狼の憂鬱 With Trouble

鉾田 ほこ

文字の大きさ
81 / 146
12章

6 対峙

 長いと思っていた道のりも、扉の前に着いてしまえば、ほんの短い時間だったように思える。
 シロウは心の準備ができていなかったが、リアムが扉をノックしてしまった。
 もう覚悟を決めなくてはならない。

 ノックの返事が中からするより前に、リアムはドアを開けた。促されるように中に入ると、リアムの父、ノエルの父、そしてノエルが部屋の中にいる。
 威厳のある姿で書斎の大きなデスクに座っているリアムの父にシロウは少しだけ怯む。
 そうでなくとも緊張を強いられる状況にもかかわらず、艶々のマホガニーの大きな執務机や革張りの重厚な椅子は、古いお屋敷にある、いかにも書斎といった雰囲気で、この部屋の纏うどこか威圧的な空気は、シロウの気持ちを殊更落ち着かなくさせた。
 リアムもそんなシロウの緊張と怯えの匂いを感じ取り、落ち着かせようと傍に寄ろうとしたところで、父親に目で牽制される。
 リアムの父の脇に立っていたノエルの父が表情を和らげてこちらに近づいてきた。
「おはよう、シロウ君。昨晩はゆっくり休めたかな」
 目の前で穏やかな表情で尋ねるノエルの父に、シロウはジェイムズに教えられたことを思い出して、尊敬の証に頭を傾けて首すじを晒しながら、「おはようございます」と返した。
 ノエルの父が「おや?」という表情でシロウを見るが、挨拶を返すことに集中しているシロウはそれに気付かない。
 傍からノエルも「おはよう、シロウ」と何とも複雑な表情で朝の挨拶をしてくる。
「おはようございます。ノエルさん」
「本当に人狼だったんだな……」
 誰にも聞こえないほど小さな声でノエルが呟いた。
「いつから……」
 そんな小さな声でもここにいる人狼たちには聴こえている。
 リアムが口を開きかけた時、注意を引くような咳払いがした。
 シロウはハッとして机の向こうに座るリアムの父を見る。ノエルとの挨拶で紛れていた緊張が再びシロウの体に広がる。
 いつの間にか隣にきていたリアムに肩を抱かれて、居心地が悪いのと同時に、メイトの温もりにシロウはほんの少しだけ落ち着きを取り戻せた。
 
「群れにようこそ。シロウ オーガミ君。私がこの群れを率いている統率者(アルファ)で、リアムの父。リチャード・ギャラガーだ」
 感情のわからない表情で挨拶するリアムの父、リチャードにシロウは首元を晒して挨拶を返す。
「大神獅郎です」
「それだよ!叔父さん、どういうことです?」
「ノエル、待ちなさい」
 そこでノエルが口を挟み、即座に自身の父親に嗜められる。
「シロウ君、私はこの群れで副官ベータをしている。ご存じのとおりノエルの父、ポールだ」
 「はい」と返事を返した後に「よろしく」と言っていいかわからず、シロウは口をつぐんだ。
 リアムの父、ノエルの父、そのどちらからも「よろしく」という言葉は聞いていなかった。
 
「父さん、どうしてシロウが俺のメイトだとわかったのです?」
 リアムは昨晩から疑問に思っていたことを早速尋ねる。リアムもシロウもそれを言っていないのにどうしてわかったのか、リアムにも理解が出来なかった。
「お前のメイトだからだよ。お前達が昨日この屋敷に着いた時に気づいた。知らない人狼の匂いが群れの匂いを纏っているとね」
 リアムとノエルは目を見開いて驚く。
「広間で会って確信した。リアム、お前がメイトと巡り会ったとね。統率者アルファは群れに所属する人狼を嗅ぎ分けることが出来る」
 統率者アルファにそのような能力があることを知らなかった二人は納得したと同時に、改めて驚愕する。
 
「その割に、父さんは俺がやっとメイトと巡り会えたことを喜んではくれないようだ」
 
感想 2

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

捜査のあとはキミを食べたい!

インナケンチ
BL
警視庁イチ強面で柄が悪いと悪評高い捜査一課の刑事・陣内宗佑、46歳。 未婚の独身で浮いた話もない彼を、一途に慕う美しい青年がいて……。

兄と、僕と、もうひとり

猫に恋するワサビ菜
BL
とある日、兄が友達を連れてきた。 当たり前のように触れ、笑い、囲い込む兄。 それを当然として受け入れる弟。 そして、その“普通”を静かに見つめる第三者。 そんな中事件がおこり、関係性がゆらぐ。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

天然クールな騎士団長のアブないマッサージ

うこと
BL
公爵家の次男、ルネ。 容姿が美しすぎるあまり、過保護な家族は彼をほとんど外出させず、大切に育ててきた。 そのため世間知らずに育ってしまった天然クールなルネが、突然騎士団長に就任。 宿舎住まいとなったルネと、ルネを巡る男達のお話です。 受けは複数の相手と肉体関係を持ちますので、苦手な方はご注意ください。 ムーンライトノベルズにも投稿しております。 話は特に明記していない限り時系列になっていますが、時折挟んでいる【挿話】の時間軸は様々です。 挿話については作中でどの時期かを触れておりますので、参考にしていたけると幸いです。

響花学園

うなさん
BL
私の性癖しか満たさない。