「このタコ女、いや、女の皮をかぶったクラ―ケンめ!!」
「まっっ!! クラ―ケンだなんて……!!」コラルンジェラの顔がゆでダコみたいにさらに真っ赤になっていく。
「いくらお兄さまでも許せませんわのコクよ! ゼスタフェさんの前で……! ゼスタフェさんの前でぇ――っ!」
怒ったコラルンジェラは、ピッチリそろえた十本の手の指をブルヴァオンレに向けるや、指先から虹色に光る線状のシャワーを噴射した。見た目にはキレイな光りのシャワーだが、とんでもなく強烈なパワーである。
魔界一の美女、純真可憐なコラルンジェラだが、彼女もれきとしたガフェルズ王家の血筋だ。それに見合った強い魔力を持っているのは当然の事。
ただ、重大な問題点があった。
「チッ。コラルンジェラの奴、しょうこりもなく……」
コラルンジェラが放った精一杯の魔力だったが、噴射した光りのシャワーはブルヴァオンレにかすりもせずに通り過ぎてしまった。
ブルヴァオンレがかわした訳ではない。コラルンジェラは、自分の力をあやつりきれていないのだ。
「ん、ん――っっ!! もっかいのコクよぉっっ!!」
全ての指に力を込めながら空に扇形を描き、コラルンジェラはなんとか踏んばってエネルギーを転回させたのだが……
だが、エネルギーはあろう事か、勢いを維持したままブルヴァオンレではなくコラルンジェラ目がけて襲いかかった。
「コラルンジェラちゃん!! 危ないですわ!!」
「きゃああ――っ!! あたくし止められないっっ。もうダメですわのコクよ――っっ!!」
絶体絶命――
まさに絶叫だ。二人の美女はキューッと目を閉じ、手で顔面を覆い隠した。
「……え?」コラルンジェラはおずおずと目を開き、そろ~りと、手を下にずらした。
「どうなってるのコク……?」
コラルンジェラを襲った彼女自身の魔力は寸秒の間に光度を下げていき、勢いづいた線状のシャワーは完全に消滅した。
「あたくし助かったのコクね…… あらっ??」
ふと、コラルンジェラがゼスタフェに目をやると、ゼスタフェの片手の手の平に、湯をそそぎコーヒーを混ぜたような黒い渦紋が出来ていた。余熱もまだある感じだ。
「ま……! ゼスタフェさんたら!!」コラルンジェラはその状況をすぐに理解したようだ。
「暴走したあたくしの魔力を手の平に吸収してくださったのコクね!? あたくしを助けてくださったのはゼスタフェさんのコクなのねっ!?」
喜びのあまり、コラルンジェラはたまらず鼻をふくらませた。感情が高ぶった時に出る彼女のクセである。
「コラルンジェラちゃん、良かったですわ! うふっ、お鼻がふくれてるわよっ」
親友の無事を見届けたシフォンネは胸をなでおろし、コラルンジェラの恋心を軽くいじっている。
「は、恥ずかしいのコクですわっっ」コラルンジェラの頬が紅葉色に染まっていく。
「王家の血筋でありながら情けないものよ。今なお、己の力もコントロール出来んとはな…… 叔母上の娘とは到底信じられぬ」ブルヴァオンレはあきれ顔で言った。
「それよりお兄さま、安心なさって! パーティーは取りやめにいたしますわのコクよ! だって、あたくしには必要ないのコクですもの!」
前髪の珊瑚を振子みたいにはずませるコラルンジェラ。鼻をふくらませたまま、ゼスタフェに守られた幸せに酔いしれている。
