溺愛αの初恋に、痛みを抱えたβは気付かない

桃栗

文字の大きさ
59 / 59
3

凌太と晴翔

しおりを挟む
部屋に戻ってから智をソファに座らせ、暖かいココアを飲ませると俺の肩に寄りかかった智から寝息が聞こえてきた。

ソファで寝かせるわけにもいかず寝室に連れて行き、ベットに寝かせ、灯りを消した。

一体どう言うことなん?

机にあった2人分のコップをキッチンで洗いながらムカつく気持ちが沸々と湧いてきた。

あいつに智を譲った訳じゃない、智があいつを選んだから俺は見守ると決めただけだ。
なのに入学してから晴翔は生徒会で忙しいのか、智を不安にさせてばかりか、ほったらかしに近い。

泡だらけのスポンジを強く握りしめた。

あいつが、晴翔が憎いし妬ましい。
俺が欲しいものを持っていながら大事にしない傲慢さ。
俺の方が大切にできる、優しくできる、あいつより愛してやれるはずだ、なのに智があいつを見るたびに、伸ばしかけた手を引っ込めてしまう。

届かない手は届かない想いと同じなのだ。

シンクに両手をついて怒りを抑えるようにため息をつく。
あれはなんだ。
智は晴翔に今日会ったことをメールに書いて送ってるはずだ、なのに返信もなく、なんで手塚を抱えているんだ。

「ムカつくな」

ベータには居心地の悪いこの学校に入学させ、自分がほぼ全ての生徒達からどのように思われていかなんてわかっているはずなのに、それでも自分の部屋に智を住まわせているのはあいつの独占欲でしかない。

「あー!!腹立つ!!」

どうすればいい、何をしたら智に負担をかけず、この腕に抱き止められる?

手を洗い寝室で寝ている智のベットに腰をかけた。
泣き腫らした目元をそっと親指で拭い、そのまま手を頬にすべらせる。

見守るだけ、横に肩を並べるだけでいいとそう思っていた、出会ったあの頃から晴翔の存在を知るまでは確実に智を手に入れるつもりだったのに…

だから余計に腹が立って仕方がない。

「好きだよ、智」

どうしようもない程、想いが溢れて止まらない。
あいつが構ってやらないから
だから俺がこんな想いをしなきゃならない。

俺の自由で居られる時間は限られている。
智を手に入れたとしても俺も晴翔と同じく影のように囲い込むしかないのが現実だ。

ベットから立ち上がり智の寝息を確かめてリビングへと向かうとインターホンが鳴った。

モニター越しに晴翔が写っている。

「どなたですかー?」
「見えてるんだろ、開けてくれ」
「俺には用がないんやけど?帰ってくれる?」
「智、居るんだろ。連れて帰るから開けろ」
「無理でーす、帰って」
「頼む、開けてくれ」

「何?」
ドアを開け晴翔を睨みつけた。
あの場に俺たち2人がいた事に気付いていてここに来たってとこか。

「智は?」
「寝てる、で?」
「連れて帰る」
靴を脱ぎ部屋に上がり込もうとする晴翔を手で制した。

「お前、何勝手なことゆってんねん、渡すわけないやろ」
「お前の意見は聞いてない、俺は智洋を迎えにきたんだ、早く渡せ」

こいつ何言ってんねん、なんの説明もなくどこまで俺様なん?

「ちゃんと智に説明できんのか手塚の事。」
「お前に言われなくてもその為に連れて帰るんだ」
「なぁ、お前これからもずっと智をあんな環境で過ごさせるつもりなのか?」

元々ベータにとってこの慶明という学校はシステム的に優遇された場所じゃない。
智自身もアルファやオメガに引けを取らない程優秀だ。
ベータが集まる私立や公立の高校でも智を受け入れても遜色ない学校なんていくらでもあった、当の本人も地元の高校に進学予定だった筈だ。

「なんで智を地元の高校に入学させてやらなかったんだ、お前のそばにいる事であいつが困る立場になる事なんてわかってたんちゃうんか!?」
「お前には関係ないだろう、あいつは俺が守る」

その言葉で怒りが湧いて壁に手を思いっきり叩きつけ、思わず大きな声を出してしまった。

「お前がほったらかしにして、たった1人が煽り周りがそれに同調した、これがお前の”守った”ってことなのか?何度も言うが、こうなる事はわかっていただろう!守ってやれないなら智は俺が貰うぞ、だから出ていけ!」

