狼の憂鬱 With Trouble

鉾田 ほこ

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13章

3ノエルの疑問

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「櫻子が人狼じゃなくてよかったな」
 小声で言うノエルに、振り向いたリアムは訝し気な目を向けた。
「どういうことだ?」
「いやいやいや!わかるだろう!?あんなにべったりお前の匂いをつけやがって」
「あぁ、そんなことか」という表情をして、リアムは「メイトにマーキングして何が悪い」とことも無げに言う。
 ノエルはそれにしたって、限度というものがあるだろうと、目の前の従兄の言笑自若たる様子を眺めて、朝のシロウを思い出す。人狼ならこちらが恥ずかしくなるほどに、執拗につけられたリアムの匂いがシロウの全身からしていたのだ。
「櫻子が人狼だったら、お前はもう喉元に牙を突き立てられているだろうよ……」
 呆れた顔でノエルはリアムを一瞥した。

「ところで……シロウはいつから人狼になったんだ?」
 声を低くしたノエルはリアムを真剣な眼差しで見つめて尋ねる。
「わからない」
「わからないってどういうことだよ!」
 中にはサクラコがいるのだろう。精一杯声を抑えているが強い口調で非難する。
「日本で会っていた時、シロウに人狼の匂いはしていなかった!」
 わかっていたことだが、改めて言われるとリアムも「やはりそうだったのか」としか思えなかった。
「俺が初めてレナートの研究室で会った時は、とても良い匂いがする、胸がざわつくような……。ただ、このまま別れてはならないと、頭の中はそれだけだった。追いかけて、声をかけて……再び目の前にして、初めて彼が俺のメイトだとわかった。だが、その時もシロウを人狼だとは思わなかった。レナートにも確認したが、人狼だとは感じていないと言っていた」
 ノエルの表情が困惑を浮かべる。
「なら、いつ!」
 強い口調で尋ねられ、リアムも困惑の顔しか返せない。自分もそれを知りたいとずっと考えているのだ。なので、自分のわかる限りのことをノエルに伝える。
「シロウがこっちに来てから、倒れて意識を失ったことは聞いたか?」
「あぁ……。サクラコから聞いた。心配だからシロウに何かあったら、俺の家族を頼りたいって」
 ノエルの表情はその時を思い出してなのか、心配そうな顔をしていた。本当に心根が優しい良いやつだとリアムは思う。
 リアムもあの運命の出会いと、そのあとの不思議な出来事を思い起こした。
「大学で声をかけたとき……目の前で倒れた。声をかけても目を覚さないものだから……。そのまま放っておくことなんかもちろん出来ないから、俺の部屋に連れて帰ったんだ」
 そこで一言切ると、その時のことを思い出すように、言葉を続ける。
 ノエルが気にするかはわからないが、初手からメイトを部屋に連れ込んだわけではなく、あくまで介抱だったと、少々言い訳がましい説明をする。まあ実際、介抱するために違いはないのだが。

「それから、丸一日目を覚まさなかった。さすがに医者に見せるべきかと思っていたら……目の前で狼に変身した」

 事実のままだが、自分でも理解しているわけではない、あの時の出来事をノエルが納得してくれるかはわからない。

──部屋に連れ帰って、狼に変身する前、シロウからは人狼の匂いがしていただろうか……?
 思い返そうとしても、メイトを見つけた驚きと、それが男性であったことの驚き、そして全身から香る甘い匂いしか記憶に残っていない。
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