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10章
2 人狼というもの2
しおりを挟むシロウの家族の話は姉以外に聞かない。女の人狼は存在しないのだから、姉は人狼ではない。シロウの男性親族……例えば、父親か祖父はどうなのだろうか。確認するべきだと思う。
でも、それは今でなくていいだろう。
そろそろ空が白み始め時間だ。疲れているシロウをリアムは早く休ませてあげたかった。
「シロウ、そろそろ寝よう……」
声をかけて横を向くと、シロウはヘッドボードにもたれかかって目を瞑っている。リアムが考えに耽っている間に、すでにシロウは夢の中に旅立っていた。
リアムは一度ベッドを降りるとシロウの側に周り、軽く抱き上げる。
「んん……」と軽くうめきを立てるだけで、起きはしない。静かにちょうどいい位置へと下ろして、肩までケットをかける。
気持ち良さそうに寝ているシロウの髪を避け、額にキスをした。
「おやすみ、シロウ」
気持ちが通じ合い、晴れて付き合うことになったからといって、それからの日々が「イチャラブハッピーライフ!」とはならなかった。
それはシロウが人と付き合い慣れていない……とか、そういうことではなく、今般の街中での不測の変身を受けて、シロウに狼のコントロールをいち早く、習得させるべきだとリアムは考えたからだった。
それでも、リアムは自分が手取り足取り腰取りで、べったりつきっきりの日々を過ごせる目算だったのだが、ここに誤算があった。
いざトレーニングを行おうとしたところ、リアムが側にいると、シロウはリアムの匂いや気配に影響されて、上手く練習に集中出来なかった。
不本意だったが、リアムは誰か自分以外にシロウに人狼の変身や感覚を教えられる人物を探さなくてはならなくなった。レナートに相談をし、一応知り合い(狼の姿でしかシロウは会っていないが──)で、時間に余裕もあり、歳も近いジェイムズに狼の特訓をしてもらうという話になり、日中はリアムと離れて、ジェイムズと勉強と人狼の訓練を行っていた。
昼の慣れない変身のコントロールや、気配、嗅覚などの感覚の訓練で、夜にはシロウはくたくたとなり、夕飯を食べながらウトウトする毎日だった。
変身をするのにはそれなりに体力を使う。それに鋭くなった五感をコントロールするのにも変身をするにも、集中力が必要だった。
疲れるのも当然だ。
お互いの部屋で一緒に寝たりするようにはなっていた。若干、雰囲気が盛り上がりを見せた時にはシロウは夢へと旅立っており、満足にいちゃつけなかった。
それでも、リアムにはメイトの安全と安心のほうが重要だった。我慢をするのもやぶさかでない。だが、日中、ジェイムズと二人きりでいることには多少やきもきした。
なにせ人狼から人間に戻るとき、どうしても裸となってしまう。リアムもレナートが紹介したジェイムズを信頼していたし、リアム自身もジェイムズは良いやつだと思う。
人狼のコミュニティでは変身時に裸を晒すことも当たり前のことだ。特に誰も誰かが裸で彷徨いていようが、股間が丸出しだろうが気にしない。だが、それでもリアムは複雑な思いだった。出来れば、シロウの素肌を少しだって見せたくない、人だろうが、人狼だろうが。
リアムの我慢の甲斐もあって、シロウの特訓は今まで過ごした数週間がなんだったのかというほど順調に進み、自身の意思で、狼になったり、人間に戻ったりできるまで成長した。これで、研究室に通うのも、一人で外出するのも概ね問題はない。
そのこと自体は喜ぶべきことだが、自分が上手くメイトを人狼へと導いてやれなかったことは、少し残念に思う。
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