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Prologue
しおりを挟むとある闘技場で、並び立つ二人の剣闘士がいた。
ひとりは剛腕で逞しい格闘術の使い手。ひとりはしなやかで細身の身体を持ち、巧みに魔術を使う男。二人は幼い頃から長い間ずっと、その闘技場でしのぎを削い合っていた。その様子は国民を熱中させた。
あるとき、闘技場を訪れた若い王が言った。
『ふたりで本気の殺し合いをしろ。勝った者には望みの品を何でもくれてやる』
闘いは三日三晩に及んだ。その勝負を国民は固唾を飲んで見守る。そして凄まじい死闘の末、二人の勝負はついたのだった。
『勝者ニック、勝者はニックです!!』
ニックに勝利の感慨は無かった。喜びも感動も凪いだ感情で、足下に倒れ伏す男を見やる。
『な………んだよ。か、勝ったのがそんなに不満なの、か?』
男は、苦しげに呻きながら、茶化すように笑った。
もう助からない。
二人とも、口に出さずとも分かっていた。
『ははっ………。おまえは本当に、優しーよなあ……』
そう言って男は手を伸ばす。届かないとわかっていても、その悲しそうな顔に触れずにはいられなかった。
ニックは、男に慌てて駆け寄る。そんなニックを見て、男は愛おしそうに笑った。
『………ニック。おまえに剣闘士なんか、……に、似合わない。王に金でも女でも望んで、………たっぷり、幸せに生きてから死ねよ?』
そう言って男は、軽薄に笑って死んだ。
幸せに、と言って死んだくせに、28年の短い生涯を終えた男は、誰よりも幸福そうだったという。
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