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夜会 6
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周りを意識することを忘れていた自分に気付いたけれど、もう遅い。痛みが襲う覚悟を固めたら、その手は何故か、俺の代わりにライアルドの襟元を掴んだ。
……ん?
「レイシール。いつまでたっても戻らぬではないか。私を待たせるとはいい度胸だな」
俺の手を遮り、ライアルドを吊り上げた人物。それはまさかのリカルド様。
公爵家の嫡子であり、騎士団の将。そしてつい先日まで姫様の夫となるフェルドナレン王候補の筆頭であったこの方を、知らない伯爵家の者はいないだろう。
そしてリカルド様は……猛々しい武将として名を馳せている人だ。
そんな人が、蒼白になったライアルドを、細めた目で見下ろす。
「所属を言え。見た覚えのある顔だ……。
軍属とは思えぬ、使えない身体の持ち主だな。これでは進軍時、どこに配属しても足枷ではないか」
俺からすれば演技だと丸分かりなのだけど、この方を言われるままの気質だと思い込んでいるだろう世間一般の方々には、あまりに凶悪に見える顔だろう。
首元を締め上げられて口がきけないのは分かっているだろうに、リカルド様は手を緩めない。ギロリと従者に視線をやると、震え上がった彼らは簡単にライアルドの所属を口にしてしまった。
「春から特別訓練だな。一度軍全体の実力査定をする必要があると判明した。
レイシール、交易路計画。あれに放り込めば、体力だけは嫌でも養えるな」
「……それは、まぁ……でも正確性を求められる緻密な作業です。できなかったでは困りますよ」
「なに、規格に到達しないならば何度でも一からやり直せば良い。
私の求める速さで、私の求める練度に到達せぬ者など、許しはせぬ」
あー……それ、夏にもやってましたよねぇ……。
土嚢十袋を休憩なく作り上げることを、何度もやり直しさせられていたあの時の従者の方々……どうしてるんだろうなぁ……。
「求められる技能が備わるまで鍛え上げてやろう。
安心しろ、私は気が長い……きちんと育ちきるまで、見捨てたりはせぬ」
獰猛な笑顔でそう言い、サッと手を振ると、今まで散っていたリカルド様の配下の方が静かに現れた。
お一人ではないと思ってはいたけれど……従者の質が全然違うな。
ライアルドの一行は、リカルド様の従者方に連行されて姿を消した。多分……会場の外へと連れ出されたのだろう。
結局……俺、何もしてないっていう……。
なんとも居心地悪い感じになってしまった。
「レイシール様!」
そんな中、場が収まるのを待っていたらしいサヤが、父上の車椅子を押してやって来て、駆け寄ってきた。俺の手を取り、怪我がないかを確認する。
「いや、こんな場でそこまで争わないから、大丈夫」
「ならなんで私を連れて行ってくれなかったんですか!」
「父上をお願いしていたろう?」
「ああいう時は、私が前に立つべきです!」
従者だから。と、言うならば、それは違う。
「違うよ。前も言った。ああいうのは、俺の役目だ。
あいつは、サヤのことだってきっと馬鹿にした……。サヤの耳を穢すような言葉を、間近で聞かせたくなんかない」
「だけどっ、万が一があれば、多勢に無勢でした!」
「万が一があれば責められるのは俺じゃない。あの方々だよ。
公の場で、一人を相手に数人がかりで暴力沙汰なんて、どうやったって弁明できないし、させやしない。それくらいの舌戦はこなせるから」
「そういうことやない、酷い怪我してしもたらどないするんかって言うてる!」
「しないよ。そこまで身体を鈍らせてないし」
そもそも、さして役にも立ってないのに、そんな風に心配されるのは恥ずかしい……。
苦笑する俺に、サヤはもう!と、怒ってしまった。
そんな俺たちのやり取りを、呆れ顔で見ていたのはリカルド様だ。
「まったく、伯爵家相手にお前は……。何故私を呼ばない」
「リカルド様が出てくるような相手ではなかったでしょうに。……でも、ありがとうございます。
申し訳ありませんでした、手を煩わせてしまって……」
「おおごとにせぬようにという配慮は分かるが……やるならば、もう少し頭を冷やしてことに当たれ」
「本当、そうでした……。お恥ずかしい。未熟ですね、俺……」
本当は、ライアルドを怒らせないよう、うまく立ち回らなきゃならなかった。
