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【番外編】グレーゾーンのギリアムさん2
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ギリアムさん家に居候合宿してから早いもので3週間が過ぎた。
毎日美味しいご飯を食べさせてもらい、お風呂の後には顔のお手入れやら、ストレッチやらと、美は1日にしてならず、とばかりに大変ではあるが、楽しい日々を送っている。
毎日食事を作ってもらって申し訳ないと、たまには私が作ると申し出ると、「あんたには期待してない」とあっさり却下された。
食費も光熱費も払うと言うと、「私は高級取りよぉ、安月給のあんたからもらわない」と、これまた却下された。
私は北方の米所のガータニーの一応公爵領の娘だ。
公爵と言っても、たまたまうちが一番デカい畑と山を持っているということに過ぎない。
うちも含め、ほぼ全員が農家や林業を営んでいる。
ガータニーはほのぼのとした良いところなのだ。温泉もあるし。
実家に、お世話になってる料理好きの先輩がいてと、事情を話したら、作ってる米やら野菜やらをドッサリ送ってくれた。
季節の野菜を定期的に送ってくれると言う。
米は無くなりそうになったら言えと言われた。ありがたや~。
新鮮な野菜や艶々のお米を見て、「凄い!こんな良いお野菜やお米は王都で買えないぃ~。でかした小娘!」と、大層喜んでくれた。
これくらいでは全然足りないが、少しは恩返しになるだろう。
順調に肌も髪も改善されて来た気がする。
センスの良いギリアムさんと、ショッピングに行くのも楽しい。
洋服とか小物とか靴とか、「あんたの持ってる物全部ダサイ」と切り捨てられ、一から揃えてくれた。
「私は一番下だから、こうやって面倒見るの楽しいぃ~」と言ってくれる。
正に理想の姉、という感じだ。
しかし、困ったこともある。
お風呂上がりのギリアムさんである。
彼は暑いと言いながら、いつも下にスウェットだけ履いた半裸で出て来るのだ。
初めて見た時はびっくりしたが、「いつもの事~」と、言われたら居候はそれ以上言えない。
ここは彼の家なのだ。
濡れた髪をタオルで拭きながら、リビングをうろつかれるのは目の毒だ。
見た目はスリムだし、事務官だからもっとヒョロヒョロなのかと思いきや、無駄な贅肉を削ぎ落とした、見事に鍛え上げた、ムキムキ過ぎない鞭のようなしなやかな肉体なのである。
まぁ、王国調査局の調査員だもんね。バリバリのエリート。
身体能力も魔力も高くて、頭も良い万能タイプじゃないと務まらない。
何度も言うが、喋らなければ完璧。
しかし、最近はその話し方だからこそギリアムさんらしくて良いなとも思う。
さらに、同性同士?の気安さからなのか、距離が近い。
見た目が完璧なだけに、うっかりドキドキしてしまうこともある。
顔が赤くなってると、「小娘、熱でもあるの?」とコツンとおでこを合わせてくる。
綺麗な深緑の瞳にジッと見つめられてどうして良いかわからなくなって、さらにドギマギさせられるのだ。
そして、いまだに、ギリアムさんの恋愛対象は男か女か確かめられていない。
聞けば良いんだろうけど、もしはっきりと「男」って言われてしまったら、ショックを受けてしまいそうになる自分がいる。
それならば、グレーゾーンのままで良いかなと思う。
良いよね、別に。わざわざ確認なんてしないよね。
一か月を過ぎた頃になると、私の黒髪は見違えるようにサラサラになり、ボロボロだった肌も透き通るような白さと艶やかさを取り戻した。
心なしか、紫の目にも輝きが増したように思う。
その頃から、任務中でも町でもたまに男性から声をかけられるようになった。
こ、これがナンパというやつか!
別れたばかりだし、今はギリアムさんと二人三脚で美容レッスンに明け暮れてる日々が楽しくて、付き合う気などさらさら無い。
しかし、さすが王都、恋愛にアグレッシブ!!
ガータニーは米所でもあり、美人の産地としても有名で、私はミスガータニーとして学生時代は学校が終わると、公爵領の特産品をPRする大使として、ほぼ毎日あちこち行かされていた。
ミスと言っても別にコンテストなどがあったわけではない。
領主の娘なら無料でコキ使えるという、7歳上の兄の策略だ。
ミスガータニーと名乗っていても、文句は言われなかったので、誰でも良かったのだろう。
まぁ、バイト代は無いが、頑張ってるねと、あちこちでお菓子もらったり、果物もらったりしたけど。
お陰で高等部一年からジェリコと付き合っていたとはいえ、恋人らしいことなど殆どした事がない。
学校内で休み時間に話すか、家まで一緒に帰るくらいしかしてない。
専科卒業までがっつりミスガータニーを忙しく務めていたので、憧れの第二隊に入隊して、魔術騎士として王都に出てきてこれから本格的に恋人か!と言うと時に振られたのである。
それをギリアムさんに言ったら、唖然として、「ジェリコに同情するわ・・・」と、言われた。
今考えると無理もない。果たして恋人と呼べるのかも疑問だ。
ジェリコは隣町の侯爵の息子で、うちの次に大きい家だった。
高等部に入って、先輩に告白されたという事実に舞い上がっていたのは確か。
それなのに、仕事だからと、一度も彼を優先した事無かったな・・・悪い事をした。
ジェリコは一年前に王都に出てきていたから、のんびりした田舎の恋人ごっこでは無く、都会のキラキラしたアグレッシブな綿菓子女子に言い寄られればイチコロだったろう。
うんうん。良かった。お互いに良い選択だったのだ。
こうして思えるのも、ギリアムさんのお陰なのだ。
本当に感謝している。
7月になった。
ミランダさんは無事出産休暇に入り、ギリアムさんは代理事務官として勤務している。
事務官だけでも忙しいのに、たまに調査員として派遣されることもあるらしく、居候してるのも申し訳なく思った。
果たして、私はいつまて居て良いのだろう・・・
正直、ギリアムさんとの生活は楽しい。気も合うし、居心地も良い。離れて生活するのは辛いとすら思う。
いまだグレーゾーンは謎のままだが、そんな事はどうでも良かった。
だが、髪も肌も十分綺麗になったし、何なら前よりも調子が良い。
女子隊員にも、「最近カレン凄い綺麗になったね」って言われるようになったし。
そろそろお互いに離れて生活する時期が来たのだろうか。
言い出せないまま、更に一月経ってしまった。
「ねぇ、カレンちゃん、本当に可愛くなったよね~。彼氏いないんなら俺と付き合ってよ」
今日は他の隊との合同訓練だった。
運悪く、何度か断っているのにしつこく言ってくる人に捕まってしまった。
第三隊の副隊長補佐官のダニエル・コンコルドさんだ。
25歳。どうやらこの前の合同訓練の時に目をつけられたらしい。
そして、チャラい。とても好きになれそうにないタイプなのだ。
「あの、本当にすみません。今は彼氏とか考えられなくて」
「じゃあお試しで良いから。飲みに行こ。今日は?」
「あの~・・・」
困った。腕を離してくれない。同じ騎士団として邪険にも出来ないし、どうしたもんかと思っていた。
前回はロックス副隊長が困ってたらすぐに助けてくれたんだった。
「な~にしてるの、小娘!終わったらさっさと戻れって言ったでしょ!」
この声はギリアムさんだ。
安堵のあまり泣きそうになる。
ツカツカと寄ってくると、相手の手を解いて私を腕の中に引き寄せてくれた。
「お前、事務官じゃねーか。カレンちゃんと今話してんだよ、関係ないやつは引っ込んでろ!」
「関係あるの!小娘はね、私が見つけて、大事に大事に育ててきた子なの!綺麗になったからって後から横取りしようなんて、図々しいにも程があるのよ!」
ギンっ!と音がしそうになるほどダニエルさんを睨みつけて言った。
怖っっ!顔が良いだけに、めちゃくちゃ迫力がある。
私は更に追い討ちをかけた。
「ギリアムさんは事務官と王国調査員を兼任してます。ただの事務官じゃないです」
相手はえ?みたいな顔し、調査員と聞いてマズイと思ったのか、そそくさと去って行った。
ギリアムさんは心配げに私の肩を抱いて覗き込んだ。相変わらず近い。
「ちょっとぉ、大丈夫~?小娘」
「ありがとうございます、ギリアムさん。あの人少し前からしつこくて困ってたんです」
「もう~。ちょっと目を離すとすぐあんなのに言い寄られて。隙がありすぎなのぉ」
「すみません・・・」
「まぁ、仕方ないわねぇ。磨けば光る玉だものねぇ。周りが放っておかなくなるのは想定内よぉ」
え?そうかな?自分ではわからない。想定内とは?
