【完結】末っ子オメガ

鉾田 ほこ

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プロローグ

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「兄さま。晴兄さま、大好き」
「晴兄だけなのか? 俺は?」
「私のことも好きではないの?」
「冬兄さまのことも、夏兄さまのことももちろん大好きです!」
「そうか、そうか!」
「うれしいですね、私もですよ」
「俺たち兄弟の仲がいいのは亜季のおかげかもしれないね」
「そんなことねぇよ。俺だって、晴兄も冬兄も大好きだって」
「そうですね、わたしだって晴兄さんも夏のことも」
「うふふ。みんな仲良しってことだよ!」
 家族の笑い合う声が、明るく大きなダイニングルームに毎日のように響いていた日々……。

 あの頃はよかった。何も考えずに庇護されているだけの時代。
 温かくおおらかでいて厳しい両親と優しく仲の良い兄弟たち。彼らはいつだって自分を大切にしてくれた。
 いや、もしかしたら今だってそうだったのかもしれない──。
 いやいや、所詮オメガの自分のことなどはどうでもよかったのかもしれない──。
 そんなことを考えても詮ない。もう、あの頃には戻れないのだから。

 腕の中の赤子をあやしながら、家財のほとんどない狭い畳の部屋から外を眺める。
 桜の散った木々は青々とした葉を繁らせて、地面に影を作る。葉の隙間から木漏れ日がキラキラと光って美しい。
 季節は春と夏の合間。
 でも、おだやかで暖かな陽の光はこの部屋には射し込まない。
 四畳半のじめっと薄暗い部屋の中と春の木漏れ日の射す外の明るさの違いが、自分はもう陽の下を歩けるような人間ではないと突きつけられているようだった。

 抱かれた赤子はふにゃふにゃと言葉にならない声を上げる。
 あの人と同じ春に生まれた子。
「いいこだね……」
 親の罪を何も知らずに背負わされて生きていくこの子が不憫でしかたがなかった。
 この腕に抱く子は温かく、精一杯に生きている。
 可愛い可愛いわが子。
 この生まれたての赤子を抱えて、オメガの自分がどうやって生きていけばいいのか。そうでなくとも定期的に発情期があるオメガが一人で生きて行くのは困難を極める。
「これからどうしたら……」
 小さなため息とともに思わずこぼれた独り言に自分自身で驚いた。
 腕の中の重みは幸せの重みでありつつ、苦難の重みでもあり途方に暮れる。
 一方で「まあ、いままでと大して変わらない」と楽観的な自分もいた。
 もうすでに落ちるところまで落ちているんだ。
 そう考えたら、なるように……いや、なすべきことをやるだけだ。
 
 泥水をすすってでも、この子を育て上げる。
 この子を立派な大人にすることだけが目下の生きがいだ。
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