22 / 37
に
chapter20 そんなこと初めて言われたわ。
しおりを挟む
移動教室からの帰り道、大量の書類を持ったロム・クラダディと遭遇した。
「………途中で先生から、資料室へ持っていくよう頼まれて」
どうやらお使い中のようだった。名家の息子にしてはなかなかない扱われ方だ。先生は一体なにをやらせているのかしら、とアビゲールは思ったが、彼の穏やかな微笑みをみて思い直す。
(……きっと人柄ゆえね。何かと損をするタイプだわ)
そうは思うものの、しかし何となく放っておくのも目覚めが悪く、アビゲールは半分持つことを申し出た。そういえば彼には聞いておきたいことがあったのだ。
「いいわ。半分頂戴」
「えっ、いいよ。公爵家のお嬢様に荷物持ちなんて……」
はあっ、と溜め息をつきたくなる。君も侯爵家のご令息だろうに。
「いいから。さ、行くわよ」
♯♯
カチャン、と用のある教室を開けると、目立つ机のうえにドサドサと資料を置いた。
「さ、これで終わりね。帰るわよ」
「うん……。あの、さ」
「なに?」
真っ直ぐに目を見て尋ねると、彼はまた顔を真っ赤にして下を向いた。
また、この目だ。この目はアビゲールを落ち着かなくさせる。何か古い記憶を、思い起こさせる気がする。
『………殿下』
「ありがとう」
「礼を言われるほどのことはしてない」
「ううん。アビゲールさんは、噂と違った。凄く、優しい」
パチ、とアビゲールは目を瞬かせた。
「優しい?…………そんなこと言われたの、初めてだわ」
「そう?」
まじまじと見つめると純な視線を返されて、アビゲールは呆れ返った。正気か?とさえ思う。
「当たり前でしょ。だって私はーー」
アビゲールが言いかけたそのとき。
二人の遥か上空から、雨のような殺気が降り注いだ。
「………途中で先生から、資料室へ持っていくよう頼まれて」
どうやらお使い中のようだった。名家の息子にしてはなかなかない扱われ方だ。先生は一体なにをやらせているのかしら、とアビゲールは思ったが、彼の穏やかな微笑みをみて思い直す。
(……きっと人柄ゆえね。何かと損をするタイプだわ)
そうは思うものの、しかし何となく放っておくのも目覚めが悪く、アビゲールは半分持つことを申し出た。そういえば彼には聞いておきたいことがあったのだ。
「いいわ。半分頂戴」
「えっ、いいよ。公爵家のお嬢様に荷物持ちなんて……」
はあっ、と溜め息をつきたくなる。君も侯爵家のご令息だろうに。
「いいから。さ、行くわよ」
♯♯
カチャン、と用のある教室を開けると、目立つ机のうえにドサドサと資料を置いた。
「さ、これで終わりね。帰るわよ」
「うん……。あの、さ」
「なに?」
真っ直ぐに目を見て尋ねると、彼はまた顔を真っ赤にして下を向いた。
また、この目だ。この目はアビゲールを落ち着かなくさせる。何か古い記憶を、思い起こさせる気がする。
『………殿下』
「ありがとう」
「礼を言われるほどのことはしてない」
「ううん。アビゲールさんは、噂と違った。凄く、優しい」
パチ、とアビゲールは目を瞬かせた。
「優しい?…………そんなこと言われたの、初めてだわ」
「そう?」
まじまじと見つめると純な視線を返されて、アビゲールは呆れ返った。正気か?とさえ思う。
「当たり前でしょ。だって私はーー」
アビゲールが言いかけたそのとき。
二人の遥か上空から、雨のような殺気が降り注いだ。
0
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる