1,108 / 1,121
後日談
オーストの流民
しおりを挟む
北の地からの流民は減りつつありました。
あちらに大きな産業が増えたことと、馬事師の新たな運用法がセイバーンよりもたらされ、馬事師らが北以外でも求められる事例が増えて、貴族間も経営の見直しが進んでいます。
また、荒野の狩猟民に皮剥ぎを教えたことで毛皮の質を意識した狩猟がされるようになり、新たな武器(サヤ様の国の狩猟道具)を得たことで無茶な狩猟が減り……と、あらゆる面で改善がなされております。
北の地に第二のアヴァロンが建都されたこともあり、アギーのプローホルにあった貧民区も随分と縮小していたのですが……。
「オーストの貧民?」
「左様です」
「あぁ、あちらは捨場がまだ残っているくらい、産業的にも厳しいのだったな」
玄武岩が主な特産品であるオーストは農耕に向いた土地が少ない領地です。
研究員の一人であるコダンも、妻と娘を飢餓から来る暴動で失った経験を持っておりますし、北は色々と変化しましたが、南の地はあまり我々も関わりを持ってきておりません。
「セイバーンを目指す流民、本当に増えてきましたね」
「領民の受け入れにも積極的に動いてたしな。とはいえ……ここにだって限界はある」
「なにより領地を捨ててここを目指されても困りますよね」
「だな」
セイバーンは流行病で領民の多くを失った過去があり、流民を受け入れる余力はありましたが、彼らを食わせ、育てるのには随分と費用が掛かります。
アヴァロンは流民のために作られた都と言っても過言ではないのですが、他領からの流民に領民の税金を使うことを良く思わない者も当然おりました。
それでもレイシール様がこうして動けるのは、領民の暮らしが良くなり続け、民も潤っているからです。
氾濫が無くなったことで追加税の徴収はなくなり、交易路が整い流通が活発化すると共に、街を繋ぐ街道も年々整備が進んでおります。
また、各地方に幼年院を作る計画も進んできております。そういった領地改革も疎かにしていない面が、かろうじて現状を支えておりました。
流民であっても国民には違いありませんし、ひいてはフェルドナレンのため。
富める領地であることは公然の事実ですから、受け入れないことも醜聞になりましょう。
そのためレイシール様は大抵の場合「受け入れる」と申されるのですが、オーストとは少々の因縁がございました。
現在我が領地に組み込まれているロジェ村近隣ですが、ここはかつてオースト領でした。
捨場であったため、税金を納めることもしておらず、助けを求めても取り合ってもらえずといった状況であったのを、紆余曲折の末レイシール様が動き、土地ごと庇護下に置いたのです。
まぁその辺りはマルが担い動いたわけですが……それからもオーストとはあまり接点が無く、どうやらセイバーンとの関わりは求めていない様子であったため、縁も繋いでおりませんでした。
「捨場の件は大ごとにならず良かったけど……流民もとなると揉めるかな……」
「春になって領民を返せと言われる可能性はありますかねぇ」
「交易路であちらも多少は潤ったと思ってたんだが……やっぱり産業が増えないと難しいか」
「レイシール様……ほいほい他の領地に首を突っ込まないでくださいよ。貴方はただでさえ多忙なんですから」
エヴェラルド様にそう言われ苦笑するしかないレイシール様。
あちらから何か言ってきたならともかく、こちらから動くほど縁を持った地ではありませんし、義理もありません。
領地のこと、国のこと、更に北の地の産業を支えることまでこなしておりますのに、南の地にまで手は回りません。
「まぁ、この冬領民を預かるくらいのことはしよう。たいした人数じゃないんだし」
「まぁそのひと組だけならば……」
渋々そう言っていたのですが……。
「緊急連絡です」
私の言葉に皆の視線がまたこちらを向きました。
「また流民だそうです。
今度は馬車二台。この時期に不審な馬車を発見し確認したところ、凍死者も出ていると」
「…………生き残っている者は即保護しろ!」
「そのように動いたとのこと。ただ、物資の方を補給をしなければアヴァロンまでの送迎にも支障をきたすとのことですので」
「もちろん手筈を整えて早急に向かわせろ!
