溺愛αの初恋に、痛みを抱えたβは気付かない

桃栗

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父と後継

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朝、ダイニングに行くと父がきっちりスーツを着込み、タブレットを片手にコーヒーを飲んでいた。

家に居ても仕事で飛び回っている父とは殆ど会うことがない、普通の親子とは違い会話らしい会話もなく”おはよう”の一言でだいたいが終わる。
「早いな、今日休みじゃないのか?」
タブレットから目を離さず、言葉だけを投げつける父。
興味もないなら声なんて掛けなければいいのに。
邪魔くさい。

「おはよ、今日は”ロアジ”に行く日」
顔を上げて一瞬目が合う
「そうか、ちゃんと勤めを果たしてこい」
「わかってる」
まるで部下に仕事の話をしているかの様に話す父を見て、俺と父は本当に似ているな、と感じた。
「父さん」
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して口につける。
「”あの事”は了承してくれている、って事でいいんだよな?」
「…智洋君の事か?」
秘書の前澤さんに伝えてあるけど、と続けて言った。
「家のため木崎と縁を結んで後継を産むなら、お前の好きにすればいい、ただ、智洋君の未来はお前の我儘で一生表舞台には出てこれなくなる、それが彼にとって幸せだと思うならそれでいいんじやないか?」
今日は口数が多いな、でも父には誰かいるのだろうか?いや、居たのだろうか?
母とは家格としての繋がりだけで、家に居ても一緒にいる姿など殆ど見たことがない。
未来の俺と木崎の姿がそこにはある。

でも俺は智洋と出会ってしまった、きっとそれだけの違いなのだろう。

「木崎と子供は作る、でも番にはならない、俺の番は智洋だけだ」
「彼はベータだろ、なら番も何もないじゃないか」
言葉が重い。
そんなこと言われなくてもわかっている。
「俺には違う、了承してくれているならそれでいい」
「川崎さんはどうする?高校はいいとしてもその後の事を川崎さんが理解してくれるのかは別だぞ」
「そんな事言われなくてもわかってる、状況を理解してもらおうとは思わないが、わかってもらえる様時間をかけて説得するつもりだから」
ペットボトルを手に部屋に戻ろうとすると父はため息をついてタブレットを置いた。
「とりあえず”決め事”だけはしっかり”仕事”として果たしてこい。」
昨日の智洋の姿を思い出し、憂鬱になる気持ちを抑え付け、神戸の後継として返事をする。
「神戸としての役割はわかっているよ、父さん」
そう言ってリビングを出た。

昨日あのまま智洋を部屋まで連れてきて泣いて縋り付くまで抱いてやろうと思って、智洋が帰ってくる駅前で待っていた。
俺に気付いても無視して歩く姿を並走する車の中から眺め、避けてるんだな、とすぐにわかった。
明日、俺は意思もなくヒート状態になった木崎を貪り尽くすだろう。

それが智洋にじゃないのが俺には怖くて仕方ない。
自分勝手なのはわかっているがその日は智洋の優しい香りに包まれていたかった。

当日その匂いを纏い、ヒートを迎えたかったんだ…

でもそれを見抜かれていたんだと車から出て行った智洋の後ろ姿を見ながらそう思ってしまった。

あれから智洋はどうして過ごしたのか。

幸せにしてやりたいのに、出来ない。
もどかしさを胸に、”ロアジホテル”へ行くために服を着替える、今日という日が智洋との時間ならいいのに。

そう思った。




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