異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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オゼロ 4

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「何故そんなことが言えるんです?」
「……この設備を動かすことのできる燃料です。何かを動かすには、必ずエネルギー……動力が必要です。勝手に動いているなんてことは、ありません。
 だから、この設備も動かすためにの燃料が必要で、これを木炭で動かせるとは思えないです……。そして、その燃料はもう失われているはずです。もしその燃料を得ることができるなら、木炭なんて製造する必要ありません。その燃料を作る方法を、模索すると思うんです」

 サヤの表情が、とても硬い。
 それだけ特別で、特殊な知識を必要とする話なのだと、その表情で伺える。

「けれど……この設備自体が、その前時代の技術で作られたもの。今の時代には再現できないもので構成されていて、それが利用できたのだとしたら、話が見えるかなって。
 例えば強度。そして耐火温度。この規模の設備ならば、相当数の耐火煉瓦が使用されていそうですし…………もしかしたら、内部を解体し、その煉瓦を使って炉を作った……?」
「……大変興味深いですね。続けてください」
「こちらの世界にも煉瓦は当然ありますよね。窯を作る時に使ってましたし……」

 より一層分からない話に移ってしまった……。
 サヤとマルが、何かを図にしつつ、話し込んでいるので、俺たちは一旦休憩することにした。
 ハインがお茶を用意しはじめたので、部屋の隅に移動。

「何を言ってるのか、全然分からん……」
「大丈夫。俺も分からない。とりあえずあちらの話に区切りが付かないと、先に進みそうにないから、少し俺たちは休憩な」
「……俺たち、理解できなくて良いんですか?」
「重要なことはマルが分かっていれば良いよ。俺たちに必要なのは、それがどれだけ荒唐無稽に思えても、信じること。それだけ。
 正直……本当に、異質に見えるけど……聞いていたろう?    サヤの話しているものは、俺たちの世界にも、かつてあった可能性が高いってことだ。
 そしてそれは人が作れたものだったってこと。
 だから、恐れる必要は無いんだと思う」
「……今の会話でその結論に至れるんですね……」

 疲れたように長椅子に頭を預けて、ユスト。
 そうは言うけどなぁ……。

「俺からしたら、ユストだって人の手で再現できないようなことをしてしまう人だよ?」
「えっ⁉︎」
「マティアス医師の医術というのは、一般の医術とは全く異なるものだよな。
 それを、あの手この手で誤魔化して、この時代に沿った言葉に置き換えて、異端であることを逃れている……。
 つまりそういうことだよ」
「……あああぁぁ、なんか察してしまってる⁉︎」
「うん。だけど、重要なのは得られる結果だろう?    だから、マティアス医師は守られているのだと、俺は思うよ」

 サヤの知識に触れていれば、自ずと見えてくるものがある。
 それは、知識というものがいかに重要であるかということ。
 全く関係ないもの、神憑っているとしか思えなかったものも、何かしらと繋がっていて存在できている。原理があり、結果があるということ。
 世の中はそういったもので構成され、それが積み重なることが奇跡に見えるということだ。

 そしてサヤは、その理屈を理解している。
 けれど我々の世界は、それを理解していたはずなのに……二千年前に、手放してしまったのだろう。

「……似たものがあるのじゃなく……文明の辿る経過というのは、同じ段階を踏むのかもしれないな……。
 これがなければ、これが成り立たない……。土嚢を積むみたいに、下から順々に積み上げていかないと、到達できない。
 サヤの世界は、それを続けて今があり、我々の世界は、それを一旦崩してしまった。
 もう一度、一番下のものを探し出すことから、始めなければならなかったけれど、それがどれで何か、もう、分からない……」
「……そう言われるとなんか、分かる気がします……」

 生きることに必死で、維持すべきものをそうできなかった。
 そう考えると、オゼロが残している秘匿権は、とてつもない価値を有するものなのだということが、分かる。
 エルピディオ様が、それをどれほど一生懸命守ろうとしてるかも、見えてくるのだよな……。

 とはいえ。
 今のままで良いとは、思わないのだ、俺は。
 守ることは大切だ。それは当然のことだと思う。
 だけど、それの先にあるのは、先細りの道……。新たに作り続けなければ、あるものを失い続けるだけなのだと、知っている。

「あああぁぁぁ!    そういうことですかっ!
 じゃあやっぱりサヤくんの説が有力です。木炭の製造は、前文明の遺跡を利用しているわけではない!
 そうなると前提がひっくり返っちゃいますけど……えええぇぇぇ、どうしましょうかねえええぇぇぇ⁉︎」

 マルの切羽詰まったような、ひっくり返った声にギョッとして振り返った。
 あのマルが、どうしましょうかね⁉︎

「どうしましょうとは?」
「その遺跡を利用する方法を考えてたんですよ。うまく取引できるかなって。
 だけど、使えないとなると、目的のものをどうやって製造するかって話になるんですよ」
「遺跡が使えないことが、作れないことにはならないです」
「ですけど、耐火温度が想定していたものより低かったとしたら……」
「大丈夫です。日本はそれでも、タタラ場を機能させていました。
 私の世界でも、木炭を使って鋳造が行われていたんです。だから、木炭を大量に手に入れられる方法を得るでも、構わないと思います。
 確かに温度を維持するのは難しいと思いますけど……木炭でできないわけではない。だから……」

 …………駄目だ。一体何を言ってるのか、全然分からない……。
 頭を抱えかけたマルをサヤが落ち着かせ、また何かを検討し始めたってことしか理解できなかった。

「…………つくづく、あの二人は凄いと思う……」
「というか、なんでマルクスはサヤの話に付き合ってられるんですか……」
「逆です。マルの話にサヤが付き合えるのがおかしいのですよ」

 あれは変態ですよ。と、話に割って入ってきたハインがお茶を配りつつ言う。
 断言してきた……。いや、まぁ否定しないけど……。

「要は構造の問題なんです。燃焼の熱を、どうやって再利用するか。それによって得られる温度が違ってきます。
 その遺跡の構造が、それを形にしているのだとしたら、その遺跡は本来木炭を作るためのものではなかったということになるんです。
 私の世界で製鉄技術を初めて確立したのはヒッタイト人だと言われていますが、彼らは環境によって自然発生する強風を製鉄に利用していたとされていて、私の国のタタラ場ではこの送風技術が未熟であったために……」
「……つまり炉で発生した熱風を再利用すると言うことですか?
 でも熱は上に逃げていきますよね?    それを下部に送るとなると……」
「……なので、高い煙突が必要で、その高低差による温度変化を利用して……」

 終わりそうにないので、暫く二人きりで話してもらうことにした。
 こういう時、力になれない自分の頭脳を恨めしく思う……。


 ◆


 まぁそんな感じで、前回の会議はそのままなし崩しで終わったのだ。
 マルの中に組み立てられていた作戦が一旦瓦解してしまい、それをまた組み直す必要があるという結論で。
 それでまぁ、それは良いのだけど……。後々になって気になりだしたのは、その時のサヤの表情。
 知識を引き出す時、その責任に、彼女はいつも緊張している。それは、確かにいつも通りなのだけど……。

 あの時の表情と、口調に、どうにも違和感が、残っている。
 その理由が分からず、かといってサヤに聞くのも憚られて、ずっと考えてしまっていた。

 あの時のサヤは……何か必死だった。
 何に必死だった?    マルの作戦が意味をなさないものになってしまったから?
 だけど、彼女の表情が強張ったのは、その前からだという確信がある。
 オゼロの秘匿権……その話に入った辺りから、既に……。

「…………どれだ……」

 ひとつひとつ、会話を順に思い浮かべるけれど、たどり着けないのだ……。
 それは、きっと俺の中に情報が足りていないからで、サヤの話に結びつくものが、俺の中に無いからだと思う……。

 頭を抱えて悶々と考え続けていたのだけど、お茶が来たので思考を終えることにした。

「サヤは?」
「木炭作りです。まだ作業中ですね」
「本当に木炭が作れてしまってるな……。いや、竹炭で分かってたけど……」

 ちゃんと、木炭と言えるものができてしまっているのだよな……。

「次は違う方法を試すと言ってましたが……」

 サヤは今、とある作戦のために木炭を製造している。
 質はともかく、木炭といえるものを作れることが重要で、極力、一度に大量を作れるように、少しずつ規模を大きくしていっているのだ。
 もちろん、秘匿権の申請は、まだしていない……つまり、法を犯しているわけで、これは極秘に行われている。
 最終的に、拠点村の中では作れない規模になる予定で、その場合はどこでそれを行うかという話にもなっているのだが……もうそろそろ雨季だしな。雨季明けに先送りされるだろう。

「…………ハインは……サヤに違和感を感じる?」
「……今の所、特には……」
「そうか……。じゃぁ、もう少し待つかぁ……」

 周りに伏せておけないくらいに追い詰められているなら、こちらから動くべきかもしれない。
 だけど、サヤが言えると判断していないことを、無理やり聞き出したくない。だから、もう少し……。
 だけどサヤが戻ったら、ちゃんと元気かどうか、一旦確認してみよう。
 あまりギリギリになるまで、一人で頑張ってほしくないし……。

「匙加減が、難しい……」

 そう思いつつ、茶を啜った。
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