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本編
38 心の距離
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(…神官長の予知した「魔女」は、ジークフリートさまで決まりみたいね)
彼が禍々しい闇を放つ姿を見たオデットは、そう断じる。見紛うはずもない、あれは魔力を持つもののオーラだ。
(でも……彼はまだ魔力を手にしたわけではなく、魔に堕ちかけているだけ。挑発したのはエウトだし、手荒なことはしたくないわ。それに……)
正直、この格好で出ていくのは避けたい。しかし問題は、そんな悠長なことを言っていられる場合かどうかだ。全く、なぜこんなことに。
そうして考えている間にも状況は変わっていく。
「あの、オデットって。あのオデットさんですか?」
一人状況の掴みきれないナターシャが、一触即発の二人に声を掛けた。問いかけに人知れず固まるオデットをよそに、エウトは何でもないように笑って答えた。
「そうだよ。君の親友のオデットは、この国のお姫様で、そこの彼の婚約者だ。ですよね?」
「……はい」
「そんな……」
知らない、と固まるナターシャをオデットは何もできず見ていた。
言えば良かった、と今更ながら思う。彼女と過ごすなかで言うタイミングは何度かあった。なのになぜ、といえば反応を恐れて躊躇したということに尽きるのだが。
「あなたたちはオデットのことを何もわかっていない。半端に関わって心を乱すくらいなら、いっそその足でオデットの傍から離れたらどうだ」
「なっ」
「……?」
――流石にこれは、看過できない。
「……そこまでよ、エウト。あなたは勝手に何を言っているの」
音もなく現れたオデットは、エウトの手をひねり上げて言った。
「えっ……、オデット、さん!?」
「オデットさま……! あの、いつから」
「なんだ、出てきたの?」
驚く二人に対し、全く悪びれる様子のないエウトにオデットは「あなたね……」と溜め息をついた。
「私が付き合う人は、誰に指図されるまでもなく私が選ぶわ。わかったらこの場から離れて、寮の部屋にでも戻っていなさい」
「……はーい」
本気の怒りを感じたせいか、エウトは素直に従った。付き合わせておいて悪いとも思ったが、流石にあの言葉は過干渉だ。
オデットは続いて、ナターシャに向き合う。
「私、あなたに言わなければいけないことがあったの。でも機を逸して……いえ、勇気が持てなかったのね」
「あの、私たち……もしかして以前に会ったことがあったのではありませんか」
緊張した面持ちでナターシャは言った。
「以前からオデットさんが綺麗な顔をしていると思っていました。それで、何か思い出すこともあって……」
その言葉に、オデットはにこりと笑う。
「あの編みぐるみ、今も大事に部屋に飾ってあるわ」
「!」
「一先ずはこれだけ。ごめんなさい、許してほしいとは言わないわ」
「……私は、オデットさんが何か言いたそうにしているときがあるってこと、気付いていました」
「そうなの」
「ええ。だから、私は聞かなかったんです。だって、聞かれたらオデットさんは『何でもない』って言ったでしょう?」
優しく笑う彼女に、オデットもぎこちなく笑い返した。
ほら、彼女はやっぱり強くて優しい、尊敬すべき魂を持った人だ。
「……ありがとう」
それだけ言って、彼女には背を向けた。彼女はそのまま気を遣って部屋から出ていってくれた。
そして最後に、ジークフリートに向き直る。
「ジークフリートさま。私、あなたにずっと話そうと思っていたことがあるのですわ。今は、本音で」
「……オデット姫さま。ええ、私も」
ずっと、本当に言いたいことは互いに飲み込んできた。しかし、「政略だから」と意図的に取った心の距離は、片や魔力を蓄えるまでに気持ちが膨らみ、片や傍で見ていた幼馴染みを怒らせるまでになっていたようなのだ。
彼が禍々しい闇を放つ姿を見たオデットは、そう断じる。見紛うはずもない、あれは魔力を持つもののオーラだ。
(でも……彼はまだ魔力を手にしたわけではなく、魔に堕ちかけているだけ。挑発したのはエウトだし、手荒なことはしたくないわ。それに……)
正直、この格好で出ていくのは避けたい。しかし問題は、そんな悠長なことを言っていられる場合かどうかだ。全く、なぜこんなことに。
そうして考えている間にも状況は変わっていく。
「あの、オデットって。あのオデットさんですか?」
一人状況の掴みきれないナターシャが、一触即発の二人に声を掛けた。問いかけに人知れず固まるオデットをよそに、エウトは何でもないように笑って答えた。
「そうだよ。君の親友のオデットは、この国のお姫様で、そこの彼の婚約者だ。ですよね?」
「……はい」
「そんな……」
知らない、と固まるナターシャをオデットは何もできず見ていた。
言えば良かった、と今更ながら思う。彼女と過ごすなかで言うタイミングは何度かあった。なのになぜ、といえば反応を恐れて躊躇したということに尽きるのだが。
「あなたたちはオデットのことを何もわかっていない。半端に関わって心を乱すくらいなら、いっそその足でオデットの傍から離れたらどうだ」
「なっ」
「……?」
――流石にこれは、看過できない。
「……そこまでよ、エウト。あなたは勝手に何を言っているの」
音もなく現れたオデットは、エウトの手をひねり上げて言った。
「えっ……、オデット、さん!?」
「オデットさま……! あの、いつから」
「なんだ、出てきたの?」
驚く二人に対し、全く悪びれる様子のないエウトにオデットは「あなたね……」と溜め息をついた。
「私が付き合う人は、誰に指図されるまでもなく私が選ぶわ。わかったらこの場から離れて、寮の部屋にでも戻っていなさい」
「……はーい」
本気の怒りを感じたせいか、エウトは素直に従った。付き合わせておいて悪いとも思ったが、流石にあの言葉は過干渉だ。
オデットは続いて、ナターシャに向き合う。
「私、あなたに言わなければいけないことがあったの。でも機を逸して……いえ、勇気が持てなかったのね」
「あの、私たち……もしかして以前に会ったことがあったのではありませんか」
緊張した面持ちでナターシャは言った。
「以前からオデットさんが綺麗な顔をしていると思っていました。それで、何か思い出すこともあって……」
その言葉に、オデットはにこりと笑う。
「あの編みぐるみ、今も大事に部屋に飾ってあるわ」
「!」
「一先ずはこれだけ。ごめんなさい、許してほしいとは言わないわ」
「……私は、オデットさんが何か言いたそうにしているときがあるってこと、気付いていました」
「そうなの」
「ええ。だから、私は聞かなかったんです。だって、聞かれたらオデットさんは『何でもない』って言ったでしょう?」
優しく笑う彼女に、オデットもぎこちなく笑い返した。
ほら、彼女はやっぱり強くて優しい、尊敬すべき魂を持った人だ。
「……ありがとう」
それだけ言って、彼女には背を向けた。彼女はそのまま気を遣って部屋から出ていってくれた。
そして最後に、ジークフリートに向き直る。
「ジークフリートさま。私、あなたにずっと話そうと思っていたことがあるのですわ。今は、本音で」
「……オデット姫さま。ええ、私も」
ずっと、本当に言いたいことは互いに飲み込んできた。しかし、「政略だから」と意図的に取った心の距離は、片や魔力を蓄えるまでに気持ちが膨らみ、片や傍で見ていた幼馴染みを怒らせるまでになっていたようなのだ。
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