ブレンド・ソウル

野鈴呼

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人間界・其の弍

「王家兄弟」

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 新たに現れた三人の若い男女。センターに立つ長身の男の装いは、上半身の露出をのぞいてはドラジャロシーと色違いで類似していた。

 パーシアンレッドのシャツに濃紺のロングコート、コートの裏地にある気味の悪い蜘蛛の巣がらの刺繍。そして、トラウザーズを入れ込んだロングブーツ。

 男の両脇に立つほっそりした少年と少女もまた、ドラジャロシーのシェード二人と似通った服装だ。

 センジは、三人一組で対峙する男女六人を見比べていた。


「ここが人間界か。満月の夜にしては真っ暗ではないか」

「王子、それは我々……特に王子のジオードのせいではないでしょうか」

 男の疑問に、少年は率直に答えた。数分前に耳にした、ドラジャロシーとマキシリュの会話と同じだ。

 男はけだるそうに片手を空に突き上げ、手首を軽くひとひねりした。

 すると、どうだろう。空に停滞していた六つの大型ジオードが急激に収縮していき、膨張していた黒雲までもがその範囲をせばめていった。黒装束の月は、本来あるべき妖しくも美しい黄金こがね色へとよみがえり、闇の世界があっという間にごく普通の明るい月夜になった。

 とてつもない魔力だ。何より、稲妻を帯同するほどの魔力――


「あいつがドリンガデス国の第一王子か……」エバイが怪訝そうにつぶやくと、ドラジャロシーは浅くうなずきエバイを見返った。

「その通り、あれが我が最悪なる兄、ギリザンジェロ=ガフェルズよ」

「へぇ~、兄ちゃん王子まで来やがったのかよ」地べたに座ったまま、センジは両ひざを立てた。

 ロンヤはめまぐるしい変化についていけず、隣りで放心状態になっている。

(それはそうと、あの少女……どっかで見た時があるような……)

 第一王子ギリザンジェロに付き従う、ピンク色の髪の少女に目を凝らし、センジはハッとした。

(えっ!? サファ……!?)

 少女は、幼なじみのサファイアにそっくりだったのだ。成長して女らしい身体つきになっているが、子供だったサファイアを縦に引き伸ばしたらまさにああなるだろう。

 サファイアらしき少女も表情をたゆませ、穴があく程にセンジを見つめている。目にはうっすら涙まで浮かべているようだ。

 センジは確信した。

(サファ……  サファだっ!! あの泣きべそ、間違いねえ!!)

 しかし、残念ながら感動の再会という訳にはいかない状況だ。にわかには信じがたいが、サファイアはおそらく第一王子のシェードなのだろう。それなら、サファイアの立場を考慮して自分は無関係であるとした方がいい。

 センジは、心苦しくもサファイアからそっと目をそらした。その後、サファイアの熱い視線を感じ続けたが、彼女のためにも知らぬふりを決め込んだ。

 
 空地あきちには、重々しい空気がただよっている。

「はて。生ゴミがやたら散乱しておるようだが、ナウントレイ。見覚えのあるゴミがあるのは気のせいか?」

 少年、ナウントレイに語りかけつつ、ギリザンジェロはドラジャロシーをニヤリと一瞥いちべつした。

「いえ、王子……  ゴミではなく……」

 返答に困るナウントレイをよそに、ギリザンジェロは両腕を組みロングブーツの音をたて、ドラジャロシーの正面で仁王立ちになった。

「なんと、ゴミではなく我が弟であったか。さっそくだがドラジャロシー、貴様ずいぶんと無謀な計画を立てたそうではないか。人間界を征服するとほざいていたらしいが、正気のさたではあるまいな」

 それを聞くや、グレースはギョッとした形相でサファイアをにらみつけた。サファイアはナウントレイの背後に素早く身を隠し、グレースの唇はピクピクと震えている。

 センジはピンときた。おそらくサファイアはうっかりミスでもやらかして約束を守れず、グレースをプッツンキレさせてしまったのだろう。子供時代にもちょくちょくあった事だ。負い目がある時、無意識に出るクセも昔と何も変わっていない。

 唇を震わせるグレースの前で、ドラジャロシーの口元も小さく痙攣けいれんしていた。兄、ギリザンジェロの登場で明らかに動揺している。それでもドラジャロシーは平静をとりつくろうように苦しまぎれな笑みをこしらえている。

