溺愛αの初恋に、痛みを抱えたβは気付かない

桃栗

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暫く凌ちゃんに甘やかされてからソファに座らされ、ダイニングから運ばれた暖かいココアをちびちび飲み始めた。

「ちょっとは落ち着いた?」
「うん、ごめんね」
「俺も智も外部生やから、同級の奴らの事なんてわからんもんなー、俺も周りの奴らに手塚君の事聞いてみたけど、そんな悪い噂聞かへんかったで。逆にそれが怖いってゆーか。」
「翼君も”晴翔に聞いて”しか言わないから晴と手塚君には何かあるんだとは思うんだけど。部屋に1人でいると色々考えちゃって…凌ちゃんとこまで来ちゃった」

ソファの上でクッションを抱き抱え顎を乗せながら呟いた。
「いつでも来てええよ、下心ありありで悪いけど」
顔を近付けてニコッと笑う。
ちょっとおちゃらけて言われると少し気持ちが軽くなるんだよね、凌ちゃんらしい。
「またそんな事言って」
「智はそろそろ俺の価値をわかった方がええで、お買い得やのになんでわからんかな~」
「凌ちゃんは大事だよ、僕の心の拠り所と言っても過言じゃない!」
「おっ、智も言うようになったやん、まぁ何にせよ彼の事は用心しといた方がええやろうなぁ」
腕を組んで考えるように凌ちゃんはソファに背を預けた。
「せやけど晴翔様はモテモテやなぁ、取り巻きもそうやけど、周りがほっとかへんもんな、あんなイケメン」
「なに言ってるの、凌ちゃんだってイケメンじゃん、中学の時もめちゃくちゃモテてたの僕知ってるよ?」
「ちゃうちゃう、レベルが!田沼さんなんか晴翔様の世話係がしたい、っていつも言ってるしな~」
何言ってんだか、凌ちゃんだって晴の次席なのに。

「雨、酷くなってきたね…」
「やなぁ」

手で弄んでいたスマホを眺めて
「メールの返信くらいしてくれても良いのになぁ」
連絡が来るかもとずっと握っているスマホは未だ鳴りもしない。
晴に勝手に代えられた最新機種のスマホは使い方も全くわからないし、連絡する人も限られているからスペックが上がっても僕には手持ち無沙汰になっている。

「そんな鳴らへん携帯なんかその辺置いとき、お腹すかへん?なんかご飯頼もうか?」
「ねぇ、了解ちゃん下のカフェ行かない?気分転換に」
「おっ、ええな、行こう行こう!」

エレベーターに乗り一階に降りるとカフェの辺りに人だかりが出来ていた。

「なんやなんや?なんであんなとこに人集まってんねん」
「ねー、何かあったのかな??」

背が低い僕には人の頭しか見えなくて、凌ちゃんの肩に手を置いて飛び上がったけど、向こう側の様子は全くわからない。
横にいる凌ちゃんに声をかけたのに少し怖い顔をした後、僕の手を引きエレベーターに引き返そうとした。

「え?どうしたの?」
「やっぱ部屋で食べよ」

そう言うと急に人だかりが両側に寄って人が通れる程の道ができた。

なに?

振り返ると晴がいた。

なんで?

その腕には人を横抱きにしている。

誰なの?

「見るな、お前は見たらあかん!」

片手で両眼を隠された、だけど晴が誰を抱きかかえていたかははっきりと見えた。

いやだ…

周りの生徒達は”お似合いだね”とか”素敵”なんて囁き合っている。

なんだよ、なんなの?

どうして手塚君と一緒にいるの?

晴が彼に声を掛けると手塚君は微笑んで晴の頬に手を添えている。

なんで…
手塚君は晴を見て笑ってるの?

ヤダ、いやだよ…


凌に眼を隠された手を思わず両手で握りしめ震える声で

「凌ちゃんの部屋に戻りたい」
そう言った。

僕はここに居るよ?

なんで気付かないの?

こっちを見てよ…


心がズキズキする。

握られた手は暖かい。
鼻の奥がツンとなって引っ張られた手を握り返した。

スマホは今だに鳴らないままポケットの奥に入っていた。
来ない返信を待ちながら、そっとポケットに手を入れてその存在を確かめるように握りしめた。

やっぱり僕にはいらない”モノ”だったのかな…

いらないモノの存在に自分を置き換えて、落胆する。

五階専用のエレベーターはスケルトン仕様。
2人の姿がはっきりと見え、クルッと向きを変え凌ちゃんの背におでこをくっつけた。

自然に出た僕のため息は狭いエレベーターの中に響き渡った…





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