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17章
2 話してくれれば
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「どういうこと?」
「察しの悪い子ね。わたしも、梅子さんも──郷の出身で、人狼のことを覚えている他の人たちにとっても、この世の中に自分たちの郷以外にそんな人がいるとは露ほども思っていなかった。昔はインターネットもなかったしね」
少しあきれたようにノエルを一瞥したあと、茶目っ気たっぷりのコメントを添えて、ミドリが説明を始める。
「それなのに、結婚した相手が『自分は狼になれる』なんて、言い出したものだから──。それは……本当に、あの時は本当に驚いたわ」
当時を思い出したように大仰に言ってシロウを見つめる。
「結婚するまではね、実は梅子さんとそれほど親しかったわけではないのよ。でも、結婚した時にノエルのおじい様が人狼だと知って──手紙を書いたの。それ以来、ずっとアメリカと日本とで文通していたわ。うちは娘──ノエルのママね、しか生まれなかったけど、梅子さんのところは男の子だったし。当時はまだ士郎さんは生きていたけど……。シロウが生まれたときには梅子さんの周りに人狼はもういなかったから」
懐かしそうにシロウを眺めて、しわしわの小さな手をシロウの頬に寄せる。それはふとシロウに祖母を思い出させた。
ミドリと梅子は全く似ていない。
垢ぬけて年齢より若く見えるミドリに対して、数年前に亡くなった梅子は年齢相応で、いかにも日本のおばあちゃんだった。だが、そんなことは関係なく、シロウが祖母から感じていた愛情をミドリの表情や指先から感じられたのだ。
「それから私たちはよく手紙で近況のやりとりをしたのよ。もし、万が一シロウが狼になってしまったときには、どうしたらいいか。二人でたくさん調べたし、相談しあったわ」
シロウはミドリが語る話から、梅子がどれだけシロウのことを気にかけていたのかを知り、胸がいっぱいになった。そうでなくとも、祖母には多くの苦労を掛けたと思っている。だが、それ以上に自分の知らないところで、大きな負担を強いていたのかもしれない。それを今更ながら心苦しく思う。
(話してくれればよかったのに……)
祖母が自分に言わなかった理由はわからない。まして、話を聞いたところで自分が実際に狼にならなければ、「人狼である」などと信じられなかったかもしれない。
(狼に変身できるようになった今だって、何か間違いなのではないかとすら思うよ)
話してほしかったという気持ちとどうしようもなかったことがわかり、シロウの心はもやもやする。だが、その誰にも言えない秘密をミドリには打ち明けられていたのかと思うと、シロウの気持ちは少しだけ楽になった。
「そうでなくてもシロウちゃんは……! その、身体が弱かったし……」
一瞬ハッとして言葉を途切らせたあと、表情を取り繕って何でもなかったように話を続けた。
(この人は俺の身体が中途半端なことを知っている……?)
もしかしたら、生前の祖母が何か話していたのかもしれないとシロウは思った。
「察しの悪い子ね。わたしも、梅子さんも──郷の出身で、人狼のことを覚えている他の人たちにとっても、この世の中に自分たちの郷以外にそんな人がいるとは露ほども思っていなかった。昔はインターネットもなかったしね」
少しあきれたようにノエルを一瞥したあと、茶目っ気たっぷりのコメントを添えて、ミドリが説明を始める。
「それなのに、結婚した相手が『自分は狼になれる』なんて、言い出したものだから──。それは……本当に、あの時は本当に驚いたわ」
当時を思い出したように大仰に言ってシロウを見つめる。
「結婚するまではね、実は梅子さんとそれほど親しかったわけではないのよ。でも、結婚した時にノエルのおじい様が人狼だと知って──手紙を書いたの。それ以来、ずっとアメリカと日本とで文通していたわ。うちは娘──ノエルのママね、しか生まれなかったけど、梅子さんのところは男の子だったし。当時はまだ士郎さんは生きていたけど……。シロウが生まれたときには梅子さんの周りに人狼はもういなかったから」
懐かしそうにシロウを眺めて、しわしわの小さな手をシロウの頬に寄せる。それはふとシロウに祖母を思い出させた。
ミドリと梅子は全く似ていない。
垢ぬけて年齢より若く見えるミドリに対して、数年前に亡くなった梅子は年齢相応で、いかにも日本のおばあちゃんだった。だが、そんなことは関係なく、シロウが祖母から感じていた愛情をミドリの表情や指先から感じられたのだ。
「それから私たちはよく手紙で近況のやりとりをしたのよ。もし、万が一シロウが狼になってしまったときには、どうしたらいいか。二人でたくさん調べたし、相談しあったわ」
シロウはミドリが語る話から、梅子がどれだけシロウのことを気にかけていたのかを知り、胸がいっぱいになった。そうでなくとも、祖母には多くの苦労を掛けたと思っている。だが、それ以上に自分の知らないところで、大きな負担を強いていたのかもしれない。それを今更ながら心苦しく思う。
(話してくれればよかったのに……)
祖母が自分に言わなかった理由はわからない。まして、話を聞いたところで自分が実際に狼にならなければ、「人狼である」などと信じられなかったかもしれない。
(狼に変身できるようになった今だって、何か間違いなのではないかとすら思うよ)
話してほしかったという気持ちとどうしようもなかったことがわかり、シロウの心はもやもやする。だが、その誰にも言えない秘密をミドリには打ち明けられていたのかと思うと、シロウの気持ちは少しだけ楽になった。
「そうでなくてもシロウちゃんは……! その、身体が弱かったし……」
一瞬ハッとして言葉を途切らせたあと、表情を取り繕って何でもなかったように話を続けた。
(この人は俺の身体が中途半端なことを知っている……?)
もしかしたら、生前の祖母が何か話していたのかもしれないとシロウは思った。
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