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狼の憂鬱 番外編
二人の憂鬱 side櫻子5
しおりを挟むその後も根掘り葉掘りと家族構成から休日の趣味、結婚はしているのか、パートナーはいるのかと個人的なことを少々不躾なまでに聞いた。
食事も終わり、食後のコーヒーが運ばれてくる頃合いに、「少し失礼します」とリアムが席を外した。その瞬間を逃さず、櫻子は獅郎の方を向き、「獅郎、貴方はどう思ってるの?」と唐突に尋ねる。
「え、え!?どう思ってるって?」
顔を赤くして、あわあわと慌てる。
(え?なんでそこで顔を赤くするのよ!)
「それでいいの?面倒見るとか言ってるけど?」
「あぁ」と言った後、小さく「なんだそういうことか」と言ったのは気のせいだろう。
「リアムさんはとても良い人で。この間、財布とか無くしてしまったときも、とても助けてくれて……。良くしてもらってる」
「そうなの。でも!ほら、ご迷惑じゃ」
一人にしておくのも心配だが、いまいち信用しきれない男に大事な大事な弟を預けるのも嫌だという、二律背反な思いが櫻子の中をぐるぐると渦巻いている。
「面倒だと思わないって。居て良いって言ってくれてるし……。俺も一緒にいたい……」
そう言うとまた顔を赤くした。
(だーかーらーなんでそこで顔を赤らめるのよぉー)
「本当にいいのね?言いづらいとか断りにくいからとかじゃないのね?」
念を押すように言い募る。
「うん。一緒にいたい」
見つめる獅郎は確信を持った表情でそう言った。獅郎がこのようにはっきり自分の考えを伝えることは少ない。自分の中で決めたことだという強い意志を感じて、櫻子もそれ以上は何もいえなかった。
リアムが戻ると、今度は獅郎がお手洗いにと席を外す。獅郎が席を外したいま、リアムに釘を刺す最後のチャンスだ。
「わたしは獅郎の姉ですが、親の代わりをしてきたので、普通の姉弟という以上に獅郎が可愛いのです」
櫻子は心の内を打ち明ける。目の前のリアムも理解を示しているのか頷いていた。
「リアムさん、なぜ貴方がここまで獅郎に良くしてくださるのか、私にはわかりません。ですが、遠方で一人にさせていることを心配していたので……」
「今後もシロウの面倒は私がみます」
ややかぶり気味にリアムが返事をする。
(何だろう……えらく鼻につく)
知り合ってたかだかひと月ほどなのにこの「俺の獅郎」と言わんばかりの態度は。
だが、肝心の獅郎自身もそれをやぶさかでないと思っている節があるので、これ以上は何も言うことは出来ない。
いまいち不安は残るが、姉としてもきちんと礼節をもって依頼するべきだろう。
「獅郎も貴方の側に居たいと言っているので、しばらくの間はお願いします」
櫻子は頭を下げて丁寧にお願いする。
「もちろん、お任せください」
当然という顔で、言外に「貴方にお願いされなくても」と言われているような気が櫻子はした。
つくづく気に食わない。「私の獅郎なのに!」と櫻子は心の中で毒吐く。
元気で無事な獅郎の姿も見れた。いまいち掴みきれないが、リアムという人も一見まともそうな人物であった。
当初の目的は果たされたと言っても過言ではないだろう。
だが、櫻子は思う。
なんとなく、「この男とは長い付き合いになりそうな気がする」と。
ホテルの入り口まで見送りに来た二人をチラリと見やる。相変わらず、シロウの腰にはリアムの片腕が回されていて。
はぁ……なんだか、憂鬱だ。
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