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2章
第2話 期待されたからには
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ことは数時間前に戻る。
「では、学園祭中に開催される競技の代表者を決めたいと思いまーす」
ホームルームでクラス代表がそう切り出した。
シエルが聞くところによるとこの学校の学園祭は体育祭の意味合いも兼ねているようで、期間中に大会と呼ばれる競技も行われるらしい。
そこでクラスの代表として大会に出場する代表者を決めるということだ。
「種目は、リレーや徒競走、綱引きにダンス、棒倒しや騎馬戦なんかがあるよ!」
クラス代表が要項を読みながら説明するのに合わせて、副代表が黒板に競技名を書いていく。
へぇ、応援を主導する役割なんかもあるのか。
「そして目玉はこれ! 演舞!
毎年華やかに魔法を使って行われるから、見学で見たことある人も多いんじゃないかな」
演舞、と大きく黒板に書かれる。
なるほど、日程も最終日なんだな。いわゆるトリということか。
「出場者は1ペアね!
できれば魔法に優れてる人がいいかも」
途端、クラス内にザワザワが広がる。
「おまえやったら~?」
「無理だよ、こないだの魔法演技もCだったし」
「火を使える人が派手でいいんじゃない?」
「オレ、あがり症だからなあ」
みんなが口々に考えを言う。けれどやはり、進んでやりたがる人はいないようだ。俺はやるなら個人競技がいいかな。
そんなことを考えていたときだった。
「なあ、じゃあアステオくんとシエルは?」
突然、そんな言葉が響いた。
その瞬間、自由に話していたみんなの目がいっせいに俺の方を向く。
お、おい………?
「そういえばこないだの発表でも二人の演技は凝ってたし、見てて面白かったわよね」
「息も合ってた」
「そういえば二人とも魔法得意はだったし」
じ。
みんなの視線が、なにかを期待するようなものに変わる。俺は思わず苦笑いを浮かべた。
「いやあ、俺はちょっと………」
「僕は、やってもいいよ」
ヘラヘラ断ろうとした俺の隣で、アステオのそんな言葉が聞こえた。
思わずガバッと振り向く。
「お、おいーー!?」
「えっ本当!」
「アステオくんたちが出るなら、優秀賞とれるかも……!」
しかし異論を唱えようとする俺を置いて、盛り上がっていくクラスメイトたち。視線は自然と、落ち着いた顔をしてるアステオに向く。
「………本気か?」
「期待されたからには、応えないわけにはいかない」
「だからってなあ………」
「君は?」
試すように尋ねるアステオ。呆れるほど真っ直ぐな目だ。その目に向き合ってしまうと、俺はもう苦笑いを浮かべることしかできない。
だって。魔法を学ぶこの学校でこの競技の代表になるということは、たぶんそういうことだろ?
それなら、アステオはともかくとして、俺より相応しいやつはこのクラスにいっぱいいるんじゃないか。
「………いいのか? 俺で」
「いいんだよ」
不承不承尋ねる俺に、アステオは当たり前のような顔をしてふん、と答えた。
「勝ちたいと、君も言ってただろ?
僕もクラスの一員として、君の魔法の実力は認めている。君にできるのは、僕たちの期待に力いっぱい応えることだよ」
ツン、と澄ましてそう言うアステオ。
そんな彼に、俺は思わずこう溢す。
「………アステオが、俺を褒めた……」
呆然と呟いたシエルを見て、アステオはじわじわと顔を赤く染めた。きっと怒りからなんだろう。
「な…………!
別に褒めてなんかない! 魔力と技術を評価してるだけだ!」
「褒めてんじゃん」
「ちがう!!」
一生懸命そう怒鳴るアステオに、シエルは何だか腹の底から笑いがわいてくるのを感じた。
「………はは、あはは、そっか!」
「わかったのか!?」
「ああ、わかったさ」
俺はいつの間にか忘れていたクラスメイトに向き直り、クラス代表に手を上げた。
「なあ、委員長、俺もやる! 俺、実はずっと考えてた演出があるんだ!」
高らかに宣言したシエルに、クラスメイトはなんだなんだと好奇の目を輝かせた。
「なんだ、それ!?」
「ていうか、いつの間にアステオくんとそんなに仲良くなったの!?」
「俺もおまえの魔法好きだぞー!」
そんなみんなの視線に向き合って、とても楽しそうにシエルは笑う。
ーーやれるだけやろう。ひたすら真っ直ぐな彼のように。
ーー卑屈になる必要なんかない。ここには俺の実力を信じてくれる人が、こんなにたくさんいるのだから。
────
ぷらいべったーに、クラスメイトが話している発表の様子が載せています。詳しくは近況ボードの活動報告5をご覧ください。
「では、学園祭中に開催される競技の代表者を決めたいと思いまーす」
ホームルームでクラス代表がそう切り出した。
シエルが聞くところによるとこの学校の学園祭は体育祭の意味合いも兼ねているようで、期間中に大会と呼ばれる競技も行われるらしい。
そこでクラスの代表として大会に出場する代表者を決めるということだ。
「種目は、リレーや徒競走、綱引きにダンス、棒倒しや騎馬戦なんかがあるよ!」
クラス代表が要項を読みながら説明するのに合わせて、副代表が黒板に競技名を書いていく。
へぇ、応援を主導する役割なんかもあるのか。
「そして目玉はこれ! 演舞!
