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「お願い。息子は……息子には何もしないで。僕はただ、あの子と静かに暮らしたいだけなんだ。もうほっといてよ……」
亜季の頬を涙が次々と伝っていく。発情期の熱で朦朧とする意識を必死につなぎとめる。
亜季は大切な息子に何かされることが自分の身よりも何よりも心配だった。
なのに、晴臣のこめかみに青筋がたつ。
「そんなにあの子供が大切か!?」
晴臣が絞り出すように低い声で尋ねる。
「当たり前だろ、僕の……僕の……う、あぁ……」
亜季はとうとう泣き崩れた。
「誰の子だ?」
怒りを抑えた低く唸るような声で晴臣は亜季を詰問する。
「あんたの子供だよ!!」
亜季は限界だった。この男の子どもなのに、自分だけがこのように攻められるいわれはない。怒りを滲ませ晴臣を睨んだ。
晴臣の表情がみるみる変わっていく。一瞬驚いた表情になり、そのあと呆然として、最後に疑問を浮かべた。
「なら、どうしていなくなった!?」
「どうして? 僕たちは兄弟なんだよ!?」
「私たちは運命の番だ!」
「!?」
今度は亜季の目が驚きに見開かれる。
(運命の番……!?)
亜季も「運命の番」というものが存在することは知っていた。学校の同級生がうっとりした瞳で、自分に「運命の番が現れないか」といった話をよくしていたから。
しかし、それはおとぎ話の「白馬の王子様が自分を迎えに来る」と同じくらいに現実離れをしたあり得ない話だ。
運命の番はお互いに会ったらわかる……と言われている。
だが、亜季には晴臣を運命の番だとこれっぽっちも思ったことはない。
他のアルファに比べると体の相性が良かったな……という程度の違いでしかわからなかった。
「あの、初めての発情期のとき、亜季の匂いが『運命の番』だと私にわからせたよ。次に、『Bloomのアキ』としてグランドシャトーホテルで会ったときも、懐かしい……それでいて愛おしい番の匂いを感じた」
運命の番の匂いなんて知らない
晴兄さまはいつもいい匂いがするから……。
大好きな晴兄さまの香水──。
上品で落ち着いた優しい甘さの中に、樹木のような深みのある、スパイシーな香り。
「嘘だ……兄弟で運命の番なはず……無いじゃ無いか」
目に涙をためて、亜季はなおも晴臣を睨みつける。
「私たちは兄弟じゃないんだ。正確には従兄弟なんだよ」
「え……どういう、こと?」
初めて聞くことだった。生まれたときから一緒にいた晴臣が兄弟ではなく、従兄弟だという。つまり、自分か晴臣のどちらかが両親の子どもではないのか──。
亜季の表情を読んだように、晴臣がそれを否定する。
「いや、亜季は正真正銘あの人たちの子どもだ。あの人たちの子どもでないのは私だよ。私は母さんの妹、亜季の叔母とどこかのアルファとの間に生まれた」
亜季は母に妹がいたことも知らなかった。
「私も亜季に発情期がきて、『運命の番だ』と両親に言うまでは実の兄弟だとおもっていた。母さんに妹がいたことも、その人が母親だったことも知らない。亜季だけじゃなく、冬紀も夏樹も知らなかった」
どこですれ違ってしまったのか。
「じゃあ、なんで……なんでみんなはオメガの僕を捨てたの?」
ずっと思っていた、全寮制の学校に入れられたときからずっとずっと心の中に思っていた疑問だった。
「捨てたりなんかしていない。亜季は抑制剤が効きにくいだろう? また、同じことを繰り返させないために……。それだけじゃない。あのままあの家で暮らして、普通の学校に行っていたら、どんな危険にさらされていたか……」
確かにそうだ。オメガしかいない環境だから、安心して生活ができた。一人で耐えて慰めるのはつらかったが、周りもオメガばかりで助けられた。
でも──。
「母さまは厄介払いするみたいに結婚しろって……!」
「亜季の婚約者は私だよ。高校を卒業して十八歳になったお前と私は番になるはずだった」
亜季は何も知らなかった。
家から追い出すためにどこぞのアルファに嫁がされると思っていた。
亜季の中で絡まっていた糸が晴臣によって一つ一つほどかれていく。
「僕は……ぼ、くが……」
亜季はそのあと言葉を口に出すことはなかった。
「私がきちんとしていれば、こんなことにはならなかった。忙しかったなんて、言い訳にならないが……」
亜季は全て自分から問題をややこしくしていただけであったことがわかった。
家族のだれも、誰一人も自分を見捨てたりしていなかった。
亜季の頬を涙が次々と伝っていく。発情期の熱で朦朧とする意識を必死につなぎとめる。
亜季は大切な息子に何かされることが自分の身よりも何よりも心配だった。
なのに、晴臣のこめかみに青筋がたつ。
「そんなにあの子供が大切か!?」
晴臣が絞り出すように低い声で尋ねる。
「当たり前だろ、僕の……僕の……う、あぁ……」
亜季はとうとう泣き崩れた。
「誰の子だ?」
怒りを抑えた低く唸るような声で晴臣は亜季を詰問する。
「あんたの子供だよ!!」
亜季は限界だった。この男の子どもなのに、自分だけがこのように攻められるいわれはない。怒りを滲ませ晴臣を睨んだ。
晴臣の表情がみるみる変わっていく。一瞬驚いた表情になり、そのあと呆然として、最後に疑問を浮かべた。
「なら、どうしていなくなった!?」
「どうして? 僕たちは兄弟なんだよ!?」
「私たちは運命の番だ!」
「!?」
今度は亜季の目が驚きに見開かれる。
(運命の番……!?)
