583 / 1,121
対の飾り 7
しおりを挟む
リヴィ様が初めて作った菓子はとても好評で、皆の胃袋に収まった。
そうしてギルも作業に戻り、それから夕食までの時間は各々が好きに過ごした。
サヤはリヴィ様と料理のお話をすると応接室に残り、俺はハインと共に報告にやってきたウーヴェの対応。
そうしている間に夕食の時間が来て、分離した乳……ホエーで作った麺麭が夕食に並んだ。
「ほんのり甘くて美味だわ」
「普段の麺麭とまた違う味わいですね」
酸味は感じるほどに無い。
麺麭の食感は、そこはかとなくもっちりふんわりしているような気がする。
「料理長が、今まで乳酪の絞り汁は捨ててたそうでな、喜んでた」
そう言いパンを口に放り込むギル。
その言葉にサヤはニコニコと笑顔だ。
「私の国でもかつてはそうしてたみたいですよ。でも、とても栄養価が高いものなので、水と置き換えられる部分で置き換えて使用する方が良いです。
檸檬や酢を絞り入れているので、多少の酸味があるのですけど、こうして麺麭にしたり、汁物にしたりすればさして気になりません。
酸味の強い食材との相性も良いので、赤茄子(トマト)料理なんかにも向いてますね」
「……俺に言われても覚えきれん……料理長に言ってやってくれ……」
渋面でそう言うギルに、リヴィ様はくすくすと笑う。いつもの上品な笑顔だ。
「それからルーシーが悔しがってた……」
「あ、ルーシーさんの分はとってありますよ!
言い忘れてました。貯蔵室に置かせてもらってたんです。よかったら食後にでもって、お伝えください」
「分かった」
ルーシーも今、忙しくしている様子。今日は晩餐にも同席できないみたいだ。
貴族とののやりとりは、家の事情も多々含まれるから、あまり関わらないようにしなければならない。
だから、あちらの状況はいまいちよく分からないのだけど、ギル曰く「問題無い」とのこと。
そうして夕食を済ませたら、ギルはお茶の時間もそこそこに、作業に戻っていった。
「間に合うかしら……」
「間に合わせますよ。ギルですから」
そのために今、こうしているのだろう。
言葉少なにお茶と歓談の時間を過ごし、そろそろ就寝だと言う頃合いになり、退室前のリヴィ様が、改まったように口を開いた。
「レイ殿……私も、明後日の昼にはここを発とうと思いますの……」
「そうですか……」
「一度アギーに立ち寄らなければなりません。その後はまた、王都でお会いすることになりますわ。
正装の完成が間に合わなかった場合は……」
「はい。俺がお届けに上がります。
アギーには立ち寄らず、直接王都に向かいます」
「よろしくお願い致しますわ。
では、そろそろ……。また明日」
「おやすみなさいませ」
リヴィ様が退室し、俺たちだけが応接室に残った。
俺は久しぶりの犬笛を取り出し、窓辺から外に向かって吹くと、程なくして露台から人の気配。
「ジェイド、悪い。
正装作りが、期日内に間に合わなかった場合、王都に向けて狼を走らせてもらうことになるかもしれない。
結構な荷物になると思うのだけど……」
「雪がもうねぇしな……橇が使えないから、背負える分だけってなる。量は最低限にしてくれ。
背に荷物があるなら……王都までは、余裕を持って六日。最悪五日で行ける」
「充分だ。それなら残りの日数はあと四日、最大で五日確保できるってことだな」
俺たちがここにいるのも、明後日の昼……リヴィ様がお帰りになった後で、いったん拠点村に戻る必要があるだろう。
だから、ギルが作業可能なのは、更に翌日の昼までだ。行きがけに荷物を受け取って、王都を目指す。間に合わなければ狼を残し、後を追いかけて届けてもらう。
道中で追いつけるならそれに越したことはないけれど、無理であれば王都まで来てもらうことになるな……。