「に、人間界を征服? さあな。酒の席でそんな冗談を言ったかもしれんが……  兄上ともあろう者が、そのような話を真に受け人間界ここまでくだって来るとは……  それこそ、正気のさたとは思えんな」

「フン。口がへらぬ愚弟ぐていめ。この俺が貴様ごときの戯言ざれごとで人間界くんだりまで足を運ぶと思うのか?」

「……それなら、なんでわざわざ来やがった……?」ムリヤリこしらえた笑みが早くもほころび、ドラジャロシーはギュッと眉根を寄せた。

「決まっているだろう。征服するためだ。この世界をな……  言っておくが、俺は腰抜けの貴様と違い冗談ですませるつもりはない。あくまで正気のさたと知れ」

「お、俺だって本気だっ!! 人間界を手に入れるのはこの俺だ!! 後からしゃしゃり出て先越そうとしてんじゃねえぞっっ!!」

 ドラジャロシーの顔面は完全に崩壊し、ギリザンジェロに向かい臨戦りんせん態勢に入ると口から牙を伸ばしてむき出しにした。頭上には、白と赤茶色のマーブル模様のたねがグルグルと回転している。ワイルドホースみたいな種だ。

 強い魔力を持つ者は、相手を威嚇したり真剣勝負を挑む際など、もともとある牙が長く伸びる。芒星ぼうせい魔族の特徴のひとつだ。この場でドラジャロシーが牙を出したのは、単なる威嚇ではなくギリザンジェロと真剣勝負をするつもりなのだろう。

「かかったな、ドラジャロシー。やはり本気だったか。しかも俺に牙をむくとは相当な熱の入れようではないか。だが、俺は貴様と遊んでやるヒマなどない。種も牙も引っ込めておけ」

 ギリザンジェロが一笑にして通り過ぎると、振り上げた拳を完全無視されたドラジャロシーは実にきまりが悪そうな面様おもようになった。一人勝手に盛り上がりスルーされ、じゃっかん気恥ずかしさも垣間かいま見える。

「ドラ王子さんよ。その人相悪いのが『横暴おうぼう河童かっぱ、キスいやいや』の兄ちゃんか? 二人のやりとりを聞かせてもらったが、予想以上の意地の悪さだな」センジは立ち上がり、ドラジャロシーにきいた。

「ああ。魔族史上、間違いなく三本の指に入るであろう性悪の兄だ」

「黙れ、愚弟。生きて魔界へ帰りたければそれ以上発言するな。それはさておき……そこのオレンジ!」

 ギリザンジェロの血潮のごとき赤い目がより鮮明になり、センジをまじまじと凝視した。

「な、なな、なんだよっ。なにガン見してんだよっっ」

「貴様、この俺が『キスいやいや』とはどういうつもりだ。なにを根拠にそのようなデタラメを……! どこぞの美女がそれを聞いたらどう思うか考えてみろ。『あの方はキスがお嫌いなのね』と誤解されてしまうだろうがっ! どうだっ、弁明次第ではただではおかんぞ!!」

「お、俺じゃねえよっ。ドラ王子が『キスいやいやの兄』とか言うからよ……」ギリザンジェロの気迫に押され、センジはたじたじになり口ごもった。

 すると、鋭く赤いギリザンジェロの眼球がドラジャロシーへと移動した。

「ち、違うっっ。俺は『気随きずい気儘きまま』だと言ったんだっっ。それをあの混血ブレンドが勝手に間違いやがって……」ドラジャロシーはあたふたと言い訳をする。

「認めるのだな、ドラジャロシー!! 貴様が俺を『キスいやいや』だと言い広めたのだな!? そうまでして俺の評判を最悪にしたいのか!!」

「『気随気儘』だと言うとるだろーが!! 耳の穴かっぽじってよーく聞け!! 『きずいきまま』じゃ!!」

「おのれ、まだ言うか!! 『キスいやいや』などと口から出まかせを!! 『キスいやいや』などとぉぉぉ――!!」ギリザンジェロは両手で頭を抱えてのけぞり、怒りと絶望をミックスしたように叫んでいる。

