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後遺症 7
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ギルは本当にさっさと帰っていた。厩に預けていた馬で、そろそろメバックに帰り着いている頃と思う。
午前中に今日の仕事を終え、昼食を食べてから、ルオード様を部屋に招いた。
お茶の用意と護衛の為にサヤを伴って。
本来なら仮眠をしてもらわなきゃならないが、今日はルオード様をお招きしたから、そうもいかない。そして、ギルが戻ってしまったから、一人が仮眠をとり、この後に備えるといったことも、無理となった。
サヤたちの負担が増すばかりだ……。
そして、この部屋に居ることの重圧に、俺は汗を拭う。
ルオード様の前で、醜態を晒すわけにはいかない。
けれど、ルオード様と向かい合って座るこの長椅子に、あの時俺は、ギルと共に座って話をしていたのだと思うと、不安が増してくるのだ……。
「では、まずこれを。姫より君宛だ」
とんでもないもの出してきた……。
面識の無い男爵家妾腹の二子なんかに、王族からの書簡なんて。
汗が、恐怖からくる冷や汗なのか、王族の重圧からくるものか、分からなくなってくる。
恐る恐る手を出し、書面を受け取り、内容を確認した。
そこには、女性らしい優美で細い文字が綴られていた。
まさかご本人が書かれているとは思わないが、姫様を象徴する様な美しく整った文字だ。
クリスティーナ・アギー・フェルドナレン。それが、我が国の姫様だ。姫様の母……王妃様は、アギー伯爵家から嫁がれた方である。
幼い頃、姿絵は見たことがあった。雪の様に白い肌、白い髪、そして、紅玉の様な真紅の瞳の、妖精の様な美姫。あまりに儚く見え、溶けてしまうのではないかと、思った覚えがある。
書簡の内容は、土嚢という、新たな発明に対する賛辞にはじまり、セイバーンの繰り返す氾濫に憂慮していること、それを克服しようとすることに対する支持。そして、支援をする用意があるという言葉だった。
手が震える……。マルは、とんでもないことしをしやがった……。
実行する。異母様にも反対させないというのは、こういうことか……。本気で俺に……成人すらしてない上領主代行でしかない、妾腹二子に、この事業の責任者をさせる気なのだ。
王族の支持を得た事業を、男爵家如きが、出来ませんとは言えないものな……。
しかも俺を名指しであるから、異母様や兄上がしゃしゃり出る隙など無い。
誰にも否と言わせない、マルの本気に、背中を汗が伝った。
生唾を飲み込んだ俺の視界の端に、サヤが、不安そうにこちらを見てる姿がある。
従者として失礼のない様、俺たちの会話を、ただ黙って見守っているが、視線が揺れている。
後で書面を見せるとしても、まだ文字が読める様になったばかりの彼女には、遠回しな表現の多い文面は難解だろう。
なので俺は、恐ろしい事が書いてあるわけではないのだと分かる様に、ルオード様に礼を述べた。
「この様なお心遣い……面識も、実績もない私の身に余るものです。
なんと、御礼を申し上げて良いやら……正直、戸惑っているのですが……」
もうほんと、出来ることなら無かったことにしたいくらいに戸惑っている。
クリスタ様は、王妃を多く輩出しているアギー家の方とはいえ、病弱であるし、三十人以上いる兄弟の中で、十数番目のお子だ。まさか姫様に繋がる程に交流があるとは……。それとも、これはクリスタ様の名をお借りしているだけで、ルオード様や、ユーズ様の手なのか……?
