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17章
3 人狼=男
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リアム達が言うには、人狼は男性しかならないという。日本の人狼も同じように男性しかならなかったのだろうか。ふと思いついた疑問がシロウの口をついて出た。
「さきほど、『郷の者のほとんどが狼と人とを行き来していた』とおっしゃっていましたが、それは女性も狼になれたのですか?」
「「えっ」」
重なり合う驚きの声。リアムとノエルは驚いたようにシロウを見る。
だが、シロウの質問はすぐさまミドリによって否定された。
「いいえ、郷でも人狼は男性だけがなれるものだったようよ」
「それは、どういうことでしょうか」
それまでと比べると少しだけ曖昧な言い方に、リアムが詳しく聞こうと尋ねる。
「私たちの親の世代でも、既に狼になれる人は少なかったけど、男の人ばかりだった。私たちが小さな頃も、『なれるかどうか』は男の子たちに対して、大人が話していたことだったのよ。でも、本当にそうなのか、私と梅子さんも疑問だったの。本当に女性に人狼はいないのか」
話を一旦そこで切ると、もう中身のほとんどなくなったグラスを両手でつかみ、じっと眺める。 束の間、顔を上げると、「グラスの中身がもう空ね。温かい紅茶を入れるわ」といって、席を立って部屋を出ていった。
残された三人は唐突にきられた会話を続けられず、一瞬黙る。
静かな部屋の中に、外の暑さの中で最後の力を振り絞るような蝉たちの合唱がうっすらと聞こえてくる。そのジージーツクツクツクという音が、夏の終わりを告げているようで、少しだけ物悲しい気持ちになる。
そういえば、アメリカでは蝉が鳴いていただろうか。二か月ほどを過ごしていたはずだが、シロウには思い出せなかった。
「日本にも、人狼がいたのか……」
ノエルが部屋の静けさを破って椅子をひく小さな物音をたて立ち上がる。その言葉にリアムが「ヨーロッパにも人狼はいるじゃないか」と顔をしかめた。
「いやいや、リアムよく考えろよ。アメリカのルーツはヨーロッパが多い。あちらから渡ってきていた移民と考えたら、ヨーロッパにいることくらいは当たり前だろ」
「なら、ネイティブアメリカンにも人狼がいることをどう説明する」
リアムとノエルには褐色の肌をした、ネイティブアメリカンの人狼が知り合いにいた。リアムは片眉をあげて、それを思い出させるようにノエルに言う。
「あーそうか。そうだよな。居たな。日本人の人狼にあったことがなかったからさ。ほら、狼同士なら匂いでわかるだろ。数年過ごしても、てっきり居ないと思ってた」
それもあながち間違ってはいないだろう。
何せ、日本の狼は絶滅している。だが、アメリカの狼──人狼ではない普通の狼──は数を多少は減らしているとはいえ、絶滅にはほど遠い。その比例と考えるなら、狼同様に人狼も絶滅していてもおかしなことではない。
「他の国でも、人狼は男性だけなのですか」
シロウは二人の会話に割って入った。
日本でもアメリカでも人狼は男性しかならないのが通説のようだ。なら、アメリカ以外の人狼でも同じなのかと疑問に思う。
「そうだな、俺の知っている限りアメリカ以外の人狼も男しかならない。それが常識だ」
リアムが「そうだけど、どうした?」と不思議そうに首をかしげる。
「あ、いえ……」
とシロウは言葉を濁して、取り繕った。
どうして、人狼が男性しかならないのか、シロウには不思議で仕方がない。だが、あまりに当たり前過ぎるのか、リアムもノエルもそこに疑問を感じてはいないようだった。
「さきほど、『郷の者のほとんどが狼と人とを行き来していた』とおっしゃっていましたが、それは女性も狼になれたのですか?」
「「えっ」」
重なり合う驚きの声。リアムとノエルは驚いたようにシロウを見る。
だが、シロウの質問はすぐさまミドリによって否定された。
「いいえ、郷でも人狼は男性だけがなれるものだったようよ」
「それは、どういうことでしょうか」
それまでと比べると少しだけ曖昧な言い方に、リアムが詳しく聞こうと尋ねる。
「私たちの親の世代でも、既に狼になれる人は少なかったけど、男の人ばかりだった。私たちが小さな頃も、『なれるかどうか』は男の子たちに対して、大人が話していたことだったのよ。でも、本当にそうなのか、私と梅子さんも疑問だったの。本当に女性に人狼はいないのか」
話を一旦そこで切ると、もう中身のほとんどなくなったグラスを両手でつかみ、じっと眺める。 束の間、顔を上げると、「グラスの中身がもう空ね。温かい紅茶を入れるわ」といって、席を立って部屋を出ていった。
残された三人は唐突にきられた会話を続けられず、一瞬黙る。
静かな部屋の中に、外の暑さの中で最後の力を振り絞るような蝉たちの合唱がうっすらと聞こえてくる。そのジージーツクツクツクという音が、夏の終わりを告げているようで、少しだけ物悲しい気持ちになる。
そういえば、アメリカでは蝉が鳴いていただろうか。二か月ほどを過ごしていたはずだが、シロウには思い出せなかった。
「日本にも、人狼がいたのか……」
ノエルが部屋の静けさを破って椅子をひく小さな物音をたて立ち上がる。その言葉にリアムが「ヨーロッパにも人狼はいるじゃないか」と顔をしかめた。
「いやいや、リアムよく考えろよ。アメリカのルーツはヨーロッパが多い。あちらから渡ってきていた移民と考えたら、ヨーロッパにいることくらいは当たり前だろ」
「なら、ネイティブアメリカンにも人狼がいることをどう説明する」
リアムとノエルには褐色の肌をした、ネイティブアメリカンの人狼が知り合いにいた。リアムは片眉をあげて、それを思い出させるようにノエルに言う。
「あーそうか。そうだよな。居たな。日本人の人狼にあったことがなかったからさ。ほら、狼同士なら匂いでわかるだろ。数年過ごしても、てっきり居ないと思ってた」
それもあながち間違ってはいないだろう。
何せ、日本の狼は絶滅している。だが、アメリカの狼──人狼ではない普通の狼──は数を多少は減らしているとはいえ、絶滅にはほど遠い。その比例と考えるなら、狼同様に人狼も絶滅していてもおかしなことではない。
「他の国でも、人狼は男性だけなのですか」
シロウは二人の会話に割って入った。
日本でもアメリカでも人狼は男性しかならないのが通説のようだ。なら、アメリカ以外の人狼でも同じなのかと疑問に思う。
「そうだな、俺の知っている限りアメリカ以外の人狼も男しかならない。それが常識だ」
リアムが「そうだけど、どうした?」と不思議そうに首をかしげる。
「あ、いえ……」
とシロウは言葉を濁して、取り繕った。
どうして、人狼が男性しかならないのか、シロウには不思議で仕方がない。だが、あまりに当たり前過ぎるのか、リアムもノエルもそこに疑問を感じてはいないようだった。
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