そう言った瞬間、晴翔から物凄い怒りのフェロモンが出て、俺に向けてきた。

「お前のことは智洋の親友だと思って我慢してきたが、近くに居させるべきじゃない、そういう事か?」

足元から崩れ落ちそうになるくらい強いフェロモン。
こいつには敵わないが、俺も上位アルファだ、これくらいのフェロモンで負けるわけにはいかない。

「は…やっぱすげーな、俺でもクラクラするわ…」

少しよろけて壁に背を預けたと同時に晴翔に片手で首を締め付けられ顔を近付け低い声で言った。

「あいつが悲しむから今は何もしないが、自分の立場は弁えておけ」

手を振り払い締め付けられた反動で咳き込んで背中から崩れ落ちた。
上から睨みつけた晴翔は俺をゴミのようにあしらい

「あいつは俺の”モノ“だ、忘れるなよ」

そう言って部屋に上がり込み言ってもいないのに寝室から智洋を抱き抱え部屋を出て行った。

なんで智のいてる場所わかんねん、番でも無いのに。
智はベータやぞ。

「ははっ…結局俺って何にも手に入れらへんって事なんか…」

誰かの1番になりたい、たったそれだけのことなのに俺にはいつだって手の届かない所にある。

「要らないものは手に入るのにな…」

玄関から動けず壁に背を預けながら天上を見上げて目を閉じた。

閉じた瞼から静かに涙がこぼれ落ちる。

「あー、幸せになりたい」






しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

you
2025.01.07 you

初投稿の時からからグッとハートを掴まれそれ以来ずっと楽しみにしています。
このこじれた感じ最後どうなんねん・・・と思いながら続きを待ち続けております。
大事な事なのでもう一度言います。
メッチャ続きを待ち続けてます。

先生の作品どれも大好きです。

最後にもう一度言います。
心よりお待ちしております。

2025.01.10 桃栗

you様
拙い文章、読んでくだまさりありがとうございます。
実は最後まで書いてデータに保存していたのが、全部飛んじゃいまして、復元を何度も試みてみたものの出来なくなりました。
楽しみにしてもらっていたのにすみません!
今はエブリスタの方で新作を書いていますので、もし良ければそちらの方をご覧いただけるとありがたいです。
今仕事が忙しく、こちらの作品は放ったらかしにしていますが、そのうち書く予定ではありますので、よかったら辛抱強くお待ちいただけると助かります!
           
感想、とても励みになります、ありがとうございました!

解除
朝倉真琴
2023.09.09 朝倉真琴

一気に最新話まで読み進めてしまいました!それぞれのキャラが魅力的で、皆幸せになって欲しい!!と応援しながら続きも楽しみにしております。皆素敵ですが、最推しは田沼さんです!クールビューティー💕そうだから!

2023.09.10 桃栗

朝倉真琴さま
私も田沼は好きなキャラです。
もっとバキバキに冷た〜いキャラにする予定が、凌太の関西弁(設定で田沼はお笑い好き)でだいぶ絆されているので、もう少しクールになるべくキャラ設定頑張りますね!
感想、ありがとうございました😃
これからも読んでいただけると嬉しいです!

解除

あなたにおすすめの小説

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

一日の隣人恋愛~たかが四日間、気がつけば婚約してるし、公認されてる~

荷居人(にいと)
BL
「やっぱり・・・椎名!やっと見つけた!」 「え?え?」 ってか俺、椎名って名前じゃねぇし! 中学3年受験を控える年になり、始業式を終え、帰宅してすぐ出掛けたコンビニで出会った、高そうなスーツを着て、無駄にキラキラ輝いた王子のような男と目が合い、コンビニの似合わない人っているんだなと初めて思った瞬間に手を握られ顔を近づけられる。 同じ男でも、こうも無駄に美形だと嫌悪感ひとつ湧かない。女ならばコロッとこいつに惚れてしまうことだろう。 なんて冷静ぶってはいるが、俺は男でありながら美形男性に弱い。最初こそ自分もこうなりたいと憧れだったが、ついつい流行に乗ろうと雑誌を見て行く内に憧れからただの面食いになり、女の美人よりも男の美人に悶えられるほどに弱くなった。 なぜこうなったのかは自分でもわからない。 目の前のキラキラと俺を見つめる美形はモデルとして見たことはないが、今まで見てきた雑誌の中のアイドルやモデルたちよりも断然上も上の超美形。 混乱して口が思うように動かずしゃべれない。頭は冷静なのにこんな美形に話しかけられれば緊張するに決まっている。 例え人違いだとしても。 「男に生まれているとは思わなかった。名前は?」 「い、一ノ瀬」 「名字じゃない、名前を聞いているんだよ」 「うっ姫星」 イケメンボイスとも言える声で言われ、あまり好きではない女のような名前を隠さずにはいられない。せめて顔を離してくれればまだ冷静になれるのに。 「僕は横臥騎士、会えて嬉しいよ。今回は名前だけ知れたら十分だ。きあら、次こそはキミを幸せにするよ」 「はい・・・おうが、ないと様」 「フルネーム?様もいらない。騎士と呼んで」 「騎士・・・?」 「そう、いいこだ。じゃあ、明日からよろしくね」 そう言って去る美形は去り際までかっこいい姿に見惚れて見えなくなってから気づいた。美形男のおかしな発言。それと明日?? まさかこれが俺の前世による必然的出会いで、翌日から生活に多大な変化をもたらすとは誰が思っただろう。 執着系ストーカーでありながら完璧すぎる男と平凡を歩んできた面食い(男限定)故、美形であればあるほど引くぐらいに弱い平凡男の物語。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。