だがお二人は、そこまでするほど俺と親しいとは言えないと思う。お二人との縁も、結局はクリスタ様経由なのだ。そう考えれば、やはりこれは、クリスタ様の絡んでいることだと思えた。
マルは俺と面識のある貴族に手紙を出したと言った。きっと、一人や二人じゃない筈だ。学舎にいれば、面識だけは稼げるからな。
なんにしても、絶対に失敗は許されない氾濫対策。それを、更に念押しされた状況となってしまった。
俺の緊張を、ルオード様は察しているのだろう。
サヤの入れてくれたお茶を、静かに一口含んでから、口を開いた。
「姫は、聡明なお方だよ。
将来の、ご自分の成すべきことをきちんと理解されているし、その為に努力されている。
嘆願等をご覧になられるのも、日々の日課だ。その中の一つに、君のものが含まれたというだけのことだよ。
たまたま、私やユーズやクリスタ様が、レイシールと面識があったから、君の人となりを聞かれたけれど、それは、君自身が繋いだ縁だ」
「嘆願は、マルが用意したものです。土嚢だって、私は……」
「マルクスが発案し、彼に総指揮を任せたのだろう?学舎の縁があるとはいえ、自身の部下でもない、街の使用人の一人に。
そのことに、姫はいたく感心されていたよ。
民の意見を拾えるというのは、才能だと。任せることが出来るのも、才能だと。
責任を受け持つことの意味を、この国で一番理解して、受け止めていらっしゃる方だからね」
そう言われ、困ってしまった。
土嚢を教えてくれたのはサヤだし、それを使える形にしているのはマルだし、俺の受け持った部分は、本当に些細で、才能だなんだと褒めそやされるものではないと思う。そもそも、失敗した時にしか責任は問われないのだし。
しかもマルを巻き込んだのだって、サヤの秘密を守る為の手段でもあったわけで……後ろめたい……。
居心地悪くしている俺の様子に、真面目な顔をしていたルオード様が、柔和な笑みを浮かべた。いつもの雰囲気だ。
「とまあ、あまり君に重圧を掛けるのも可哀想だ。
レイシールが、とても奥ゆかしい性質であることはお伝えしている。あまり厚く遇すると、図に乗るどころか、逆に酷く遠慮されてしまう可能性が、とても高いとね」
にこりと笑い、傍に置いてあった小箱に手を伸ばすルオード様。
小さなものが四つ。紙で巻かれ、紐で縛られ、蝋で封印されているものだ。
「なので、これが姫君からだ。
こちらがクリスタ様。ユーズ。そして私から。
雨季後の、河川敷への改良支持と、その支援金。受け取ってほしい」
蝋封は、家紋。家名の下に用意されたという意味だ。これは、重い……。
硬直してしまった俺に、ルオード様は苦笑する。そして「そんなに気負うな」と、俺の前にそれを押し出す。
「文章にはしていないけれど、軍事面の利用法は、とても注目されている。
その為、まず我々が、土嚢の作り方、使い方を知り、活用法を吟味してこいと遣わされたのだよ。
現状、平穏が続いているとはいえ、それがいつまでも続く保証は無い。
隣国二つは王が高齢だし、もう一つは軍事面の強化に余念がないと聞く。備えはいくらでも必要だ。
この土嚢、麻袋だけで、一昼夜にして壁と堀が用意出来るそうじゃないか。とても興味深い。
持参する道具がほぼ必要無いというのも良い。
私もマルクスからの書簡を受け取ったけれどね、とても興味深かった。
午前中の間に土嚢壁も見せてもらったよ。
……壮観だった。土入りの袋とは思えない……あれはもはや城壁だな。君は、凄いものを発見したよ」
手放しで褒められて、俺は膨れ上がる恐怖に心臓を掴まれていた。
軍事面の利用……そう、だ。サヤの国では、本来土嚢は軍隊が扱う技術の一つなのだ。
つまりこれは、人殺しの手助けをする道具でもある。
うぁ………。
どうしよう、怖い……俺は軍事面なんてどうでも良くて、ただ、川の氾濫をどうにか出来ればと……サヤの痕跡を、残せさえすればと……。
「この支援金だけで、君はもう遠慮気味だな。
