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そんなある日、発情期の熱に浮かされて寝ていると、家の呼び鈴が鳴る。
「な、に……」
宅急便なんて来る予定はない。
そもそもこんな状態では、対応に出られるわけがない。外にいるのがアルファであろうが、ベータであろうが。
居留守を使おう。
そう思ったのに、どういうわけか家の鍵ががちゃりと音を立てて開けられた。
(しまった!)
安いアパートの鍵はチェーンをかけ忘れていればあってないようなもの同然だった。
こんなボロアパートに物盗りが入るとも思えないが。
それにしてもまずい──。
こんなところに人が入って来たら……、逃げられない。
恐怖にパニックになりながら、開けられた扉をみると、そこにはいつもと変わらない隙のないスーツ姿の晴臣が立っていた。
「な、んで……」
この場所がわかった。
なんで、この場所に来た。
「迎えに来た」
短く言うと、晴臣は亜季の答えも聞かずにずかずかと中へ入って来る。
「ひぃっ」
後ろに出口はないのはわかっている。だが、亜季は恐怖のあまりに火照る身体に鞭を打って這うようにして後ずさる。
だが、狭い部屋では早々に壁にぶつかった。
亜季は顔面を蒼白にして、絶望感に打ちひしがれる。
(志希は……)
赤ん坊の所在を探してから思い出す。
志希は亜季が発情期の間、保育園に預かってもらっていた。
(よかった……)
ほっと胸をなでおろす。
だが、追ってきた晴臣からの逃げ場はもうない。
「い、や……だ。こないで!」
怯える亜季に晴臣が手を伸ばす。亜季は身をひるがえして避けようとした。
「大丈夫、酷いことはしない。ただ、番になるだけだよ」
「な、何をいっているの? 近づかないで!!」
今更どうして──。
どうしたらいいかわからない。
自分の両手で自分自身を抱きしめるように床の上にうずくまった。
目の前の晴臣、後ろの壁。よしんば逃げ
出せたとして、発情期の状態では外に出ることもままならない。
亜季はとうとう追い詰められた。
「番になんてなれないよ! 俺はあんたの弟だよ、末っ子オメガだ」
一年越しに告げた真実──。
これなら晴臣も諦めるしかあるまい。
お前が「愛している」と、「大切にしたい」と囁いたオメガの男娼は、お前が……お前たちが捨てた末っ子だ、とそう心の中で叫んだ。
「知っているよ。全部知っている」
「えっ……!?」
知っているとは──。
晴臣は何を知っているというのだろうか。
亜季には晴臣が何を言っているのか、ひとつも理解できなかった。
発情期で頭が朦朧とするなか、晴臣に困惑の表情を向ける。
「私の可愛い末っ子」
「!?」
どういうことだ。
晴臣は初めから自分が「末っ子」だと気づいていたというのか──。
亜季はその先を聞くのが怖かった。
「い、言わないで……」
晴臣はそれを無視して、「初めにホテルで会った時からわかっていた」と告げる。
嘘だ……。
信じられなかった。
あの優しく、真面目で誠実な長男 晴臣が自分が兄弟であると。末っ子オメガだと知っていて、わかったうえで抱いたというのか……。
「だが、それを告げたらお前はどこかに行ってしまうと思って言えなかった」
何ということか。
何という茶番だ。
この長兄は知っていながら自分を抱いたのだ。
「うあぁーーーーーー……」
亜季の目から涙があふれた。
どうしたら良いのかわからなかった。
自分が末っ子だとわかっているのに、それでもなお晴臣は迎えにきたという。
背徳の子供の存在は知っているのか──。
知っているに決まっている。
どうしてかこの場所を知っているくらいだ。亜季がどのように生活をしているかなどとうに調べがついているはずだ。
では……、赤ん坊はどうなってしまうのだろう。
亜季は大切な息子に何かされることが自分の身よりも心配だった。
「やめて。もうほっておいて!」
「ほっておくことなんて、できるわけがない!」
語気を荒く返す晴臣を睨みつける。
どうして今さら……。
亜季には晴臣の行動の何一つ、すべてが理解できない。
「な、に……」
宅急便なんて来る予定はない。
そもそもこんな状態では、対応に出られるわけがない。外にいるのがアルファであろうが、ベータであろうが。
居留守を使おう。
そう思ったのに、どういうわけか家の鍵ががちゃりと音を立てて開けられた。
(しまった!)
