9 / 51
9
しおりを挟む
拝啓。天国のお母さんお父さん。お元気ですか?私は元気です。でも、かなり大変な事に巻き込まれてしまったようです。
ちなみに、私を拾ってくれた優しい女性(タグミって言うんだよ!)は私の素性を決めてくれました(頼んでないけど)
何でも。ツザカ出身のお嬢様。外の世界を全く知らずにすごしてきた。だが、一家が賊に襲われ私は攫われた。
そのショックで記憶を無くしてしまう。そして賊は逃げているうちに私が邪魔になり、森へ捨てた。
何も言ってないのにここまで……お母さん、タグミの妄想力は最強なのかもしれません。
でもでも、呼び捨てを許してくれて(さん付けを無理にしたら殴られた)
身元不明な私を匿ってくれて(雑用はかなりやらされるけれど)
タグミは、優しい人だと思うんです(じゃないと私がやっていけない)
……ゴホン。とにかく、私は元気です。
ピンク色のワンピース型の服を着て、花梨はポーズをとっていた。
(――似合わない! 激しく似合わないよ!)
うぅん。と唸りながら自分を睨み付ける。
長い髪はタグミの手によって、お団子頭になっていた。足がスッポリと隠れてしまうスカートは、風にふわふわと揺れている。
どこからどう見ても、可愛らしい少女だ。だが、残念ながら花梨はそうは思えないようだ。
【頭、頭が可愛い過ぎるんだぁっ! んでもって、服が何でこんなにふわっふわなの!?】
軽くパニックを起こしかけている。この世界に飛ばされて早一ヶ月。ここまで慌てているのは初めてだ。今日森を降りて街へ行く、その際に人目に触れると言う事が理由だ。
普段はタグミと森の奥深くで小屋に住んでいるので、タグミ以外の人とは会う機会が無かった。
街へは数キロの距離があり、降りるのは一ヶ月に一回ほど。今日がその日なのだ。
ちなみに、今日は花梨が拾ってもらった記念日でもある。
花梨が自分で「拾われました、イェイ」と喜ぶわけにもいかないので、心の中でタグミに礼を言うだけだが。
「花梨。まだかい?」
「う~。まだ。おかしい。直す」
くるくると鏡の前で回っては、自分の姿を見つめる。このスカートの形はそのままでいいが、せめて、色を変えて欲しかった。出来れば髪形も。
「タグミ。髪。服。変える」
「ん~、今、まさか変えるなんていったんじゃないよね? あっはっは。花梨はまだ言葉が上手く言えてないんだよね?」
にこにこと笑いながら言うタグミ、しかしその目は笑っていない。
【そ、そうなの!】
「私、言葉、不自由」
こくこくと真っ青な顔で頷く。その言葉は恐怖のあまり、日本語も出てしまったほどだ。その反応に、タグミは満足そうな笑みを浮かべた。
「じゃ、行こうか?」
伸ばされた手を拒むことも出来ずに、結局その姿で行くことになった。
手を繋いで仲良く街を歩く。花梨は周りをキョロキョロと見ながら、歩いていた。
「そこのお嬢ちゃん、ブレスレットどうだい!」
「おっ。安いよ。安いよ!」
……なんとも活気に溢れている。
花梨が周りを見てしまうのは、露店形式が珍しいからだけではない。人の姿だ。いや、皆人型をしているのだが、目を引くのは目の色髪の色。
金色の髪の毛。紫色の瞳。年をとった老人は目が白色。髪の毛は真っ白の中に黒が見え隠れ。
(――あの人、目が白いし。もしかして白髪とは言わずにこちらでは年取ったら、黒髪っていうの?)