大丈夫。常識を逸脱するような金額ではないよ。ああ、それとね。初めての試みなのだから、当然試行錯誤だろう? 職人や学者など、専門分野の者に手配が必要な場合は、こちらを利用する様にと、推薦状を五枚預かっている。
私に言ってくれれば、王家の推薦で、その分野の者を五組まで手配しよう」
そこまで話して、俺が上の空な状態になってしまっていることを、見抜かれてしまった。
書面を小机の端に置き、ルオード様は、俺に向き直った。
「……重いか? 成人前の君に、この様な役割は、本来与えるべきではないと、分かっているのだけどね。
この事業は、レイシールでなければならないのだと、私と、クリスタ様の意見は一致した。
ユーズは心配していたけれど……それでも君ならばと言っていたよ。
君は短期間できちんと土嚢壁を作り上げている。民を率いるこういった工事は停滞しやすいんだ。なのに、成し遂げた。素晴らしい手腕だ。
責任は重大だけれど、君ならやれる」
「わ、分かっております。これは、私が始めると決めたことです。責任を伴うことも、負うことも、承知しております。
申し訳ありません……違うのです。その……過大評価されることを、少し、怖いと感じてしまっただけで……」
「過大評価? まさか。そんなわけないだろう。
君は正当に評価されているだけだ。貴族社会に、まだ正式には身を置いていない君は、あまり実感してないかもしれないが……民の声を聞き、動かすというのは、それは難しいことなのだよ」
軍事利用に対し、恐怖を感じているだけだとは言えない。
誤魔化したのだが、俺が自身の評価に謙遜していると解釈してくれた様で、ほっとする。
「とにかく、気負うことはない。私たちが派遣されたからといって、やることは今までは変わらないのだから。
姫は、君のやり方で、君のやりやすい様にと仰せだ。王家から何かしらの注文がつくことは無い。君らからの嘆願通り、支持と、支援金のみ。……まあ、推薦状はちょっとおせっかいかもしれないが、これは極力、成功してほしいという、姫の願いだ。受け取ってくれるかい?」
その言葉に、深く息を吐き、吸う。
腹を括れ。ルオード様の言う通り、今まで通り、やることは変わらないのだ。
深呼吸を繰り返してから、俺は顔を上げた。
「ありがたく、頂戴致します。
ご期待に添えられる様、尽力して参ります」
俺の返事に、ルオード様は優しく微笑んだ。
午前中に今日の仕事を終え、昼食を食べてから、ルオード様を部屋に招いた。
お茶の用意と護衛の為にサヤを伴って。
本来なら仮眠をしてもらわなきゃならないが、今日はルオード様をお招きしたから、そうもいかない。そして、ギルが戻ってしまったから、一人が仮眠をとり、この後に備えるといったことも、無理となった。
サヤたちの負担が増すばかりだ……。
そして、この部屋に居ることの重圧に、俺は汗を拭う。
ルオード様の前で、醜態を晒すわけにはいかない。
けれど、ルオード様と向かい合って座るこの長椅子に、あの時俺は、ギルと共に座って話をしていたのだと思うと、不安が増してくるのだ……。
「では、まずこれを。姫より君宛だ」
とんでもないもの出してきた……。
面識の無い男爵家妾腹の二子なんかに、王族からの書簡なんて。
汗が、恐怖からくる冷や汗なのか、王族の重圧からくるものか、分からなくなってくる。
恐る恐る手を出し、書面を受け取り、内容を確認した。
そこには、女性らしい優美で細い文字が綴られていた。
まさかご本人が書かれているとは思わないが、姫様を象徴する様な美しく整った文字だ。
クリスティーナ・アギー・フェルドナレン。それが、我が国の姫様だ。姫様の母……王妃様は、アギー伯爵家から嫁がれた方である。
幼い頃、姿絵は見たことがあった。雪の様に白い肌、白い髪、そして、紅玉の様な真紅の瞳の、妖精の様な美姫。あまりに儚く見え、溶けてしまうのではないかと、思った覚えがある。
書簡の内容は、土嚢という、新たな発明に対する賛辞にはじまり、セイバーンの繰り返す氾濫に憂慮していること、それを克服しようとすることに対する支持。そして、支援をする用意があるという言葉だった。