だけど、冒頭から俺は、頭に血を上らせていて、元からそんな考えなど、微塵も無かった。
サヤの拾った言葉から、オリヴィエラ様が剣術を嗜んでいることを揶揄されているのだということは分かっていて、ホーデリーフェ様を庇っていらっしゃるのが見えた時点で、本来の標的は彼女であり、それを庇ったオリヴィエラ様が槍玉に挙げられたのだと理解していたのに……。
其方、あれの家に恨みを買ったぞ。と、リカルド様。でもそれ、リカルド様が半分肩代わりしてくださったようなものじゃないですか。
「まぁ、あのような小者では、たかが知れておるが」
そう言って息を吐く。
「セイバーン殿。其方の後継は思っておったより短気だぞ」
「サヤをも冒涜されたと感じたのでしょう。
これは己の華に心魂を捧げるほどなので」
「もう少し落ち着かせよ。これではサヤを揶揄される度に血の雨が降りかねん」
「そこまで短気じゃないですってば……」
どうだかな。という顔で睨まれて、俺は肩を竦め、苦笑するしかなかった。
そんな俺の視界の端で、檸檬色が翻る。顔を上げると、オリヴィエラ様が、ホーデリーフェ様を伴って、俺たちの前に気まずそうな顔で立っていた。
「……アギー二十二子。オリヴィエラと申します。此度は……」
「要らぬ。私はそこなレイシールをさっさと連れ戻したかっただけゆえな」
リカルド様へ謝辞を述べにきたであろうオリヴィエラ様に、リカルド様は興味無いとばかりに言い捨てる。
そして……。
「礼ならば、そこな二人だ。運が良かったな」
気付いてもらえて……。と、言外に言うリカルド様。
それでいよいよ、オリヴィエラ様は俺に向き合うしかなくなってしまった。
視線を逸らし、いたたまれない心地を必死で押し殺しているような、そんな表情。
同じく居心地悪い思いをしていた俺は何を言うべきか迷い……結局俺の代わりに、サヤが動いた。
「あの、先日は茶会にお招きいただき、ありがとうございました。
それから……偽りを述べていたことを、お許しください。
普段、私はあの通り、従者をしておりまして。その都合上、男装しております」
進み出て頭を下げたサヤに、オリヴィエラ様は息を呑んだ。
先程、会場入りの際に足を止めていらっしゃったし、サヤには気付いていただろう。
けれど、いざサヤを目の前にすると、どう反応して良いやらと、困ってしまった様子。
言葉の出ないオリヴィエラ様に変わって、前に進み出たのは、ホーデリーフェ様だった。
「先日は、家名を述べておりませんでした。
ヘイスカリ子爵家が九子、ホーデリーフェにございます。
先程は、本当に、ありがとうございました。
実は私、イングクス伯爵家ライアルド様の従者であります、ナイセル子爵家ヒルリオ様より、求婚を受けております。
何度もお断りさせていただいたのですが……なかなかそれを、受け入れていただけず……本日も……」
「そうでしたか……。
ですが、当面はご安心いただけると思いますよ。
不可抗力でしたが、リカルド様が手を差し伸べてくださいましたから」
「あれでは数年掛かろうな」
まるで聞こえてない風であったのに、そんな言葉を挟んでくださるリカルド様。
数年は婚姻など考えていられない程にしごいてやるという意味だろう。いや、頼もしい……。
それを聞いてホーデリーフェ様は、泣きそうな……ホッとしたような笑みを見せた。そして……。
「オリヴィエラ様、レイシール様、なんとお礼を申し上げて良いか……。特にオリヴィエラ様には、どうお詫びして良いやら……私のせいで、ライアルド様と……」
「いえ……あれは……私が勝手に、口を挟んだの。お気になさらないで……」
控えめにそう言ったオリヴィエラ様であったけれど、サヤは彼女に、思うところがあった様子。
「私、リヴィ様の勇気には、感服致しました。
……私は……あんな風に言われて、心を折らないリヴィ様を、尊敬します」
熱のこもった声でそう言い、強い視線をオリヴィエラ様に向けるサヤ。
それにはホーデリーフェ様も同意の様子。何度も何度も頷き、目元を拭う。
「そうですわね。私なら、泣いてしまいます……。
サヤ様も。まさか女性の方であったとは、思いもよりませんでしたわ。
でも……レイシール様の華でらっしゃるなんて、貴女はとても幸福ね。
お優しい方とは思っておりましたけれど……本当はとても凛々しくて勇敢な方ですのね。
このような素晴らしい殿方に、あんな風に言っていただけるほどに、愛されているなんて……」
「あっ、はいっ。いえっ⁉︎ あの……は、はぃ……本当に……私には、過分な程で……」
