ツンデレ貴族さま、俺はただの平民です。

夜のトラフグ

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1章

第5話 よろしく

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 初めて出会ったとき、見惚れてしまうような容姿と膨大で力強い魔力の気配に、僕は思わず圧倒された。そんな僕を、彼はーーシエルはちらりと見て、すぐに去ろうとした。今までそんな扱いを受けたことはない。
 僕は悔しくて、それから彼に突っ掛かようになった。

 あいつなんか嫌いだった。あんな、生まれも育ちも卑しいくせに、器用で才能もあって、なにもかも持っているような人間なんて。

♯♯

「やあ、おはようシエル。君は相変わらず呑気な顔をしているね」

 さて、週も変わった月曜日。元気に登校してきたアステオは、いつもと変わらない嫌みを言った。それ自体は普段通り、だったのだが。

「おはよ、アステオさま。よかった元気そうっすね」

 振り返ったシエルが朗らかにそう返したので、教室にいたクラスメイトたちは思わず二度見するほど驚いた。
 声をかけたアステオ本人でさえ、動揺してしまって二の句も継げずにいる。

「えっ………?」
「? どうかしたんすか」

 しかし当の本人、シエルはそんな周囲の驚愕には気付かない。生来の鈍さも手伝って、まさか自分の返答がそんなクラス中に注目されているとは夢にも思っていなかった。
 そもそも本人、アステオにそんなに優しい笑顔を浮かべていたことさえ気付いていない。

「おはよー! さ、授業始めるぞー」

 急に態度を軟化されたアステオは、そう言って担任が入ってきたときまで、時が止まったように動けずにいたという。

♯♯

 シエルの急変はその後も続いた。動揺から我に返ったアステオは、その後も授業や休み時間にシエルに突っ掛かった。しかしそんな猛攻を、シエルはことごとく躱したのである。

「魔術循環の練習? いいっすよ、やりましょう」

「学食? 俺弁当ですけど、それでよければ」

「あ、そこ間違えてますよ。次あたるんでよかったら俺のノート見ます?」

 いつも通り嫌みを混ぜて話しかけるアステオに対して普通に応対し、あろうことか親切にノートまで見せてくれる。
 そんなシエルの様子にアステオもクラスメイトたちも戸惑いを隠せない。そしてとうとう放課後、アステオは痺れを切らした。

「な、なんのつもりなんだよ!!」
「え、なにが?」

 この期に及んでまだピンときてない様子のシエルに、アステオは声高く詰問をする。

「今日のことだよ! 今まで僕が話しかけるたびに迷惑そうにしてたくせに、今日は………!」
「あー………」

 思い出して悔しいような恥ずかしいような微妙な顔をするアステオに、シエルはやっと思いあたったようだった。

「それは、すみません。………なんつーか俺、あんたのこと苦手だったんすよ。嫌味言ったりするしさ」
「………それは」
「でもこの間話して、意識が変わったというか。ちょっと仲良くなってみたいなって思ったんで」
「…………え?」

 急な話の流れについていけないアステオをよそに、シエルはぐいと距離をつめる。

「取り敢えず、一緒に帰ったりしてみます?」
「はああああ?」
「嫌ならいいですけど」

 シエルのその言葉に、アステオはピクリと反応した。

「………別に、嫌じゃあない。家はどこだ。
 君が! そこまで言うなら、特別に一緒に帰ってあげよう」

 アステオの変わらない不遜な態度に、シエルはクスリと笑ってしまった。街へ続く夕方の道に、二人の影が並んだ。

「相変わらず、偉そうっすね」
「うるさい。取り敢えず君は、そのわざとらしい敬語をやめろ」
「お、言ったな? じゃあ遠慮なく。
 よろしく、アステオ」
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