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血の中の種 3

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 反対される意味が分からず、暫く放心してしまった。しかしすぐ、ふつふつと、焦りというか、もどかしさの様なものが湧き上がってくる。

「なんで⁉︎」
「厄介ごとに自分から飛び込まないで下さいよ。言ったところで、どうなるものでもありませんし」

 そんな簡単に……状況が分かっているのか⁉︎

「国の存亡が関わっているんだぞ⁉︎   王家がこのまま朽ちていくのを、黙って見ておけというのか?
 血を薄めれば、王家の衰退、死亡率、白い方の生まれる比率を、減らせるかもしれないのに⁉︎
 サヤ!   今からでも別の血を取り込めば、効果はあるのだよな⁉︎」

 俺の問いに、サヤはこくりと頷いて「確証は持てませんが、おそらく……」と答える。是。その回答に、俺の気持ちは高揚した。
 けれど、マルは静かに頭を振る。

「そうですね。減らせるかもしれません。
 でも、それを王家や家臣団が納得して実行してくれるかどうかは、別の話ですよ。
 血に拘るから、上位貴族との婚姻が結ばれているのです。いきなり弊害があるから止めろと言って、習慣を改めるとは思えませんし、止めるとも思えません。
 それに、不敬を咎められる可能性もあります。上位貴族を侮辱していると捉えられてしまったら、レイ様が危険なんです。
 まして、貴方は姫様に夫候補と言われている。そんなことを進言したら、先程の様に、姫様をたぶらかして陰謀を企てているとか、言われかねませんよ?
 王家の政策を否定するわけですから、最悪、反逆罪にだって問われる可能性すらあります」

 冷静な瞳でマルが言う。そのことに、焦燥が募る。
 そりゃ、納得してくれない可能性は高いさ。俺もそう思う。だけど、納得しないだろうから、伝えないというのは、違うだろう⁉︎
 サヤを見る。
 サヤも、心配そうに、俺を見ていた。
 自分の知識の不確かさに不安を抱き、震えつつも、口にしてくれた。
 これも、サヤの残してくれた、痕跡だ。
 この世界を愛してくれたからこそ、我々に選択肢を与えてくれた……。本来なら、選ぶことも出来ず、ただ進むしかなかった破滅への道が、選ぶ事の許されない一本道ではないと、示してくれたのだ。それを、無駄にしたくない!
 そして、姫様……。
 彼の方の苦悩を、望むこと、願うことを許されなかった苦しみを、俺は知っている……知っているのに、俺は助けられたのに、手を差し伸べないだなんて……そんなのは、嫌だ!

「力になると、そうお約束した。
 姫様の苦悩は、俺と一緒だ……それを、これから先の、姫様の子や、孫にまで、強要するだなんて、姫様はきっと、望まれない!
 それに、せっかく知ったことを、知らなかったことにするなんて、嫌だ。
 もう自ら手放したくない……諦めて、捨てるのはもう、終わりにしたいんだ」

 それしか選べないと思っていた。
 そう生まれたのだから仕方がないと、ずっとそう言い聞かせて、自分を納得させてきた。
 だけどそれをする度に苦しくて、悲しくて、だから、初めから持たないことしにた。手に入れなければ、奪われることも、捨てることも無いのだと。
 でもそれで得られるのは虚無だけだった。
 奪われる痛みや捨てる苦しみを味合わないかわりに、ただ、何も無い……。
 結局俺はそれを続けることにも疲れて、もう終わることしか見えなくなっていたんだ。
 姫様も同じだ。
 ただ進むしかなかった破滅への道。
 あの苦しみを、彼の方には味合わせたくない……!

「だってな、俺は今、自分から、何かをしたいと思ってるんだ……。流されるままだった俺が、変えたいって、思ってるんだよ。
 サヤやみんなに手を引いてもらって、やっと少し進んだ。
 そうしたら、見える世界が全然違ったんだ、俺が思うより、ずっと俺は、沢山のものに恵まれていた。
 今回のことだってそうだ。諦めかけた俺を、皆が救い上げてくれたろ?   俺は救われた……お前たちに救われたんだよ!
 だから、姫様にも、知って欲しいんだ。ただ一人で苦しまなくて良いと、一人で背負わなくて良いと!
 皆で考えれば、きっと良い方法があるはずだ、一人で掴むものより、大きなものを得られる筈だ!
 俺は、それをしたい。自分で選んで、足を踏み出したい。もう後悔したくないんだ‼︎」

 焦る気持ちで、言葉が上手く選べない。
 だけど、ただじっとしていたんじゃいけないことだけは、分かる。身体がそれを訴えるのだ。
 知ったなら、知らなかったことにしてはいけない。それを昇華しなければ、価値を生みださなければいけないと思う。
 知識をどう使うか。
 その結果を、俺は今も、身をもって感じているじゃないか。サヤがずっとそれを、教えてくれていた!

「……ふぅ、ややこしいことに首を突っ込むと、大変ですよぅ?」

 呆れた口調で、マルが言う。
 だけどそれ、今更だよな?

「もう突っ込んでるだろ」
「そうですねぇ……もう火中の栗を拾うしか、ないのかなぁ。拾わなければ、灰になるだけですもんね」

 ふぅ、と、息を吐いて、マルが瞳を閉じる。
 膝の上で、拳を握る俺の手に、横から手が添えられた。
 サヤが、俺を見て、微笑む。

「何をお手伝いすれば、良いですか?」

 それに、えもいわれぬ喜びを感じた。 
 サヤが俺を支えてくれようとしていることが、とても幸せだと思えた。これを手放したくないと、強く願う。ただ権力や運命に押し潰されて、何も出来ないまま、手放したくない……!
 サヤ……。俺が絶望の中で見つけた、最高のもの。
 そしてマルが、ふむ。と、呟いてから瞼を開く。

「仕方がないですねぇ……けれど、今のこの、情報不足の中で行動を決めるのは下策です。
 まずは情報収集ですね」

 そう言うとマルは、熟考の時間に入った。
 暫く表情を消して、ブツブツ何かを呟きつつ、頭の図書館で思案に耽る様子を見せる。
 十分程経っただろうか?
 唐突に、口を開いた。

「リカルド様とヴァーリン家周辺の情報を集めます。僕に任せてください。そんなにお待たせしませんから。
 次に、取り急ぎやらないといけないことが、王家の系譜を手に入れることですね。
 こればかりは……有る場所が限られます。三箇所ですね。王家と、アミ大神殿と、おそらく墓所です」
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