傾国の魔女が死んだら、なぜか可愛いお姫様に転生していた。

夜のトラフグ

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04 イヴォ兄さま

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「オデット、探したぞ」

 オデット姫は、無言で読んでいた本を閉じる。ここで読みきろうと考えていたが、彼が来たことで予定は狂ってしまった。

(来たわね、イヴォ兄さま…)

 乳母であるメリッサの長男。オデットは、彼が苦手だった。

「一人でどこかへ行くなと言っただろ。俺か侍女か、せめて誰かに声を掛けていけ」
「……図書館と庭よ。城の外に出るわけでもないのに、おおげさよ」
「当たり前だろ。外に出るなら、兵士が百人は必要だ」
「そんなにいるわけないでしょう」

 呆れたオデットの言葉も構わず、イヴォはさっとその場にあった本を全て集めて抱え込んでしまった。そして片手をほら、と差し出してくる。

「母さんも探してた。とにかく、戻るぞ」
「……」

 メリッサのことを出されては、オデットに反論の余地はなかった。仕方なく、大人しく手を繋いで歩き出す。風邪を引いて以来、なぜかメリッサに逆らう気になれないのだ。


##

 イヴォは、オデットの処世術の通じない唯一の人間だった。

 オデットが微笑みかければ、大抵の大人は嬉しそうに微笑み返してくれるし、オデットがねぎらいの言葉をかければ、みんな嬉しそうにうっとりとなる。オデットが勉強をしていれば、天才だと褒めてそれ以上干渉してくることも、止めることもなかった。メリッサでさえそうだ。
 周囲の大人たちはいつも優しく見守り、無理に踏み込んでくることをしない。そしてオデットも、それが楽だった。

 しかしイヴォは違う。オデットにうるさく口出しし、微笑みかけても通じない。オデットのことが嫌いなのかと思いきや、そういうわけでもないようだった。
 イヴォは妙に大人ぶって、オデットをたしなめるようなことを言う。いつしかオデットも、彼には猫を被るのをやめ、素に近い状態で対応するようになっていた。

(相手が子供だからかしら? 他の子と接したことが無いから、わからないわ)

 いずれにせよ、探したことを怒るくらいなら放っておいて欲しいと思う。

「兄さま」
「何だ」
「手が痛いわ。逃げないから離して」
「だめだ」
「なんで」
「もう着くから。大人しく足だけ動かしてろ」
「……」

 イヴォは握り方が下手だ。力強く握って、しかも文句を言うとムッとした顔をする。そういう顔を見ると、こちらも何となくムッとしてきて、思わず逆らうような言葉を言ってしまうのだ。

「兄さま」
「何だ」
「もう疲れたわ。歩きたくない」

 そう言って引きずられるように抵抗するオデットに、イヴォは仕方なく足を止めた。

「庭なんだろ」
「そうよ。疲れたわ」
「あと少しだ」
「もう歩かないの」

 睨むように、イヴォはオデット姫を見つめた。そして、「はあ」と溜め息をつくと、オデットを黙って背中におぶった。オデットも大人しくおぶられる。

「……ねえ、兄さま」
「何だよ」
「本」
「置いてきた。後で取ってきて貰え」
「ちょっと」
「動くなよ。落とす」
「兄さま」
「寝てろ」

 乳兄妹がじゃれるようにする喧嘩は、いつしか城の名物のような扱いになっていた。
 
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