シェードを総括し、任務のことしか頭にないゼスタフェとはいえ、おそらく気が付いているだろう。コラルンジェラの一途な恋情に。
しかし、彼は常にポーカーフェイスを崩さない。彼の目は、眼前で起こる事象や人々の喜怒哀楽をどんなふうに映しているのだろうか。
癒しを求めてクーヘンメル城にやって来たはずのバットチッカだったが、ゼスタフェの見えない静かなる脅威を想像し、折りたたんだ飛膜をますます縮めていた。
「うふふ。ずっとよ? バットチッカったらブツブツ独り言ばかりで全然気づいてくれないんですもの」
キャヴァは透明感のある、はかなげな少女だ。
本当にそこに居るのかと思わず目をこすってしまうほど全体的に色素が薄く、装いもパールホワイトのワンピースドレスで目立たない。それゆえ王女でありながら存在感がほとんどなく、彼女自身もそれが悩みの種だった。
独り言の内容を聞かれてはいないかと、バットチッカは肝を冷やした。なぜなら、キャヴァはラス一の遺種を握る張本人、ギリザンジェロの許嫁だからだ。
しかも、クセ者ぞろいの城中で、キャヴァは影も形も薄いながらトップ5に堂々ランクインする程のクセ者ではないかと、バットチッカはにらんでいるのだ。
「バットチッカ。私、なんだか眠れないの。お買い物の相談にのってくださる?」
「買い物? なにを買うんだべか?」
「だからそれが決まらなくて困っているの。第一兄上さまへのバースデープレゼントよ」
「そ、そげなもん、おそれ多くてよっ。バッカなんかがうかつに意見できねえだよっ」
「あら、ご謙遜。バットチッカは兄上さまの大事なペットちゃんなんでしょう? そうでなければ、あなたがお城を自由に飛び回ること、兄上さまが容認なさるワケないもの」
キャバは優しく穏やかに、バットチッカにほほ笑みかけた。しかし、彼女の目の奥は、バットチッカの狙いを見抜こうとでもするように怪しくきらめいている。
バットチッカの気のせいかもしれないが……
「バットチッカ。兄上さまがなにを欲しがっているのか調べてくれない? 毎年決めかねて困っちゃうのよね」
「今、プレゼント候補ってやつはあるだか?」
「たくさんあるわよ、もちろん。だけどどれもありきたりで……」
「たとえば?」
「兄上さまの魔馬ギンギンの蹄鉄とか、兄上さまの母君のブローチとか、兄上さまのイケメンシェードの靴とか、あと、兄上さまの婚約者の髪飾りとか…… あら、いけない。それは私のことだったわ! しかも髪飾りなら、兄上さまから贈られた“これ”があったんだわ!」
キャヴァは自らの髪に付けてある飾りに手をやった。限りなく透明に近いピンク色の髪に似合う、青紫の幽光が床しい、タンザナイトの髪飾りだ。
(やっぱ相当なクセ者だべ? さっきの候補全部、王子へのプレゼントなんかじゃねえだっっ)バットチッカは身震いした。
「でもね、一番の候補はこれよ?」キャヴァは胸元から、小さな宝石みたいな物を取り出した。
それは、ブラッドストーンが付いたピアスだった。
「兄上さまの種のイメージが装飾された鼻ピアスよ。喜んでくださるかしら」
「…… 相談もなにも、もう買っちまってるじゃねえだか」
あきれつつも、ちゃんとギリザンジェロ本人へのプレゼントである事にバットチッカはホッとした。
(だども、ギリザ王子が鼻ピアスしてんの見たことねえぞ……?)
