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朝から騒がしい

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~ミランダ~

朝から何やら騒がしい。

あぁ、あれか、アシュレイさんとシェリルか。
あの二人、研究所練り歩いてるんか、っていうくらいあちこちで噂されている。
そりゃそうか。あのアシュレイさんが結婚するんだもんな。
魔術研究所のアシュレイ好きな皆さんには衝撃だろう。

ジャン君なんか若干呆然とさえしている。
君までガチ勢だったんかいっっっ!!


****

日曜の朝、グラントにアシュレイさんから連絡が入った。
私たちに報告したい事があるからと。
グラントとまさかまさかの事が起こったのか?とワクワクして二人を待っていた。

手土産片手にニコニコでやって来た二人は、付き合うどころの騒ぎでは無かった。
何と!魔力を既に混ぜ合わせたとの事だった。

「アシュレイ、大丈夫なのか、その・・・」

躊躇いがちにグラントが口を開いた、
言いたい事はわかる。結婚前に魔力を混ぜ合わせてしまったら、子供が出来る可能性が大な一族だからだ。
しかし、アシュレイさんは自信ありげに頷いた。

「その事なら問題無い。クリストファーから『子種封じ(仮)』をもらってたんだ。試作段階だけど、大丈夫との事だ」
「そうか。クリストファーが保証するなら問題無いだろうな」

子種封じぃぃ!?何それ。凄い名前だな。
そんなものがあるならうちにもぜひ欲しい。
クリストファーさん、早く売り出してくれないかな。

それにしても、アシュレイさんといい、シェリルといい、何か雰囲気変わった?
アシュレイさんは人を寄せ付けない雰囲気がかなり和らいでるし、シェリルは・・・
あれ?シェリル、何か雰囲気というか・・・

「ちょっと、シェリル、目!目どうしたの!?」
「あ、やっぱり気がついた?ちょっと妖精眼になっちゃって」
「ちょっとってあんた・・・」

テヘって感じで言ってるけどさぁ、妖精眼なんて急に普通なる?何でそんな事になるのさ。

「そうそう、それも報告があったんだよ。実はシェリルが妖精の取り替えっ子だったようで、土曜に妖精界に連れて行かれたんだ」
「「取り替えっ子ぉぉぉ!!」」

思わず、グラントと二人で驚いて立ち上がってしまった。
土曜日って、昨日じゃないか!何でこの短時間で立て続けに色々起こるんだ。

「そうだったみたい。でも、アシュレイさんとクリストファーさんが助けに来てくれて、無事に戻って来れたんだよ。その時妖精王にも会って、妖精が見えないと不便だろって、頼んでもないのに勝手に妖精眼にされたんだよね」
「何だか大変だったねぇ」
「結婚前提に付き合いたいって、シェリルの家族に挨拶に行って、ついでにクリストファーのところに指輪を作りに行ってたんだよ。その後だったから、すぐに対応出来て良かったけどな。また何かあると危険だから、魔力を混ぜる事にしたんだ」
「えらい目にあったよ、全く」
「シェリルさん、妖精界に行って体は何ともないのか?」
「大丈夫です。それに、妖精眼といっても、特に見え方とかは変わらないので」
「それなら良かった」

グラントも私もとりあえずホッとした。
しかし、つくづくうちは何だか妙な物が寄ってくるな。

そんなことを考えていると

「そうだ。次のうちの領地での『お屋敷渡り』に俺とシェリルも参加するよ」
「アシュレイは久しぶりだな。親戚も集まるし、紹介するには良いだろう」

北のロックス領で、馬に乗って牛や羊を大移動させる領地上げての大イベント「お屋敷渡り」。
初夏と秋の2回行われるこの壮大なイベントは、グリードエンドでも名物となっている。

夏になると気温の低い過ごしやすい高原で放牧を行い、秋に平地の牧場に戻ってきて、厳しい冬は家畜たちは大きい小屋で過ごす。
平地と高原のそれぞれに屋敷を構えており、人々もそこで過ごすのだ。
屋敷から屋敷へと移るのでいつしか「お屋敷渡り」と呼ばれるようになったとの事。