なにもしてないのに褒め倒される居心地悪さったらないな……。
でも、どうやら彼女らは、サヤを否定的に見たりはしない様子。
そのことにホッとした。
まだ少し、オリヴィエラ様の様子は気になったけれど、女性三人が語り合う姿は微笑ましい。
もう一度、リカルド様に「ありがとうございます」と礼を述べると、ふん。と、呆れ顔をされてしまった。
そうして、少し逡巡したのち、忠告だけはしておこうと思ったのだろう……。
「先程の会話は、サヤがこちらにも伝えてくれていた。サヤは本当に……多才よな。
だがレイシールよ。あれが、通常の感覚だ。残念ながらな。
この国において、女性というのは嫋やかであるべきという思想が根強い。あそこまでとは言わぬが、大抵良い顔はされまい。
あのぼんくらは唾棄すべき小者であったが、あれが例外と思うなよ」
「……心得ております。
ですが俺は……リカルド様が、サヤをちゃんと認めてくださっていたことが、嬉しかったですよ」
「……ふん、投げ飛ばされておるのだぞ、私は。しかも、剣を持ってすら……。武人として、目の当たりにした実力差を認められぬは、その方が恥だ。
そもそもクリスという前例があるのだぞ」
女性でありながら王となるべく努力をしてきたクリスティーナ様。
彼の方も男装していたし、剣術を身に付けていらっしゃる。まぁ、サヤの強さは規格外として、女性の武術者に偏見を持つということは、リカルド様にとって姫様の努力を踏みにじることなのだろう。
そんな風に思ってくださる方がいらっしゃる……そのことが、有難かった。
「……だがこれも……起こるべくして起こったということだな……。
近い将来、似た例はいくらでも転がることになる。
其方は、本当に多難よな……。まあ仕方がないと諦めるほかないが」
「はい?」
「こちらの話だ。その点は、サヤが成人前で良かったではないか。
早々に手放す必要は無いのだからな……」
「え、あの……なんです?」
なにやらとてつもなく不穏なことを言われた気がする……。
眉間にしわを寄せていると、なにやらこちらに急ぎ足でやってくる方を発見した。ホーデリーフェ様のお身内かな? リカルド様に慌て、必死で挨拶するその方々に、当のリカルド様が根を上げた。
「レイシール、また後で時間を寄越せ」
「あっ、はい!」
ヘイスカリ子爵家の方の挨拶を適当にいなし、さっさと立ち去ってしまった。
……ん?
「レイシール。いつまでたっても戻らぬではないか。私を待たせるとはいい度胸だな」
俺の手を遮り、ライアルドを吊り上げた人物。それはまさかのリカルド様。
公爵家の嫡子であり、騎士団の将。そしてつい先日まで姫様の夫となるフェルドナレン王候補の筆頭であったこの方を、知らない伯爵家の者はいないだろう。
そしてリカルド様は……猛々しい武将として名を馳せている人だ。
そんな人が、蒼白になったライアルドを、細めた目で見下ろす。
「所属を言え。見た覚えのある顔だ……。
軍属とは思えぬ、使えない身体の持ち主だな。これでは進軍時、どこに配属しても足枷ではないか」
俺からすれば演技だと丸分かりなのだけど、この方を言われるままの気質だと思い込んでいるだろう世間一般の方々には、あまりに凶悪に見える顔だろう。
首元を締め上げられて口がきけないのは分かっているだろうに、リカルド様は手を緩めない。ギロリと従者に視線をやると、震え上がった彼らは簡単にライアルドの所属を口にしてしまった。
「春から特別訓練だな。一度軍全体の実力査定をする必要があると判明した。
レイシール、交易路計画。あれに放り込めば、体力だけは嫌でも養えるな」
「……それは、まぁ……でも正確性を求められる緻密な作業です。できなかったでは困りますよ」
「なに、規格に到達しないならば何度でも一からやり直せば良い。
私の求める速さで、私の求める練度に到達せぬ者など、許しはせぬ」
あー……それ、夏にもやってましたよねぇ……。
土嚢十袋を休憩なく作り上げることを、何度もやり直しさせられていたあの時の従者の方々……どうしてるんだろうなぁ……。
「求められる技能が備わるまで鍛え上げてやろう。
安心しろ、私は気が長い……きちんと育ちきるまで、見捨てたりはせぬ」
獰猛な笑顔でそう言い、サッと手を振ると、今まで散っていたリカルド様の配下の方が静かに現れた。
お一人ではないと思ってはいたけれど……従者の質が全然違うな。
ライアルドの一行は、リカルド様の従者方に連行されて姿を消した。多分……会場の外へと連れ出されたのだろう。
