【完結】末っ子オメガ

鉾田 ほこ

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番外編 家族旅行(ハネムーン編)

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 晴臣が亜季を見つけて、連れ戻してから半年ほど経ったある日のこと──。
「旅行にいかないか?」
 藪から棒に、晴臣がそう言いだした。
「旅行……?」
「そう、旅行」
 亜季の頭には「どうして?」と「どこに?」の疑問がわいていたが、どちらを尋ねてもなにか不満があるように聞こえないかと不安になって、返事が出来ずにいる。
 腕の中の赤子はようやく一歳と半年を過ぎたばかりで、遠出をするのはもう問題ない年齢とはいえ、亜季と二人きりで暮らしていた時には、もっぱら出かける先は近所の公園だった。金銭的にも自分の第二性的にも旅行に限らずどこかに出かけるということすら難しかったのだ。
 晴臣と暮らし始めてから、亜季は晴臣の番となったため、オメガであることの制限はなくなった。かといって、晴臣が多忙なために旅行などの遠出はまだしたことがない。
 行きたいという気持ちと、難しいのではないのかという諦めの気持ちのはざまで亜季の気持ちが揺れた。
「いい、ね……」
 曖昧な同意を口にして、晴臣から腕の中の赤子へと視線を逃がす。
「嬉しくない? 行きたくないのか……」
 晴臣の残念そうな声に亜季は顔を上げて、勢いよく否定した。
「いいえ! 行きたい」
「ふ、ふえ、あうーー……」
 亜季の突然の大声に、腕の中の志希が驚きの鳴き声を上げた。
「あぁ、ごめんごめん。よしよし」
 全身を上下左右と小刻みに揺らしてあやせば、すぐにご機嫌になりにこにこと笑顔を二人にふりまいている。
 志希の笑顔は二人で暮らしていた時と変わらない。晴臣が父親であると元からわかっているようになじんでいた。
「行きたいけど、晴に……晴臣さんは忙しいよね」
「晴兄でいいって、何度も言っているのに」
 亜季の腕に抱かれる志希の頭を撫でていた手が、亜季の頬にそえられる。切れ長の晴臣の視線が亜季を捉えて離さない。視線を絡めて見つめていると、唇に軽いキスをされた。
「晴兄さま!」
 子供の前で挨拶程度とはいえ、睦み合うのはなんだか気恥ずかしく、亜季が晴臣を窘めるが、腕の中の志希はうれしそうにきゃっきゃっと声を上げている。
「ごめんごめん。旅行の話だけど、私の予定は空けるから、一緒にでかけよう」
 そう言って、急遽家族三人旅行が決まったのだった。


 本当は海外のリゾート、新婚旅行で人気の場所に行きたかったとぶつぶつと言っている晴臣に、亜季は国内でも三人で旅行にいけるだけで十分だと答える。
 そんな亜季を晴臣は「天使」と訳の分からないことを口走って、抱きしめた。

 晴臣は休みが取れたものの、三日間のみ。結局、海外に行くのはあきらめて、国内のビーチリゾートに行くことになった。
 親子三人の初めての旅行に亜季は楽しみで前日眠れず、初日は目の下にくまをつくることになった。
 一方の志希は初めての飛行機にも大泣きすることもなく、終始ご機嫌で雲の上を楽しんだ。
 大型の旅客機から、小型の飛行機に乗り換えて、島のリゾートホテルに着いたのは午後になっていた。 
 飛行機から降りると空気から違った。青い空に白い大きな雲が浮かんでいる。真っ赤なハイビスカスが出迎える。
「久しぶりに……来たなぁ」
 亜季はオメガになってから、旅行に行ったことがなかった。家族旅行という年齢ではなかったというのもあるが、第二性がオメガというのは、ただそれだけで旅行というものから遠かった。
 そんな亜季がこのビーチリゾートのある地域に訪れたのは、十年以上ぶりのことだ。 

 今回は家族と行った本島ではなく、離島。
 ホテルの広い敷地内にはフロント棟があり、各客室は一室毎にスイートルームの造りの水上コテージだった。
 各部屋は長い水上の廊下で離れており、コテージの間には目隠しのように木々がおおい繁っており完全にプライベートな空間だ。そして、コテージからは階段で海に降りられるし、プールもお風呂もついている。
「すごい……素敵」
 亜季は思わず感嘆の声を漏らした。
 一体いくらするのか──と考えてから、いまはお金の心配をしなくていいことを思い出して、小さく笑う。
「どうしたの?」
「ううん。すごく素敵な所だなって。家族水入らずだね!」
 亜季は誤魔化して、「初めてのプールと初めての海だね」と腕に抱いた子供に話しかける。志希はわかっているのかいないのかはわからないが「う、う!」と答えた。
「早速、海にはいる?」
「そうだね」


 志希とはしゃいで海で遊んだ亜季はすでにキングサイズのベッドのうえで、うとうととしていた。遊び疲れた志希は同じ部屋に置かれたベビーベッドですやすやと元気な寝息を立てている。
「亜季……」
 晴臣の長い指がふわふわとした亜季の黒髪を優しく撫でる。
「はる、にさま……」
 半分意識がない亜季はその手に頭を押し付け、うっとりとした表情を浮かべていた。
「愛してるよ」
 前髪をかき分けて、晴臣の唇が亜季の額に落とされる。
「ぼく……も……」
 それだけ答えて、昨晩もあまり寝ていない亜季は眠りに落ちた。

 楽しい家族旅行はまだ始まったばかり──。
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