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拠点村 19
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昼食がてらの説明を終え、午後からは現場の変更点のすり合わせを行なった。
拡張する部分には、一部林が伸びていたため、まず地均しが必要となる。
「神殿との交渉もあるし、今年いっぱいは話が進む予定もない。本格的に動くのは許可を得てからになるから、水路と地均しだけ進めておけば良い」
「レイ様、この試験畑というものは、どこに移動させれば良いでしょう……」
「ああ、移動させない。幼年院の庭の部分に来るだろう?
食育という考え方があるそうでね、食べ物の大切さを、育てて学ぶのだそうだよ。そういうのに使おうと思って。庭の一環にする」
色付きの紐を杭に結んで、区画の目印を打ち込んでいく。
地均しを二度手間にしてしまったことを詫びたのだが、仕事が増えて長く稼げるなら文句は無いと、皆は笑ってくれた。
「まああれだな。あんな難しいこと考えんだな、お貴族様ってのは」
「お貴族様……かなぁ……レイ様が考えてるだけじゃねぇ?」
「レイ様、毛色が違うからなぁ……」
そんなやりとりも聞こえてきたりするのだが、まあ、奇人扱いは学舎の頃から慣れてる。姫が付かないだけ有難い。
ルカは水路の作業に行ってしまって、結局あれから口をきけてない。それが少々気になるものの、ここ最近の重たい気持ちは随分と、軽くなっていた。
区画の確認が終了し、そろそろ戻る支度を……と、考え出した頃、シェルトに呼び止められた。
「ちょっと良いか。さして時間は、取らせねぇからよ」
「ああ、構わないが……ここでは難しい話か?」
「そうだな……まあついてきてくれや」
そんな風にやりとりをして、シェルトの後に続くこととなった。ハインは馬車の準備に行き、サヤとディート殿だけが俺について来る。
やって来たのはまたもや仮小屋。
今は皆が作業に出ていて、中はがらんと無人だ。
ここは作業員たちの寝泊まりや、休憩ができるように設置してあるのだが、まだ生活ができるような環境が整えられていない。
とはいえ、何かと物騒であるため、毎日何人かがここに残り、交代で泊まり込んでいる。
本来なら夜間の警備を置くべきなのだが、それも人手不足でままならない状況だった。
「色々とすまないな……本来の仕事でないことまで、させている」
「希望者にしかやらせてねぇし、日当だって付いてんだ。文句言う奴なんざいねぇよ」
泊まりの者は、食事のできる環境じゃないから、保存食なんかで夕食を済ませたり、賄いの残りを貰ってやり過ごしたりといった感じらしい。
これもあまり続けると、職人を疲れさせてしまいそうで、気がひける。
「まあ、そりゃ今いいんだよ。
それよりこっちの話だ。あんたには、言っておく方が良いんだろうって思ったからよ」
何か深刻な話なのだろうか……。
少し眉間に力が入る俺に、シェルトは笑った。
「そんな顔する話じゃねぇよ。
今日のことがあったから、ついでにする話だ……まぁ、老婆心ながらってやつだな」
そう前置いてから、少し外の様子を伺う素振りを見せたから、サヤに音を気にしておいてくれと、視線で伝えた。
まあ、ディート殿もいるし、誰かが潜んで来たとしても、心配はしていないのだが。
「あんたの言動からして、メバックでの色々は耳に入ってんだろうし……ここの現場が上手く回っていること、不思議に思わなかったか?」
それには俺もこくりと同意する。
皆が、事情もきちんと伝えていなかった俺に、心を許してくれているのを感じた。
なんで? と、不思議に思ったのも事実。土建組合員だけなら、まぁ……長く接点があるから、理解できるのだけれど……石工や大工らは、この現場からの参加者だ。
それを言うと、シェルトは。
「ありゃな、ウーヴェなんだよ」
と、俺に言った。
「あいつはよ……現場の責任者ってことになってからな、一人一人職人のとこに回って、人集めしたんだ。
石工は俺の伝手があったし、土建の奴らはもうあんたと気心知れてたからよ、まだ良かったんだ。けど大工が集まらなくてな。
組合長に話つけて、遍歴の職人まであたって、あいつが確保したんだ。あんたのことを、そりゃ丁寧に説明してよ」
そんな報告は、一切されていなかった。
眼を見張る俺に、シェルトは苦笑を浮かべて「あいつはあんたに惚れ込んでるからな」と、言う。
「あんたの事業を、絶対に失敗させまいと、全身全霊で挑んでる。
事情は知らねぇが、氾濫対策の時の、あの揉めてたやつが絡んでんだろう?
