【完結】私が見る、空の色〜いじめられてた私が龍の娘って本当ですか?〜

近藤アリス

文字の大きさ
11 / 51

11

しおりを挟む
 鳥に導かれるままに、向かった先。

 手荷物は途中の、タグミの小屋に置いてきてある。

「誰、だ」

 そう掠れるような低い声が響いた。

 じっと目を凝らせば、倒れている男性が見える。髪は花梨と同じく漆黒、瞳は赤色だ。その眼光はぎらりとし、思わず花梨は身を震わせた。

「そっちこそ。誰なんだい」

 タグミは厳しい表情はしていたが、花梨のように怯えは少しも感じていないようだった。

 それもそうだろう。相手は倒れて、喋るのがやっとという状態なのだから。

「……イガーか?」

 喋るのが辛いのか、それとも元々無口なのか。それだけを言うと、黙り込んだ。

「あぁ、イガーだよ……よいしょっと!」

 タグミはゼフィルドの体を持ち上げた。タグミの身長は170センチと大柄だ。しかし、背負った男性の身長は180は軽く超えているように見える。

「た、タグミ」

「こいつが重たいんだよ! 早く来な!」

「うん……」

(――拾ってもらった身で思うのもなんだけど、あんなに人を拾っていいのかな?)

 一歩一歩、重そうに足を踏み出すタグミの背中を、花梨は眩しそうに見つめた。











 早く起きないかな?つつんと男性の頬を突っついた。

 小屋に帰ってから、三時間。何故かタグミが部屋に入れてくれずに、ずっと待ての状態だったのだ。

(――むむ。ヴィラも美形だったけど、この人も格好いいなぁ。でもきっと恋人は出来にくそうかも)

 色々と失礼なことを考えている花梨、その思いを察したかは知らないが彼がゆっくりと瞳を開けた。

「おはよ」

「……む?」

 ぐっと眉間に皺を寄せて、花梨を睨み付ける。

 確かに迫力はあるが、先ほどのまるで手負いの狼のような眼光に比べれば全然だ。

「タグミ、起きた!」

 ぴょんぴょんと喜びを表すかのように花梨は走り、その様子にタグミは呆れた様子だ。

「タグミ、嬉しい ない?」

「まぁ、この年でアンタみたいにはしゃげはしないさ。それよりも、そこのアンタ。名前くらい名乗ったらどうだい?」

 そのタグミの言葉に、ぴくりと男性が反応する。二人の険しい視線が交わったとき、花梨がひょいっと彼の顔を覗き込んだ。

「わわ、忘れてた。えと。花梨、です」

 タグミの言葉に、自分が言われたかのような反応。

「花梨……」

 タグミに首根っこをつかまれ、花梨は情けない表情を浮かべる。

「黙ってるんだよ」

 思いのほか真剣な表情で言われて、花梨は何も言えずにこっくりと頷いた。その様子を、男性は顔色変えずに見ている。

「さて、と。で。名前は?」

「ゼフィルド、だ」
 
 そう名乗ると、憮然とした表情を浮かべた。

「出身地は、ツザカだね? 何をしているんだい」

「俺は……」

 何かを言おうとしたゼフィルドが、片手で口を押さえて苦しそうに目を瞑る。

「今は、体力的に無理みたいだね」

 はぁ、と諦めるような息を吐くタグミに、何か言いたげな花梨。

「怪我?」

「アンタ、気がついてなかったのかい? ほら」

 そう言って投げ渡されたのは、先ほどまでタグミが羽織っていた服。淡い紫色のそれを、不思議そうに花梨は眺めて……目を見開いた。

「これって」

 滲んだ赤。それはまだ乾いておらず生々しい。

「あぁ。死んでもおかしくない怪我だったからね」

 そういって毛布をまくると、腹部に巻きつかれた白い包帯。

「お腹? 何で、口」

(――口元を押さえてたのは、痛みを堪えるため?)

「あぁ。痛みに声を上げたくなかったか、それとも臓器がやられちまったか。どちらかだね」

「臓器?!」

 目を見開いて、花梨はゼフィルドに近づく。もう彼は瞳を閉じて、苦しそうな寝息を立てていた。

「まぁ、もうやれることはしたし。私はご飯でも作るよ」

 そう言ってすぐに部屋を開けたタグミ。

「薄情だよ!」

 少し呆然とした後で、そう様々な感情が混ざった声で言った。

(――街まで行って、お医者さんに見せないと……あ、それよりも!)

「ゼフィルド」

 今はさん付けなんて、気にしてる場合じゃない。

 タグミが来ないのを確認すると、そっとゼフィルドの腹部へ手を当てた。

 手がじわっじわと暖かくなり、自分の体から何かがゼフィルドの体へ流れるのを花梨は感じた。

(――初めてだけど、龍さんの言うとおりなら。治るハズ)

 実際はほんの10秒ほど。しかし、花梨にとっては一時間にも感じられた。はぁはぁと荒い息をついて、じっとりと流れた汗を拭う。

(――このくらいでいいかな?)

 本当は全部一気に治したかったが、さすがにそれは出来なかった。

 花梨が、龍の娘だと隠していきていくかぎり。何が何でも隠し通さないといけないから。

「でも、これで生きてくれるはず」

 そっとゼフィルドの顔の前へ、手のひらをかざす。かすかな吐息が、先ほどよりも穏やかなのを感じて頬を緩めた。

 安心したためか、全身に疲れが回り立っているのも辛くなった。

「あぁ。ヴィラに会いたいなぁ」

 自然と出た言葉に、何だか泣き出してしまいそうになる。

 叔父さんにも会いたかったが、家にいるのは何時も肩身の狭い生活をしていたので、寧ろ離れてよかったと思っていた。

 けれど、ヴィラとは。出来るなら会いたい。そう思う。

 それを阻むのが、花梨の身分。今花梨がヴィラとあったなら、花梨は『龍の娘』としてヴィラは『王』として会わなければいけないのだ。

「あ~。ややこしい!」

 ぶるぶるっと思いを振り切るように、花梨は頭を振った。

【それにしても、ゼフィルドってツザカの人なのかなぁ?て、呼び捨ては駄目だよね。

 でも、さん付け知らないし。こっちではなんていうんだろう?】

 ただでさえ日本語、それも眠っているゼフィルドが答えられるわけもなく。部屋には沈黙が広がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』

しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。 どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。 しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、 「女は馬鹿なくらいがいい」 という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。 出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない―― そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、 さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。 王太子は無能さを露呈し、 第二王子は野心のために手段を選ばない。 そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。 ならば―― 関わらないために、関わるしかない。 アヴェンタドールは王国を救うため、 政治の最前線に立つことを選ぶ。 だがそれは、権力を欲したからではない。 国を“賢く”して、 自分がいなくても回るようにするため。 有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、 ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、 静かな勝利だった。 ---

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

処理中です...