亜季も「運命の番」というものが存在することは知っていた。学校の同級生がうっとりした瞳で、自分に「運命の番が現れないか」といった話をよくしていたから。
しかし、それはおとぎ話の「白馬の王子様が自分を迎えに来る」と同じくらいに現実離れをしたあり得ない話だ。
運命の番はお互いに会ったらわかる……と言われている。
だが、亜季には晴臣を運命の番だとこれっぽっちも思ったことはない。
他のアルファに比べると体の相性が良かったな……という程度の違いでしかわからなかった。
「あの、初めての発情期のとき、亜季の匂いが『運命の番』だと私にわからせたよ。次に、『Bloomのアキ』としてグランドシャトーホテルで会ったときも、懐かしい……それでいて愛おしい番の匂いを感じた」
運命の番の匂いなんて知らない
晴兄さまはいつもいい匂いがするから……。
大好きな晴兄さまの香水──。
上品で落ち着いた優しい甘さの中に、樹木のような深みのある、スパイシーな香り。
「嘘だ……兄弟で運命の番なはず……無いじゃ無いか」
目に涙をためて、亜季はなおも晴臣を睨みつける。
「私たちは兄弟じゃないんだ。正確には従兄弟なんだよ」
「え……どういう、こと?」
初めて聞くことだった。生まれたときから一緒にいた晴臣が兄弟ではなく、従兄弟だという。つまり、自分か晴臣のどちらかが両親の子どもではないのか──。
亜季の表情を読んだように、晴臣がそれを否定する。
「いや、亜季は正真正銘あの人たちの子どもだ。あの人たちの子どもでないのは私だよ。私は母さんの妹、亜季の叔母とどこかのアルファとの間に生まれた」
亜季は母に妹がいたことも知らなかった。
「私も亜季に発情期がきて、『運命の番だ』と両親に言うまでは実の兄弟だとおもっていた。母さんに妹がいたことも、その人が母親だったことも知らない。亜季だけじゃなく、冬紀も夏樹も知らなかった」
どこですれ違ってしまったのか。
「じゃあ、なんで……なんでみんなはオメガの僕を捨てたの?」
ずっと思っていた、全寮制の学校に入れられたときからずっとずっと心の中に思っていた疑問だった。
「捨てたりなんかしていない。亜季は抑制剤が効きにくいだろう? また、同じことを繰り返させないために……。それだけじゃない。あのままあの家で暮らして、普通の学校に行っていたら、どんな危険にさらされていたか……」
確かにそうだ。オメガしかいない環境だから、安心して生活ができた。一人で耐えて慰めるのはつらかったが、周りもオメガばかりで助けられた。
でも──。
「母さまは厄介払いするみたいに結婚しろって……!」
「亜季の婚約者は私だよ。高校を卒業して十八歳になったお前と私は番になるはずだった」
亜季は何も知らなかった。
家から追い出すためにどこぞのアルファに嫁がされると思っていた。
亜季の中で絡まっていた糸が晴臣によって一つ一つほどかれていく。
「僕は……ぼ、くが……」
亜季はそのあと言葉を口に出すことはなかった。
「私がきちんとしていれば、こんなことにはならなかった。忙しかったなんて、言い訳にならないが……」
亜季は全て自分から問題をややこしくしていただけであったことがわかった。
家族のだれも、誰一人も自分を見捨てたりしていなかった。
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