毎年華やかに魔法を使って行われるから、見学で見たことある人も多いんじゃないかな」
演舞、と大きく黒板に書かれる。
なるほど、日程も最終日なんだな。いわゆるトリということか。
「出場者は1ペアね!
できれば魔法に優れてる人がいいかも」
途端、クラス内にザワザワが広がる。
「おまえやったら~?」
「無理だよ、こないだの魔法演技もCだったし」
「火を使える人が派手でいいんじゃない?」
「オレ、あがり症だからなあ」
みんなが口々に考えを言う。けれどやはり、進んでやりたがる人はいないようだ。俺はやるなら個人競技がいいかな。
そんなことを考えていたときだった。
「なあ、じゃあアステオくんとシエルは?」
突然、そんな言葉が響いた。
その瞬間、自由に話していたみんなの目がいっせいに俺の方を向く。
お、おい………?
「そういえばこないだの発表でも二人の演技は凝ってたし、見てて面白かったわよね」
「息も合ってた」
「そういえば二人とも魔法得意はだったし」
じ。
みんなの視線が、なにかを期待するようなものに変わる。俺は思わず苦笑いを浮かべた。
「いやあ、俺はちょっと………」
「僕は、やってもいいよ」
ヘラヘラ断ろうとした俺の隣で、アステオのそんな言葉が聞こえた。
思わずガバッと振り向く。
「お、おいーー!?」
「えっ本当!」
「アステオくんたちが出るなら、優秀賞とれるかも……!」
しかし異論を唱えようとする俺を置いて、盛り上がっていくクラスメイトたち。視線は自然と、落ち着いた顔をしてるアステオに向く。
「………本気か?」
「期待されたからには、応えないわけにはいかない」
「だからってなあ………」
「君は?」
試すように尋ねるアステオ。呆れるほど真っ直ぐな目だ。その目に向き合ってしまうと、俺はもう苦笑いを浮かべることしかできない。
だって。魔法を学ぶこの学校でこの競技の代表になるということは、たぶんそういうことだろ?
それなら、アステオはともかくとして、俺より相応しいやつはこのクラスにいっぱいいるんじゃないか。
「………いいのか? 俺で」
「いいんだよ」
不承不承尋ねる俺に、アステオは当たり前のような顔をしてふん、と答えた。
「勝ちたいと、君も言ってただろ?
僕もクラスの一員として、君の魔法の実力は認めている。君にできるのは、僕たちの期待に力いっぱい応えることだよ」
ツン、と澄ましてそう言うアステオ。
そんな彼に、俺は思わずこう溢す。
「………アステオが、俺を褒めた……」
呆然と呟いたシエルを見て、アステオはじわじわと顔を赤く染めた。きっと怒りからなんだろう。
「な…………!
別に褒めてなんかない! 魔力と技術を評価してるだけだ!」
「褒めてんじゃん」
「ちがう!!」
一生懸命そう怒鳴るアステオに、シエルは何だか腹の底から笑いがわいてくるのを感じた。
「………はは、あはは、そっか!」
「わかったのか!?」
「ああ、わかったさ」
俺はいつの間にか忘れていたクラスメイトに向き直り、クラス代表に手を上げた。
「なあ、委員長、俺もやる! 俺、実はずっと考えてた演出があるんだ!」
高らかに宣言したシエルに、クラスメイトはなんだなんだと好奇の目を輝かせた。
「なんだ、それ!?」
「ていうか、いつの間にアステオくんとそんなに仲良くなったの!?」
「俺もおまえの魔法好きだぞー!」
そんなみんなの視線に向き合って、とても楽しそうにシエルは笑う。
ーーやれるだけやろう。ひたすら真っ直ぐな彼のように。
ーー卑屈になる必要なんかない。ここには俺の実力を信じてくれる人が、こんなにたくさんいるのだから。
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