それでも間に合わない場合は……一応完成している、当初正装にする予定だった細袴を使用する方向になるか。
「大丈夫でしょうか……」
「一応保険としてお願いしただけだよ。多分杞憂に終わるから」
不安そうに眉を寄せるサヤにそう笑って伝えた。
大丈夫、ギルだもの。あいつはちゃんとやり遂げる奴だから。
◆
そうして翌日の昼頃。
有難いことに、俺の心配は杞憂に終わることとなった。
「出来た」
そう言いギルが持ち込んだ袴。
それはなんとも不思議な形状をしたものだった……。
「これは、どうなっておりますの?」
首を傾げつつリヴィ様。その言葉も当然か。それは、かなり幅広の細袴だったのだ。
片足の部分に両方の足が通ってしまうほどに幅広な細袴なんて、今まで見たことがない。その太さを、ひだとして折り重ねることで、ある程度隠しているような構造。
二つの袴は一見同じ形に見えた。けれど、よくよく見ると違う。片側は細袴なのだが、もう片方は一枚の布状になっていて、腰で巻く仕様だった。
「このひだの重なり部分が思いの外難しくてな……なんとか形になって良かった。
これは、サヤの国の袴と、なんとかって袴の構造を取り入れたもんなんだ……」
「巻きスカートです」
「……覚えられねぇよ。お前の国、袴に名前ありすぎだろ。なんでいちいち形状で名前変えるんだよ……」
少々無精髭が伸び、目の下にくまを刻んだギルが不満げに、だけどどこかホッとした顔でサヤに言う。
そんなギルに変わり、サヤが細袴の構造を説明してくれた。
「これ、ひだで分かりにくいのですが、股下がちゃんとあるんです。私の国の騎士……侍の正装なんですよ。
これで剣を振るっているので、実用性は保障されていました。
もう一つが巻きスカートなのですけど……こちらは細袴の上から巻く袴です」
…………聞いてもよく分からない……。
やっぱり首をかしげる俺たちに、サヤは苦笑するばかり。
そしてギルは、そんなサヤをやや呆れ気味にじっとりと見下ろす……。
「ほんとややこしかった……ひだが重なるように織り込むのが難儀でな……。
サヤのやつ、肝心の部分うろ覚えでやがって、試行錯誤するしかねぇし……」
「申し訳ありません。でも、とても綺麗に出来てますよ?」
「そりゃな! こだわり抜いたからな⁉︎」
どこかやけくそ気味な様子のギル。寝不足と達成感で興奮しているのかもしれない。
とりあえずリヴィ様の分を、細袴。サヤの分をマキスカートなる袴で作ったから、試着してみろと言う。
すぐに小部屋が用意され、二人が袴を持って中へ。
疲れ切って長椅子に伸びたギルに、俺も「よくやってくれた」と労いの言葉を掛けた。
「まだ終わってねぇ。使用感を見てみないことにはな……」
その言葉に苦笑する。
暫く待つと、袴を身につけた二人が小部屋から出て来た。
まずリヴィ様だ。
立っている姿に変化がほぼ無い。と、いうか……袴を穿いているようにしか見受けられない。ひだの作用なのか、歩いても形が大きく崩れない。ギルによると、細袴の左右……両足のひだが、互い違いに重なるよう、折り込まれているという。だから歩いても、ひだの重なりが全て離れてしまわないのだそうだ。
「ひだは内側からギリギリで端縫いして形が崩れないようにしてある」
「…………端縫い?」
「熱や重しで形を作るだけじゃなく、見て分からない程度に縫い止めてある」
物凄く手間がかかってるってことだな。
リヴィ様は、そんな袴の構造に驚嘆の表情だ。何度も歩き、腰を振り、剣を抜いて構えを取る。
ゆっくりと基本の型を始め、その動きは次第に早くなった。そこに、リヴィ様の興奮が見て取れる。
「素晴らしい……素晴らしいですわ。これだけ動いても、足の動きが現れない……!
動きやすいのに、形状が袴に見えるなんて!」
その様子に、やはり袴の裾さばきを気にされていたらしいと悟った。
何もおっしゃらなかった……だけど、やっぱり彼女は女性。しかも貴族の中の貴族として育ったアギー家の方なのだ。
その様子を見ていたギルが、とても誇らしげに微笑む。どこか眩しげに、リヴィ様を見つめて……。
足の動きが隠されているからか、リヴィ様の型はまるで流水のように流れ、翻る袴が美しかった。
剣の型なんて見飽きるくらいに見ているはずなのに、まるで違うものに見える……優美だ。
大変満足そうなリヴィ様にホッとしつつ、俺はサヤの方に視線を向けた。
「それで、サヤの方は一体どうなってるの?」
「こちらは、細袴の上から巻きつけてあります」
サヤの身につけている方は、袴が一枚の布状となっており、腰に巻く仕様になっているようだ。
その重なる部分の下は、同じくひだを沢山折り重ねた部分があり、足を大きく開いたとしても広がる。だから、中が簡単に見えることはないし、足さばきにも対応できる様子。
「でもこれの良いところは、こうすると即座に外れる所です」
サヤがそう言い、腰の部分の紐を解くと、ストンと落ちる……お、落ち⁉︎
「脱いじゃ駄目だろ⁉︎」
前それ俺たちに怒られたのもう忘れた⁉︎ っていうか、なんでこんなもの作った⁉︎
「ギル⁉︎」
衝撃と焦りを即座にぶつけると、ギルが喚き返す。
「しょうがねぇだろ⁉︎ サヤは脚を使って攻撃するんだぞ⁉︎
オリヴィエラ様の細袴じゃ、剣術の足さばきには対応できても、蹴り技には対応できなかったんだよ!」
「裾が広がって視界を遮るので邪魔なんです」
至極当然のことのようにサヤ。
そう言われ、ハッとした。
サヤの脚は、俺の顔にだって届くのだ……。そこまで脚を上げることも、この新たな細袴には可能だろう。
けれど規格外に広い幅が、逆にサヤの視界を塞いでしまうのか……。
「女近衛は、剣術以外を得意とする方が多いと記してありました。
槍や弓矢……私の無手。全てが同じ衣装では、誰かの動きに支障をきたします。
なので、見た目はほぼ同じ形で、形状の違うものを作ろうと思ったんです」
だから、従来のサヤの世界の袴を、そのまま再現するわけにはいかなかった。
全く異なる構造のものを、同じに見えるよう、調節しなければならなかったのだ。
その試行錯誤を延々と繰り返していたのだと言う。
「よくそのような難題を、この短期間で……」
驚きをそのまま言葉にするリヴィ様。俺も全く同じ思いだ。
ただ驚嘆するしかない俺たちに、二人はお互いを見て……。
「優秀な意匠師がいたからな」
「優秀な店主がいてこそです」
同じようにそう言い、お互いを指差す。
「まぁ!」
リヴィ様の声に、皆で吹き出した。
「けど姫様は『私の目に狂いは無かったな!』って言うんだろ?」
「そうそう、姫様は私の功績って顔するんだ、絶対に」
「そうやって貴方がたが丸投げを全うするから、いつまでたっても無理難題を押し付けられるのですよ」
呆れ口調でハイン。
リヴィ様の従者方も、素晴らしい出来栄えです。よくお似合いですと褒めてくれ、俺たちは無事、この難題を乗り越えたのだと知った。
そうしてギルも作業に戻り、それから夕食までの時間は各々が好きに過ごした。
サヤはリヴィ様と料理のお話をすると応接室に残り、俺はハインと共に報告にやってきたウーヴェの対応。
そうしている間に夕食の時間が来て、分離した乳……ホエーで作った麺麭が夕食に並んだ。
「ほんのり甘くて美味だわ」
「普段の麺麭とまた違う味わいですね」
酸味は感じるほどに無い。
麺麭の食感は、そこはかとなくもっちりふんわりしているような気がする。
「料理長が、今まで乳酪の絞り汁は捨ててたそうでな、喜んでた」
そう言いパンを口に放り込むギル。
その言葉にサヤはニコニコと笑顔だ。
「私の国でもかつてはそうしてたみたいですよ。でも、とても栄養価が高いものなので、水と置き換えられる部分で置き換えて使用する方が良いです。
檸檬や酢を絞り入れているので、多少の酸味があるのですけど、こうして麺麭にしたり、汁物にしたりすればさして気になりません。
酸味の強い食材との相性も良いので、赤茄子(トマト)料理なんかにも向いてますね」
「……俺に言われても覚えきれん……料理長に言ってやってくれ……」
渋面でそう言うギルに、リヴィ様はくすくすと笑う。いつもの上品な笑顔だ。
「それからルーシーが悔しがってた……」
「あ、ルーシーさんの分はとってありますよ!
言い忘れてました。貯蔵室に置かせてもらってたんです。よかったら食後にでもって、お伝えください」
「分かった」
ルーシーも今、忙しくしている様子。今日は晩餐にも同席できないみたいだ。
貴族とののやりとりは、家の事情も多々含まれるから、あまり関わらないようにしなければならない。
だから、あちらの状況はいまいちよく分からないのだけど、ギル曰く「問題無い」とのこと。
そうして夕食を済ませたら、ギルはお茶の時間もそこそこに、作業に戻っていった。
「間に合うかしら……」
「間に合わせますよ。ギルですから」
そのために今、こうしているのだろう。
言葉少なにお茶と歓談の時間を過ごし、そろそろ就寝だと言う頃合いになり、退室前のリヴィ様が、改まったように口を開いた。
「レイ殿……私も、明後日の昼にはここを発とうと思いますの……」
「そうですか……」
「一度アギーに立ち寄らなければなりません。その後はまた、王都でお会いすることになりますわ。
正装の完成が間に合わなかった場合は……」
「はい。俺がお届けに上がります。
アギーには立ち寄らず、直接王都に向かいます」
「よろしくお願い致しますわ。
では、そろそろ……。また明日」
「おやすみなさいませ」
リヴィ様が退室し、俺たちだけが応接室に残った。
俺は久しぶりの犬笛を取り出し、窓辺から外に向かって吹くと、程なくして露台から人の気配。
「ジェイド、悪い。
正装作りが、期日内に間に合わなかった場合、王都に向けて狼を走らせてもらうことになるかもしれない。
結構な荷物になると思うのだけど……」
「雪がもうねぇしな……橇が使えないから、背負える分だけってなる。量は最低限にしてくれ。
背に荷物があるなら……王都までは、余裕を持って六日。最悪五日で行ける」
「充分だ。それなら残りの日数はあと四日、最大で五日確保できるってことだな」
俺たちがここにいるのも、明後日の昼……リヴィ様がお帰りになった後で、いったん拠点村に戻る必要があるだろう。
だから、ギルが作業可能なのは、更に翌日の昼までだ。行きがけに荷物を受け取って、王都を目指す。間に合わなければ狼を残し、後を追いかけて届けてもらう。
道中で追いつけるならそれに越したことはないけれど、無理であれば王都まで来てもらうことになるな……。
それでも間に合わない場合は……一応完成している、当初正装にする予定だった細袴を使用する方向になるか。
「大丈夫でしょうか……」
「一応保険としてお願いしただけだよ。多分杞憂に終わるから」
不安そうに眉を寄せるサヤにそう笑って伝えた。
大丈夫、ギルだもの。あいつはちゃんとやり遂げる奴だから。
◆
そうして翌日の昼頃。
有難いことに、俺の心配は杞憂に終わることとなった。
「出来た」
そう言いギルが持ち込んだ袴。
それはなんとも不思議な形状をしたものだった……。
「これは、どうなっておりますの?」
首を傾げつつリヴィ様。その言葉も当然か。それは、かなり幅広の細袴だったのだ。
片足の部分に両方の足が通ってしまうほどに幅広な細袴なんて、今まで見たことがない。その太さを、ひだとして折り重ねることで、ある程度隠しているような構造。
二つの袴は一見同じ形に見えた。けれど、よくよく見ると違う。片側は細袴なのだが、もう片方は一枚の布状になっていて、腰で巻く仕様だった。
「このひだの重なり部分が思いの外難しくてな……なんとか形になって良かった。
これは、サヤの国の袴と、なんとかって袴の構造を取り入れたもんなんだ……」
「巻きスカートです」
「……覚えられねぇよ。お前の国、袴に名前ありすぎだろ。なんでいちいち形状で名前変えるんだよ……」
少々無精髭が伸び、目の下にくまを刻んだギルが不満げに、だけどどこかホッとした顔でサヤに言う。
そんなギルに変わり、サヤが細袴の構造を説明してくれた。
「これ、ひだで分かりにくいのですが、股下がちゃんとあるんです。私の国の騎士……侍の正装なんですよ。
これで剣を振るっているので、実用性は保障されていました。
もう一つが巻きスカートなのですけど……こちらは細袴の上から巻く袴です」
…………聞いてもよく分からない……。
やっぱり首をかしげる俺たちに、サヤは苦笑するばかり。
そしてギルは、そんなサヤをやや呆れ気味にじっとりと見下ろす……。
「ほんとややこしかった……ひだが重なるように織り込むのが難儀でな……。
サヤのやつ、肝心の部分うろ覚えでやがって、試行錯誤するしかねぇし……」
「申し訳ありません。でも、とても綺麗に出来てますよ?」
「そりゃな! こだわり抜いたからな⁉︎」
どこかやけくそ気味な様子のギル。寝不足と達成感で興奮しているのかもしれない。
とりあえずリヴィ様の分を、細袴。サヤの分をマキスカートなる袴で作ったから、試着してみろと言う。
すぐに小部屋が用意され、二人が袴を持って中へ。
疲れ切って長椅子に伸びたギルに、俺も「よくやってくれた」と労いの言葉を掛けた。
「まだ終わってねぇ。使用感を見てみないことにはな……」
その言葉に苦笑する。
暫く待つと、袴を身につけた二人が小部屋から出て来た。
まずリヴィ様だ。
立っている姿に変化がほぼ無い。と、いうか……袴を穿いているようにしか見受けられない。ひだの作用なのか、歩いても形が大きく崩れない。ギルによると、細袴の左右……両足のひだが、互い違いに重なるよう、折り込まれているという。だから歩いても、ひだの重なりが全て離れてしまわないのだそうだ。
「ひだは内側からギリギリで端縫いして形が崩れないようにしてある」
「…………端縫い?」
「熱や重しで形を作るだけじゃなく、見て分からない程度に縫い止めてある」
物凄く手間がかかってるってことだな。
リヴィ様は、そんな袴の構造に驚嘆の表情だ。何度も歩き、腰を振り、剣を抜いて構えを取る。
ゆっくりと基本の型を始め、その動きは次第に早くなった。そこに、リヴィ様の興奮が見て取れる。
「素晴らしい……素晴らしいですわ。これだけ動いても、足の動きが現れない……!
動きやすいのに、形状が袴に見えるなんて!」
その様子に、やはり袴の裾さばきを気にされていたらしいと悟った。
何もおっしゃらなかった……だけど、やっぱり彼女は女性。しかも貴族の中の貴族として育ったアギー家の方なのだ。
その様子を見ていたギルが、とても誇らしげに微笑む。どこか眩しげに、リヴィ様を見つめて……。
足の動きが隠されているからか、リヴィ様の型はまるで流水のように流れ、翻る袴が美しかった。
剣の型なんて見飽きるくらいに見ているはずなのに、まるで違うものに見える……優美だ。
大変満足そうなリヴィ様にホッとしつつ、俺はサヤの方に視線を向けた。
「それで、サヤの方は一体どうなってるの?」
「こちらは、細袴の上から巻きつけてあります」
サヤの身につけている方は、袴が一枚の布状となっており、腰に巻く仕様になっているようだ。
その重なる部分の下は、同じくひだを沢山折り重ねた部分があり、足を大きく開いたとしても広がる。だから、中が簡単に見えることはないし、足さばきにも対応できる様子。
「でもこれの良いところは、こうすると即座に外れる所です」
サヤがそう言い、腰の部分の紐を解くと、ストンと落ちる……お、落ち⁉︎
「脱いじゃ駄目だろ⁉︎」
前それ俺たちに怒られたのもう忘れた⁉︎ っていうか、なんでこんなもの作った⁉︎
「ギル⁉︎」
衝撃と焦りを即座にぶつけると、ギルが喚き返す。
「しょうがねぇだろ⁉︎ サヤは脚を使って攻撃するんだぞ⁉︎
オリヴィエラ様の細袴じゃ、剣術の足さばきには対応できても、蹴り技には対応できなかったんだよ!」
「裾が広がって視界を遮るので邪魔なんです」
至極当然のことのようにサヤ。
そう言われ、ハッとした。
サヤの脚は、俺の顔にだって届くのだ……。そこまで脚を上げることも、この新たな細袴には可能だろう。
けれど規格外に広い幅が、逆にサヤの視界を塞いでしまうのか……。
「女近衛は、剣術以外を得意とする方が多いと記してありました。
槍や弓矢……私の無手。全てが同じ衣装では、誰かの動きに支障をきたします。
なので、見た目はほぼ同じ形で、形状の違うものを作ろうと思ったんです」
だから、従来のサヤの世界の袴を、そのまま再現するわけにはいかなかった。
全く異なる構造のものを、同じに見えるよう、調節しなければならなかったのだ。
その試行錯誤を延々と繰り返していたのだと言う。
「よくそのような難題を、この短期間で……」
驚きをそのまま言葉にするリヴィ様。俺も全く同じ思いだ。
ただ驚嘆するしかない俺たちに、二人はお互いを見て……。
「優秀な意匠師がいたからな」
「優秀な店主がいてこそです」
同じようにそう言い、お互いを指差す。
「まぁ!」
リヴィ様の声に、皆で吹き出した。
「けど姫様は『私の目に狂いは無かったな!』って言うんだろ?」
「そうそう、姫様は私の功績って顔するんだ、絶対に」
「そうやって貴方がたが丸投げを全うするから、いつまでたっても無理難題を押し付けられるのですよ」
呆れ口調でハイン。
リヴィ様の従者方も、素晴らしい出来栄えです。よくお似合いですと褒めてくれ、俺たちは無事、この難題を乗り越えたのだと知った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる