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12章
8 一人残され
胸が軋んで息もできない。シロウは目の前が真っ暗になった。
シロウはさまざまな事情やしがらみがあることに気づかないふりをしていただけだったとことに気づく。
自分の考えがいかにお花畑だったかをシロウは痛感した。
「群れを継ぐこと。会社を継ぐこと。この二つについて、お前にはよく考えてほしい。話は以上だ」
会話を切り上げるリチャードに、リアムは何か言いたげにするがそれを許さない空気があった。
それぞれが沈痛な面持ちでその場をあとにしようとする。
部屋を出ようとしたところで、リチャードから「シロウだけ残るように。少し話がある」と引き留められる。
シロウは口から心臓が飛び出るのでは無いかというほどに驚く。何故自分だけ残されるのか不安で、顔は紙のように白くなっていた。
「父さん!」
リアムが抗議の声を上げる。
「大丈夫だから、先に部屋を出よう」
ポールに背中を押され、シロウだけを残して、リアムは部屋の外に出されてしまった。ノエルも渋々そのあとに続き部屋を出て行く。
一人部屋に残されたシロウは息もできないほどに緊張していた。
この後、何を言われるか想像もつかないが、向けられる視線から良いことでは無いということだけはわかり、身を固くして、俯いた。
「そんなに身構えないでほしい。シロウ、私……私たちは君が嫌いな訳でも憎い訳でもない。まして、リアムと別れてほしい訳ではない」
「え……?先程は……」
シロウはその先の言葉を継げられなかった。自分自身で「別れる」という言葉を言いたく無かったのだ。
リチャードが何を言っているのかわからず、シロウは困惑の表情を浮かべる。
「先程言ったことは半分は本当の気持ちだよ」
シロウはその言葉に傷ついた。
シロウ自身、なぜこんな気持ちになるのかわからないが、誰か別の人がリアムの隣に立つことを考えるだけで苦しくなり、半身を奪われるような絶望感が胸に去来する。目の前が霞み、下を向いているとそのままこぼれ落ちそうになる涙を堪えようと、見たくもない正面を見据えるように顔を上げる。
見上げた先には想像とは違ったリチャードの表情があった。
(え……?)
先程の厳しい顔から打って変わって、リチャードの優しい瞳はリアムがシロウに向けるような、それでいて慈しむような表情は記憶の奥底にある、かつて両親が自分に向けていた愛情を思い起こさせるようなもので、何が起きているのかとシロウは戸惑う。
「リアムにはもう少し、群れの統率者(アルファ)としての、そして会社のトップになるという自覚を持ってほしい。あれはいい歳してフラフラと……。あの歳までメイトに巡り合えていなかったことはわかるが、それにしても……」
言葉を濁すリチャードにノエルが昨日言っていた言葉をシロウは思い出した。
本人から直接聞いたことはないが、あの見た目で、大金持ちとなれば、ひく手数多だとは思っていたので驚きはない。
さぞかし、経験豊富なのだろう……そう考えて、胸になにか苦いものが広がることにシロウは気づいた。
「そんな表情をする必要はないよ、シロウ。あんなリアムは見たことがない。君はリアムのメイトだ。人狼は一途なんだ。生涯、番を大切にする。ようやく出会えたメイトに心を奪われすぎているくらいだ」
シロウはにわかには信じがたい気持ちで聞いていた。本当にそうなのか自分では自信がない。
ふと、昔動物園で狼を見ていた時に父がシロウに言った『狼は生涯、その番を変えない。一途な生き物なんだ』という言葉を思い出した。
「さっきは厳しいことを言ったが、リアムに自分の立場をきちんと考えてほしいという親心だよ。君を一目見て確信した……君はリアムの理想の相手だって。シロウ、メイトとしてリアムを支えて、導いてほしい」
驚きで、潤んでいたシロウの瞳から涙はもう完全にひいていた。
至らない自分がリアムを導くことができるか、シロウにはわからない。だが、少なくともリアムの父は二人を別れさせたり、反対している訳では無いということがわかり、シロウは素直に安堵した。
「てっきり、この関係を反対なさっていると思っていました……。私に何ができるかわからないですが、それでもリアムさんの側に居たい」
「その言葉が聞けてよかったよ。統率者のメイトは色々大変なんだ。群れの人狼のメイトたちを纏める役割だ。……メイトの大半は女性ばかりだからね」
そう言われて、シロウはかなり大変なことを安請け合いしたのでは無いかと不安になる。
「そう不安がることはない。私の妻……君の義理の母になる人から色々教えてもらうといい。君はもう私たちの家族の一員なんだ」
全て表情に出ていた自分がシロウはとてつもなく恥ずかしく、顔が熱くなる。
(あぁ、全部顔に出ちゃうや……)
うつむきたい気持ちを堪えて、リチャードを見ると、目尻に皺を作った笑顔はリアムにそっくりだった。
自分の出来ることを精一杯頑張ろうと心に決めて「はい」と答える。
リチャードが椅子を立ち、デスクを回り込んでシロウの手を取る。
「いま話したことは私とシロウの秘密だよ。リアムには自分で自覚させないとならない」
真摯にシロウを見つめる目はリアムと同じアイスブルーの瞳。
シロウは答える代わりに強く手を握り返し、大きく頷いた。
「じゃあ、話は終わりだ。お腹減っただろう?朝食にいこう。私のメイトを紹介するよ」