結局……俺、何もしてないっていう……。
なんとも居心地悪い感じになってしまった。
「レイシール様!」
そんな中、場が収まるのを待っていたらしいサヤが、父上の車椅子を押してやって来て、駆け寄ってきた。俺の手を取り、怪我がないかを確認する。
「いや、こんな場でそこまで争わないから、大丈夫」
「ならなんで私を連れて行ってくれなかったんですか!」
「父上をお願いしていたろう?」
「ああいう時は、私が前に立つべきです!」
従者だから。と、言うならば、それは違う。
「違うよ。前も言った。ああいうのは、俺の役目だ。
あいつは、サヤのことだってきっと馬鹿にした……。サヤの耳を穢すような言葉を、間近で聞かせたくなんかない」
「だけどっ、万が一があれば、多勢に無勢でした!」
「万が一があれば責められるのは俺じゃない。あの方々だよ。
公の場で、一人を相手に数人がかりで暴力沙汰なんて、どうやったって弁明できないし、させやしない。それくらいの舌戦はこなせるから」
「そういうことやない、酷い怪我してしもたらどないするんかって言うてる!」
「しないよ。そこまで身体を鈍らせてないし」
そもそも、さして役にも立ってないのに、そんな風に心配されるのは恥ずかしい……。
苦笑する俺に、サヤはもう!と、怒ってしまった。
そんな俺たちのやり取りを、呆れ顔で見ていたのはリカルド様だ。
「まったく、伯爵家相手にお前は……。何故私を呼ばない」
「リカルド様が出てくるような相手ではなかったでしょうに。……でも、ありがとうございます。
申し訳ありませんでした、手を煩わせてしまって……」
「おおごとにせぬようにという配慮は分かるが……やるならば、もう少し頭を冷やしてことに当たれ」
「本当、そうでした……。お恥ずかしい。未熟ですね、俺……」
本当は、ライアルドを怒らせないよう、うまく立ち回らなきゃならなかった。
だけど、冒頭から俺は、頭に血を上らせていて、元からそんな考えなど、微塵も無かった。
サヤの拾った言葉から、オリヴィエラ様が剣術を嗜んでいることを揶揄されているのだということは分かっていて、ホーデリーフェ様を庇っていらっしゃるのが見えた時点で、本来の標的は彼女であり、それを庇ったオリヴィエラ様が槍玉に挙げられたのだと理解していたのに……。
其方、あれの家に恨みを買ったぞ。と、リカルド様。でもそれ、リカルド様が半分肩代わりしてくださったようなものじゃないですか。
「まぁ、あのような小者では、たかが知れておるが」
そう言って息を吐く。
「セイバーン殿。其方の後継は思っておったより短気だぞ」
「サヤをも冒涜されたと感じたのでしょう。
これは己の華に心魂を捧げるほどなので」
「もう少し落ち着かせよ。これではサヤを揶揄される度に血の雨が降りかねん」
「そこまで短気じゃないですってば……」
どうだかな。という顔で睨まれて、俺は肩を竦め、苦笑するしかなかった。
そんな俺の視界の端で、檸檬色が翻る。顔を上げると、オリヴィエラ様が、ホーデリーフェ様を伴って、俺たちの前に気まずそうな顔で立っていた。
「……アギー二十二子。オリヴィエラと申します。此度は……」
「要らぬ。私はそこなレイシールをさっさと連れ戻したかっただけゆえな」
リカルド様へ謝辞を述べにきたであろうオリヴィエラ様に、リカルド様は興味無いとばかりに言い捨てる。
そして……。
「礼ならば、そこな二人だ。運が良かったな」
気付いてもらえて……。と、言外に言うリカルド様。
それでいよいよ、オリヴィエラ様は俺に向き合うしかなくなってしまった。
視線を逸らし、いたたまれない心地を必死で押し殺しているような、そんな表情。
同じく居心地悪い思いをしていた俺は何を言うべきか迷い……結局俺の代わりに、サヤが動いた。
「あの、先日は茶会にお招きいただき、ありがとうございました。
それから……偽りを述べていたことを、お許しください。
普段、私はあの通り、従者をしておりまして。その都合上、男装しております」
進み出て頭を下げたサヤに、オリヴィエラ様は息を呑んだ。
先程、会場入りの際に足を止めていらっしゃったし、サヤには気付いていただろう。
けれど、いざサヤを目の前にすると、どう反応して良いやらと、困ってしまった様子。
言葉の出ないオリヴィエラ様に変わって、前に進み出たのは、ホーデリーフェ様だった。
「先日は、家名を述べておりませんでした。
ヘイスカリ子爵家が九子、ホーデリーフェにございます。
