振り向いてください、シャノン王子。

夜のトラフグ

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chapter8 嬉しいこと

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 会議のあと、調整のため関係省庁へ向かうエレノア。心がどれだけ沈んでいても、仕事は待っちゃくれない。

(……というかそもそも、もとが無理な恋だったからなあ)

 前世からの想い人。ならば私は、彼の味方になるべきだったのかもしれない。
 彼が正しくても間違っていても、想い従い、ときに導く。共感し、大事にして大切に想われる。そんな絶対的な味方に。

 もちろんそうなることは現実に、できなかっただろう。敵国に生まれてしまったし、生まれた性別も私の身を堅く縛った。
 前世の記憶をもった理由を、私はときどき考える。私は彼のためを思ったつもりで、彼を苦しめたのだろうか。私は使い方を間違えたのだろうか。

 いっそ、私でない誰かに、この記憶を託して欲しかった。
 彼の味方をすることのできる誰かに渡って、彼を優しく抱き締めて、大丈夫だと声をかけ、守ってあげてくれれば。
 そうすれば私のような人間が、彼の野望きもちを打ち砕くこともなかっただろうに。


♯♯

 軍部と王宮を繋ぐ連絡通路で、ふと我ら西国の軍人がどうやら東国の女性たちと話しているのを見かけた。

「どうした?」
「はっ! 少将!」

 敬礼をしようとする部下たちを手で制し、なにがあったのかと尋ねる。

「いえ、大したことではございません。この女どもが軍部へ足を踏み入れようとしたので、注意を」
「へえ」

 それは妙なことだ。
 東国の人々は、大抵西国の人間が近づくとさっと目を反らして逃げていくのに。

 私はクルリと女性たちの方へ振り向く。

「ご令嬢がた。こちらにはつまらない物しかありませんよ。どなたかにご用事なら、私が用立てしますが」

 ニコ、と心持ち穏やかに微笑むと、女性たちはカアッと顔を赤くした。

「いえ、そんな……わたくしどもはただ……」
「その………エレノア少将という方を御存じありませんか」

 おずおずとそう尋ねられて、エレノアはパチリと目を瞬かせる。

「私が、エレノアですが」

 そう答えると、女性たちはびっくりしたあと「やっぱり」というように目を合わせた。

「なにかご用でしょうか」
「その…………」

 言いにくそうな顔に、ふと、エレノアは考える。彼女たちは王子と同じように、私に恨みを持っているのかも知れない。そして英雄と名高い私の顔を、一目見に来たのかもしれない、と。

 そう思い至って、急に彼女たちの目が怖くなった。さっきまで普通に接していた彼女たちが私の名前を知って、突然憎しみを孕んだ瞳で睨みはしないか。

 だが、そんな心配は杞憂だった。

「あの、わたくし………先日の会議を、裏手から見ていましたの」
「え……………そうでしたか」
「それで、その…………」

 もじもじ、と可愛らしく言葉につまったあと、彼女はパッと顔を上げて私に言った。

「わたくし、少将さまのご意見に感服いたしました。とてもよく、わたくしたちの国のことを考えてくださっているのですね」

 ふわ、とそのご令嬢は優しく笑って私の手をとった。

「ありがとうございます。あなたのような方が、この国へ来てくださって嬉しいですわ」

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