「この鼻ピアスはね、単なるピアスじゃないの。とてもステキな仕掛けがほどこされているのよ? じゃあ、これに決めたわ。ありがとう、バットチッカ。ようやく眠れそうだわ」
プレゼントが決まり安堵したのか、キャヴァは軽やかに自室へ戻って行った。
その歩調は、まるで氷上を滑って行くようななめらかさだ。足音ひとつしない。
なんの相談だったのか、なぜ礼を言われたのか、バットチッカにはさっぱり訳が分からなかったが、鼻ピアスにほどこされた仕掛けとやらがよろしくないものであろう事は、直感ですぐに悟った。
「爆弾じゃねえだべな…… さすがにそりゃねえか。王子が死んじまったら次期王妃になれねえもんな。しかしよ、見た目と違っておっかねえお姫さんだでな……」バットチッカはますます身を震わせた。
マーデリンといいキャヴァといい、王家の女はひと癖もふた癖もありそうだ。だが、例外もある。
例外のほっこり癒しを求めて、バットチッカはドリンケルツ城から少し離れた森へと飛んだ。
限られた者しか立ち入る事を許されていない森の中、木々の合間を抜けて行くとメルヘンティックなお城が見えてくる。
こぢんまりとしたたたずまいながら華美を極めており、蜜の甘さがあふれんばかりに香り立つ、クーヘンメル城だ。王ブルヴァオンレが第二王妃シフォンネのために、全て彼女の要望通りに建てさせた城である。
バットチッカは木の枝で逆さづりになり、明るくなるのを待った。
「ねえ、シフォンネちゃん。もう一度お兄さまにお願いしてみたらどうかしらのコクよ?」
「パーティーのこと? それなら昨日もお願いしてみましたわ。だけどやっぱりダメでしたのよ」
「あたくしも説得してみますわのコクよ。どうせ今夜もいらっしゃるのコクでしょう?」
庭園に咲く多彩な花たちもかすんでしまう程に美しい、華奢な女性が二人、ガーデンチェアに腰をかけ上品にコーヒーを飲みながら、小鳥がさえずるような声で話している。
すっかり夜が明け、庭園全体が見渡せる木陰から、バットチッカは二人のやりとりを聞いていた。
「もうよくてよ、コラルンジェラちゃん。わたくし、あきらめますわ。参加したかったけれど……」
「ちゃんと言ったのコク? パーティーに男の方は一人も来られないってこと!」
「もちろんですわ。それでもダメなんですもの……」
「ほんっとにおバカなお兄さまねっ。どれだけ心配性のコク? まったくもうっっのコクよ! あたくしが説きふせてみせるのコクですわ!」
一人は、淡いイエローの目に潤沢なエンジェルブルーの長い髪、玉のような白い肌をもつ絶世の美女シフォンネ。
シフォンネは、ブルヴァオンレの寵愛を一身に受ける彼の二番目の妻である。実は彼女、魔族ではなく天使族なのだが、魔族と恋に堕ちた事で天界から永久追放されてしまったらしい。
絶世の美女である事に加え、そのような事情もあり、ブルヴァオンレはことのほかシフォンネを可愛がり、大事に守っていた。
もう一人は、コーラルレッドの目にピンクがかったオレンジ色のミディアムヘア、毛先のカールが愛らしい魔界一の美女コラルンジェラだ。四束に分けた前髪に珊瑚をつるし、それがトレードマークになっている。
コラルンジェラもまた、王家に深く関係している。彼女の母親エネラグドは、先代王モガダリマ=ガフェルズの実の妹、つまり、ブルヴァオンレの叔母にあたり、コラルンジェラが言っていた「おバカなお兄さま」とは、従兄であるブルヴァオンレの事なのだ。
「ところでコラルンジェラちゃん。女性限定のパーティーって、なんですの?」
「あら、あたくしったら。まだお話してなかったのコクね? このパーティーはね、良きパートナーを見つけるため独身女性が集まって情報交換するのが目的なのですわ。もちろん、貴族のご令嬢ばかりのコクよ」
「主催なさっているのは、どなたですのぉ?」
「うふふ。誰だと思いますのコク?」コラルンジェラは両肩を上げ、片手で軽く口を押さえニコニコしている。