「な、なんなんだよ、あいつ。マジであんなのが第一王子なんか!?」センジは思わず、問いかけるようにサファイアを見た。

 サファイアはナウントレイの背中からヒョッコリ顔をのぞかせ、他のシェードも全員、こぞって眉を八の字にして王家兄弟を注視している。

 この調子だと、王子たちのただならぬ兄弟ゲンカが勃発ぼっぱつしてしまうかもしれないと危惧しているのだろうか。

「センジ、全部お前のせいだ。どうにかしろ」エバイがセンジの耳元でささやいた。

「もめさせたの、センジさん、だよね……」気が付くと、ロンヤもセンジの横に立っていた。

「ど、どうも出来ねえよっ。どうやって……」

 このままギリザンジェロとドラジャロシーが争いに発展すると空地周辺どころか街全体がどうなるか分からない。犠牲者が多数出る事は確実だ。ドラジャロシーの魔力を身をもって体験したセンジは、彼の兄であるギリザンジェロがさらなる力を持つ事を理解していた。

 とにかく、あの意味不明な激昂げきこうを止めなければとセンジは考えあぐねた。そこへ――

「落ち着いてください、王子。王子をおとしめる事実と異なる風評など、私が責任をもって打ち消します」

 これぞ、渡りに船。ナウントレイがきっぱりと言い切った。しかし彼は、一見毅然とした態度でありながらどこかビクついている節がある。

「そ、そおですよっ。王子の評判がこれ以上下がるなんてあり得ません! とっくに下がりきってるんですから! それよりほら、こないだ拾った例のモノをっっ」

 ナウントレイの後ろから、サファイアもギリザンジェロに呼びかけた。

「おお……  俺としたことが、愚弟の卑劣きわまりない中傷によりすっかり取り乱し忘れておった。そうそう、これであったな」

 意外や意外。サファイアの呼びかけであっさり平常心を取り戻したギリザンジェロは、コートのふところから何やら硬そうな物体を取り出した。

 硬そうな、多角形の物体――

「それはっっ!?」エバイとセンジは同時に大声を上げ身を乗り出した。

「いわくつきの……!?」ワンテンポ遅れてロンヤも声を上げている。

 三人を驚愕させたその物体の正体は……

「ラスいち遺種いだねじゃねえか!!」
「なんで王子が遺種そいつを持ってやがる!?」
「どうして……」

 ギリザンジェロがチラつかせたのはエバイとセンジがのどから手が出るほど欲しがっている、吸血貴族の最後のいわくつき遺種だったのだ。

「なにゆえ俺が遺種こいつを持っているのか…… 話せば長くなるな。ナウントレイ、端的に説明してやれ」ギリザンジェロに命じられ、ナウントレイはセンジ達に近づいて来た。

 それとなくサファイアも歩み寄り、今度は間近でセンジを熟視した。が、ナウントレイが目配せすると、サファイアはペロッと舌を出し後方に数歩退いた。

 それからすぐ、ナウントレイは話を切り出した。

「我々は人間界の各国を訪れドラジャ王子を捜していたのだが、その途中、同じく人間界にやって来た吸血魔族に出くわした。その吸血魔族こそあの遺種のぬしで、若い娘を餌食にするべく狙っているところをギリザ王子が勇敢にも征伐せいばつなされたのだ」
 
「俺はフェミニストだからな」なぜか得意げに、ギリザンジェロが口を挟んだ。

「王子が遺種を放置されずこうしてお持ちになっているのは、人間界で伝え聞いたお前たちの行動を耳にとめられていたからだ。吸血鬼のしかばねから拾い上げた石らしき物を持ち帰っていたという、お前たちの奇妙な行動を……」

「チッ……」ドラジャロシーの舌打ちが響いた。

「そうゆうことかよ。だったらこの場で返してもらおうじゃねえの。遺種そいつは本来、俺たちがいただくはずだったんだからなっ」たとえ戦ってでも最後の遺種を取り返さねばならないと、センジは拳を固め力を込めた。

「貴様ら、ヴァンパイア大陸のエリアシールドを破ろうとしているのであろう」

 ギリザンジェロの言葉に、センジたち三人は一瞬時が止まったように黙り込んだ。

「これは笑止。どうやら愚弟より大胆な計画をくわだてているらしいが、おのれらの無知を存分になげくがよい。吸血貴族の訳ありの遺種を集めるだけでは、シールドを破るなど到底不可能なのだからな」