今も、仕事は楽しそうにやってるし……まぁ、不満はねぇと思うんだがな……。
俺はよ、ウーヴェには……ここの現場の責任者させとくよりも、もっと適した役割があるんじゃないかと思ってんだよ」
「役割……?」
「もうちょっと目をかけてやったらどうだ? 手が足りねぇってわりに、あんたは人を寄せ付けねぇ。そんなに、あいつが信用なんねぇか」
そう言われ、言葉に詰まる……。
それは…………俺の周りが、不穏であるからだ。
ウーヴェには身内がいる。他領に親戚だっている。俺に関わるのは、よくない……。
「ウーヴェが、信用ならないわけじゃ、ないよ。俺の周りが、きな臭いってだけで……彼のせいじゃないんだ」
「あいつは、あんたのためだったらなんだって……」
「違う……なんだってしそうだから、余計に駄目なんだよ……。
ウーヴェは、誠実な男だ。その分、不器用だ……。追い詰めたくないんだよ……」
エゴンのことは、もう済んだことだ。店は取り潰され、資産も没収され、それで充分、罪の贖いは果たした。
なのに彼は、それ以上を俺に返そうとする。こうやって、俺に見えないところでまで、彼は誠意を示す。だから、駄目なんだ。
マルに使われている分には、俺と直接の接点が無い分、安全だし危険は少ない。
そんな風に言う俺に、シェルトは「あんた本当に心配症だなぁ……」と、呆れた声音で言う。
「ブンカケンってやつの店主だってやらせんだからよ、もう割り切れや」
「ここは良いんだよ。国の関わる事業だから、安全だ」
「その国が関わる事業の店主しつつ、あんたの部下もすりゃいいじゃねぇか」
「…………だけど……」
「あのよ……、別に、命を軽く見ろってんじゃねぇんだ。あんたの心配することも、分かっちゃいる。
けどな、あんたはもっと、人を信用すべきだぜ。
なんもかんも隠した上で、駄目だ駄目だって言ってたんじゃよ、なんも伝わらねぇだろうが。
あいつはもう一端の大人で、あんたより十も年上なんだ。世間のことも貴族のことも理解してる。あんたが思うほど、使えない男じゃねぇぞ」
ピシリと言い切られ、俺は口を噤むしかなかった。
そんな俺に「そんなところが、ぺーぺーだっつってんだよ」と、シェルト。
「あんたがやろうとしてることはよ、人を使わねぇでやれることじゃねぇんだ。覚悟を決めやがれ。
とにかく、今はそんだけだ。考えとけや」
シェルトとの話を終え、待機していた馬車に乗り込んだ。
先程の話に、また気持ちが重たくなってしまっていた俺は、ただ黙って窓の外を眺めていたのだが……。
向かいに座っていたディート殿が「使われる側の気持ちとしてはな」と、ふいに話し出す。
「使われる側としては、主人が望むことならば、どんな難題であっても挑む所存だ。
例えばルオード様が、千人の山賊に一騎で挑み生還せよ。と、命じたとしても、俺はそれを成す。
俺にできると思うからその命を与えて下さったと分かるし、その信頼に応えるのが忠義だと思う。
だから、精神論では挑まん。ちゃんと、勝ちを得るために、足掻くし、妥協もしない。
シェルトが言いたかったのはな、そういうことだと思うぞ。
ウーヴェを、信頼してやったらどうだ。俺も、レイ殿には手数が必要だと思う」
影ばかり増やしても駄目だぞ。と、ディート殿。
「ですが……」
「レイ殿……。姫様は、其方に無理難題と言えるほどのことを要求してきたな?
貴殿は無茶振りだと嘆いていたが、どうだ? 無茶振りだからと、投げ出すか?