「あんたもね、もっとバシッと彼氏がいるって言ってやれば良いのぉ、全くぅ」
「えぇ・・・」
「本当に恋人作ればいいのよ~」
ズキリと、胸が痛んだ。
とうとうグレーゾーンから白黒ハッキリさせる時が来たのだ。
嫌だ!ギリアムさんと離れたく無い!
私は震えながらギリアムさんに言った。
「やっぱり、家を出なきゃダメですか?ずっといたら迷惑ですよね」
「あんた、何言ってるのよぉ」
「だって、恋人作れって・・・」
「ちょっと、さっき私があいつに言ってたの、聞いてたぁ?」
え?ええっと・・・『小娘はね、私が見つけて、大事に大事に育ててきた子なの!綺麗になったからって後から横取りしようなんて、図々しいにも程があるのよ!』だっけ。
横取り・・・?横取りするなって事は・・・
「も~、本当に鈍いなぁ。私が見つけて、大事に大事に磨いて恋人にしようとしてたんでしょ~。わかったぁ」
「えっ!えぇぇっっっ!だって、ギリアムさんは・・・」
「何よ~」
「お、女の人に興味が無い人かと・・・」
「いつ、私がそんな事言った、小娘ぇ~」
顔をひくつかせ、低~い声で言われた。
「まぁ、あえてあんたにどっちにも見えるようにしてたのも確かなんだけどねぇ。警戒させないようにぃ」
「そ、そうなんですか?」
「それにしても、警戒心無さ過ぎよ!お陰で半裸でウロウロする羽目になったじゃ無い!」
「あれはワザと・・・?」
「当たり前ぇ。あんた完全に『姉』と思ってたでしょっっ!だから半裸で意識させるようにしたのぉ!」
バ、バレてるっっ!そして思惑通りに意識してましたぁ~。
凄い!さすが王国調査員!
「で?小娘、今更私から離れて生きて行けるの?」
「行けません」
「でしょー?私もあんたの家の野菜やお米が無いと生きて行けないわぁ」
「じゃあ、合宿は続行という事で?」
「馬鹿ね、そこは同棲っていうのよー。色気が無いんだから。あ、今度の休みに小娘ん家行くよ~」
「え?急に?」
「一緒に住むなら、婚約者としてよ!いい?わかったぁ?」
「はい!一生ついて行きます!」
ずっとグレーゾーンだと思っていたギリアムさんに、その夜しっかり「男」だと認識させられたのだった。
毎日美味しいご飯を食べさせてもらい、お風呂の後には顔のお手入れやら、ストレッチやらと、美は1日にしてならず、とばかりに大変ではあるが、楽しい日々を送っている。
毎日食事を作ってもらって申し訳ないと、たまには私が作ると申し出ると、「あんたには期待してない」とあっさり却下された。
食費も光熱費も払うと言うと、「私は高級取りよぉ、安月給のあんたからもらわない」と、これまた却下された。
私は北方の米所のガータニーの一応公爵領の娘だ。
公爵と言っても、たまたまうちが一番デカい畑と山を持っているということに過ぎない。
うちも含め、ほぼ全員が農家や林業を営んでいる。
ガータニーはほのぼのとした良いところなのだ。温泉もあるし。
実家に、お世話になってる料理好きの先輩がいてと、事情を話したら、作ってる米やら野菜やらをドッサリ送ってくれた。
季節の野菜を定期的に送ってくれると言う。
米は無くなりそうになったら言えと言われた。ありがたや~。
新鮮な野菜や艶々のお米を見て、「凄い!こんな良いお野菜やお米は王都で買えないぃ~。でかした小娘!」と、大層喜んでくれた。
これくらいでは全然足りないが、少しは恩返しになるだろう。
順調に肌も髪も改善されて来た気がする。
センスの良いギリアムさんと、ショッピングに行くのも楽しい。
洋服とか小物とか靴とか、「あんたの持ってる物全部ダサイ」と切り捨てられ、一から揃えてくれた。
「私は一番下だから、こうやって面倒見るの楽しいぃ~」と言ってくれる。
正に理想の姉、という感じだ。
しかし、困ったこともある。
お風呂上がりのギリアムさんである。
彼は暑いと言いながら、いつも下にスウェットだけ履いた半裸で出て来るのだ。
初めて見た時はびっくりしたが、「いつもの事~」と、言われたら居候はそれ以上言えない。
ここは彼の家なのだ。
濡れた髪をタオルで拭きながら、リビングをうろつかれるのは目の毒だ。
見た目はスリムだし、事務官だからもっとヒョロヒョロなのかと思いきや、無駄な贅肉を削ぎ落とした、見事に鍛え上げた、ムキムキ過ぎない鞭のようなしなやかな肉体なのである。