そう言われて、自分が空腹だったことをシロウも思い出した。
シロウはさまざまな事情やしがらみがあることに気づかないふりをしていただけだったとことに気づく。
自分の考えがいかにお花畑だったかをシロウは痛感した。
「群れを継ぐこと。会社を継ぐこと。この二つについて、お前にはよく考えてほしい。話は以上だ」
会話を切り上げるリチャードに、リアムは何か言いたげにするがそれを許さない空気があった。
それぞれが沈痛な面持ちでその場をあとにしようとする。
部屋を出ようとしたところで、リチャードから「シロウだけ残るように。少し話がある」と引き留められる。
シロウは口から心臓が飛び出るのでは無いかというほどに驚く。何故自分だけ残されるのか不安で、顔は紙のように白くなっていた。
「父さん!」
リアムが抗議の声を上げる。
「大丈夫だから、先に部屋を出よう」
ポールに背中を押され、シロウだけを残して、リアムは部屋の外に出されてしまった。ノエルも渋々そのあとに続き部屋を出て行く。
一人部屋に残されたシロウは息もできないほどに緊張していた。
この後、何を言われるか想像もつかないが、向けられる視線から良いことでは無いということだけはわかり、身を固くして、俯いた。
「そんなに身構えないでほしい。シロウ、私……私たちは君が嫌いな訳でも憎い訳でもない。まして、リアムと別れてほしい訳ではない」
「え……?先程は……」
シロウはその先の言葉を継げられなかった。自分自身で「別れる」という言葉を言いたく無かったのだ。
リチャードが何を言っているのかわからず、シロウは困惑の表情を浮かべる。
「先程言ったことは半分は本当の気持ちだよ」
シロウはその言葉に傷ついた。
シロウ自身、なぜこんな気持ちになるのかわからないが、誰か別の人がリアムの隣に立つことを考えるだけで苦しくなり、半身を奪われるような絶望感が胸に去来する。目の前が霞み、下を向いているとそのままこぼれ落ちそうになる涙を堪えようと、見たくもない正面を見据えるように顔を上げる。
見上げた先には想像とは違ったリチャードの表情があった。
(え……?)
先程の厳しい顔から打って変わって、リチャードの優しい瞳はリアムがシロウに向けるような、それでいて慈しむような表情は記憶の奥底にある、かつて両親が自分に向けていた愛情を思い起こさせるようなもので、何が起きているのかとシロウは戸惑う。
「リアムにはもう少し、群れの統率者(アルファ)としての、そして会社のトップになるという自覚を持ってほしい。あれはいい歳してフラフラと……。あの歳までメイトに巡り合えていなかったことはわかるが、それにしても……」
言葉を濁すリチャードにノエルが昨日言っていた言葉をシロウは思い出した。
本人から直接聞いたことはないが、あの見た目で、大金持ちとなれば、ひく手数多だとは思っていたので驚きはない。
さぞかし、経験豊富なのだろう……そう考えて、胸になにか苦いものが広がることにシロウは気づいた。
「そんな表情をする必要はないよ、シロウ。あんなリアムは見たことがない。君はリアムのメイトだ。人狼は一途なんだ。生涯、番を大切にする。ようやく出会えたメイトに心を奪われすぎているくらいだ」
シロウはにわかには信じがたい気持ちで聞いていた。本当にそうなのか自分では自信がない。
ふと、昔動物園で狼を見ていた時に父がシロウに言った『狼は生涯、その番を変えない。一途な生き物なんだ』という言葉を思い出した。
「さっきは厳しいことを言ったが、リアムに自分の立場をきちんと考えてほしいという親心だよ。君を一目見て確信した……君はリアムの理想の相手だって。シロウ、メイトとしてリアムを支えて、導いてほしい」
驚きで、潤んでいたシロウの瞳から涙はもう完全にひいていた。
至らない自分がリアムを導くことができるか、シロウにはわからない。だが、少なくともリアムの父は二人を別れさせたり、反対している訳では無いということがわかり、シロウは素直に安堵した。
「てっきり、この関係を反対なさっていると思っていました……。私に何ができるかわからないですが、それでもリアムさんの側に居たい」
「その言葉が聞けてよかったよ。統率者のメイトは色々大変なんだ。群れの人狼のメイトたちを纏める役割だ。……メイトの大半は女性ばかりだからね」
そう言われて、シロウはかなり大変なことを安請け合いしたのでは無いかと不安になる。
「そう不安がることはない。私の妻……君の義理の母になる人から色々教えてもらうといい。君はもう私たちの家族の一員なんだ」
全て表情に出ていた自分がシロウはとてつもなく恥ずかしく、顔が熱くなる。
(あぁ、全部顔に出ちゃうや……)
うつむきたい気持ちを堪えて、リチャードを見ると、目尻に皺を作った笑顔はリアムにそっくりだった。
自分の出来ることを精一杯頑張ろうと心に決めて「はい」と答える。
リチャードが椅子を立ち、デスクを回り込んでシロウの手を取る。
「いま話したことは私とシロウの秘密だよ。リアムには自分で自覚させないとならない」
真摯にシロウを見つめる目はリアムと同じアイスブルーの瞳。
シロウは答える代わりに強く手を握り返し、大きく頷いた。
「じゃあ、話は終わりだ。お腹減っただろう?朝食にいこう。私のメイトを紹介するよ」
そう言われて、自分が空腹だったことをシロウも思い出した。
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