手が震える……。マルは、とんでもないことしをしやがった……。
実行する。異母様にも反対させないというのは、こういうことか……。本気で俺に……成人すらしてない上領主代行でしかない、妾腹二子に、この事業の責任者をさせる気なのだ。
王族の支持を得た事業を、男爵家如きが、出来ませんとは言えないものな……。
しかも俺を名指しであるから、異母様や兄上がしゃしゃり出る隙など無い。
誰にも否と言わせない、マルの本気に、背中を汗が伝った。
生唾を飲み込んだ俺の視界の端に、サヤが、不安そうにこちらを見てる姿がある。
従者として失礼のない様、俺たちの会話を、ただ黙って見守っているが、視線が揺れている。
後で書面を見せるとしても、まだ文字が読める様になったばかりの彼女には、遠回しな表現の多い文面は難解だろう。
なので俺は、恐ろしい事が書いてあるわけではないのだと分かる様に、ルオード様に礼を述べた。
「この様なお心遣い……面識も、実績もない私の身に余るものです。
なんと、御礼を申し上げて良いやら……正直、戸惑っているのですが……」
もうほんと、出来ることなら無かったことにしたいくらいに戸惑っている。
クリスタ様は、王妃を多く輩出しているアギー家の方とはいえ、病弱であるし、三十人以上いる兄弟の中で、十数番目のお子だ。まさか姫様に繋がる程に交流があるとは……。それとも、これはクリスタ様の名をお借りしているだけで、ルオード様や、ユーズ様の手なのか……?
だがお二人は、そこまでするほど俺と親しいとは言えないと思う。お二人との縁も、結局はクリスタ様経由なのだ。そう考えれば、やはりこれは、クリスタ様の絡んでいることだと思えた。
マルは俺と面識のある貴族に手紙を出したと言った。きっと、一人や二人じゃない筈だ。学舎にいれば、面識だけは稼げるからな。
なんにしても、絶対に失敗は許されない氾濫対策。それを、更に念押しされた状況となってしまった。
俺の緊張を、ルオード様は察しているのだろう。
サヤの入れてくれたお茶を、静かに一口含んでから、口を開いた。
「姫は、聡明なお方だよ。
将来の、ご自分の成すべきことをきちんと理解されているし、その為に努力されている。
嘆願等をご覧になられるのも、日々の日課だ。その中の一つに、君のものが含まれたというだけのことだよ。
たまたま、私やユーズやクリスタ様が、レイシールと面識があったから、君の人となりを聞かれたけれど、それは、君自身が繋いだ縁だ」
「嘆願は、マルが用意したものです。土嚢だって、私は……」
「マルクスが発案し、彼に総指揮を任せたのだろう?学舎の縁があるとはいえ、自身の部下でもない、街の使用人の一人に。
そのことに、姫はいたく感心されていたよ。
民の意見を拾えるというのは、才能だと。任せることが出来るのも、才能だと。
責任を受け持つことの意味を、この国で一番理解して、受け止めていらっしゃる方だからね」
そう言われ、困ってしまった。
土嚢を教えてくれたのはサヤだし、それを使える形にしているのはマルだし、俺の受け持った部分は、本当に些細で、才能だなんだと褒めそやされるものではないと思う。そもそも、失敗した時にしか責任は問われないのだし。
しかもマルを巻き込んだのだって、サヤの秘密を守る為の手段でもあったわけで……後ろめたい……。
居心地悪くしている俺の様子に、真面目な顔をしていたルオード様が、柔和な笑みを浮かべた。いつもの雰囲気だ。
「とまあ、あまり君に重圧を掛けるのも可哀想だ。
レイシールが、とても奥ゆかしい性質であることはお伝えしている。あまり厚く遇すると、図に乗るどころか、逆に酷く遠慮されてしまう可能性が、とても高いとね」
にこりと笑い、傍に置いてあった小箱に手を伸ばすルオード様。
小さなものが四つ。紙で巻かれ、紐で縛られ、蝋で封印されているものだ。
「なので、これが姫君からだ。
こちらがクリスタ様。ユーズ。そして私から。