まぁ、王国調査局の調査員だもんね。バリバリのエリート。
身体能力も魔力も高くて、頭も良い万能タイプじゃないと務まらない。
何度も言うが、喋らなければ完璧。
しかし、最近はその話し方だからこそギリアムさんらしくて良いなとも思う。
さらに、同性同士?の気安さからなのか、距離が近い。
見た目が完璧なだけに、うっかりドキドキしてしまうこともある。
顔が赤くなってると、「小娘、熱でもあるの?」とコツンとおでこを合わせてくる。
綺麗な深緑の瞳にジッと見つめられてどうして良いかわからなくなって、さらにドギマギさせられるのだ。
そして、いまだに、ギリアムさんの恋愛対象は男か女か確かめられていない。
聞けば良いんだろうけど、もしはっきりと「男」って言われてしまったら、ショックを受けてしまいそうになる自分がいる。
それならば、グレーゾーンのままで良いかなと思う。
良いよね、別に。わざわざ確認なんてしないよね。
一か月を過ぎた頃になると、私の黒髪は見違えるようにサラサラになり、ボロボロだった肌も透き通るような白さと艶やかさを取り戻した。
心なしか、紫の目にも輝きが増したように思う。
その頃から、任務中でも町でもたまに男性から声をかけられるようになった。
こ、これがナンパというやつか!
別れたばかりだし、今はギリアムさんと二人三脚で美容レッスンに明け暮れてる日々が楽しくて、付き合う気などさらさら無い。
しかし、さすが王都、恋愛にアグレッシブ!!
ガータニーは米所でもあり、美人の産地としても有名で、私はミスガータニーとして学生時代は学校が終わると、公爵領の特産品をPRする大使として、ほぼ毎日あちこち行かされていた。
ミスと言っても別にコンテストなどがあったわけではない。
領主の娘なら無料でコキ使えるという、7歳上の兄の策略だ。
ミスガータニーと名乗っていても、文句は言われなかったので、誰でも良かったのだろう。
まぁ、バイト代は無いが、頑張ってるねと、あちこちでお菓子もらったり、果物もらったりしたけど。
お陰で高等部一年からジェリコと付き合っていたとはいえ、恋人らしいことなど殆どした事がない。
学校内で休み時間に話すか、家まで一緒に帰るくらいしかしてない。
専科卒業までがっつりミスガータニーを忙しく務めていたので、憧れの第二隊に入隊して、魔術騎士として王都に出てきてこれから本格的に恋人か!と言うと時に振られたのである。
それをギリアムさんに言ったら、唖然として、「ジェリコに同情するわ・・・」と、言われた。
今考えると無理もない。果たして恋人と呼べるのかも疑問だ。
ジェリコは隣町の侯爵の息子で、うちの次に大きい家だった。
高等部に入って、先輩に告白されたという事実に舞い上がっていたのは確か。
それなのに、仕事だからと、一度も彼を優先した事無かったな・・・悪い事をした。
ジェリコは一年前に王都に出てきていたから、のんびりした田舎の恋人ごっこでは無く、都会のキラキラしたアグレッシブな綿菓子女子に言い寄られればイチコロだったろう。
うんうん。良かった。お互いに良い選択だったのだ。
こうして思えるのも、ギリアムさんのお陰なのだ。
本当に感謝している。
7月になった。
ミランダさんは無事出産休暇に入り、ギリアムさんは代理事務官として勤務している。
事務官だけでも忙しいのに、たまに調査員として派遣されることもあるらしく、居候してるのも申し訳なく思った。
果たして、私はいつまて居て良いのだろう・・・
正直、ギリアムさんとの生活は楽しい。気も合うし、居心地も良い。離れて生活するのは辛いとすら思う。
いまだグレーゾーンは謎のままだが、そんな事はどうでも良かった。
だが、髪も肌も十分綺麗になったし、何なら前よりも調子が良い。
女子隊員にも、「最近カレン凄い綺麗になったね」って言われるようになったし。
そろそろお互いに離れて生活する時期が来たのだろうか。
言い出せないまま、更に一月経ってしまった。
「ねぇ、カレンちゃん、本当に可愛くなったよね~。彼氏いないんなら俺と付き合ってよ」
今日は他の隊との合同訓練だった。
運悪く、何度か断っているのにしつこく言ってくる人に捕まってしまった。