先程は、本当に、ありがとうございました。
実は私、イングクス伯爵家ライアルド様の従者であります、ナイセル子爵家ヒルリオ様より、求婚を受けております。
何度もお断りさせていただいたのですが……なかなかそれを、受け入れていただけず……本日も……」
「そうでしたか……。
ですが、当面はご安心いただけると思いますよ。
不可抗力でしたが、リカルド様が手を差し伸べてくださいましたから」
「あれでは数年掛かろうな」
まるで聞こえてない風であったのに、そんな言葉を挟んでくださるリカルド様。
数年は婚姻など考えていられない程にしごいてやるという意味だろう。いや、頼もしい……。
それを聞いてホーデリーフェ様は、泣きそうな……ホッとしたような笑みを見せた。そして……。
「オリヴィエラ様、レイシール様、なんとお礼を申し上げて良いか……。特にオリヴィエラ様には、どうお詫びして良いやら……私のせいで、ライアルド様と……」
「いえ……あれは……私が勝手に、口を挟んだの。お気になさらないで……」
控えめにそう言ったオリヴィエラ様であったけれど、サヤは彼女に、思うところがあった様子。
「私、リヴィ様の勇気には、感服致しました。
……私は……あんな風に言われて、心を折らないリヴィ様を、尊敬します」
熱のこもった声でそう言い、強い視線をオリヴィエラ様に向けるサヤ。
それにはホーデリーフェ様も同意の様子。何度も何度も頷き、目元を拭う。
「そうですわね。私なら、泣いてしまいます……。
サヤ様も。まさか女性の方であったとは、思いもよりませんでしたわ。
でも……レイシール様の華でらっしゃるなんて、貴女はとても幸福ね。
お優しい方とは思っておりましたけれど……本当はとても凛々しくて勇敢な方ですのね。
このような素晴らしい殿方に、あんな風に言っていただけるほどに、愛されているなんて……」
「あっ、はいっ。いえっ⁉︎ あの……は、はぃ……本当に……私には、過分な程で……」
なにもしてないのに褒め倒される居心地悪さったらないな……。
でも、どうやら彼女らは、サヤを否定的に見たりはしない様子。
そのことにホッとした。
まだ少し、オリヴィエラ様の様子は気になったけれど、女性三人が語り合う姿は微笑ましい。
もう一度、リカルド様に「ありがとうございます」と礼を述べると、ふん。と、呆れ顔をされてしまった。
そうして、少し逡巡したのち、忠告だけはしておこうと思ったのだろう……。
「先程の会話は、サヤがこちらにも伝えてくれていた。サヤは本当に……多才よな。
だがレイシールよ。あれが、通常の感覚だ。残念ながらな。
この国において、女性というのは嫋やかであるべきという思想が根強い。あそこまでとは言わぬが、大抵良い顔はされまい。
あのぼんくらは唾棄すべき小者であったが、あれが例外と思うなよ」
「……心得ております。
ですが俺は……リカルド様が、サヤをちゃんと認めてくださっていたことが、嬉しかったですよ」
「……ふん、投げ飛ばされておるのだぞ、私は。しかも、剣を持ってすら……。武人として、目の当たりにした実力差を認められぬは、その方が恥だ。
そもそもクリスという前例があるのだぞ」
女性でありながら王となるべく努力をしてきたクリスティーナ様。
彼の方も男装していたし、剣術を身に付けていらっしゃる。まぁ、サヤの強さは規格外として、女性の武術者に偏見を持つということは、リカルド様にとって姫様の努力を踏みにじることなのだろう。
そんな風に思ってくださる方がいらっしゃる……そのことが、有難かった。
「……だがこれも……起こるべくして起こったということだな……。
近い将来、似た例はいくらでも転がることになる。
其方は、本当に多難よな……。まあ仕方がないと諦めるほかないが」
「はい?」
「こちらの話だ。その点は、サヤが成人前で良かったではないか。
早々に手放す必要は無いのだからな……」
「え、あの……なんです?」
なにやらとてつもなく不穏なことを言われた気がする……。
眉間にしわを寄せていると、なにやらこちらに急ぎ足でやってくる方を発見した。ホーデリーフェ様のお身内かな? リカルド様に慌て、必死で挨拶するその方々に、当のリカルド様が根を上げた。
「レイシール、また後で時間を寄越せ」
「あっ、はい!」
ヘイスカリ子爵家の方の挨拶を適当にいなし、さっさと立ち去ってしまった。
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