ツンデレ貴族さま、俺はただの平民です。

夜のトラフグ

文字の大きさ
34 / 51
4章

第9話 シエルはどう?

しおりを挟む
 冬休みが近づき、シエルの仕事・・はどんどん増えていった。ならず者の処理から諜報、ときには護衛。何でも器用にこなすシエルは、王宮にも一目置かれている。

 ロイドに覚悟を示した。私情を捨て、この仕事に骨を埋めると決めたからには、突き通すしか道はなかった。

 例え、振り返ると、真っ白な吹雪のなか置き去りにされたような孤独を感じたとしても。


♯♯


「シエル」

 休み時間、鐘が鳴るや否や、アステオがシエルの傍に駆け寄ってきた。
 ストンと前の椅子に座るアステオに、シエルは適当に書き付けていたノートから顔を上げ、何でもないふうに答える。

「……どうした? アステオ」
「ううん、別に。
 ねえ、さっきの公式、わかった? わかんなかったら僕が特別に教えてあげるけど」

 そう言ってイタズラするみたいにシエルからペンを奪い、クルクルと公式に丸をつけた。
 シエルは少し拗ねたように言い返す。

「わかったって。今期の定期テストも魔法数学は俺のほうがよかったじゃん」
「そのあとの模試は僕のほうが上だった」

 そこで何となく空気が緩んで、二人して「ふふっ」と笑ってしまった。

「くだらな」
「確かに」

 フワリと笑うアステオの優しい笑顔。彼を見て、胸がズキリと痛むのをシエルは知らないフリをした。
 その可愛い顔に触れたい、なんて思ってない。最近、シエルがアステオのことを少しだけ避けているのも、気付かれていないはずなのだ。

 知らず、シエルはアステオの視線を避けるように机から身体を起こそうとした。しかし、それを知ってか知らずか。アステオは手に持っていたペンを置き、そのままシエルの腕にそっと触れる。

「ねえ、シエル。ところで」
「──なんだ?」
「約束のデートはいつするの」

 バサッ。思わず机に仕舞おうとしていたノートを落としてしまった。

「…………えっ?」
「約束したでしょ? 忘れちゃった?」

 約束。
 ……し、したっけ??

 記憶を辿り、そういえばアステオの姿を褒めるときそんなようなことを言った気がしてきた。

「……や、うん、覚えてる! 覚えてる、けど。でもあれってさ……」
「そう、覚えてるならよかった!」

 ニコ、と絵画の天使みたいに優しく微笑むアステオ。あまりにも無邪気に無垢に笑うので、頭のどこかが警鐘を鳴らしている気がするが──それにしても、可愛い。よしよしと撫でたくなる。

「僕ね、来週の休みは予定が空いてるんだけど。シエルはどう?」


しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【本編完結】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する

とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。 「隣国以外でお願いします!」 死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。 彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。 いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。 転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。 小説家になろう様にも掲載しております。  ※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

異世界転生した双子は今世でも双子で勇者側と悪魔側にわかれました

陽花紫
BL
異世界転生をした双子の兄弟は、今世でも双子であった。 しかし運命は二人を引き離し、一人は教会、もう一人は森へと捨てられた。 それぞれの場所で育った男たちは、やがて知ることとなる。 ここはBLゲームの中の世界であるのだということを。再会した双子は、どのようなエンディングを迎えるのであろうか。 小説家になろうにも掲載中です。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

処理中です...