「なに……?」センジ達にはあまりに衝撃的な、寝耳に水の新たなる情報だった。

「どうゆうことだっ! 吸血貴族やつらの遺種だけじゃ破れねえって……!?」

「貴様らにも教えてやろう。訳ありの遺種を集めたのち、ドリンガデス国に囚われている吸血魔族の公爵を見つけ出さねばシールドは無効に出来ぬ。永久にな」

「囚われた公爵だと!?」ドラジャロシーも初耳だったのか、あからさまに驚いた。

「公爵はいったいどこに囚われているのか、そもそも生きているのかすら不明だ。されど全てのカギを握っているのがその公爵であることも紛れのない事実…… どうだ。ドリンガデス中を探索するなど気の遠くなる話であろう。いずれにせよ、貴様らのもくろみは砂上さじょう楼閣ろうかく、かなわぬ夢よ」

 ギリザンジェロのひとことひとことがセンジの神経を逆なでし、イラ立たせる。しかしそれ以上にショックの方が勝り、胸の中でイヤな感情がガランガランとガラクタみたいに雑音まじりで回っていた。

 エバイはいつもの無表情で突っ立ている。

「アニキッ。じゃあバットチッカはこの事実を知らなかったってことか!? だよな!? 知ってたら最初に話すはずだもんな!?」

「これまでは知らなかったんだろうが……  センジ、 おかしいと思わねえか? 二人の王子は人間界へ来てから、俺たちの居る図本国ここに来るまで各国を訪れていた。しかも、最後の吸血貴族までが人間界に来てたんだぜ?」

「あ……!」ロンヤが先に気づき、メガネの奥にある豆粒みたいな黒目をまん丸くした。

「つまり、それは……」センジも気づいてしまった。

 そうなのだ。バットチッカは魔族が人間界へ来た時、どの国であろうと感知する能力を持っている。にもかかわらず、エバイにもセンジにもいっさい報告しなかった事になるのだ。

「俺らに報告しなかっただけじゃねえ。バットチッカは俺たちより先に王子に会ってるはずだ。王子が言ったろ? 『貴様らにも教えてやる』ってよ」

「バットチッカにも教えたってことか……? あいつは知ってたってことか……?」

 命の恩人を越え、仲間を越え、大切な大切な家族であるバットチッカに、この時初めてセンジの心に疑念が植えつけられた。


「ん……? あ、あれ? エバイさん、センジさん、雲が……」

「あ?」真上に顔を上げたセンジの鼻先に、ポツリと雨粒が落ちてきた。

 のしかかってくるような灰色の積乱雲が目にもとまらぬ速さで空を支配していく。

「な、なんだこれっ!? 身体が……!!」突如、センジは身体が浮き上がる感覚にみまわれた。

「うわっっ!! 身体が持ってかれそうだよっ!!」ロンヤの足はフワリと宙に浮いている。

 エバイは刀の刃を思いきり地面に突き立てるや、ジタバタするロンヤの手を引き寄せ刀のにつかまらせた。

「センジ!!」

「あ、ああっ!!」センジも慌ててやりを出現させ、土に突き立てて柄にしっかりとつかまった。

「またかよっっ!? 次はどなたさまがおいでなさるんだぁ!? こうなったら三男でも四男でもまとめて来やがれっっ!!」センジはほぼヤケクソになっていた。

「エバイさん! 刀ごと上に持ってかれそうだよ……!!」

「大丈夫だ!! 絶対に手え放すなよっ!!」


 雨が本降りになってくるにしたがい雷光らいこう明滅めいめつを繰り返すと、ナイフのような青い稲光りが走った。

 すると、その青いひらめきはギリザンジェロとドラジャロシー、二人の王子をおののかせ、声を重ねて絶叫させた。

「ク、クソ親父――っっ!?」

 二人は顔面蒼白で、両足をめいっぱい広げて踏ん張っている。

 恐るべき、青色のスパーク。雨脚がだんだんと強まってきた。

「ギリザ王子っ!! 王の逆鱗げきりんに触れたようです!! 人間界に来られるむね、王のお許しをいただいたのではなかったのですか!?」ナウントレイの顔色も真っ青になっている。