姫様は、貴殿に無茶を承知でああ命じたが、腹が立ったか?」
「そ、その質問は……狡くないですか……」
「狡いものか。レイ殿は、地方行政官の長となるのだぞ。部下のおらぬ長など、おかしいではないか。
適当な貴族をあてがわれてもどうせ困るのだろうし、自分の好む者を自分で決めれば良いと思うが、どうだ?」
ディート殿の言葉に、頭を抱える羽目になった。
姫様には、返しきれないほどの恩義がある。
だから俺は……と、考えたその時点で、ウーヴェと一緒だ……と、答えが出てしまった。
無茶振りはいつものことで、やらないなんて選択肢はなくて、やれば姫様は「私の目に狂いはなかったな!」と、そう言うのだ。
その言葉が聴きたくて、俺は無理だと思いつつ、いつも、それを無理のままにできない…………。
「…………狡いですよ……」
そして俺は、そうやって、必要とされたかったのだ。
「レイ殿を、皆が支えたいと思っているのが、伝わるな。
あのシェルトにしてもそうだ。
貴族の我らに、あんな風に口をきくと、下手をしたら首が飛ぶ。だがレイ殿に必要な覚悟をああして説いたくれた。
信頼あればこそ……とは言っても、なかなかああはしてもらえぬものだと思うぞ。
期待には答えてやらんとな」
大人を頼れ。と、言われたことが思い出され、それがじんわりと、胸を満たす。
そんな風に言われたこと、今までにあっただろうか……。
もう一度視線を窓の外に戻し、俺は今日の出来事をじっくりと考えた。
転換期なのだということは、理解している。俺の立ち位置は大きく変わろうとしている。
役職を賜る以上、その期待には応えなければならないし、人手は絶対に必要だろう。
国に賜る役職。まだ半年先とはいえ、それまでに実績をあげろと言われている。
なら、村の建設を待っていたのでは、間に合わない……。もう行動を、起こさなければならないのだ。
手数は、圧倒的に、足りていない……だけど今まで、人を遠ざけることしか考えてこなかったから……。
どうすることが一番良いのかが、分からない……。
そもそも成人前の俺は、ただそれだけで侮られようし、そんな俺に関われば、苦労させることになる。
熟考に入った俺を、サヤとディート殿は黙って見守っていたのだけれど、俺はその視線にも上の空で、どうすれば良いのかを考えていた……。
拡張する部分には、一部林が伸びていたため、まず地均しが必要となる。
「神殿との交渉もあるし、今年いっぱいは話が進む予定もない。本格的に動くのは許可を得てからになるから、水路と地均しだけ進めておけば良い」
「レイ様、この試験畑というものは、どこに移動させれば良いでしょう……」
「ああ、移動させない。幼年院の庭の部分に来るだろう?
食育という考え方があるそうでね、食べ物の大切さを、育てて学ぶのだそうだよ。そういうのに使おうと思って。庭の一環にする」
色付きの紐を杭に結んで、区画の目印を打ち込んでいく。
地均しを二度手間にしてしまったことを詫びたのだが、仕事が増えて長く稼げるなら文句は無いと、皆は笑ってくれた。
「まああれだな。あんな難しいこと考えんだな、お貴族様ってのは」
「お貴族様……かなぁ……レイ様が考えてるだけじゃねぇ?」
「レイ様、毛色が違うからなぁ……」
そんなやりとりも聞こえてきたりするのだが、まあ、奇人扱いは学舎の頃から慣れてる。姫が付かないだけ有難い。
ルカは水路の作業に行ってしまって、結局あれから口をきけてない。それが少々気になるものの、ここ最近の重たい気持ちは随分と、軽くなっていた。
区画の確認が終了し、そろそろ戻る支度を……と、考え出した頃、シェルトに呼び止められた。
「ちょっと良いか。さして時間は、取らせねぇからよ」
「ああ、構わないが……ここでは難しい話か?」
「そうだな……まあついてきてくれや」
そんな風にやりとりをして、シェルトの後に続くこととなった。ハインは馬車の準備に行き、サヤとディート殿だけが俺について来る。
やって来たのはまたもや仮小屋。
今は皆が作業に出ていて、中はがらんと無人だ。
ここは作業員たちの寝泊まりや、休憩ができるように設置してあるのだが、まだ生活ができるような環境が整えられていない。
