異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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失った地 9

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 そうしてまた夜。ひと払いがされた部屋で、俺たちはお互いの情報交換を行なった。

 エルピディオ様からは、現在のフェルドナレンの状況について。
 マルからは、山脈越え部隊の殲滅が完了したこと。
 そして俺からは、昨日の件について……。

 まずスヴェトランとの戦況であったけれど……。
 俺がグラヴィスハイド様に走っていただく前から、陛下はことの裏側に神殿があることは可能性のひとつとして想定なさっていたようだ。
 なので、王都ではルオード様を中心に準備が進められており、春に提案された宿場建設も、備蓄を優先し、主要な立地は急がせていた。
 これは、交易路活用のための備蓄の名目で、目立たぬように偽装されていたよう。

 神殿の関与に関しては、確かな証拠があるわけではなかったし、何より陛下ご自身の出産が差し迫っていたため、時を稼ぐ他はないという状況……で、あの騒動。
 獣人が絡むことは想定外であったため、場は混乱した。
 そのうえ、更に俺が獣人に絡んでいたことと、明らかに俺たちを狙った神殿の動きで、また風向きが荒れた。
 陛下は獣人が悪魔の使徒でないことはご存知だったけれど、貴族を襲ったという獣人がおり、それを俺が庇ったことで、場を混乱させてしまったのだ。
 結局後日、俺の行動理由が、残していた報告書により判明し、村に残り、己が獣人であると申告して来た者まで多数にわたり、王家と公爵家領主のみが抱えて来ていた難問にも絡む状況だったことが明確になり、陛下は腹を括った。それが俺の保護という、越冬前最後の指示となり……。

「神殿と全面的にやり合う方向で決まったってことですか……」

 こくりと頷いたエルピディオ様に、はあぁ……と、重い溜息を吐いて頭を抱えたマル。

「それ、国外が黙ってないやつじゃないですかぁ……」

 普通に考えれば、国が国教と喧嘩するのは最大級の内乱だろう。
 ジェンティローニはともかく、内情のよく分からないシエルストレームス辺りが食らい付いて来た日には、目も当てられない。

「スヴェトランと神殿が結託してる状況で、更にフェルドナレンと神殿が全面対立? 地獄絵図ですよそれ」
「本来ならばな。
 しかし、其方らの与えてくれた情報や、早めに内敵が明確になったことで、先手を打てておる。
 スヴェトランは、このままで押し戻せよう」

 それには交易路と速報案が大きく功績を上げてくれていると、エルピディオ様はおっしゃった。
 移動速度だけでなく、情報のやり取りの速さがこの早春の動きの、助けになっているそう。

「物資の輸送に割く手間と時間が格段に減っておるのも大きい」
「けれど、このまま内側が揉め出せば……」

 少なからず戦況にも影響するだろうと、マルは表情を険しくしたままだ。
 戦が続く限り、北の地は乱れたまま。ただでさえ貧しい地だから、戦が続けば続くだけ生活は圧迫されるだろう。
 とはいえ、元々その内乱に育つ予定であった獣人の反乱は、阻止したと言える状況だ。なので、神殿の狙った規模にはならないだろうとエルピディオ様。

 まぁ、マルと公爵家では見る場所が違うものな。
 マルが懸念しているのは、荒野で生活する者たちなのだ。土地の税を国に収めていない彼らの生活は、国が把握していない場合が多い。
 だがこれに関しては……。

「一応、もう手を打った。だから、神殿と国の対立は、最小限の規模で抑えられると思う」

 だからスヴェトランとの戦も、長引かないだろう。
 俺の言葉に、マルとエルピディオ様の視線がこちらを見た。
 エルピディオ様は若干申し訳なさげに俺を見るが、俺も合意の上なので気にしなくて良いですよと微笑む。

「打った?」
「結果が出るまで暫く掛かるけれど、俺は動くと思っている」
「……なんか嫌な予感しかしないんですけど?」
「大丈夫だよ」

 彼は動くと思う。
 実際このまま神殿に身を置くことは、彼にとって利益にならないどころか、命の危機なのだ。
 まず王家に対し行った策略が上手く機能しなかった時点で、神殿は彼を切ることを考え出しているだろう。
 そうすれば、今回のこと全ての罪を被らされ、最悪アレクは殺される。
 だから……その前に先手を打たなければならない。悩んでいる時間の余裕も無いはずだ。

「神殿には、自分たちの手口で苦しんでもらおう」

 己で育てた埋伏の虫だ。
 腹を食い破られても、文句は無いだろう。

「何をしたんです?」
「陛下が、神殿の言い逃れできない物的証拠を掴めと言って来たから……それを内側から出してもらおうと思って」

 アレクに、その役を任せたのだ。
 それでなんとなくマルは、何を指しているのか察した様子。
 立場的にも、彼ならば問題なく用意できるものだろうし、怪しまれる可能性も少ないと考えたようだ。

「陛下の無理難題はいつものことですしね」

 と、肩を竦め……。

「では今後、アレク司教の身を、こちら側からも守っていく必要が出て来ますね」
「うん。だけど元々アレクは、下々の信者に人気が高いし、色々と改革も進めていた。
 多分、中からも彼を推す声は上がるだろう。だから、余計な動きは極力しない方が良いと思う」
「でもそこまで信用できかねるんですけど……」
「大丈夫。アレクは動くさ。散々脅したし利益もある。
 本当の敵が誰かも、理解しただろうから……」
「レイ様の脅しでしょう? それ、脅しになってるんです?」

 言っておくけど、お手本はお前の心を折りにくる手口だからな。


 ◆


 そこからは、更に忙しい日々だった。
 その話し合いの直後に、俺たちは王都へ向かうこととなり、春の会合と、神殿との交渉に奔走することとなったのだ。

 アレクは、俺たちが望む以上の良い仕事をしてくれた。
 陛下の言っていた『言い逃れできない物的証拠』とは、セイバーンの領主印が押された、セイバーンとスヴェトランとの合意書。
 アレクには、これを神殿の中から、提出して頂く下準備を行ってもらったのだ。
 セイバーンがスヴェトランと謀反を企んだ物的証拠として、アレクに操られた大司教が喜び勇み、これを叩きつけに来たのだけれど……。

「これは現セイバーン領主印ではない」

 待ってましたと待ち受けていた陛下にその場で拘束された。
 俺が領主になってから、スヴェトランと交わされた契約とされた書類は、当然俺の持っていた領主印ではなく、かつての古い型のものだった。
 そのため、偽装のあり得ないはずの領主印を神殿の上位陣が所持していたと大問題になったわけだ。
 更に、大司教ら上位陣の汚職や、経典の改竄記録等をアレクが国に提出。
 神殿内の腐敗を内部告発する形で立ち上がった。

 それにより、神殿は国に構っている余裕など無くなり……。

 気付けば五年が過ぎていた。
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