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12章
6 対峙
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長いと思っていた道のりも、扉の前に着いてしまえば、ほんの短い時間だったように思える。
シロウは心の準備ができていなかったが、リアムが扉をノックしてしまった。
もう覚悟を決めなくてはならない。
ノックの返事が中からするより前に、リアムはドアを開けた。促されるように中に入ると、リアムの父、ノエルの父、そしてノエルが部屋の中にいる。
威厳のある姿で書斎の大きなデスクに座っているリアムの父にシロウは少しだけ怯む。
そうでなくとも緊張を強いられる状況にもかかわらず、艶々のマホガニーの大きな執務机や革張りの重厚な椅子は、古いお屋敷にある、いかにも書斎といった雰囲気で、この部屋の纏うどこか威圧的な空気は、シロウの気持ちを殊更落ち着かなくさせた。
リアムもそんなシロウの緊張と怯えの匂いを感じ取り、落ち着かせようと傍に寄ろうとしたところで、父親に目で牽制される。
リアムの父の脇に立っていたノエルの父が表情を和らげてこちらに近づいてきた。
「おはよう、シロウ君。昨晩はゆっくり休めたかな」
目の前で穏やかな表情で尋ねるノエルの父に、シロウはジェイムズに教えられたことを思い出して、尊敬の証に頭を傾けて首すじを晒しながら、「おはようございます」と返した。
ノエルの父が「おや?」という表情でシロウを見るが、挨拶を返すことに集中しているシロウはそれに気付かない。
傍からノエルも「おはよう、シロウ」と何とも複雑な表情で朝の挨拶をしてくる。
「おはようございます。ノエルさん」
「本当に人狼だったんだな……」
誰にも聞こえないほど小さな声でノエルが呟いた。
「いつから……」
そんな小さな声でもここにいる人狼たちには聴こえている。
リアムが口を開きかけた時、注意を引くような咳払いがした。
シロウはハッとして机の向こうに座るリアムの父を見る。ノエルとの挨拶で紛れていた緊張が再びシロウの体に広がる。
いつの間にか隣にきていたリアムに肩を抱かれて、居心地が悪いのと同時に、メイトの温もりにシロウはほんの少しだけ落ち着きを取り戻せた。
「群れにようこそ。シロウ オーガミ君。私がこの群れを率いている統率者(アルファ)で、リアムの父。リチャード・ギャラガーだ」
感情のわからない表情で挨拶するリアムの父、リチャードにシロウは首元を晒して挨拶を返す。
「大神獅郎です」
「それだよ!叔父さん、どういうことです?」
「ノエル、待ちなさい」
そこでノエルが口を挟み、即座に自身の父親に嗜められる。
「シロウ君、私はこの群れで副官をしている。ご存じのとおりノエルの父、ポールだ」
「はい」と返事を返した後に「よろしく」と言っていいかわからず、シロウは口をつぐんだ。
リアムの父、ノエルの父、そのどちらからも「よろしく」という言葉は聞いていなかった。
「父さん、どうしてシロウが俺のメイトだとわかったのです?」
リアムは昨晩から疑問に思っていたことを早速尋ねる。リアムもシロウもそれを言っていないのにどうしてわかったのか、リアムにも理解が出来なかった。
「お前のメイトだからだよ。お前達が昨日この屋敷に着いた時に気づいた。知らない人狼の匂いが群れの匂いを纏っているとね」
リアムとノエルは目を見開いて驚く。
「広間で会って確信した。リアム、お前がメイトと巡り会ったとね。統率者は群れに所属する人狼を嗅ぎ分けることが出来る」
統率者にそのような能力があることを知らなかった二人は納得したと同時に、改めて驚愕する。
「その割に、父さんは俺がやっとメイトと巡り会えたことを喜んではくれないようだ」
シロウは心の準備ができていなかったが、リアムが扉をノックしてしまった。
もう覚悟を決めなくてはならない。
ノックの返事が中からするより前に、リアムはドアを開けた。促されるように中に入ると、リアムの父、ノエルの父、そしてノエルが部屋の中にいる。
威厳のある姿で書斎の大きなデスクに座っているリアムの父にシロウは少しだけ怯む。
そうでなくとも緊張を強いられる状況にもかかわらず、艶々のマホガニーの大きな執務机や革張りの重厚な椅子は、古いお屋敷にある、いかにも書斎といった雰囲気で、この部屋の纏うどこか威圧的な空気は、シロウの気持ちを殊更落ち着かなくさせた。
リアムもそんなシロウの緊張と怯えの匂いを感じ取り、落ち着かせようと傍に寄ろうとしたところで、父親に目で牽制される。
リアムの父の脇に立っていたノエルの父が表情を和らげてこちらに近づいてきた。
「おはよう、シロウ君。昨晩はゆっくり休めたかな」
目の前で穏やかな表情で尋ねるノエルの父に、シロウはジェイムズに教えられたことを思い出して、尊敬の証に頭を傾けて首すじを晒しながら、「おはようございます」と返した。
ノエルの父が「おや?」という表情でシロウを見るが、挨拶を返すことに集中しているシロウはそれに気付かない。
傍からノエルも「おはよう、シロウ」と何とも複雑な表情で朝の挨拶をしてくる。
「おはようございます。ノエルさん」
「本当に人狼だったんだな……」
誰にも聞こえないほど小さな声でノエルが呟いた。
「いつから……」
そんな小さな声でもここにいる人狼たちには聴こえている。
リアムが口を開きかけた時、注意を引くような咳払いがした。
シロウはハッとして机の向こうに座るリアムの父を見る。ノエルとの挨拶で紛れていた緊張が再びシロウの体に広がる。
いつの間にか隣にきていたリアムに肩を抱かれて、居心地が悪いのと同時に、メイトの温もりにシロウはほんの少しだけ落ち着きを取り戻せた。
「群れにようこそ。シロウ オーガミ君。私がこの群れを率いている統率者(アルファ)で、リアムの父。リチャード・ギャラガーだ」
感情のわからない表情で挨拶するリアムの父、リチャードにシロウは首元を晒して挨拶を返す。
「大神獅郎です」
「それだよ!叔父さん、どういうことです?」
「ノエル、待ちなさい」
そこでノエルが口を挟み、即座に自身の父親に嗜められる。
「シロウ君、私はこの群れで副官をしている。ご存じのとおりノエルの父、ポールだ」
「はい」と返事を返した後に「よろしく」と言っていいかわからず、シロウは口をつぐんだ。
リアムの父、ノエルの父、そのどちらからも「よろしく」という言葉は聞いていなかった。
「父さん、どうしてシロウが俺のメイトだとわかったのです?」
リアムは昨晩から疑問に思っていたことを早速尋ねる。リアムもシロウもそれを言っていないのにどうしてわかったのか、リアムにも理解が出来なかった。
「お前のメイトだからだよ。お前達が昨日この屋敷に着いた時に気づいた。知らない人狼の匂いが群れの匂いを纏っているとね」
リアムとノエルは目を見開いて驚く。
「広間で会って確信した。リアム、お前がメイトと巡り会ったとね。統率者は群れに所属する人狼を嗅ぎ分けることが出来る」
統率者にそのような能力があることを知らなかった二人は納得したと同時に、改めて驚愕する。
「その割に、父さんは俺がやっとメイトと巡り会えたことを喜んではくれないようだ」
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