とはいえ、何かと物騒であるため、毎日何人かがここに残り、交代で泊まり込んでいる。
本来なら夜間の警備を置くべきなのだが、それも人手不足でままならない状況だった。
「色々とすまないな……本来の仕事でないことまで、させている」
「希望者にしかやらせてねぇし、日当だって付いてんだ。文句言う奴なんざいねぇよ」
泊まりの者は、食事のできる環境じゃないから、保存食なんかで夕食を済ませたり、賄いの残りを貰ってやり過ごしたりといった感じらしい。
これもあまり続けると、職人を疲れさせてしまいそうで、気がひける。
「まあ、そりゃ今いいんだよ。
それよりこっちの話だ。あんたには、言っておく方が良いんだろうって思ったからよ」
何か深刻な話なのだろうか……。
少し眉間に力が入る俺に、シェルトは笑った。
「そんな顔する話じゃねぇよ。
今日のことがあったから、ついでにする話だ……まぁ、老婆心ながらってやつだな」
そう前置いてから、少し外の様子を伺う素振りを見せたから、サヤに音を気にしておいてくれと、視線で伝えた。
まあ、ディート殿もいるし、誰かが潜んで来たとしても、心配はしていないのだが。
「あんたの言動からして、メバックでの色々は耳に入ってんだろうし……ここの現場が上手く回っていること、不思議に思わなかったか?」
それには俺もこくりと同意する。
皆が、事情もきちんと伝えていなかった俺に、心を許してくれているのを感じた。
なんで? と、不思議に思ったのも事実。土建組合員だけなら、まぁ……長く接点があるから、理解できるのだけれど……石工や大工らは、この現場からの参加者だ。
それを言うと、シェルトは。
「ありゃな、ウーヴェなんだよ」
と、俺に言った。
「あいつはよ……現場の責任者ってことになってからな、一人一人職人のとこに回って、人集めしたんだ。
石工は俺の伝手があったし、土建の奴らはもうあんたと気心知れてたからよ、まだ良かったんだ。けど大工が集まらなくてな。
組合長に話つけて、遍歴の職人まであたって、あいつが確保したんだ。あんたのことを、そりゃ丁寧に説明してよ」
そんな報告は、一切されていなかった。
眼を見張る俺に、シェルトは苦笑を浮かべて「あいつはあんたに惚れ込んでるからな」と、言う。
「あんたの事業を、絶対に失敗させまいと、全身全霊で挑んでる。
事情は知らねぇが、氾濫対策の時の、あの揉めてたやつが絡んでんだろう?
今も、仕事は楽しそうにやってるし……まぁ、不満はねぇと思うんだがな……。
俺はよ、ウーヴェには……ここの現場の責任者させとくよりも、もっと適した役割があるんじゃないかと思ってんだよ」
「役割……?」
「もうちょっと目をかけてやったらどうだ? 手が足りねぇってわりに、あんたは人を寄せ付けねぇ。そんなに、あいつが信用なんねぇか」
そう言われ、言葉に詰まる……。
それは…………俺の周りが、不穏であるからだ。
ウーヴェには身内がいる。他領に親戚だっている。俺に関わるのは、よくない……。
「ウーヴェが、信用ならないわけじゃ、ないよ。俺の周りが、きな臭いってだけで……彼のせいじゃないんだ」
「あいつは、あんたのためだったらなんだって……」
「違う……なんだってしそうだから、余計に駄目なんだよ……。
ウーヴェは、誠実な男だ。その分、不器用だ……。追い詰めたくないんだよ……」
エゴンのことは、もう済んだことだ。店は取り潰され、資産も没収され、それで充分、罪の贖いは果たした。
なのに彼は、それ以上を俺に返そうとする。こうやって、俺に見えないところでまで、彼は誠意を示す。だから、駄目なんだ。
マルに使われている分には、俺と直接の接点が無い分、安全だし危険は少ない。
そんな風に言う俺に、シェルトは「あんた本当に心配症だなぁ……」と、呆れた声音で言う。
「ブンカケンってやつの店主だってやらせんだからよ、もう割り切れや」
「ここは良いんだよ。国の関わる事業だから、安全だ」
「その国が関わる事業の店主しつつ、あんたの部下もすりゃいいじゃねぇか」
「…………だけど……」
「あのよ……、別に、命を軽く見ろってんじゃねぇんだ。あんたの心配することも、分かっちゃいる。