……いや、待て。まず早急に一陣を送るが、二陣も用意しよう。念のためだが……嫌な予感がする……マル」
「はいはい。吠狼をオーストの情報収集に向かわせます。それから、他にもそういった一団がないか周辺を探らせますねぇ。
あと、アヴァロン内で保護するには難しくなりそうです。倉庫の資材で仮小屋を作れるか確認してみましょう。
食料の備蓄量も確認させますが、各地域にも備蓄品の提供を願い出ることになる可能性もありますね」
「とにかく、人命を優先してくれ。凍死者が出てるってことは、かなり彷徨っていた可能性がある」
「それでは、アヴァロンまで来させるのもなんですし、西の古城区域、あちらで保護させますか。
あそこには保管された備蓄保存食もありますし、吠狼の管轄内。隣区域のカーク老にも協力を願いましょう」
あの地域でしたら、アヴァロンまで足を伸ばすより、二日ほど移動距離が短縮されます。
こちらには犬橇がありますから、馬車で二日の道のりも一日掛からず到着できますし、更に流民が増える可能性もございました。……オーストで、大きな何かが起こっているのかもしれません。
そこにパタパタと小走りで、サヤ様が駆け込んで参りました。
王子が戻られ、緊急連絡があったことを耳にしたのでしょう。
慌てて立ち上がったレイシール様が、サヤ様に「走っちゃダメだろ⁉︎」と、駆け寄ります。
「病人やないし、そんな簡単になにかあったりしいひん!」
「するよ⁉︎ 雪で滑って転けたりしたらどうするんだ!」
「今そんなこと言うてる場合やないやろ!」
「サヤが走るほどじゃないよ!」
…………煩いです。
「サヤ様。対応は決まりましたので、まずはお部屋にお戻りください。
お召し替えと、診察を。それを済ませない限りレイシール様が役に立ちません」
あちらに大きな産業が増えたことと、馬事師の新たな運用法がセイバーンよりもたらされ、馬事師らが北以外でも求められる事例が増えて、貴族間も経営の見直しが進んでいます。
また、荒野の狩猟民に皮剥ぎを教えたことで毛皮の質を意識した狩猟がされるようになり、新たな武器(サヤ様の国の狩猟道具)を得たことで無茶な狩猟が減り……と、あらゆる面で改善がなされております。
北の地に第二のアヴァロンが建都されたこともあり、アギーのプローホルにあった貧民区も随分と縮小していたのですが……。
「オーストの貧民?」
「左様です」
「あぁ、あちらは捨場がまだ残っているくらい、産業的にも厳しいのだったな」
玄武岩が主な特産品であるオーストは農耕に向いた土地が少ない領地です。
研究員の一人であるコダンも、妻と娘を飢餓から来る暴動で失った経験を持っておりますし、北は色々と変化しましたが、南の地はあまり我々も関わりを持ってきておりません。
「セイバーンを目指す流民、本当に増えてきましたね」
「領民の受け入れにも積極的に動いてたしな。とはいえ……ここにだって限界はある」
「なにより領地を捨ててここを目指されても困りますよね」
「だな」
セイバーンは流行病で領民の多くを失った過去があり、流民を受け入れる余力はありましたが、彼らを食わせ、育てるのには随分と費用が掛かります。
アヴァロンは流民のために作られた都と言っても過言ではないのですが、他領からの流民に領民の税金を使うことを良く思わない者も当然おりました。
それでもレイシール様がこうして動けるのは、領民の暮らしが良くなり続け、民も潤っているからです。
氾濫が無くなったことで追加税の徴収はなくなり、交易路が整い流通が活発化すると共に、街を繋ぐ街道も年々整備が進んでおります。
また、各地方に幼年院を作る計画も進んできております。そういった領地改革も疎かにしていない面が、かろうじて現状を支えておりました。
流民であっても国民には違いありませんし、ひいてはフェルドナレンのため。
富める領地であることは公然の事実ですから、受け入れないことも醜聞になりましょう。
