魔法騎士 マジーア・ドルチェ慶輔

里見ケイシロウ

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「何よ、アリエルの奴! あんたなんか紗綾の何が分かるというのよ!」

 呑み込まれてしまった暗い魔法空間の中で泣きながらうずくまる沙綾。その後ろから一つの人物の影が近づいてきた。

「紗綾さん、あなたも何か大切な物を失ってしまったんだ……」
「あなたは、慶輔君!?」

 その正体は慶輔であり、まるで人の心を見透かしたかのような慶輔の言葉に、沙綾は目を見開いたと同時に、慶輔は言葉を続けた。

「その意味じゃ、沙綾さんは僕と似ているかもしれないです。僕も、今でもその心の傷が残ってるから……」
「似てるですって!? 紗綾とあなたが!?」
「僕もいじめや親の欲望で全てを失い、最強の悪魔になってしまったから、沙綾さんの気持ち、痛いほどわかるんだ」

 その言葉と同時にいつの間にか、沙綾は慶輔の腕の中に居た。

「どうして慶輔君が沙綾の事が分かるって言えるの!? 紗綾は、この大きなおっぱいのせいで、どれだけ苦しい思いしてきたかわかる!?」
「強がることはないんです。苦しい事に立ち止まったら泣いてもいいんですから……」

 即座に飛び込んできた慶輔の言葉に、思わず心を強張らせる沙綾。

「慶輔君?」
「確かにコンプレックスのせいで、何かを失った悲しみはとても大きいです。力も欲しいと誰もが思う。でも、たとえ力を手に入れても、誰かが沙綾さんを愛してくれる人がいない限り意味は意味はありませんよ? それどころか、力に溺れて、自分自身の心を自分で壊してしまうん事だってあるんですから」

 一つ一つ紡がれていく慶輔の言葉は、沙綾の心の氷を少しずつ、でも確実に溶かしていった。

「紗綾さん、もう一度だけ思い出してください。沙綾さんの側にいたアリエルさん達との思い出を。アリエルさんは沙綾さんが消えた後だって、あなたの事を心配して下さってるんですから」

 慶輔の言葉に紗綾は、再び目を見開いた。

「僕も最初はアリエルさん達の事、どう接すればいいのかわからなかったんです。でも僕は彼女達と少しずつ言葉を交わすうちにお互いに認め合う事が出来ました。僕はこうやってアリエルさんと出会う事が出来た事が、とても幸せです」

 慶輔は再び距離をおき、沙綾の目を見つめた。

「でも本当はアリエルに洗脳されてそんな事言ってるんでしょ? あなたは沙綾の心を苦しめる事が好きなんだから、ここにいるんでしょ!? アリエルさえいなければ私は、自由に生きる事だってできたんだから!」

 人としての基本的な存在意義、その全てを語り続けている沙綾の言葉は、慶輔の腕をとおして伝わったこの憎しみは、ガルドリース学園に入学して以来、すっかり忘れていたものであり、別れた自分の恋人が現われたかのような感覚であり、それに包まれた慶輔は、堰を切ったように止まらなかった。

「紗綾さん、もうそれ以上は言わなくていいですよ。どんなに後悔しても過ぎた時間はもう戻らないんです。それに僕は、あなたにこれから出会う人達やアリエルさん達、そしてガルドリース学園のみんなと一緒に幸せになってほしいだけなんです」

 うつむいていた紗綾は慶輔の言葉に、ゆっくりと顔を上げた。

「だから帰りましょう? アリエルさん達が待っている、本当の帰る場所、ガルドリース学園へ」

 そう、沙綾の人生はまだこれからであり、アリエルやテスラ、セシルにリディア、そして、ステラツィオのみんなやガルドリース学園と共に生きなければならないのだ。それこそが、沙綾が残された唯一の選択するべき道だろう。

「失ったものはもう戻らないムニ。でもこれからはガルドリース学園のみんなと一緒に大切な物を作ればいいだけの話ムニ!」
「ムニエル、お前出るの遅すぎじゃね?」

 そしてムニエルがひょこっと表れて沙綾に言葉をかける。

「そんな事はどうでもいいムニ! 今は沙綾ちゃんを説得してるムニよ?」
「それはそうなんだけどさ、せめて一言言ってくんね?」
「アリエル……。あなたはこんな人に出会う事で心が優しくなれたの?」

 慶輔とムニエルからの心からの笑顔に、また涙が溢れた沙綾は再び慶輔に目を向けた。その表情は笑顔に満ち溢れており、慶輔とムニエルはその笑顔のまま、ゆっくりと首を縦に振った。

「紗綾さん、これからはアリエルさん達と一緒に僕の事、信じてくれますか? 僕はあなたが受けた苦しみをすべて受け入れるつもりです……」

 そう言って再び抱き寄せられ、体中に伝わった温かみに、沙綾はもはや、そのこみ上げてくる感情に、我慢することが出来なかった。

「うううぅっぁううぅっ……! うわああぁぁ!」

 その瞬間、沙綾の“心の呪縛”と言う名の鍵はついに解き放たれた。

「さあ、アリエルさん達が待ってるガルドリース学園に帰りましょう?」

 沙綾は慶輔の背にしがみついたまま泣き続け、慶輔は沙綾が泣き止むまで彼の髪を撫で続けてやった。その光景は、本当の恋人のような感覚だった。 

---to be continued---
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