けどな、あんたはもっと、人を信用すべきだぜ。
なんもかんも隠した上で、駄目だ駄目だって言ってたんじゃよ、なんも伝わらねぇだろうが。
あいつはもう一端の大人で、あんたより十も年上なんだ。世間のことも貴族のことも理解してる。あんたが思うほど、使えない男じゃねぇぞ」
ピシリと言い切られ、俺は口を噤むしかなかった。
そんな俺に「そんなところが、ぺーぺーだっつってんだよ」と、シェルト。
「あんたがやろうとしてることはよ、人を使わねぇでやれることじゃねぇんだ。覚悟を決めやがれ。
とにかく、今はそんだけだ。考えとけや」
シェルトとの話を終え、待機していた馬車に乗り込んだ。
先程の話に、また気持ちが重たくなってしまっていた俺は、ただ黙って窓の外を眺めていたのだが……。
向かいに座っていたディート殿が「使われる側の気持ちとしてはな」と、ふいに話し出す。
「使われる側としては、主人が望むことならば、どんな難題であっても挑む所存だ。
例えばルオード様が、千人の山賊に一騎で挑み生還せよ。と、命じたとしても、俺はそれを成す。
俺にできると思うからその命を与えて下さったと分かるし、その信頼に応えるのが忠義だと思う。
だから、精神論では挑まん。ちゃんと、勝ちを得るために、足掻くし、妥協もしない。
シェルトが言いたかったのはな、そういうことだと思うぞ。
ウーヴェを、信頼してやったらどうだ。俺も、レイ殿には手数が必要だと思う」
影ばかり増やしても駄目だぞ。と、ディート殿。
「ですが……」
「レイ殿……。姫様は、其方に無理難題と言えるほどのことを要求してきたな?
貴殿は無茶振りだと嘆いていたが、どうだ? 無茶振りだからと、投げ出すか?
姫様は、貴殿に無茶を承知でああ命じたが、腹が立ったか?」
「そ、その質問は……狡くないですか……」
「狡いものか。レイ殿は、地方行政官の長となるのだぞ。部下のおらぬ長など、おかしいではないか。
適当な貴族をあてがわれてもどうせ困るのだろうし、自分の好む者を自分で決めれば良いと思うが、どうだ?」
ディート殿の言葉に、頭を抱える羽目になった。
姫様には、返しきれないほどの恩義がある。
だから俺は……と、考えたその時点で、ウーヴェと一緒だ……と、答えが出てしまった。
無茶振りはいつものことで、やらないなんて選択肢はなくて、やれば姫様は「私の目に狂いはなかったな!」と、そう言うのだ。
その言葉が聴きたくて、俺は無理だと思いつつ、いつも、それを無理のままにできない…………。
「…………狡いですよ……」
そして俺は、そうやって、必要とされたかったのだ。
「レイ殿を、皆が支えたいと思っているのが、伝わるな。
あのシェルトにしてもそうだ。
貴族の我らに、あんな風に口をきくと、下手をしたら首が飛ぶ。だがレイ殿に必要な覚悟をああして説いたくれた。
信頼あればこそ……とは言っても、なかなかああはしてもらえぬものだと思うぞ。
期待には答えてやらんとな」
大人を頼れ。と、言われたことが思い出され、それがじんわりと、胸を満たす。
そんな風に言われたこと、今までにあっただろうか……。
もう一度視線を窓の外に戻し、俺は今日の出来事をじっくりと考えた。
転換期なのだということは、理解している。俺の立ち位置は大きく変わろうとしている。
役職を賜る以上、その期待には応えなければならないし、人手は絶対に必要だろう。
国に賜る役職。まだ半年先とはいえ、それまでに実績をあげろと言われている。
なら、村の建設を待っていたのでは、間に合わない……。もう行動を、起こさなければならないのだ。
手数は、圧倒的に、足りていない……だけど今まで、人を遠ざけることしか考えてこなかったから……。
どうすることが一番良いのかが、分からない……。
そもそも成人前の俺は、ただそれだけで侮られようし、そんな俺に関われば、苦労させることになる。
熟考に入った俺を、サヤとディート殿は黙って見守っていたのだけれど、俺はその視線にも上の空で、どうすれば良いのかを考えていた……。
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