そのためレイシール様は大抵の場合「受け入れる」と申されるのですが、オーストとは少々の因縁がございました。
現在我が領地に組み込まれているロジェ村近隣ですが、ここはかつてオースト領でした。
捨場であったため、税金を納めることもしておらず、助けを求めても取り合ってもらえずといった状況であったのを、紆余曲折の末レイシール様が動き、土地ごと庇護下に置いたのです。
まぁその辺りはマルが担い動いたわけですが……それからもオーストとはあまり接点が無く、どうやらセイバーンとの関わりは求めていない様子であったため、縁も繋いでおりませんでした。
「捨場の件は大ごとにならず良かったけど……流民もとなると揉めるかな……」
「春になって領民を返せと言われる可能性はありますかねぇ」
「交易路であちらも多少は潤ったと思ってたんだが……やっぱり産業が増えないと難しいか」
「レイシール様……ほいほい他の領地に首を突っ込まないでくださいよ。貴方はただでさえ多忙なんですから」
エヴェラルド様にそう言われ苦笑するしかないレイシール様。
あちらから何か言ってきたならともかく、こちらから動くほど縁を持った地ではありませんし、義理もありません。
領地のこと、国のこと、更に北の地の産業を支えることまでこなしておりますのに、南の地にまで手は回りません。
「まぁ、この冬領民を預かるくらいのことはしよう。たいした人数じゃないんだし」
「まぁそのひと組だけならば……」
渋々そう言っていたのですが……。
「緊急連絡です」
私の言葉に皆の視線がまたこちらを向きました。
「また流民だそうです。
今度は馬車二台。この時期に不審な馬車を発見し確認したところ、凍死者も出ていると」
「…………生き残っている者は即保護しろ!」
「そのように動いたとのこと。ただ、物資の方を補給をしなければアヴァロンまでの送迎にも支障をきたすとのことですので」
「もちろん手筈を整えて早急に向かわせろ!
……いや、待て。まず早急に一陣を送るが、二陣も用意しよう。念のためだが……嫌な予感がする……マル」
「はいはい。吠狼をオーストの情報収集に向かわせます。それから、他にもそういった一団がないか周辺を探らせますねぇ。
あと、アヴァロン内で保護するには難しくなりそうです。倉庫の資材で仮小屋を作れるか確認してみましょう。
食料の備蓄量も確認させますが、各地域にも備蓄品の提供を願い出ることになる可能性もありますね」
「とにかく、人命を優先してくれ。凍死者が出てるってことは、かなり彷徨っていた可能性がある」
「それでは、アヴァロンまで来させるのもなんですし、西の古城区域、あちらで保護させますか。
あそこには保管された備蓄保存食もありますし、吠狼の管轄内。隣区域のカーク老にも協力を願いましょう」
あの地域でしたら、アヴァロンまで足を伸ばすより、二日ほど移動距離が短縮されます。
こちらには犬橇がありますから、馬車で二日の道のりも一日掛からず到着できますし、更に流民が増える可能性もございました。……オーストで、大きな何かが起こっているのかもしれません。
そこにパタパタと小走りで、サヤ様が駆け込んで参りました。
王子が戻られ、緊急連絡があったことを耳にしたのでしょう。
慌てて立ち上がったレイシール様が、サヤ様に「走っちゃダメだろ⁉︎」と、駆け寄ります。
「病人やないし、そんな簡単になにかあったりしいひん!」
「するよ⁉︎ 雪で滑って転けたりしたらどうするんだ!」
「今そんなこと言うてる場合やないやろ!」
「サヤが走るほどじゃないよ!」
…………煩いです。
「サヤ様。対応は決まりましたので、まずはお部屋にお戻りください。
お召し替えと、診察を。それを済ませない限りレイシール様が役に立ちません」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる