異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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決戦の地 3

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 そんな表面上は和やかな時間を過ごしていたのだが……席を外していたクレフィリアとメイフェイアが戻ってきたため、一旦切り上げ。どうやら大掃除が終わったようだ。

「お部屋の準備が、整いましてございます」
「長旅お疲れでしょうから、もうお休みになられますか?」
「あっ、そうですよね⁉︎ こんな季節にこんな僻地まで……気が回らず申し訳ない!」

 慌てて立ち上がったエリクスの向こうから、年配の女性もやって来る。マルの母親だ。
 先程はバタバタとした中でも丁寧なご挨拶をいただいた。
 湯浴みの準備を済ませてありますとおっしゃる奥方に、サヤの表情が輝く。

「まずは奥様からどうぞ。誠に申し訳ございませんが……部屋数に余裕が無く、身支度は時間を分けてしていただくしかないのです。何卒ご容赦いただければ……」

 深々と頭を下げての謝罪から始まるものだから、サヤが慌てて立ち上がった。

「いえ! このような時期に急に押しかけたのですから、お気になさらず!
 それに、私もレイシール様も、身支度には然程時間の掛からないたちなので、ご心配には及びません」
「ですが……」
「セイバーンも男爵家です。格式等への拘りはあまり無い方ですし、本当に、平気ですよ」

 にこりと笑って、では私、先に身支度に参りますとサヤが俺に言う。母親に気を使い、率先して動く事にしたのだろう。

「うん、ゆっくりしておいで。
 私は、もっとここの話を聞いておきたいし」

 そう言うと、はい。と、良い返事。
 サヤはメイフェイアに促され、小走りにそちらへ駆け寄った。
「どうせですから、女性陣は一緒に済ませましょう」と、そんな話し声の中、嬉しそうに表情を綻ばせているのが見える。

 ……天幕生活では、湯浴みもなかなかさせてやれなかったものな。

 近くに小川が流れているとはいえ、水は貴重で飲むなら煮沸必須。
 食事に使うのが優先されるので、せいぜい水や湯で濡らした手拭いで、身体を拭くくらいしかできない日々だったのだ。
 特に獣人らは、おとない無しに天幕に入ってくるので、下手に衣服を脱いでいるととんでもないことになるため、本当に気を使って身繕いするしかなかった。
 毎日風呂を使っていたという綺麗好き民族でもあるサヤには、相当堪えることだったろうに、その辺のことも何ひとつ、文句を聞いていない……。
 短くなった髪も、だいぶん艶を失ってしまっていたけれど……それにすら何も言いはしなかった。

 櫛も、油も置いてきてしまった……。もう、あの櫛は……取り戻してやれないかもしれない……。

 それどころではなかったとはいえ、本当、苦労ばかりかけ、悲しい思いばかりさせている。
 そうして今度は戦だものな……。戦場は何があるか分からないから、サヤを伴いたくない……。だけど彼女は、ついてくると言うだろう……。
 そんな風に考えて、つい表情を陰らせていた時だ。

「そうそう。この町の建造物、壁や屋根は贅沢にも丸太をそのまま加工しておりましてね、壁の厚みだけはしっかりしてるんです。
 外の冷気が中に伝わらないようにそうされているのですが、防音効果も高いんですよ」

 と、マル。

「うん……うん?」

 密談にはうってつけの構造ということか?
 後で作戦会議をするって意味だろうか……と、そう考えていたのだが。

「旅の最中や天幕では色々気を遣いましたよねぇ。あまり睦めなかったでしょうから、ここでは存分にどうぞ」

 …………⁉︎

「大丈夫。お二人の部屋はちゃんと分けてありますから、心置きなく!」

 いや、そうじゃないだろ!

「何いらない配慮してるんだよ⁉︎」
「いらなくないでしょ。貴方たち、婚姻結んでどれだけ経ったと思ってるんです?」

 真顔で言われた。
 その横で、エリクスがまんまるに瞳を見開いて俺を凝視してる。やめろ、なんで今、その話を持ってきた⁉

「ひ、人の家に来てまですることじゃないだろ。そんなことより……」
「話を逸らそうとしたって駄目です、ちゃんと真面目に聞いてください」
「っ⁉︎」

 ︎話を変えようとしたのに、それすら素気無くあしらわれる。いやだから、なんでそれを今、弟の前で当たり前の話題みたいに選ぶ……っ⁉︎
 ネタを変えろと必死で合図を送ったのだが……。

「貴方、一回こっきり交配したくらいでサヤ様が孕むと思ってんですか。人ってそんなに簡単には受胎しないんですよ」
「いっ……⁉︎」

 それを、なんでここで、暴露する⁉︎

「僕がいない間にもう少し進展してると思ってたのに、なんなんです。ほぼ全く、何も進んでなかったそうじゃないですか。
 僕、貴方たちの子にはとてつもない期待をしてるんです。お二人は人類の歩みを調べる絶好の検体なんですよ⁉︎」
「進んだよ! ちゃんと婚姻結んだし、もう夫婦になっただろ⁉︎
 ていうか、俺たちを実験材料にするのはやめろって!」

 そういうことかっ!
 サヤが純粋な人かもしれないから、誰かと交配させてその子の匂いを云々言ってたやつだな⁉︎ 諦めてなかったのかよ‼︎

「俺たちの部屋を分けるくらいなら、よっぽどオブシズを分けてやった方が良くないか⁉︎」
「ちょっ、巻き込まないで⁉︎」
「新婚なのは一緒じゃないか、しかもお前たちの方がよっぽど……」
「わー! 言わない! 言うんじゃないそんなこと!」

 ぎゃーっと大騒ぎになった俺たちを、半ば呆然とエリクスが見ている。
 取り繕うこともできず、困ったように笑われて居た堪れなさしかない! ほんとお前は、口の出し方考えてくれよ!
 常々そう言ってるのに全く、何も配慮してくれない。全然話を打ち切りにできないまま更に言い募ってくるからほんとたちが悪い。
 それどころか、まるで常識を説くみたいに言いやがった。

「あのですね、オブシズは良いんですよ。家名捨ててるんですから、後継とか全然気にしなくて良いんで。
 だけど、貴方は違うでしょ。励んでもらわないと困るんですよ」

 いや、もう立場は追われたんだから一緒だろ!

「これから忙しくなるっていうのに、一体どこで種付けするつもりなんですか」
「種付けとか言うな! そっとしといてくれ! 大体俺たち子は……」
「そっとしといたら半年間何もしなかったって聞きましたよ⁉︎」
「誰だ、こいつにいらないこと言ったのは!」

 とりあえずマルを引っ掴んで部屋の隅に移動した。
 俺たち子はできないかもしれないって言ったよな。だから養子を考えてるって言ったじゃん! お前も承知したじゃん! と、小声で必死に説明をする。
 まさか忘れてないよな⁉︎

「や。それとヤるかどうかは別問題でしょ」
「言うなって言ってるだろー‼︎」

 なんなのお前、なんでそんなに波風立てたがるー⁉︎
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