狼の憂鬱 With Trouble

鉾田 ほこ

文字の大きさ
93 / 146
14章

2 リアムが好き

しおりを挟む
「えーと……、恋人……になったんだ。リアムさんと。その、そういうお付き合いをしているんだ」
 姉に初めて出来た恋人の存在を告白する。

 
 恋人──自分で言ったその言葉にシロウは面はゆい気持ちになり、顔が少しだけ熱くなった。そのまま姉を見ていられず、思わず下を向く。
 
 
「獅郎……。それは本当に恋心なの?」

(え?)
 小さなため息とともに言われた言葉が理解できず、今度はシロウが困惑することになった。
 仰向くと、真剣な目をしたサクラコに見つめられている。
「あの……、姉さん、その……」
 サクラコの言葉に冷や水をかけられた思いで、シロウは二の句がつげれなかった。

 どう答えたらわかってもらえるのだろう──。

「リアムさんが好きで……それで」 
 シロウは愚直に自分の気持ちをサクラコに伝える。どうしたらいいのかもわからずにただ、リアムのことが好きだと思った自分の気持ちを姉に理解してほしい一心だった。
 俯きそうになる自分を励まして、目の前の姉を見ると、疑いというには優しすぎる視線を受けて、何も言えなくなる。
 
「倒れたり、財布や携帯を無くしたりして、心細かった時に親切にされたから……。そういうのじゃないの?」

 「否定したい訳ではないけど、簡単に納得もできない」というサクラコにシロウの胸が軋む。
 「そういうの」と濁された言葉は暗に「勘違い」と言われているのだから──自分でも少なからず思っていたことを真っ向から突きつけられて、シロウは返答に窮した。

 そっと触れてくるサクラコの手は温もりに満ちていて、シロウをいたわる気持ちを伝えてくる。それは姉が自分を傷つけまいという心遣いから出て言葉だとわかった。

「獅郎、あなたを傷つけたいわけじゃないのよ。ただ、心配なの。あなたが傷つかないか」
 
 反論するより前に、姉に畳み掛けるように言われた言葉は、シロウがリアムに抱いている想いすら否定する。
 恋人が男性であることには少なからず、何か言われるだろうとは思っていたが、まさか自分のリアムへの気持ちを「勘違い」ではないかと言われるとは、シロウも思っていなかった。

 迎えに来てくれて嬉しかったのは確かだ。
 でも、それだけじゃない。
 シロウだって最初は「何だこの人、変な人」と思っていた。
 出会ってからのたったの数週間のうちに起こった出来事はつい最近のことだからということではなく、シロウの中で鮮明に思い出せる。
 たった数週間と言われれば短い時間なのかもしれないが、されど濃密な数週間──家族以外の人とあんなに一緒に暮らしたことは無かった。その時間を過ごす間にリアムの優しさに触れて、自分でも気づかないうちにどんどん惹かれていたのだと思う。 
 狼の姿から戻れないまま、街を放浪したあの夜──迎えにきたリアムの胸に思わず飛び込んだ。
 あれは狼の自分がリアムに感じる本能の繋がりなのかもしれない。でも、抱きしめられると心の底から安心するし、一緒にいたいと思う。こんな気持ちを抱く相手に初めて会った。
 散々悩んだ。
 何度も自分の心に問うて、「やっぱり一緒にいたい」と思ったのは自分の心の底からの気持ちだった。
 「この気持ち」から目を逸らさないって決めた。
 男同士だとか、メイトだからとか関係ない。
 ただ、「リアムが欲しい」それだけ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。 ■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。 ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  15,000字程度の予定です。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

自堕落オメガの世話係

キャロライン
BL
両親にある事がきっかけで家を追い出された俺は、親戚の助けを借り畳4帖半のボロアパートに入居することになる、そのお隣で出会った美大生の男に飯を援助する代わりに、男の世話係として朝・晩部屋に来いと半ば半強制的な同居生活が始まる。やがて少しづつ距離が縮まって行き男が見せる真の顔とは____、。

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

処理中です...