異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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作戦決行 5

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 服を着替えを終え、サヤが用意してくれたという革製品を身に付け、腰の後ろには短剣を。いつの間にやら三つ編みを習得していたハインが、俺の髪を結って支度を終えて。
 戻ったら、もう作戦会議の準備が整えられ、進められていた。
 執務室横の会議室に揃ったのは、俺、ハイン、シザー、マル、ジェイドと、ジーク、アーシュ、ユスト。更に、偽装傭兵団の班長が四人。
 そのままマルの本館制圧作戦を説明されたのだが、言ってみれば強行突破だった。

「だってねぇ……全員戦力として数えたとしても、三十人そこらですし。
 大人数でかかってこられたらどうしようもないんですよ。
 その上、レイ様はセイバーン兵を極力巻き込みたくないとお考えですし」

 そう言うマルに、無茶を言ってごめんと心の中で謝る。
 館の兵力を総動員すれば、俺たちなんてひとたまりもないだろう。夜明け前の急襲を仕掛けるとはいえ、それでも警備や夜間勤務中の衛兵や騎士は三倍をくだらない。
 それに対しこちらは非正規兵二十人とジークら三人。更に俺を含む戦力外三人に、ハイン、シザーだ。
 非正規兵とはいえ、傭兵団の彼らはそこそこの腕前であるという。試験さえ受ければ合格であろう実力がありつつ、それを成せていない者らだ。
 例えば試験を受けるだけの準備資金が無いであったり、媚びるのを嫌いおもねらなかったり……そんな理由で。
 そもそも、騎士となるためには自身の馬と鎧が必要とされるため、平民には相当敷居が高い。しかも装備の維持管理にだって金は掛かる。
 だから、従者や兵士として下積みを重ね、資金を工面し、上にいかに気に入られるかが重要であったりするのだ。上司に騎士となるよう望まれれば、それなりの援助も環境も、期待できるのだから。
 つまり……剣の所持はともかく防具に関しては持っていない者も多く、武装も薄い。
 それで一人につき三人以上を相手取るには……正直無理がある。
 まぁ、全身を鎧で固められても、煩いし機動力に欠けるので、今回の急襲に関しては装備が整っていなくとも良いのだが。

「俺たちだって、セイバーン兵は極力相手したくないよな……」
「明日の同僚と揉めたくなんてありませんしね。
 作戦が成功して、せっかく平和になったって、この作戦で殉職した兵の身内は良い気分じゃないだろうってのは、よく分かりますから」
「あぁ……しかも仕えるべきと思っていた相手が領主様を拉致監禁してた悪党でした。じゃ、俺なら死んでも死にきれない……」
「だけど家族守るためだとなぁ……どうしてもって場合あるよなぁ」
「正直板挟みだよな……こっちもあっちも」

 隊の班長が渋面で頷きあう。
 因みに、班長というのは五人に一人選ばれている。つまり五人隊が四つあるわけだ。

「まあそれでですね、まずは懐柔作戦でいこうかと。
 夜間警備って、基本セイバーン村に居を構える者たちです。当然家族が近場にいる。
 領主様が健在であった頃は、領主様自身にも多く関わっている者たちです。
 なので、領主様の置かれた状況を、堂々と宣言し、こちらの正当性を主張して兵らの混乱を誘います。本来の主人の現在を詳らかに伝えるんですよ。
 正直、異母様に好きで仕えてる人、あまりいないと思うんですよねー。
 レイ様が自身の正しさを声高く宣言されれば、場合によっては味方についてくれるかもしれません。
 その上で『迷う者は、見なかったことにしろ』と、逃げ道を用意します。
 つまり、僕たちに気付かなかったふりをしたり、倒されたふりしておけば、攻撃対象にはしませんよと宣言するんですね」
「それ……言って実行してくれますかね?」
「それに、ジェスルの者が紛れてても見逃しそうですが……」

