異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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仮面 8

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 サヤは先日、ギルの名を出した。なら、ギルからも何かを聞き出そうとするのではと思ったのだ。
 ギルは部屋に居て、訪れた俺にびっくりした顔を向ける。結局ハインも、俺について来ていた。

「ど、どうした?」
「サヤは、来た?」

 喧嘩のことなんか思考から吹き飛んでいた。
 サヤは先日、クリスタ様が、アギー家のご子息様だと、ギルも知っているのですよねと、わざわざ確認した。

「サヤなら、さっき顔を出したが、もう帰ったぞ」

 素っ気なくそう答える。だが、付き合いの長いギルが、平常通りの態度かどうか、俺が分からないと思う?
 じっと、瞳を見返すと、動揺したように、少し視線を彷徨わせた。
 俺に隠し事、してるって顔だ。

「サヤに何を聞かれた?」
「はぁ?   別に、何も?   単に挨拶しに来ただけだぞ」
「そう。聞かれたんだ。
 それは、クリスタ様のこと?   それとも、王家に関して?」

 ギクリと、ギルが慄いた。
 俺は本気で聞き出すつもりだよ。遠慮しない。そう伝える為に、視線は絶対に逸らさなかった。何を言っても良いよ。だけど俺は、嘘か、本当か、全部見定める。容赦しない。

 ギルの一挙手一投足に目を光らせつつ、サヤがギルに確認しに来たことを、俺も考える。
 そして、サヤがハインやルーシーから聞き出したという、王家の色彩。王家の呪いのことを。

 フェルドナレン王家は、長い歴史を持つ。
 二千年近く続く国家は珍しい。一応、もっと長いと主張している国もあるのだが、内乱で国名が一時期変わったりもしているから、なんとも曖昧だ。
 フェルドナレンの現国王は、百六十七代目。そして、歴史の上ここ最近覚えている限り、殆どの方が白髪か、薄い金髪か、銀髪か……。瞳の色も、淡い場合が多い。現王は、確か薄い紫色だ。
 二千年近い歴史の中で、百六十七代目の現王の、後継とされているのは、唯一のお子。クリスティーナ様。王家は短命で、十五歳を迎えなければ子として数えられない。故に、クリスティーナ様以外のお子がいたのだとしても、分からないのだが……。
 そう。王家は短命だ。それを、呪いなどと言う者もいる。
 現王は長寿の部類に入るだろう。現在四十代、前王は確か、三十代半ばで崩御された。
 白く生まれた方は、賢王であることが多いとされ、喜ばれるのだが、同時に、長く続かないとも言われていた。
 王妃となられる方は、だいたいが公爵家の方だ。国力の低い時代は、他国の姫が嫁がれたりもしたらしいが、ここのところはずっと国内から王妃が誕生している。

「……お前、サヤと何か、あったのか?」

 質問に質問で返されて、少々ムッとした。
 しかし、ギルの表情も真剣になっていたから、これはお互い、探り合うしかないのだと腹を括る。

「答えてくれたら答える」
「……サヤは、クリスタ様の、人となりを聞きに来ただけだ……」

 それも一部であるのだろうけれど、たぶん、本筋は違うことを聞いたんだな。
 ギルに悟られず、情報を引き出そうと思ったなら、ギルがまだ知らないことを伏せて、話をするよな……。サヤは、賢い。それくらいのことは計算尽くでやるだろう。

「ギルは、クリスタ様の病について、サヤから聞いた?」

 ギルは、あの話をしたとき、居なかった。

 俺がクリスタ様の体質のことを言っているのは、付き合いの長いギルだから、ちゃんと察する。
「病……?」と、聞き返してくる。
 そう、やっぱり、聞いてないのか。

「『先天性白皮症』と、言うらしい。サヤの国では、不治の病であるそうだよ。
 体の色を作る構造が、機能しない病なのだそうでね。総じて、肌が白く、瞳の色も薄いことが多いみたいだ。
 そして、クリスタ様の紅い瞳を、その色を作る構造が、全く機能しない方の特徴だと、言った」