「分かりませんわっ。どなたですのぉ?」
「うふっ。あたくしですわのコクよ!」
「まあ、コラルンジェラちゃんが!?」シフォンネは肩をすくめ、ギュッとにぎった両手を顎に当てて驚いている。
この二人、何不自由のない裕福な育ちや世代も同じだが、見せる仕草も思考回路も同じで、何より共通しているのはトップクラスの天然ボケだという事だ。
バットチッカは時々クーヘンメル城を訪れ、癒されている。
「貴族に生まれた女性はね、たいてい親が決めた相手と結婚させられるのが不満のコクなの。でも自分で相手を見つける機会もなくて、結局は意にそわない方と結婚するしかなかったり、未婚のまま崖っぷちに立たされることが多いのコクよ。だからあたくし、このままではいけないと決起したのコクですわ!」
「す、すごいっ。コラルンジェラちゃん! コラルンジェラちゃんもこのままいくと、崖っぷちですものねっ」
「まあっ。シフォンネちゃんたらひどいのコクよぉ!!」二つのげんこつをつくり、コラルンジェラはぷりぷりしている。
「ごめんなさいっ。わたくしったら……! でもぉ、ひとつだけきいていいかしら?」シフォンネはパチパチと音をたててまばたきをした。
「なあにのコクよ?」
「わたくしをパーティーに誘ってくれたのはありがたいけれど、ただ……」
そう、シフォンネは独身ではない。既婚者であり、第三王子として立派に成長した息子までいるのだ。それなのになぜ、独身女性のパーティーに自分を招待するのか、その理由を問うのだろうとバットチッカは予測した。
ところが……
「コラルンジェラちゃんっ。あの方を説きふせるなんてホントのホントにできますのっっ?」
(そ、そこだかっっ?)バットチッカの予測は、大きく外れていた。
どうやらシフォンネは、自分が結婚している事実は気にしていないようだ。パーティーの詳細を知ってもなんら疑問は抱かず参加する気満々らしい。
さすが、誘う側も誘われる側も超天然ボケだ。
「ん~、とにかくがんばりますわのコクよっ。今回のパーティーが安全だってこと、お兄さまにきちんと伝えるのコクですわ」
「本当に? わたくし、パーティーなんて久しぶりだからワクワクしますわっ。がんばってね、コラルンジェラちゃん! ただ、コラルンジェラちゃんはいいんですの……?」
シフォンネは意味深長な目つきで、もう一度パチパチまばたきしながらコラルンジェラを見た。
「なあに? なんだか意味ありげのコクね」
「だって…… コラルンジェラちゃんには、ずっと想いを寄せてきた方がいらっしゃるでしょう?」
「そ、そうだけれど……」両手の指をすり合わせ、コラルンジェラは恥じらいながらうつむいた。
「思いきって告白なさいよ。コラルンジェラちゃん!」
「あたくしは王家の娘ですもの。そんなはしたないこと、出来ませんわのコクよ。それに、あの方はお兄さまのシェードですもの。あたくしが気持ちを打ち明けたりしたら、きっとお困りになるのコクよ……」
美女二人の間に、朝のひんやりとした風が吹き抜けた。
コラルンジェラの柑子色のストラップレスドレスが、風にそよいでいる。
(そうだべ。サファだけじゃねえ、コラルンジェラさまもゼスタフェに惚れてんだべ)バットチッカは目を細めた。
コラルンジェラは、幼い頃よりゼスタフェを想い続けてきたらしく、彼への想いを断ち切れず、両親が何度となく持ってくる縁談に見向きもしなかったそうなのだが――
「シフォンネちゃんの言う通り、あたくしもこのままだと、いつか崖っぷちに立たされてしまいますわのコクよ。だからこの辺でいい加減あきらめて、真剣に結婚を考えているのコクですわ」
「コラルンジェラちゃん……」
「だけどやっぱり、お父さまやお母さまがお決めになったお相手はイヤのコクよ。せめて自分で出会いたいのコクですわ」
「後悔しませんこと? 第一王子の美少女シェードに、ゼスタフェさんをとられてしまいますわよ?」
