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12章
5長くて短い廊下
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リアムがシャワーから上がると、シロウはすでに服を着て、窓辺に置かれた椅子に所在無げに座っていた。
その楚々とした佇まいは今朝ほどの乱れた姿がまぼろしだったのではないかと思わせるほどに清廉としている。
そんなシロウにリアムは腰にタオルを巻いただけの格好で近づき、「父に会ってほしい」と伝える。
シロウの瞳が不安に揺れた。
「まだ、父……群れにはメイトと巡り会ったことも伝えていなかったんだ」
「どういうことかわからない」と小首を傾げてこちらを見上げてくる。
その仕草が幼子のように無垢に見えて、「あーーーーー!俺のメイト最っ高に可愛い!!」と心の中で叫ぶが、顔は至って冷静さを装って説明する。
「俺もいい歳だから──周りの連中は俺がメイトと出会うのを諦めていたんだ。それなのに、メイトを見つけたとなったら、『やれ会わせろ』だの『やれお披露目をしよう』だのってなるだろうことは目に見えていたから……。シロウがある程度人狼のコントロールを覚えてからにしようと……まぁ、今回紹介しようと思っていたってことだよ」
リアムの言い訳のような説明をシロウは黙って聞いている。
「きっと、メイトについて何も言っていなかったことで俺に文句を言っておきたいんじゃないかな」
そんなことでは無いことはいくらシロウでもわかった。だが、シロウには呼び出された理由が全く想像つかない。
何の根拠も無い、ただの気休めの言葉に、シロウはすがるように小さく頷く。
「いつでも大丈夫です。何時かお約束がありますか?」
シロウに尋ねられて、時計を見る。長針は6を指していた。
8時まであと30分。
リアムは早いところ自分も服を着なくてはと思う。
「50分には部屋を出て、父の書斎に行こう」
そう言ってバスルームに戻るリアムの背中をシロウは不安な顔で見つめていた。
予定通りに部屋を出て、広大な屋敷の廊下を二人で歩いている。平坦な道のりをそれほど急ぎでも無い足取りで向かっているのに、シロウの息が上がる。
一度大きく息を吸い込み、気持ちを落ち着かせるようにゆっくりと息を吐く。
ドクンドクンと耳元で心臓の音がうるさい。
どうにも出来ないとわかっているからといって、何を言われても平気だという訳ではない。なんとかなるさと前向きになれるほど、シロウは図太い神経を持ち合わせていなかった。
この廊下の先で待つ、本日早々からの一つ目の憂鬱な出来事、リアムの父──おそらくノエルの父もいるだろう──からの話。
不安と緊張で胃の辺りが詰まったような感じがする。気重な気持ちからか、歩みが自然と遅くなる。
隣からシロウがいなくなったことに気づいたリアムが足を止めて、振り向いた。
少し離れてしまった二人の距離を、シロウは足早に近づく。
「シロウ、大丈夫?」
大丈夫かと聞かれたら、大丈夫と答えるしかない。
ただ、もし「行きたいか?」と尋ねられていたら、「行きたくはない」と答えていたとは思う。
「はい……」
道のりが遠いのもいただけない。
寝室にあてがわれている部屋から、呼び出されている書斎へは、エントランスホールを抜けて、反対側。
まさに昨日シロウが誤って歩いて行った廊下の先にあった。
長い廊下を無言で歩く間にどんどんと不安が高まる。これでは目的地に着いた頃にはどんなことになっているやら。
シロウは先が思いやられた。
その楚々とした佇まいは今朝ほどの乱れた姿がまぼろしだったのではないかと思わせるほどに清廉としている。
そんなシロウにリアムは腰にタオルを巻いただけの格好で近づき、「父に会ってほしい」と伝える。
シロウの瞳が不安に揺れた。
「まだ、父……群れにはメイトと巡り会ったことも伝えていなかったんだ」
「どういうことかわからない」と小首を傾げてこちらを見上げてくる。
その仕草が幼子のように無垢に見えて、「あーーーーー!俺のメイト最っ高に可愛い!!」と心の中で叫ぶが、顔は至って冷静さを装って説明する。
「俺もいい歳だから──周りの連中は俺がメイトと出会うのを諦めていたんだ。それなのに、メイトを見つけたとなったら、『やれ会わせろ』だの『やれお披露目をしよう』だのってなるだろうことは目に見えていたから……。シロウがある程度人狼のコントロールを覚えてからにしようと……まぁ、今回紹介しようと思っていたってことだよ」
リアムの言い訳のような説明をシロウは黙って聞いている。
「きっと、メイトについて何も言っていなかったことで俺に文句を言っておきたいんじゃないかな」
そんなことでは無いことはいくらシロウでもわかった。だが、シロウには呼び出された理由が全く想像つかない。
何の根拠も無い、ただの気休めの言葉に、シロウはすがるように小さく頷く。
「いつでも大丈夫です。何時かお約束がありますか?」
シロウに尋ねられて、時計を見る。長針は6を指していた。
8時まであと30分。
リアムは早いところ自分も服を着なくてはと思う。
「50分には部屋を出て、父の書斎に行こう」
そう言ってバスルームに戻るリアムの背中をシロウは不安な顔で見つめていた。
予定通りに部屋を出て、広大な屋敷の廊下を二人で歩いている。平坦な道のりをそれほど急ぎでも無い足取りで向かっているのに、シロウの息が上がる。
一度大きく息を吸い込み、気持ちを落ち着かせるようにゆっくりと息を吐く。
ドクンドクンと耳元で心臓の音がうるさい。
どうにも出来ないとわかっているからといって、何を言われても平気だという訳ではない。なんとかなるさと前向きになれるほど、シロウは図太い神経を持ち合わせていなかった。
この廊下の先で待つ、本日早々からの一つ目の憂鬱な出来事、リアムの父──おそらくノエルの父もいるだろう──からの話。
不安と緊張で胃の辺りが詰まったような感じがする。気重な気持ちからか、歩みが自然と遅くなる。
隣からシロウがいなくなったことに気づいたリアムが足を止めて、振り向いた。
少し離れてしまった二人の距離を、シロウは足早に近づく。
「シロウ、大丈夫?」
大丈夫かと聞かれたら、大丈夫と答えるしかない。
ただ、もし「行きたいか?」と尋ねられていたら、「行きたくはない」と答えていたとは思う。
「はい……」
道のりが遠いのもいただけない。
寝室にあてがわれている部屋から、呼び出されている書斎へは、エントランスホールを抜けて、反対側。
まさに昨日シロウが誤って歩いて行った廊下の先にあった。
長い廊下を無言で歩く間にどんどんと不安が高まる。これでは目的地に着いた頃にはどんなことになっているやら。
シロウは先が思いやられた。
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