「あの親父が許可するはずがなかろうっ! きいてなどおらぬわっ! 我がシェードならばそれくらい看破いたせ!!」

「も、申し訳ありません……!! しかし王子、ここはどうか、どうかいっこくも早く魔界へお戻りください!!」ナウントレイは身を低めつつ懇願し、せき立てた。

「兄上、しくじったな……!」

「バカを言うな! 俺は誰に……も……」

 吹きすさぶ雨に打たれ、ギリザンジェロは荒天をあおぎつつ何か思い出したのか、急にわめき始めた。

「ゼ、ゼスタフェか……!! 俺の行動を不審に思い、ドラマの刑事デカ気取りでパンにかじりつき張り込んでやがったのか!! 奴のかじるパンは平凡なモッツァレラピザ風トーストか、それともクロワッサンサンドか……  いや、おつに澄ました奴のことだ。ちょっと小粋こいきにあんパンかもしれん!!」

「王子!! お急ぎ下さい!!」

 四人のシェードは中腰になり身体が浮くのを必死でこらえつつ、荒々しい空にジオードを拡大させた。が、直後に四人は見えない強大な力に引き上げられ、抵抗する間もなくジオードの大穴ビッグホールへと吸い込まれてしまった。ドラジャロシーもまた、長太いストローで一気飲みされるクソまずいジュースのように勢いよく吸い上げられている。その辺を飛んでいたのか、鳥らしき黒い生き物も巻き添えになっていた。

 大雨で視界不良の中、槍の柄につかまり王子とシェード達を観察していたセンジを、ギリザンジェロはまぶたに焼きつけるかのごとくギッとねめつけた。

「とんだジャマが入ったが、貴様ら、遺種こいつが欲しければ魔界へ来い。ドリンガデスのドリンケルツ城へな……!!」

 多量の雨だけでは不十分なのか、地に足を踏みしめるギリザンジェロを標的として天からひょうまで降ってきた。ゴルフボールみたいなバカでかい雹だ。

「いてっ! いててててっ!! あのクソ親父めっっ!! 脳天陥没かんぼつさせる気かっっ!!」

 頭を腕でかばいながらギリザンジェロはジオードへ飛び乗ろうとしたが、見えない力はこの時、他の五人の時より数倍も強力になっていた。ギリザンジェロはハイパー級の吸引力で一秒と経たぬ間に吸い上げられ、おのがジオードにベタッとへばり付きそのままの体勢で去るハメになってしまった。なんと不格好な去り方だろう。

 黒い渦と大きなジオードと共に、ギリザンジェロたち一行は慌ただしく人間界を後にした。


 これまでの悪天候がウソのように、空は雲ひとつ見当たらない晴れた夜空に戻ったのだが、センジの心はぐずついていた。エバイとロンヤの気色も曇っている。

 当然だ。バットチッカの事といい、奪われた最後の遺種といい……  公爵探しの情報も予測不能すぎた。

「あの、ごめんなさい、エバイさん。エバイさんなら、あの時、王子のすきを突いて、遺種を取り返せたかもしれないのに。自分が、足手まといだったから…… 」

 いきなり身体が浮き上がった時の事を、ロンヤは言っているのだろう。

「お前のせいじゃねえよ。どのみち取り返せやしなかったさ。王子の魔力ちからもだが、王の魔力ちらかは桁外れだったからな」

「王……? えっ、さっきのあれは、王さまのパワーだったの?」

「そういや、王子二人が『クソ親父』とか絶叫してたよなっ」

「ああ。ナウントレイとかいうシェードはハッキリ『王』っつってたぜ?」

「な、なんか、大変な人たちが人間界にかかわってたんだね……  こわっ」ロンヤは縮み上がっている。

「アニキ、ロンヤ。バットチッカに確かめねえとな……」

「だな……」「うん……」

 緊張から気が抜けたのか、ロンヤの腹がグググゥ~ッとSOSの音を鳴らした。ロンヤは照れくさそうに苦笑いしている。

「そういえば、夕食まだだったな」

「食べる気にはならねえよ」

「でも、自分は、なんかおなかに入れたいな……」

「とりあえず帰るか。シルクとラズも心配してるだろうからなっ」

 全速力で駆けて来た道を、エバイ、センジ、ロンヤ三人は、やや足どり重く進んで行く。

 バットチッカからどんな真実を聞かされるのか、内心不安でドキドキしていたのだ。
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