第三隊の副隊長補佐官のダニエル・コンコルドさんだ。
25歳。どうやらこの前の合同訓練の時に目をつけられたらしい。
そして、チャラい。とても好きになれそうにないタイプなのだ。
「あの、本当にすみません。今は彼氏とか考えられなくて」
「じゃあお試しで良いから。飲みに行こ。今日は?」
「あの~・・・」
困った。腕を離してくれない。同じ騎士団として邪険にも出来ないし、どうしたもんかと思っていた。
前回はロックス副隊長が困ってたらすぐに助けてくれたんだった。
「な~にしてるの、小娘!終わったらさっさと戻れって言ったでしょ!」
この声はギリアムさんだ。
安堵のあまり泣きそうになる。
ツカツカと寄ってくると、相手の手を解いて私を腕の中に引き寄せてくれた。
「お前、事務官じゃねーか。カレンちゃんと今話してんだよ、関係ないやつは引っ込んでろ!」
「関係あるの!小娘はね、私が見つけて、大事に大事に育ててきた子なの!綺麗になったからって後から横取りしようなんて、図々しいにも程があるのよ!」
ギンっ!と音がしそうになるほどダニエルさんを睨みつけて言った。
怖っっ!顔が良いだけに、めちゃくちゃ迫力がある。
私は更に追い討ちをかけた。
「ギリアムさんは事務官と王国調査員を兼任してます。ただの事務官じゃないです」
相手はえ?みたいな顔し、調査員と聞いてマズイと思ったのか、そそくさと去って行った。
ギリアムさんは心配げに私の肩を抱いて覗き込んだ。相変わらず近い。
「ちょっとぉ、大丈夫~?小娘」
「ありがとうございます、ギリアムさん。あの人少し前からしつこくて困ってたんです」
「もう~。ちょっと目を離すとすぐあんなのに言い寄られて。隙がありすぎなのぉ」
「すみません・・・」
「まぁ、仕方ないわねぇ。磨けば光る玉だものねぇ。周りが放っておかなくなるのは想定内よぉ」
え?そうかな?自分ではわからない。想定内とは?
「あんたもね、もっとバシッと彼氏がいるって言ってやれば良いのぉ、全くぅ」
「えぇ・・・」
「本当に恋人作ればいいのよ~」
ズキリと、胸が痛んだ。
とうとうグレーゾーンから白黒ハッキリさせる時が来たのだ。
嫌だ!ギリアムさんと離れたく無い!
私は震えながらギリアムさんに言った。
「やっぱり、家を出なきゃダメですか?ずっといたら迷惑ですよね」
「あんた、何言ってるのよぉ」
「だって、恋人作れって・・・」
「ちょっと、さっき私があいつに言ってたの、聞いてたぁ?」
え?ええっと・・・『小娘はね、私が見つけて、大事に大事に育ててきた子なの!綺麗になったからって後から横取りしようなんて、図々しいにも程があるのよ!』だっけ。
横取り・・・?横取りするなって事は・・・
「も~、本当に鈍いなぁ。私が見つけて、大事に大事に磨いて恋人にしようとしてたんでしょ~。わかったぁ」
「えっ!えぇぇっっっ!だって、ギリアムさんは・・・」
「何よ~」
「お、女の人に興味が無い人かと・・・」
「いつ、私がそんな事言った、小娘ぇ~」
顔をひくつかせ、低~い声で言われた。
「まぁ、あえてあんたにどっちにも見えるようにしてたのも確かなんだけどねぇ。警戒させないようにぃ」
「そ、そうなんですか?」
「それにしても、警戒心無さ過ぎよ!お陰で半裸でウロウロする羽目になったじゃ無い!」
「あれはワザと・・・?」
「当たり前ぇ。あんた完全に『姉』と思ってたでしょっっ!だから半裸で意識させるようにしたのぉ!」
バ、バレてるっっ!そして思惑通りに意識してましたぁ~。
凄い!さすが王国調査員!
「で?小娘、今更私から離れて生きて行けるの?」
「行けません」
「でしょー?私もあんたの家の野菜やお米が無いと生きて行けないわぁ」
「じゃあ、合宿は続行という事で?」
「馬鹿ね、そこは同棲っていうのよー。色気が無いんだから。あ、今度の休みに小娘ん家行くよ~」
「え?急に?」
「一緒に住むなら、婚約者としてよ!いい?わかったぁ?」
「はい!一生ついて行きます!」
ずっとグレーゾーンだと思っていたギリアムさんに、その夜しっかり「男」だと認識させられたのだった。
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