「やだわっ、シフォンネちゃん。彼女はまだほんの子供のコクよ?」
「でも、洞窟内で共に暮らしているのでしょう?」
「シェードの住処のことね? シフォンネちゃん知らなかったのコク? ゼスタフェさん、現在はウッズガッフェの邸宅で暮らされているのコクよ。だから…… あっ!!」
コラルンジェラが突然、小さく声を上げ立ち上がった。立ち上がるなり、小走りで門まで半分ほどの距離を駆けて行く。
庭園のアーチ型の門に、二人分の影が現れたからだ。
「なんだ、コラルンジェラ。お前も来ていたのか」ぶっきら棒な口調で、人影がどんどん近づいて来る。
「お、お兄さまこそ……」
近づいて来たのは、ブルヴァオンレだった。
だが、コラルンジェラの視線は、門にとどまりこちらの様子をうかがっている、もう一人の方に惹きつけられていた。
それがゼスタフェだったからだ。
コラルンジェラは頬を赤らめ、もじもじと身体をくねらせている。
ブルヴァオンレは怪訝そうにコラルンジェラの横を素通りしシフォンネの前に立つと、とたんにしかめっ面を柔和な表情に変えた。
「待たせたな、シフォンネ」
「あら。別にお待ちしておりませんでしたわよ」
「遅くなってすまない」
「あら。まだ朝ですわよ。先ほどお帰りになったばかりですわよ?」
ローズピンクが麗しいオフショルダーのドレスから肩をあらわにし、しなやかな手を花びらのような唇にそえ、笑みをこぼすシフォンネ。
何にも勝るであろう第二王妃の愛くるしい美しさに、ブルヴァオンレはもうメロメロになっている。
「お前はまこと、天使のようだ」
「あら。わたくし天使族ですわよ」
「コラルンジェラとなにを語り合っていたのだ?」
「そのことですけれど……」
シフォンネはコラルンジェラにそっと目配せするが、肝心のコラルンジェラはゼスタフェを意識するあまり、海底に巣食うタコの腕みたいにユラユラ揺れているだけで説得どころではなくなっている。
シフォンネは仕方なく、自分から切り出した。
「昨日、お話しましたでしょ? パーティーの件…… 参加されるのは貴族のお嬢様方ばかりですのよ。ですから、わたくし……」
「またその話か。参加は許さぬと言ったはずだ」
ブルヴァオンレは厳しい面持ちで、予想されるシフォンネの次の言葉をピシャリと切り捨てた。いかに愛しいシフォンネの頼みといえど、いや、愛しいからこそ、こればかりは譲れないのだろう。
「女ばかりの集まりだとしても、会場には参加者だけが居るのではないはずだ。男がおらぬなど、あり得ぬであろう。そもそも、パーティーの趣旨はいったいなんなのだ」
「お独り身の方々が一致団結なさってステキな男性をゲットするためのパーティーなんですって!!」
両手を合わせ嬉しさ満開で告げた直後、みるみる鬼の形相に変化する夫を前にしてシフォンネは叫んだ。
「きゃっっ。わたくし、独り身ではなかったのですわっっ!!」
「ス、ステキな男性をゲットだと……!? やはり女だけのパーティーではなかったのか!!」
ブルヴァオンレは憤慨し、タコの腕と化している従妹をかえりみた。
「そうか、そうであったのか。その一見意味のない動きには恐るべき理由があったのか! コラルンジェラめ。タコのごとく強力な吸盤で男どもをとらえるつもりか……! しかも、シフォンネまで巻き添えにするつもりとは、けしからん!!」
「コラルンジェラさま、後ろを……」
赤くなりくねくね揺らめくコラルンジェラに、ゼスタフェが歩み寄り声をかけた。
「え? なんのコクですの!? きゃあっっ!!」
コラルンジェラが振り返ると、忿怒したブルヴァオンレが般若のごとき面相で再び近づいて来ていた。
「男をつかまえるパーティーとはどういうことなのか説明しろ! コラルンジェラァ~!!」声はガラガラにしゃがれ切っている。
バットチッカも震え上がるほどの怒気電波を受信し、ほっこり癒しのムードは崩壊していた。