草原をロックス一族が伝統的な衣装を纏い、馬に乗って牛や羊を移動させている様は大層見応えがあって、私も初めて参加した時は大興奮した。
何しろ、どこを見ても馬に乗った美丈夫や美女ばかりなのだ。
大変素晴らしいぞ、ロックス一族。

今年はうちの長男のヴァンサンが初めて自分の馬に騎乗して参加する。
馬に乗れない人や小さい子供たちは馬車でついて行く。

移動はゆっくりと2日かけて行われ、その間はテントを張った本格的なキャンプ生活をするのだ。
ロックス一族は遊牧民だったので、キャンプはお手のもので、テントといっても骨組みもしっかりしたかなり快適な代物なのだ。
簡易ながらフカフカのベッドもちゃんとある。

地方に散っているロックスたちも、この時ばかりは集まってお屋敷渡りを手伝う人も多いと聞く。
シェリルもアシュレイさんと馬で参加するらしい。
さすが騎士だ。体力が違う。
私は子供がまだ小さいので、馬車だが、いつか馬で参加したいと思っている。

それから二人は子供たちとちょっと遊んで、夕方前に帰って行った。



「ねえ、グラント。クリストファーさんの作った『子種封じ』、うちにも欲しくない?」
「いい事聞いたな。すぐに連絡を取ろう」

後日、うちに届いた薬の効き目は素晴らしく、正式に発売されてからもちょくちょく愛用することとなった。


***

廊下に出るとあちこちで、ギャーワーしている。
顔見知りの若い魔術師が走り寄って来た。

「ミランダさん、アシュレイ室長って護衛のシェリルさんと結婚するんですか?」
「そうなの。昨日二人で家に報告に来たよ」
「ああぁ、やっぱり。二人の魔力が混ざってるのが見えて、うぅぅ、室長・・・」

彼はガクリと膝から崩れ落ちた。

えぇ~、そんなにショック受ける事??
見れば、私たちの会話が聞こえた人達は同様に膝をついている。
何だ何だこの状況は。
しかし、シェリルが結婚する事にショックを受ける人がいないとは・・・女子としてどうなの?
相変わらずここでモテるのはアシュレイさんばかりだな。

あ、廊下の奥に二人を発見。
丁度こちらに歩いてくる。
素早く壁際に寄ると、チョイチョイと手招きをした。

「ちょっと、ちょっと、アシュレイさんってば」


訝しげな顔してアシュレイさんとシェリルがやって来た。

「こんな所で何してるの義姉さん」
「あんた達こそ、二人が歩いてると魔力混ざってるのが丸わかりで、朝から魔術師の皆さんが大騒ぎで大変なんだけど」

アシュレイさんは、何だその事かとばかりに肩をすくめると

「所長もすぐにわかって指摘されたよ。結婚するし、かえってアレコレ言うよりわかりやすくて良いだろ」
「わかりやす過ぎるんだよ。も~、アシュレイさんは魔術師の皆さんにモテモテなんだから、少しはみんなのショックを考えてよ。見てよこれ!」

私が後ろの廊下を指さすと、ガックリと項垂れる魔術師の皆さんがそこかしこにいた。

「・・・見なかった事にする」

アシュレイさんはくるりとシェリルの肩を抱いて方向転換し、歩き出そうとした。

「え?良いんですか?そのままで」
「仕方ないだろう。俺にどうしろというんだよ」
「それもそうですね」

まぁ、そうだよなぁ。リアルはこうだよ。厳しいねぇ。
「実は俺も密かに思いを寄せていたんだ~」なぁんて事はBL小説の中でしか起こらないよ。

皆さん、ご愁傷様です。
いつか君たちにも春が訪れますように。
私はみなさんの味方です。BL大いに結構。
密かに心の中で彼らに手を合わせた。






















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