雨季後の、河川敷への改良支持と、その支援金。受け取ってほしい」
蝋封は、家紋。家名の下に用意されたという意味だ。これは、重い……。
硬直してしまった俺に、ルオード様は苦笑する。そして「そんなに気負うな」と、俺の前にそれを押し出す。
「文章にはしていないけれど、軍事面の利用法は、とても注目されている。
その為、まず我々が、土嚢の作り方、使い方を知り、活用法を吟味してこいと遣わされたのだよ。
現状、平穏が続いているとはいえ、それがいつまでも続く保証は無い。
隣国二つは王が高齢だし、もう一つは軍事面の強化に余念がないと聞く。備えはいくらでも必要だ。
この土嚢、麻袋だけで、一昼夜にして壁と堀が用意出来るそうじゃないか。とても興味深い。
持参する道具がほぼ必要無いというのも良い。
私もマルクスからの書簡を受け取ったけれどね、とても興味深かった。
午前中の間に土嚢壁も見せてもらったよ。
……壮観だった。土入りの袋とは思えない……あれはもはや城壁だな。君は、凄いものを発見したよ」
手放しで褒められて、俺は膨れ上がる恐怖に心臓を掴まれていた。
軍事面の利用……そう、だ。サヤの国では、本来土嚢は軍隊が扱う技術の一つなのだ。
つまりこれは、人殺しの手助けをする道具でもある。
うぁ………。
どうしよう、怖い……俺は軍事面なんてどうでも良くて、ただ、川の氾濫をどうにか出来ればと……サヤの痕跡を、残せさえすればと……。
「この支援金だけで、君はもう遠慮気味だな。
大丈夫。常識を逸脱するような金額ではないよ。ああ、それとね。初めての試みなのだから、当然試行錯誤だろう? 職人や学者など、専門分野の者に手配が必要な場合は、こちらを利用する様にと、推薦状を五枚預かっている。
私に言ってくれれば、王家の推薦で、その分野の者を五組まで手配しよう」
そこまで話して、俺が上の空な状態になってしまっていることを、見抜かれてしまった。
書面を小机の端に置き、ルオード様は、俺に向き直った。
「……重いか? 成人前の君に、この様な役割は、本来与えるべきではないと、分かっているのだけどね。
この事業は、レイシールでなければならないのだと、私と、クリスタ様の意見は一致した。
ユーズは心配していたけれど……それでも君ならばと言っていたよ。
君は短期間できちんと土嚢壁を作り上げている。民を率いるこういった工事は停滞しやすいんだ。なのに、成し遂げた。素晴らしい手腕だ。
責任は重大だけれど、君ならやれる」
「わ、分かっております。これは、私が始めると決めたことです。責任を伴うことも、負うことも、承知しております。
申し訳ありません……違うのです。その……過大評価されることを、少し、怖いと感じてしまっただけで……」
「過大評価? まさか。そんなわけないだろう。
君は正当に評価されているだけだ。貴族社会に、まだ正式には身を置いていない君は、あまり実感してないかもしれないが……民の声を聞き、動かすというのは、それは難しいことなのだよ」
軍事利用に対し、恐怖を感じているだけだとは言えない。
誤魔化したのだが、俺が自身の評価に謙遜していると解釈してくれた様で、ほっとする。
「とにかく、気負うことはない。私たちが派遣されたからといって、やることは今までは変わらないのだから。
姫は、君のやり方で、君のやりやすい様にと仰せだ。王家から何かしらの注文がつくことは無い。君らからの嘆願通り、支持と、支援金のみ。……まあ、推薦状はちょっとおせっかいかもしれないが、これは極力、成功してほしいという、姫の願いだ。受け取ってくれるかい?」
その言葉に、深く息を吐き、吸う。
腹を括れ。ルオード様の言う通り、今まで通り、やることは変わらないのだ。
深呼吸を繰り返してから、俺は顔を上げた。
「ありがたく、頂戴致します。
ご期待に添えられる様、尽力して参ります」
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