ある夏の思い出

shoichi

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第3章

安全靴

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正直、体育館へ着く頃には、この異様な光景に我に返ってしまっていた。

「とりあえず…ちょっと、どいてくれる?」

ニコニコしながら桐崎くんたちの後ろから星矢が話しかける。

時代劇ではないが、どうぞ、どうぞ。と、一礼をしながら、道を開ける三年生。

「全員、携帯出せ。」

嫌だ。と一人呟いたが、星矢の後ろの桐崎くんたちを見て、渋々、全員がポケットから取り出した。

それを、一番遠くで見ていた僕。

地面に置かれた携帯電話が四つ。

ガンッ!!と、次の瞬間に一つの携帯電話が、星矢の安全靴によって粉々になった。

同じように、二台目も。

三代目も。

僕は…



誰にも、見えないように声を殺して、泣いていた。



「ガキが…。」

最後の携帯電話の持ち主は、必死に抵抗したが、星矢の一発の蹴りで静かになった。

「変なおもちゃで遊んでんじゃねー!!」

その場にいた全員が、肩に力が入るくらいの大声。

「男なら、一対一って昔から決まってんだよ!!ほら、みろ!!」

そう言って、星矢は作業着を捲り、右腕を見せた。

「こいつにやられたやつだ。」

あっ、弁当の蓋の。

「ナイフ持って、向かってきたからな。」

いや、ちが…。って、こっちを見ながら指差す、桐崎くんの怯えた顔!!

「今日も、良いのもらってな。鼻血出たよ。」

今は、鼻毛が出てるよ。

「卑怯なこと、すんじゃねーよ。ほら、解散。」

あっ。と誰かが呟いたが、

「あ?没収。」

壊れた全ての携帯電話を拾った星矢が、こっちへ向かってくる。

「行くぞ。」



何もできず、頷くことしかできない僕がいた。
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