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本編
39 告白
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向き合った二人は、見つめ合ったまま互いに最初の言葉を切り出しかねていた。
しかし、まず口火を切ったのはジークフリートだった。
「姫さまの前で、とんだ失態を晒してしまいました。弁解の余地もありません」
暗い顔でそう告げた彼に、婚約者の前で他の女性に触れたことを言っているのだと気付いた。
「いいえ、そんな……。不可抗力だったのでしょう?」
「それでも、です。エウト殿が咎めるのも当然でした」
頑なにそう言う彼に、オデットは苦笑する。ジークフリートのこういう真面目で規則や規範に従順なところは、好ましいとは思うが同時に息苦しさを感じる。
「……それなら、覗き見なんて品のないことをした私のことも咎めてください」
「いえ、姫さまは何をなさってもいいのです。見られて困るとしたら、それは私が悪いのですから」
「………」
「その衣装、とてもよくお似合いです」
「……どうも」
取り付く島がないとはこのことだ、とオデットは思った。彼は盲目的にオデットを信じ肯定しすぎている。思えば、初めて会ったときからそうだ。
そういうところが、気に入らない。
「……ねえ。ところでジークフリートさま、あなたはいつまでそんな態度でいるつもりなのですか?」
「…?」
若干の苛立ちを乗せてそう問えば、ジークフリートは不思議そうな顔をした。思えば、オデットがこの人の前でここまで堂々と「お姫様」の仮面をとって接するのは初めてかもしれない。
オデットが詰め寄ると、ジークフリートは後ずさる。一歩、二歩と進んでいき、とうとう彼の背が壁に当たったが、オデットは構わずさらに距離を縮めて追い詰めた。オデットの広げた両腕に、ジークフリートが収まってしまう。
「あ、あの……」
「あなたはね、遠慮しすぎだわ。私たちは結婚するのでしょう? 意見くらい堂々と言いなさい」
「え……」
おどおどと視線をさ迷わせていたジークフリートが、オデットの言葉を聞いてびっくりした顔をした。
「私たち、結婚するんですか?」
「……はあ?」
この人は「婚約」を何だと思っているのだろうか。オデットは思わず呆れた顔をした。
「当然でしょう」
このままならば。という言葉は口にはしなかった。しかし、ジークフリートはオデットのそんな様子にも気付かず、顔を赤らめた。
「う、嬉しいです……。私はずっと、幼い頃からあなたのことが好きだったので」
「……え?」
嘘でしょう!? という言葉は声にならなかった。なぜなら感極まったジークフリートが、勢いのままにオデットにがばりと抱き付いてきたからだ。
(きゃあっ……!?)
オデットはいきなりのことで混乱した。ジークフリートの力は強かった。普段、エスコートやダンスなどで接するときとは異なる、加減のない力だったからだ。
「オデットさま…」
掠れるような声で呼ばれ、また力が強くなった気がした。オデットはそれを、まともな抵抗もせず、また抱きしめ返すこともできずにただ受け入れた。
何だか、別人を相手にしているようだった。ジークフリートも一応、オデットが八歳のときから知っている相手なのに、こんな思いを抱えていることに気付かなかった。でも、不思議と実感はわいてきた。
一体いつからなんだろう、とオデットは一人思う。まさか初めて会ったときからであるなんて、オデットには知る由もない。
「…ジークフリートさま、ちょっと…」
苦しくなってきたオデットが宥めるように肩を叩くと、ハッと気付いたように彼はオデットを離した。向き合った彼は、泣き笑いの顔だった。
「……申し訳ありません」
「そうではなくてですね」
困って、何と言おうか考えているオデットにジークフリートは言葉を続けた。
「勿体ない言葉でした、オデットさま。私はあなたを手の届かない星のように想っていたから――言葉を伝えられただけで、感激でした」
「えっ……」