頭の上には?マークが飛び回っている。
「パン。貰えるかい?」
「おぅ。タグミ、久しいな」
豪快に笑うパン屋のオヤジは、そう言いながらパンを袋につめた……つめすぎて破れそうだ。
「ほらよ……ん?その女の子はどうした。まさか、お前の子か? よくやった!」
めでたい!と言いながら、花梨の背中をばしばしと叩くオヤジ。
「違うよ!こんな大きい子が私の子なわけ、ないだろ?全く、アンタは困った奴だよ」
そう言いながらも、タグミの顔は嬉しそうだ。
「名前はなんていうんだ?」
「花梨で、す」
カタコトでいう花梨に、オヤジは一瞬にして表情を消した。その豹変振りに、花梨も思わず驚く。
「この子、ツザカの子か?」
「あぁ。多分ね。でも今は、記憶をなくしてる。ただの少女さ」
そうタグミが言うと、むっと腕を組んだ後でにかっと笑った。
「そうか!まぁ、タグミの世話してる子だからな。よし、花梨ちゃん。今日はおじさんサービスするぞ」
そう言ってすでに破れそうな袋に、むりやりパンを突っ込んだ。
(――嬉しいけど、あぁぁ、あれって絶対パン潰れてるよね)
心の中で、潰れた哀れなパンに合掌。
(――それにしても、あの反応からしてもここは『イガー』なんだろうなぁ)
未だ状況がつかめぬ自分に、花梨は悔しくて唇を噛んだ。
この世界の表舞台に出る気は勿論無い。だが、それでも自分が生きていく世界を知っていきたい。そう思ったのだ。
ちなみに、私を拾ってくれた優しい女性(タグミって言うんだよ!)は私の素性を決めてくれました(頼んでないけど)
何でも。ツザカ出身のお嬢様。外の世界を全く知らずにすごしてきた。だが、一家が賊に襲われ私は攫われた。
そのショックで記憶を無くしてしまう。そして賊は逃げているうちに私が邪魔になり、森へ捨てた。
何も言ってないのにここまで……お母さん、タグミの妄想力は最強なのかもしれません。
でもでも、呼び捨てを許してくれて(さん付けを無理にしたら殴られた)
身元不明な私を匿ってくれて(雑用はかなりやらされるけれど)
タグミは、優しい人だと思うんです(じゃないと私がやっていけない)
……ゴホン。とにかく、私は元気です。
ピンク色のワンピース型の服を着て、花梨はポーズをとっていた。
(――似合わない! 激しく似合わないよ!)
うぅん。と唸りながら自分を睨み付ける。
長い髪はタグミの手によって、お団子頭になっていた。足がスッポリと隠れてしまうスカートは、風にふわふわと揺れている。
どこからどう見ても、可愛らしい少女だ。だが、残念ながら花梨はそうは思えないようだ。
【頭、頭が可愛い過ぎるんだぁっ! んでもって、服が何でこんなにふわっふわなの!?】
軽くパニックを起こしかけている。この世界に飛ばされて早一ヶ月。ここまで慌てているのは初めてだ。今日森を降りて街へ行く、その際に人目に触れると言う事が理由だ。
普段はタグミと森の奥深くで小屋に住んでいるので、タグミ以外の人とは会う機会が無かった。
街へは数キロの距離があり、降りるのは一ヶ月に一回ほど。今日がその日なのだ。
ちなみに、今日は花梨が拾ってもらった記念日でもある。
花梨が自分で「拾われました、イェイ」と喜ぶわけにもいかないので、心の中でタグミに礼を言うだけだが。
「花梨。まだかい?」
「う~。まだ。おかしい。直す」
くるくると鏡の前で回っては、自分の姿を見つめる。このスカートの形はそのままでいいが、せめて、色を変えて欲しかった。出来れば髪形も。
「タグミ。髪。服。変える」
「ん~、今、まさか変えるなんていったんじゃないよね? あっはっは。花梨はまだ言葉が上手く言えてないんだよね?」
にこにこと笑いながら言うタグミ、しかしその目は笑っていない。
【そ、そうなの!】
「私、言葉、不自由」
こくこくと真っ青な顔で頷く。その言葉は恐怖のあまり、日本語も出てしまったほどだ。その反応に、タグミは満足そうな笑みを浮かべた。
「じゃ、行こうか?」
伸ばされた手を拒むことも出来ずに、結局その姿で行くことになった。
手を繋いで仲良く街を歩く。花梨は周りをキョロキョロと見ながら、歩いていた。
「そこのお嬢ちゃん、ブレスレットどうだい!」
「おっ。安いよ。安いよ!」
……なんとも活気に溢れている。
花梨が周りを見てしまうのは、露店形式が珍しいからだけではない。人の姿だ。いや、皆人型をしているのだが、目を引くのは目の色髪の色。
金色の髪の毛。紫色の瞳。年をとった老人は目が白色。髪の毛は真っ白の中に黒が見え隠れ。
(――あの人、目が白いし。もしかして白髪とは言わずにこちらでは年取ったら、黒髪っていうの?)