安いアパートの鍵はチェーンをかけ忘れていればあってないようなもの同然だった。
こんなボロアパートに物盗りが入るとも思えないが。
それにしてもまずい──。
こんなところに人が入って来たら……、逃げられない。
恐怖にパニックになりながら、開けられた扉をみると、そこにはいつもと変わらない隙のないスーツ姿の晴臣が立っていた。
「な、んで……」
この場所がわかった。
なんで、この場所に来た。
「迎えに来た」
短く言うと、晴臣は亜季の答えも聞かずにずかずかと中へ入って来る。
「ひぃっ」
後ろに出口はないのはわかっている。だが、亜季は恐怖のあまりに火照る身体に鞭を打って這うようにして後ずさる。
だが、狭い部屋では早々に壁にぶつかった。
亜季は顔面を蒼白にして、絶望感に打ちひしがれる。
(志希は……)
赤ん坊の所在を探してから思い出す。
志希は亜季が発情期の間、保育園に預かってもらっていた。
(よかった……)
ほっと胸をなでおろす。
だが、追ってきた晴臣からの逃げ場はもうない。
「い、や……だ。こないで!」
怯える亜季に晴臣が手を伸ばす。亜季は身をひるがえして避けようとした。
「大丈夫、酷いことはしない。ただ、番になるだけだよ」
「な、何をいっているの? 近づかないで!!」
今更どうして──。
どうしたらいいかわからない。
自分の両手で自分自身を抱きしめるように床の上にうずくまった。
目の前の晴臣、後ろの壁。よしんば逃げ
出せたとして、発情期の状態では外に出ることもままならない。
亜季はとうとう追い詰められた。
「番になんてなれないよ! 俺はあんたの弟だよ、末っ子オメガだ」
一年越しに告げた真実──。
これなら晴臣も諦めるしかあるまい。
お前が「愛している」と、「大切にしたい」と囁いたオメガの男娼は、お前が……お前たちが捨てた末っ子だ、とそう心の中で叫んだ。
「知っているよ。全部知っている」
「えっ……!?」
知っているとは──。
晴臣は何を知っているというのだろうか。
亜季には晴臣が何を言っているのか、ひとつも理解できなかった。
発情期で頭が朦朧とするなか、晴臣に困惑の表情を向ける。
「私の可愛い末っ子」
「!?」
どういうことだ。
晴臣は初めから自分が「末っ子」だと気づいていたというのか──。
亜季はその先を聞くのが怖かった。
「い、言わないで……」
晴臣はそれを無視して、「初めにホテルで会った時からわかっていた」と告げる。
嘘だ……。
信じられなかった。
あの優しく、真面目で誠実な長男 晴臣が自分が兄弟であると。末っ子オメガだと知っていて、わかったうえで抱いたというのか……。
「だが、それを告げたらお前はどこかに行ってしまうと思って言えなかった」
何ということか。
何という茶番だ。
この長兄は知っていながら自分を抱いたのだ。
「うあぁーーーーーー……」
亜季の目から涙があふれた。
どうしたら良いのかわからなかった。
自分が末っ子だとわかっているのに、それでもなお晴臣は迎えにきたという。
背徳の子供の存在は知っているのか──。
知っているに決まっている。
どうしてかこの場所を知っているくらいだ。亜季がどのように生活をしているかなどとうに調べがついているはずだ。
では……、赤ん坊はどうなってしまうのだろう。
亜季は大切な息子に何かされることが自分の身よりも心配だった。
「やめて。もうほっておいて!」
「ほっておくことなんて、できるわけがない!」
語気を荒く返す晴臣を睨みつける。
どうして今さら……。
亜季には晴臣の行動の何一つ、すべてが理解できない。
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