そのとき、ジークフリートの纏う魔力がブワリと膨れ上がった。目が朱黒く染まっていく。そう、オデットが魔女としての本性を現し、魔法を使うときと同じように――。
しかし、まず口火を切ったのはジークフリートだった。
「姫さまの前で、とんだ失態を晒してしまいました。弁解の余地もありません」
暗い顔でそう告げた彼に、婚約者の前で他の女性に触れたことを言っているのだと気付いた。
「いいえ、そんな……。不可抗力だったのでしょう?」
「それでも、です。エウト殿が咎めるのも当然でした」
頑なにそう言う彼に、オデットは苦笑する。ジークフリートのこういう真面目で規則や規範に従順なところは、好ましいとは思うが同時に息苦しさを感じる。
「……それなら、覗き見なんて品のないことをした私のことも咎めてください」
「いえ、姫さまは何をなさってもいいのです。見られて困るとしたら、それは私が悪いのですから」
「………」
「その衣装、とてもよくお似合いです」
「……どうも」
取り付く島がないとはこのことだ、とオデットは思った。彼は盲目的にオデットを信じ肯定しすぎている。思えば、初めて会ったときからそうだ。
そういうところが、気に入らない。
「……ねえ。ところでジークフリートさま、あなたはいつまでそんな態度でいるつもりなのですか?」
「…?」
若干の苛立ちを乗せてそう問えば、ジークフリートは不思議そうな顔をした。思えば、オデットがこの人の前でここまで堂々と「お姫様」の仮面をとって接するのは初めてかもしれない。
オデットが詰め寄ると、ジークフリートは後ずさる。一歩、二歩と進んでいき、とうとう彼の背が壁に当たったが、オデットは構わずさらに距離を縮めて追い詰めた。オデットの広げた両腕に、ジークフリートが収まってしまう。
「あ、あの……」
「あなたはね、遠慮しすぎだわ。私たちは結婚するのでしょう? 意見くらい堂々と言いなさい」
「え……」
おどおどと視線をさ迷わせていたジークフリートが、オデットの言葉を聞いてびっくりした顔をした。
「私たち、結婚するんですか?」
「……はあ?」
この人は「婚約」を何だと思っているのだろうか。オデットは思わず呆れた顔をした。
「当然でしょう」
このままならば。という言葉は口にはしなかった。しかし、ジークフリートはオデットのそんな様子にも気付かず、顔を赤らめた。
「う、嬉しいです……。私はずっと、幼い頃からあなたのことが好きだったので」
「……え?」
嘘でしょう!? という言葉は声にならなかった。なぜなら感極まったジークフリートが、勢いのままにオデットにがばりと抱き付いてきたからだ。
(きゃあっ……!?)
オデットはいきなりのことで混乱した。ジークフリートの力は強かった。普段、エスコートやダンスなどで接するときとは異なる、加減のない力だったからだ。
「オデットさま…」
掠れるような声で呼ばれ、また力が強くなった気がした。オデットはそれを、まともな抵抗もせず、また抱きしめ返すこともできずにただ受け入れた。
何だか、別人を相手にしているようだった。ジークフリートも一応、オデットが八歳のときから知っている相手なのに、こんな思いを抱えていることに気付かなかった。でも、不思議と実感はわいてきた。
一体いつからなんだろう、とオデットは一人思う。まさか初めて会ったときからであるなんて、オデットには知る由もない。
「…ジークフリートさま、ちょっと…」
苦しくなってきたオデットが宥めるように肩を叩くと、ハッと気付いたように彼はオデットを離した。向き合った彼は、泣き笑いの顔だった。
「……申し訳ありません」
「そうではなくてですね」
困って、何と言おうか考えているオデットにジークフリートは言葉を続けた。
「勿体ない言葉でした、オデットさま。私はあなたを手の届かない星のように想っていたから――言葉を伝えられただけで、感激でした」
「えっ……」
そのとき、ジークフリートの纏う魔力がブワリと膨れ上がった。目が朱黒く染まっていく。そう、オデットが魔女としての本性を現し、魔法を使うときと同じように――。
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