頭の上には?マークが飛び回っている。
「パン。貰えるかい?」
「おぅ。タグミ、久しいな」
豪快に笑うパン屋のオヤジは、そう言いながらパンを袋につめた……つめすぎて破れそうだ。
「ほらよ……ん?その女の子はどうした。まさか、お前の子か? よくやった!」
めでたい!と言いながら、花梨の背中をばしばしと叩くオヤジ。
「違うよ!こんな大きい子が私の子なわけ、ないだろ?全く、アンタは困った奴だよ」
そう言いながらも、タグミの顔は嬉しそうだ。
「名前はなんていうんだ?」
「花梨で、す」
カタコトでいう花梨に、オヤジは一瞬にして表情を消した。その豹変振りに、花梨も思わず驚く。
「この子、ツザカの子か?」
「あぁ。多分ね。でも今は、記憶をなくしてる。ただの少女さ」
そうタグミが言うと、むっと腕を組んだ後でにかっと笑った。
「そうか!まぁ、タグミの世話してる子だからな。よし、花梨ちゃん。今日はおじさんサービスするぞ」
そう言ってすでに破れそうな袋に、むりやりパンを突っ込んだ。
(――嬉しいけど、あぁぁ、あれって絶対パン潰れてるよね)
心の中で、潰れた哀れなパンに合掌。
(――それにしても、あの反応からしてもここは『イガー』なんだろうなぁ)
未だ状況がつかめぬ自分に、花梨は悔しくて唇を噛んだ。
この世界の表舞台に出る気は勿論無い。だが、それでも自分が生きていく世界を知っていきたい。そう思ったのだ。
2
あなたにおすすめの小説
天才すぎて追放された薬師令嬢は、番のお薬を作っちゃったようです――運命、上書きしちゃいましょ!
灯息めてら
恋愛
令嬢ミーニェの趣味は魔法薬調合。しかし、その才能に嫉妬した妹に魔法薬が危険だと摘発され、国外追放されてしまう。行き場を失ったミーニェは隣国騎士団長シュレツと出会う。妹の運命の番になることを拒否したいと言う彼に、ミーニェは告げる。――『番』上書きのお薬ですか? 作れますよ?
天才薬師ミーニェは、騎士団長シュレツと番になる薬を用意し、妹との運命を上書きする。シュレツは彼女の才能に惚れ込み、薬師かつ番として、彼女を連れ帰るのだが――待っていたのは波乱万丈、破天荒な日々!?
公爵夫人の気ままな家出冒険記〜「自由」を真に受けた妻を、夫は今日も追いかける〜
平山和人
恋愛
王国宰相の地位を持つ公爵ルカと結婚して五年。元子爵令嬢のフィリアは、多忙な夫の言葉「君は自由に生きていい」を真に受け、家事に専々と引きこもる生活を卒業し、突如として身一つで冒険者になることを決意する。
レベル1の治癒士として街のギルドに登録し、初めての冒険に胸を躍らせるフィリアだったが、その背後では、妻の「自由」が離婚と誤解したルカが激怒。「私から逃げられると思うな!」と誤解と執着にまみれた激情を露わにし、国政を放り出し、精鋭を率いて妻を連れ戻すための追跡を開始する。
冒険者として順調に(時に波乱万丈に)依頼をこなすフィリアと、彼女が起こした騒動の後始末をしつつ、鬼のような形相で迫るルカ。これは、「自由」を巡る夫婦のすれ違いを描いた、異世界溺愛追跡ファンタジーである。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる