異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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式典 4

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 大広間に到着すると、扉はまだ閉ざされていた。
 中から音楽が漏れ聞こえてきており、入場の機会をうかがっているのだと分かる。
 ふぅ……父上は中にいるのだよな……。
 まさか自分が戴冠式に出席しているだなんて……しかもこちら側に立つなんて、一年前には想像も及ばなかったよなと、改めて思う。

 暫く前が動く様子は無く、ただ待った。
 サヤは、入場する俺たちの更に後。この扉ではなく、大広間の正面となる大扉から。姫様の入場と共にとなるはずだ。
 今一度自分の服装を見直して、おかしな所は無いか確認する。
 腰帯に挟んだ印綬の位置を調整していたら、曲に合わせてあるのか、俺としては唐突だと思える時に扉が開きだし、慌てて顔を上げた。
 丁度、曲の途切れた時に開ききったので、成る程、絶妙だな。と、納得。また新たな曲が始まると、それに合わせて先頭が進み出し、気持ちを引き締めた。

 入室した大広間の中心には、赤く、毛足の長い絨毯が敷かれていた。ただし、これは姫様のみが進む道。王に至る道だ。
 我々はその道の両側に、それぞれ別れて進む。最も若い俺は当然最後尾なわけで、一番端、先に参列した方々と近い位置となった。

 そちらもまた、最前列は上位貴族の方となる。
 ただし、領主が役職を賜っている場合、そこは空席。奥方様のみがいらっしゃり、後方に従者や女中が控えるのだが……あの、女性が八人も並んでいるのは、絶対アギーだよな……凄く良く分かる……。
 あ、向かいの若い男性、ヴァーリンの新領主、ハロルド様かもしれない。リカルド様とは似ていらっしゃらないな……苛烈というより清涼。とても落ち着いた、穏やかな雰囲気の方だ。
 ……と、そう思っていたら、視線が合った。ばっちりと噛み合ってしまって狼狽えたら、にこりと微笑まれる。……うん。印象通りのようだぞ。と、俺も小さく会釈を返した。
 俺たちが入場しきった後、またひときわ音楽が華やかになり、国王様の入室となった様子。
 驚かないでくれよ。の、意味は、ここでひとつ判明した。

「っ⁉︎」

 どう見ても父上の車椅子……⁉︎
 国王様が、王妃様の押す車椅子で入場され、壇上の手前まで運ばれたのだ。
 えっ、ちょっと待って、じゃあ父上は⁉︎
 視線を巡らすも、男爵家は当然大広間の後方だ。俺の視界には入らない。
 ここで俺が慌てて式をぶち壊すわけにもいかず、気分だけそわそわと落ち着かなかったのだけど、国王様の状態を考えれば、ご自身の足で入場なんて、どだい無理だったろうと思い直す。
 玉座の手前まで進んで来てから、王妃様の手を借り、立ち上がる。杖を手渡され、数段の段差を、ゆっくりと王妃様に支えられ、進む国王様。
 壇上の玉座に座ると、杖を王妃様に託し、背筋を伸ばす。
 すると、それまでの雰囲気が一変、鋭い眼光に驚いた。

 スッと国王様の手が上がると、音楽が途絶える。
 一瞬の静寂の後、低い男性の声。
 重い音に、女性の高く軽い音が重なり、あぁ、声のみで旋律を奏でているのだと理解した。そうして少しず声は増え、最後に唄女たちが、経典の旋律……王家を讃える節を、歌い出す。
 それと共に、大扉が開いた。
 但し、全て開ききることはない。人が三人程度並べるほどの隙間になった時、そこに人の姿が現れ、場が緊張で満ちる。
 まずはお二人。右側を、黒い正装に身を包んだ近衛隊の隊長と思しき人物。左側を、紺藍の正装を纏うリヴィ様。
 腰にある剣の鞘を握り、颯爽と足を進めて入室してきたお姿に、会場中から感嘆の吐息。そのお二人に続き、純白のお姿が。
 先程と同じ、全身白い衣装の姫様。そのままゆったりと、赤い道を進んでくる……。

 肩で切りそろえられた白髪から覗く、細い首……。
 全身に纏うもの全てが白に統一され、まるで内に光を宿しているかのように、浮き立って見える。
 女性であるから当然、背もお小さい……。
 俯き、伏せられた瞳は、長い睫毛に遮られていても、その赤さが際立った。唇と、瞳だけが、鮮やかに赤い、まるで天使か、雪の精霊のような、幻想的なお姿だった。
 そうして、入場した姫様の後方から、更に黒と、紺藍の衣装を纏った近衛が続く。
 入場してきた一団は、姫様のみが赤い道を進み、近衛らはそのまま、その道を守護するように、両側に等間隔で並んだ。
 その中に黒髪を見つけて、胸が高鳴る。
 凛々しく、表情を引き締めたサヤは、幻想的な姫様に対比するようでいても、やはり美しかった。
 俺からはだいぶん離れた場所に立ち、他の隊員らと同じく赤い道を守護する。
 そうして一人、王の道を進んだ姫様は、壇上の玉座を前に、足を止め、その場に両膝をついた。

「この国の礎に名を連ねることを誓うか」

 謁見の時より、ハリのある声。姫様の門出を良きものにしようと、国王様は声を張り上げて言う。

「誓います」
「この者の王たる資質を認め、戴冠の儀を以って、我はここに宣言する……フェルドナレン女王、クリスティーナよ、これへ!」

 その言葉で、姫様は立ち上がった。
 ゆっくりと壇上に進み、玉座の手前で足を止める。首部を垂れた姫様に、国王様も立ち上がった。
 そうして、ご自身の纏われていた純白の外衣を外し、王妃様の手を借りつつ、それを姫様の肩に。
 更に、宝冠を外し、姫様の頭上に捧げた。
 拍手が鳴り響く中、姿勢を正した姫様は、王の象徴を身に纏ったまま進み、直前まで父上様の座していた玉座に腰を下ろす。

 これにて、無事に戴冠式を終えたこととなるのだが…………。

 その姿を皆によく見せるため、再度立ち上がった姫様……いや、クリスティーナ陛下の手を、父上様が握りしめた。
 そうしてそっと、抱き寄せる……。

 何かを囁いているのは分かったけれど、言葉は聞こえなかった。
 陛下は、そんな父上様に瞳を向け、少し瞳を潤ませたように見えたけれど、いつもの強気な、力強い表情で、その腕を離れる。
 そうして拍手を送る俺たちに応え、胸を張って、王位を継いだことを宣言した。


 ◆


 戴冠式の後は、王宮を出て神殿へと向かう。
 大臣や近衛総長等の上役はそちらにも同行するが、俺は留守番。姫様の乗る輿を、広場で見送った。
 因みにサヤは護衛のため同行する。馬術を教えておいて良かった……。近衛らは、半数近くが馬だったのだ。

 輿行列が見えなくなるまで見送ると、皆、肩の荷が下りたとばかりに騒めき、各々動き出す。
 とりあえず大広間は今から急いで任命式準備だ。俺たちが残っていては邪魔だから、暫く時間を潰すため、待合室や庭に移動するのだが……。

「レイシール」

 父上を探していると、先に声が掛かった。
 そちらに向かうと、父上とヴァイデンフェラー男爵殿の姿が。
 あぁ、この方が一緒にいてくださったのか……と、安堵の息を吐く。そのまま走り寄るが、次に緊張が走った。
 アーシュだと思っていた人影が、違う……。
 そこにいたのは、公爵家のご子息様。何故か、グラヴィスハイド様が、一緒だった…………え、な、なんで?
 警戒のあまり足が止まってしまった俺を見て、グラヴィスハイド様の瞳が笑い、口角が吊り上がる。俺の気持ちなど、全部筒抜けなのだと言うように。

「そんなに嫌そうにされると、私も傷付くよ?」
「え……いや、そういうわけじゃ……っ」
「ふふ。分かってるよ。困ってるんだろう?    私が何をどこまで知っているか……ね?」

 にこにこと笑って意味深なことを言ううううぅぅ⁉︎
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