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季節は初夏から本格的に夏に変わる頃、久しぶりに店に顔を出すと、オーナーに呼び止められた。
「おい、アキ」
「はい? なんですか?」
オーナーに呼び止められる理由など、皆目見当がつかない。
「お前、最近薬もらいに行ってないだろう」
薬という言葉に肩が揺れる。晴臣に薬を盛ったことは誰にも知られていない。何より、もらいに行くようなものではない。
ということは、抑制剤のことだろうか──。
抑制剤はもらいに行っている。
「行っていますよ?」
訳が分からず、語尾が疑問にあがる。
「そうじゃない。いつ発情期になった?」
「!」
オーナーからそう聞かれて、確かに数か月の間発情期が来ていないことに気づく。
確かに発情期の期間はそれを抑制するため、別の抑制剤を使用する。だが、亜季はしばらくもらいに行っていない。
いつから発情期になっていないか考える。
指折り数えてみるが数か月に一度の発情期は先月にでもなっていいところだったが、亜季は発情期になってない……。
「先月……の予定だったかもしれません。遅れてるのかも」
「あのなぁ。ちゃんと管理しないとダメだろ。病院いけ、病院」
たかだかひと月かふた月遅れた程度で病院になど行っていられない。診察代だって、薬代だってばかにならない。
「そのうちきますよ」
そう言って亜季はその日の予約のために晴臣に会いに出かけて行った。
だが、もうひと月経ち、真夏の暑さに汗が滝のようにでる頃になって、まだこない発情期にさすがにおかしいと亜季は思った。
いや、まさか、そんな。ありえない。
亜季はトイレで妊娠検査薬の線を見つめながら、激しく動揺する。
だって、そもそもやってない……。
晴臣しか最近相手にしていない。つまり、性行為どころか、接触すらほぼないのだ。会えない日の方が多いが、会えたとしても触れてはこない。
亜季はそこで思い至る。自分が薬を持って、強制的に晴臣に発情を誘発させて、いたしたことを──。
そんな、まさか──。
ありえない。確かにコンドーム無しでセックスをし、その上中に出されているが、ちゃんと、ちゃんと避妊したはず……。いや、していた。
実の兄の子供を身籠るなんて──。
産めない。産んではいけない。
信じられない思いで病院に行く。
「妊娠していますね」
「そんな……」
「産みますか?」
「いえ……いえ! 堕ろします! 産めない」
産んでいいはずがない。
兄の、実の兄の子供なんて──。
「あー……残念ですが、堕胎はできないですね」
「なんで! なんでですか!?」
「もう、十二週を超えている。オメガの男性の場合、女性と違って、中絶可能期間が短いんです。母体保護のため……」
「僕の体なんかどうでもいい! 堕ろさせてください。お願いします」
亜季はその場で医師に土下座する。
「できません。父親は誰か……」
「わかりません!」
そう言うことしかできない。
父親が実の兄だなんて、どうしてそんなことが言える。自分だけならまだしも、晴臣の周りにも家族にも迷惑をかける。それに、生まれてくる子供に……。
なにもかも、もう手遅れだった。
亜季はまた逃げた。
脱兎のごとく逃げ出した。
どこからバレるかわからない……。誰にも知られるわけにはいかなかった。
ハルにも、オーナーにも、家族にも、なんなら長兄にだけは一番知られたくない。
生まれてくる子がアルファだろうが、オメガだろうが、誰にも祝福されないことは目に見えている。
なら、一人で産もう。
亜季はそう決意した。
そう決めてからの亜季の行動は素早かった。
店に「辞める」と一言だけ告げて、引き止められる前に、通帳だけ持って逃げ出した。今住んでいる部屋は店で借りてもらっている。ここにはもう住めないからと部屋を後にした。
誰にも行き先を告げずに──。
「おい、アキ」
「はい? なんですか?」
オーナーに呼び止められる理由など、皆目見当がつかない。
「お前、最近薬もらいに行ってないだろう」
薬という言葉に肩が揺れる。晴臣に薬を盛ったことは誰にも知られていない。何より、もらいに行くようなものではない。
ということは、抑制剤のことだろうか──。
抑制剤はもらいに行っている。
「行っていますよ?」
訳が分からず、語尾が疑問にあがる。
「そうじゃない。いつ発情期になった?」
「!」
オーナーからそう聞かれて、確かに数か月の間発情期が来ていないことに気づく。
確かに発情期の期間はそれを抑制するため、別の抑制剤を使用する。だが、亜季はしばらくもらいに行っていない。
いつから発情期になっていないか考える。
指折り数えてみるが数か月に一度の発情期は先月にでもなっていいところだったが、亜季は発情期になってない……。
「先月……の予定だったかもしれません。遅れてるのかも」
「あのなぁ。ちゃんと管理しないとダメだろ。病院いけ、病院」
たかだかひと月かふた月遅れた程度で病院になど行っていられない。診察代だって、薬代だってばかにならない。
「そのうちきますよ」
そう言って亜季はその日の予約のために晴臣に会いに出かけて行った。
だが、もうひと月経ち、真夏の暑さに汗が滝のようにでる頃になって、まだこない発情期にさすがにおかしいと亜季は思った。
いや、まさか、そんな。ありえない。
亜季はトイレで妊娠検査薬の線を見つめながら、激しく動揺する。
だって、そもそもやってない……。
晴臣しか最近相手にしていない。つまり、性行為どころか、接触すらほぼないのだ。会えない日の方が多いが、会えたとしても触れてはこない。
亜季はそこで思い至る。自分が薬を持って、強制的に晴臣に発情を誘発させて、いたしたことを──。
そんな、まさか──。
ありえない。確かにコンドーム無しでセックスをし、その上中に出されているが、ちゃんと、ちゃんと避妊したはず……。いや、していた。
実の兄の子供を身籠るなんて──。
産めない。産んではいけない。
信じられない思いで病院に行く。
「妊娠していますね」
「そんな……」
「産みますか?」
「いえ……いえ! 堕ろします! 産めない」
産んでいいはずがない。
兄の、実の兄の子供なんて──。
「あー……残念ですが、堕胎はできないですね」
「なんで! なんでですか!?」
「もう、十二週を超えている。オメガの男性の場合、女性と違って、中絶可能期間が短いんです。母体保護のため……」
「僕の体なんかどうでもいい! 堕ろさせてください。お願いします」
亜季はその場で医師に土下座する。
「できません。父親は誰か……」
「わかりません!」
そう言うことしかできない。
父親が実の兄だなんて、どうしてそんなことが言える。自分だけならまだしも、晴臣の周りにも家族にも迷惑をかける。それに、生まれてくる子供に……。
なにもかも、もう手遅れだった。
亜季はまた逃げた。
脱兎のごとく逃げ出した。
どこからバレるかわからない……。誰にも知られるわけにはいかなかった。
ハルにも、オーナーにも、家族にも、なんなら長兄にだけは一番知られたくない。
生まれてくる子がアルファだろうが、オメガだろうが、誰にも祝福されないことは目に見えている。
なら、一人で産もう。
亜季はそう決意した。
そう決めてからの亜季の行動は素早かった。
店に「辞める」と一言だけ告げて、引き止められる前に、通帳だけ持って逃げ出した。今住んでいる部屋は店で借りてもらっている。ここにはもう住めないからと部屋を後にした。
誰にも行き先を告げずに──。
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