 班長らが困惑顔でそう呟く。
 するとマルは、ムフフと笑った。

「田舎の村をなめてもらっちゃ困りますよぅ。
 兵士の名前、家族構成、最近の夫婦喧嘩の内容から、幼少期のおねしょの回数まで、大体村人全員が、把握済みですよ」
「ま、マジですか⁉︎」

 いや、さすがに大袈裟だよ……。

「まあつまりね、誰がジェスルかそうでないかは、皆理解してます。誤魔化せませんよ。
 それに、レイ様は、案外この村で上手く過ごしてるんです。
 レイ様が兵や使用人らと関わらなかったのは、彼らを守るため。
 それだってちゃんと、伝わってると、僕は読んでます。
 でなければ、説明がつかない部分が、沢山あるんですよねぇ」

 にこにこと笑うマル。
 正直、正気を疑う台詞だ。
 村人の心なんて、押し計れやしないのに、楽観的すぎる。班長らの表情は、まさにそんな感じ。

「あなた方はまだレイ様との縁が薄いですからねぇ、納得できないのも分かります。
 でもね、レイ様が村で農家に混じって作業しているところ、十六歳からハインと二人で孤軍奮闘しているところ、別館を農民の避難小屋がわりに利用したいと異母様に提案し、断られて凹んでたところ、村の子供の怪我に自分が怪我したみたいな顔してるところ、食事処を作ったり、湯屋を作ったり、気さくに村人と話してたり、案外偉い方々がレイ様と懇意にしてたり……。そんな全部を皆、見てきてるんですよ。
 レイ様は一見頼りなさげですが、実は優秀で、だけど偉ぶらなくて、優しい人で、有言実行の人だということも、理解してます。
 自分たちを大切にしてくれる。寝てたら攻撃対象にしませんよと宣言したなら、絶対にそうしてくれる。身内にも累が及ばないようにしてくれるってね。
 だから、僕はレイ様が本気でお願いしたら、案外結構なことでも聞いてくれると、思うんですよねぇ……」

 マルは、「思う」だけでそんなことは口にしない。それなりに情報を集め、分析をし、ありとあらゆる可能性を検証した上で、そう発言してる。
 だから、彼が口にすることは、かなり信頼度が高い。そう、知ってはいるのだけど……。

 そう……なのだろうか……。
 でもメバックでは……。

 ブンカケンを提案した際の、はじめの反応は、そんな甘いものじゃなかった……。
 そう考えてうつむく俺に、マルがまた、笑いかけてきた。

「レイ様が一番関わって、大切にしてきた場所です。なに、試す分には時間も費用もかかりませんし、やって損は無いですよ」
「けど……聞いてもらえなければ、皆をより、危険に晒す……」
「聞いてもらえなければ強行突破で目標の捕縛。少人数の鉄則を遂行するだけのことです。どっちにしたってやることは一緒ですよ」
「…………そうだけど、急襲の意味がなくなるだろ」
「それはね、こちらの正当性を主張するためにも、裏からこそこそ行動するより、堂々と見せた方が良いと思うんです。あ、セイバーン兵にですよ?
 この作戦が成功したところで、レイ様が後々後ろ指さされるようでは、今後に影響します。
 後ろ暗いところはないと示しておきましょう。なに、宣言に数分使ったってさして変わりませんよ」

 結局、マルの主張が通り、一応正当性を宣言して行動を起こす……という、急襲らしくない作戦で決定となった。
 領内の、本来は味方であるセイバーン兵を相手にする数が、少しでも減るならその方が良い。
 結果、こちらを見ないふりしている、倒れて寝たふりしている等、戦う意思の無い者は攻撃対象にしないと決められた。

「ジェスルとの簡単な見分け方も一応伝えておきますねぇ。
 一般衛兵は全てセイバーンの者です。使用人、騎士はジェスルと混在してますが、セイバーンの者は装飾にこだわりが薄いですし、ジェスルに目をつけられたくないですから、簡素な服装の者が多いです。これだけで随分標的は絞れるでしょうから、後は各自、油断の無いようにね」
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