 そこまで自分で話して、違和感に気付いた。
 前、サヤはなんて言ってた?
 瞳が紅いのは、色を全く作れない人の特徴で、だけどその場合、髪の色がそぐわないとか、言ってなかったか?
 途中で別の話にすり替わったから、あの時はなんとも、思わなかったけど……。
 同じ特徴の人、もう一人、いらっしゃるよな……。
 正確には、あの方の方が、サヤの言う病の特徴に、最も沿うのだ。

「色を作れない……?」

 ギルが、呆然と、そう呟く。
 クリスタ様は、濃い灰髪、白磁の肌に、紅い瞳……。
 色を作れないなら、髪が濃い灰色であるのはおかしいことになる。
 サヤはフェルドナレン王の色彩を、ハインに確認した。彼の方は、白髪に薄い紫色の瞳。白磁の肌。クリスティーナ様は、白髪に、紅い瞳。白磁の肌。
 そして、ルーシーから王家の呪いの噂を聞いたのだ。じゃあ、ギルからは何を確認する?   それは当然、ギルだからこそ知っているであろうことだ。

「……サヤは、クリスタ様の性別を、確認しに来たのか?」

 そう聞くと、ギルは表情をハッキリと強張らせた。
 そうだ。ギルは、男装していようが、体系を誤魔化していようが、相手の性別を知ってしまえる。服のシワやヨレが、不自然である部分を、察してしまう。
 学舎でギルは、ただクリスタ様にお会いしただけで、分かってしまったはずだ。女性に弱いギルが、男装までして学舎に紛れ込むクリスタ様を、そのまま放置するはず、ない。
 そしてサヤに貸した補正着。あれの本来の持ち主はきっと、クリスタ様なのだ。

「お、お前……いつから……」
「は?   いつって、今だよ。今知った!
 ギルは、どこまで知ってた⁉︎   クリスタ様が、クリスティーナ様だってことも、知ってたのか⁉︎」

 そう言って詰め寄ると、頭を掻きむしって「知るわけがねぇだろ⁉︎」と、呻く。

「……くそっ、ただのもの好きで男装してんじゃねぇとは、思ってたさ。
 だってそうだろ?   学舎は王立だぞ?   そこに、大貴族だろうが、十数番目の姫を、男装させて学舎に行かせる……ましてや、体調のこともあるのに、実行するって、生半可なことじゃねぇよ」

 だから、王家に関わる任に就かれているとか、その辺を想像してた……。と、ギルは弱々しい声で言った。
 まあ、荒唐無稽にも程があるよな……。なんで王家の姫が、男装して、偽名を名乗って、あんな場所に紛れ込むんだ……。
 洗いざらい、知ってることを話すよう、ギルに迫ろうとして、

「レイ殿」

 想定していなかった人の声に、一瞬、体が反応してしまった。
 部屋に居て下さいとお願いしたはずの、ディート殿。
 言い合っていた俺たちの、何を、どこまで聞いたろう?今の今まで気配が無かったってことは、この人、わざとそうして、ここに来たのか?
 振り返ると、腕を組んだディート殿が、ハインを挟んだ後方に居る。

 この人は、近衛だ……。知らないはずが、無い……。

 話の内容と、俺の反応から、何かを察したらしいハインが警戒を強め、腰の剣に手をやるが、実力が違いすぎる……ギルだって、多分、無理だ。ディート殿は、物凄く強い。

「……どうした?」

 俺たちの様子に、何かおかしいと気付いた様子だ。
 ディート殿が、いつでも動ける様に、重心の位置を調節したのが分かった。
 この方は、俺たちがクリスタ様の正体を知ったと知れば……どう、出るだろう……?
 誤魔化す方が良いのか?   けど、この方は、そういった小手先のことに惑わされてくれそうにない……。
 それに、俺を庇って、俺の選択を正しいと言ってくれたディート殿の、あの言葉。
 クリスタ様が姫様であるなら、彼は、仕える相手に対し、異を唱えてくれたということなのだ。
 あれは彼の、本音。誤魔化しも脚色もない言葉だった。

「……ディート殿……。
 クリスタ様の目的は、なんなのです?   何故、性別や名前を偽って、こんな所に?」

 もう、勝負に出ようと思った。
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