【完結】末っ子オメガ

鉾田 ほこ

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 翌朝、目が覚めると顔面を蒼白にした晴臣が必死に謝ってきた。
 晴臣は目を覚ました亜季に気が付いて、ベッドに近づいてくる。
「すまない。こんな乱暴を働くつもりはなかった」
 乱暴を働かれた覚えは全くないが、亜季は返事をせずに晴臣を見つめる。何か口を開いて、ボロが出てもいけない。
「どうして……いきなり発情ラットに……いや」
 それはそうだ。亜季が薬を盛ったのだから、いきなり発情したっておかしくない。
 でも、間違ってもそれは口にしてはいけない。
 晴臣はベッドに腰かけ、深々と亜季に頭を下げている。
 アルファがそんなに簡単にオメガに頭を下げるもんじゃない。
 亜季は晴臣の肩越しに窓を眺めた。
 部屋には窓からさわやかな朝日が差し込んでいる。昨晩の淫らな空気などかけらもない。
 亜季も嬌態をさらしていたとは思えないほど、取りすました顔をしてベッドに座って、晴臣の一人語りを聞いている。
「君が好きなんだ。大切にしたい」
(はぁ?)
 亜季はかろうじて、声を出さずに済んだ。
 だが心の中では、男娼相手に何をトチ狂ったことを、と思っていた。
 それはそうだ。
 アルファがオメガの男娼を「買って」いるのだ。本来、セックスをするために、この男は金を払っているのだ。セックスをして何が問題なんだろう──。
 そもそも、再会してしばらくはちんこ入れていただろ? と亜季は思う。その時は大切にしていなかったということなのか──。
 考えれば考えるほどモヤモヤしてきた。
 本当にこの長男はなにがしたいのだろう。
 亜季には晴臣が何を考えているのかまったく理解できない。
 金で亜季を買ってセックスしていたくせに、セックスはしない。情が湧いたのかずっと予約をしてくれるけどセックスはしない。セックスしたかと思ったら、「大切にしたい」という。
 というか、「好き」って──。
 そのスキはどの好きなのか。そんなことを聞いたところで詮ない。
 所詮は男娼のアキとして、「スキ」なのだ。
 だが、これはいい復讐になるのではないかと亜季は考えた。
 さんざん抱いて、「スキだ」と言った相手が「捨てた末っ子オメガ」だと知ったら、この真面目な長兄はどうするだろうか──。
 亜季は想像するだけで愉快でしかたがなかった。
 もう少し深みに嵌めてから、絶望の淵に突き落としてやろうと、亜季は心の中で誓った。

「アーキー、インポどうなった?」
 ハルが近づいて聞いてくる。
「こら、ハル! そんなこと聞かないの!」
 こっちはナミだ。
 相変わらず、二人でわいわいとやりあっている。
 亜季はほほえましく眺める気持ちにはなれなかった。
 「大切にしたい」という晴臣をなだめて、「久しぶりに、悪くなかった」とか強がってその場はわかれた。
 促進剤を盛ったことがばれないように、ワインの瓶を持って帰ってきたかったくらいだ。
 「薬使ったの? 昨日だったでしょ?」
 「!? つかってない!」
 亜季はぎくりとする。一瞬だけ返事に間があったが、なんとか否定をした。
 そんなことを聞かないでほしい。促進剤を使った場合、何か罰則とかあるのだろうか。
「ほんと? なんか怪しいな。てりゃ」
 そういって、ハルが亜季の脇腹を突く。
「嘘!? アキちゃんみたいな真面目な子が薬なんて!」
 「使ってないわよね、ね!?」とナミに聞かれて、亜季は不貞腐れたふりをして、その場から逃げ出した。

 結局、晴臣は亜季を疑うことなく、予約は変わらずに入れられる。夜だけあったり、食事をしたり、休日に待ち合わせをして買い物や繁華街をぶらついた。
 あれ以来、挿入しないどころか、本当にまったく一切触れなくなった。
 亜季が下着姿で待っていて誘惑しても、黙ってバスルームへ入り、取ってきたバスローブを肩から掛けられる。
 だが、性的接触をしないのだが、会うことには変わらない。弄られてから放置されない、熱を溜められないだけまだましなのか……。

 深みにはまらせてから……とは思っていたが、数週間経っても亜季は言い出せずにいた。

 今日言おう、今日言おうと会う度に思っているのに、いざ実行に移そうとすると、尻込みして、「僕はお前の弟だ。末っ子オメガだよ!」という言葉が言えない。
 決行日をずるずると引き伸ばしているうちに、晴臣から「こんな仕事は辞めて、一緒に暮らそう」といわれる。

 亜季にはそんなことは無理だとわかっていた。
 だって、二人は兄弟なのだから──。
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