狼の憂鬱 With Trouble

鉾田 ほこ

文字の大きさ
115 / 146
17章

2 話してくれれば

しおりを挟む
「どういうこと?」
「察しの悪い子ね。わたしも、梅子さんも──郷の出身で、人狼のことを覚えている他の人たちにとっても、この世の中に自分たちの郷以外にそんな人がいるとは露ほども思っていなかった。昔はインターネットもなかったしね」
 少しあきれたようにノエルを一瞥したあと、茶目っ気たっぷりのコメントを添えて、ミドリが説明を始める。
「それなのに、結婚した相手が『自分は狼になれる』なんて、言い出したものだから──。それは……本当に、あの時は本当に驚いたわ」
 当時を思い出したように大仰に言ってシロウを見つめる。
「結婚するまではね、実は梅子さんとそれほど親しかったわけではないのよ。でも、結婚した時にノエルのおじい様が人狼だと知って──手紙を書いたの。それ以来、ずっとアメリカと日本とで文通していたわ。うちは娘──ノエルのママね、しか生まれなかったけど、梅子さんのところは男の子だったし。当時はまだ士郎さんは生きていたけど……。シロウが生まれたときには梅子さんの周りに人狼はもういなかったから」
 懐かしそうにシロウを眺めて、しわしわの小さな手をシロウの頬に寄せる。それはふとシロウに祖母を思い出させた。

 ミドリと梅子は全く似ていない。
 垢ぬけて年齢より若く見えるミドリに対して、数年前に亡くなった梅子は年齢相応で、いかにも日本のおばあちゃんだった。だが、そんなことは関係なく、シロウが祖母から感じていた愛情をミドリの表情や指先から感じられたのだ。
「それから私たちはよく手紙で近況のやりとりをしたのよ。もし、万が一シロウが狼になってしまったときには、どうしたらいいか。二人でたくさん調べたし、相談しあったわ」
 シロウはミドリが語る話から、梅子がどれだけシロウのことを気にかけていたのかを知り、胸がいっぱいになった。そうでなくとも、祖母には多くの苦労を掛けたと思っている。だが、それ以上に自分の知らないところで、大きな負担を強いていたのかもしれない。それを今更ながら心苦しく思う。

(話してくれればよかったのに……)

 祖母が自分に言わなかった理由はわからない。まして、話を聞いたところで自分が実際に狼にならなければ、「人狼である」などと信じられなかったかもしれない。

(狼に変身できるようになった今だって、何か間違いなのではないかとすら思うよ)

 話してほしかったという気持ちとどうしようもなかったことがわかり、シロウの心はもやもやする。だが、その誰にも言えない秘密をミドリには打ち明けられていたのかと思うと、シロウの気持ちは少しだけ楽になった。

「そうでなくてもシロウちゃんは……! その、身体が弱かったし……」
 一瞬ハッとして言葉を途切らせたあと、表情を取り繕って何でもなかったように話を続けた。
(この人は俺の身体が中途半端なことを知っている……?)
 もしかしたら、生前の祖母が何か話していたのかもしれないとシロウは思った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

奇跡に祝福を

善奈美
BL
 家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。 ※不定期更新になります。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

俺がモテない理由

秋元智也
BL
平凡な大学生活を送っていた桜井陸。 彼には仲のいい幼馴染の友人がいた。 友人の名は森田誠治という。 周りからもチヤホヤされるほどに顔も良く性格もいい。 困っている人がいると放かってはおけない世話焼きな 性格なのだった。 そんな二人が、いきなり異世界へと来た理由。 それは魔王を倒して欲しいという身勝手な王様の願い だった。 気づいたら異世界に落とされ、帰りかたもわからない という。 勇者となった友人、森田誠治と一緒に旅を続けやっと 終わりを迎えたのだった。 そして長い旅の末、魔王を倒した勇者一行。 途中で仲間になった聖女のレイネ。 戦士のモンド・リオールと共に、ゆっくりとした生活 を続けていたのだった。 そこへ、皇帝からの打診があった。 勇者と皇女の結婚の話だった。 どこに行ってもモテまくる友人に呆れるように陸は離 れようとしたのだったが……。

オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる

虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。 滅びかけた未来。 最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。 「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。 けれど。 血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。 冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。 それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。 終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。 命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

無口な君へ愛を捧ぐ

ミカン
BL
スパダリ優等生α×不憫な無口Ω

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。 ■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。 ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

処理中です...