「このタコ女、いや、女の皮をかぶったクラ―ケンめ!!」
「まっっ!! クラ―ケンだなんて……!!」コラルンジェラの顔がゆでダコみたいにさらに真っ赤になっていく。
「いくらお兄さまでも許せませんわのコクよ! ゼスタフェさんの前で……! ゼスタフェさんの前でぇ――っ!」
怒ったコラルンジェラは、ピッチリそろえた十本の手の指をブルヴァオンレに向けるや、指先から虹色に光る線状のシャワーを噴射した。見た目にはキレイな光りのシャワーだが、とんでもなく強烈なパワーである。
魔界一の美女、純真可憐なコラルンジェラだが、彼女もれきとしたガフェルズ王家の血筋だ。それに見合った強い魔力を持っているのは当然の事。
ただ、重大な問題点があった。
「チッ。コラルンジェラの奴、しょうこりもなく……」
コラルンジェラが放った精一杯の魔力だったが、噴射した光りのシャワーはブルヴァオンレにかすりもせずに通り過ぎてしまった。
ブルヴァオンレがかわした訳ではない。コラルンジェラは、自分の力をあやつりきれていないのだ。
「ん、ん――っっ!! もっかいのコクよぉっっ!!」
全ての指に力を込めながら空に扇形を描き、コラルンジェラはなんとか踏んばってエネルギーを転回させたのだが……
だが、エネルギーはあろう事か、勢いを維持したままブルヴァオンレではなくコラルンジェラ目がけて襲いかかった。
「コラルンジェラちゃん!! 危ないですわ!!」
「きゃああ――っ!! あたくし止められないっっ。もうダメですわのコクよ――っっ!!」
絶体絶命――
まさに絶叫だ。二人の美女はキューッと目を閉じ、手で顔面を覆い隠した。
「……え?」コラルンジェラはおずおずと目を開き、そろ~りと、手を下にずらした。
「どうなってるのコク……?」
コラルンジェラを襲った彼女自身の魔力は寸秒の間に光度を下げていき、勢いづいた線状のシャワーは完全に消滅した。
「あたくし助かったのコクね…… あらっ??」
ふと、コラルンジェラがゼスタフェに目をやると、ゼスタフェの片手の手の平に、湯をそそぎコーヒーを混ぜたような黒い渦紋が出来ていた。余熱もまだある感じだ。
「ま……! ゼスタフェさんたら!!」コラルンジェラはその状況をすぐに理解したようだ。
「暴走したあたくしの魔力を手の平に吸収してくださったのコクね!? あたくしを助けてくださったのはゼスタフェさんのコクなのねっ!?」
喜びのあまり、コラルンジェラはたまらず鼻をふくらませた。感情が高ぶった時に出る彼女のクセである。
「コラルンジェラちゃん、良かったですわ! うふっ、お鼻がふくれてるわよっ」
親友の無事を見届けたシフォンネは胸をなでおろし、コラルンジェラの恋心を軽くいじっている。
「は、恥ずかしいのコクですわっっ」コラルンジェラの頬が紅葉色に染まっていく。
「王家の血筋でありながら情けないものよ。今なお、己の力もコントロール出来んとはな…… 叔母上の娘とは到底信じられぬ」ブルヴァオンレはあきれ顔で言った。
「それよりお兄さま、安心なさって! パーティーは取りやめにいたしますわのコクよ! だって、あたくしには必要ないのコクですもの!」
前髪の珊瑚を振子みたいにはずませるコラルンジェラ。鼻をふくらませたまま、ゼスタフェに守られた幸せに酔いしれている。
シェードを総括し、任務のことしか頭にないゼスタフェとはいえ、おそらく気が付いているだろう。コラルンジェラの一途な恋情に。
しかし、彼は常にポーカーフェイスを崩さない。彼の目は、眼前で起こる事象や人々の喜怒哀楽をどんなふうに映しているのだろうか。
癒しを求めてクーヘンメル城にやって来たはずのバットチッカだったが、ゼスタフェの見えない静かなる脅威を想像し、折りたたんだ飛膜をますます縮めていた。
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